景気の見方読み方
Jun.10

2010.6.1

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「欧州の混乱の影響について」

はじめに> <リーマン・ショックとの比較
欧州経済と日本経済> <リスクは「民主主義のコスト」


<はじめに>
 

足許の実体経済は、引き続き着実な回復軌道にあります。一方で、金融市場はギリシャ国債に端を発した混乱が収まらず、株価は下落を続けています。金融市場の混乱が実体経済に影響を及ぼす可能性はあるのでしょうか。今回は、この点について考えてみましょう。

<リーマン・ショックとの比較>up
 

リーマン・ショックは、完全に「政府の失敗」でした。リーマンを見殺しにした場合に金融市場で何が起きるかを、米国政府が充分考慮しなかったのです。10年前に日本政府が三洋証券を見殺しにした際、悲劇が起きたわけですから、米国政府が日本の経験に学んでいれば、当然リーマンを救済していたはずです。大変に残念なことです。
しかし、さすがに世界各国の政府はリーマンの経験には学んでいますから、今度は同じ失敗は繰り返さないでしょう。実際、国際社会はギリシャ政府を見殺しにはしませんでしたし、スペイン政府も銀行を救済しました。
ギリシャ(及びポルトガル等々)を救済するコストの方が、見殺しにして世界中を再び大混乱に陥れることの損失よりも小さい事が明白である以上、国際社会は今後も賢く行動し続けると思われます。
そうであれば、小国を大国が支え切れないはずは無く、破局シナリオは現実的ではありません。

<欧州経済と日本経済>up
 

日本経済にとって、欧州の不況の影響は、それほど深刻ではないでしょう。欧州経済の規模は大きいのですが、日本との貿易はそれほど盛んではないからです。距離が遠い事もありますが、産業構造が似ているために輸出入対象品が少ない事も一因だと思われます。
したがって、欧州各国が緊縮財政に努めることで欧州の景気が悪くなっても、欧州の金融が多少混乱して景気の足枷となっても、その事が日本の景気回復の妨げになるとは考えにくいでしょう。
もっとも、ユーロ安が欧州企業の輸出競争力を高める点は、ある程度の懸念材料として注視しておく必要があるかもしれません。日本と欧州の産業構造が似ているという事は、直接の輸出入が少ない理由であると同時に、世界中の市場で日本製品と欧州製品が競合しているという事も意味します。

日本の景気回復の腰を折るほどの影響が出る事は考えられませんから、懸念材料として挙げるほどではありませんが、悪材料の一つとして、一応指摘しておきました。
<リスクは「民主主義のコスト」>up
 

以上のように、「影響は限定的」というのがメインシナリオなのですが、リスクシナリオについても記しておく必要があるでしょう。それは、「民主主義のコスト」とでも言うべきものです。
リーマン・ショックの後、米国で銀行に資本を注入する法案(厳密には若干異なりますが)が否決された事がありました。納税者の血税を銀行救済のために使う事に対し、有権者の拒絶反応がきつく、議員たちが反対票を投じたからです。銀行への公的資金の注入が、銀行のためではなく、銀行の貸し渋りを緩和して中小企業の資金繰りを支援するためであるにもかかわらず、納税者には複雑な仕組みがわからなかったのです。
もっとも、納税者の怒りも、理解できる面もあります。公的資金を注入された銀行の幹部が、神妙にしていれば良いものを、恥知らずに高額の報酬を受け取っているからです。公的資金注入後に幹部から末端まで大幅に報酬を引き下げた邦銀と比較すると、「文化の違い」としか言いようがありません。こうなる事が予見できていたからこそ、納税者の拒絶反応が厳しかったのだ、と筆者は後になって妙に納得したものです。

リーマン後の米国議会と、今後の欧州各国の議会を比較してみましょう。たとえばドイツ議会で「ギリシャを助けるためにドイツ国民の血税を使うのはケシカラン」という議論が出る可能性は充分にあります。「ギリシャを助ける事がドイツの利益になるのだ」という事をドイツの有権者に理解させる事は、それほど容易なことではないからです。
更に、ギリシャが財政再建を行なわず、莫大な年金を支払い続けるとすれば、ドイツ国民の怒りが増し、救済案が国会を通らない可能性は高まるでしょう。
ギリシャ国民にとってみれば、「ギリシャがユーロから脱退してギリシャ通貨を大幅に切り下げる」という選択肢が、「自分の年金を大幅にカットする」という選択肢よりも魅力的に見えるかもしれません。更に言えば、「ユーロから脱退しなくても、年金をカットしなくても、ドイツが助けてくれるだろう。助けなければ、ドイツも困るのだから」と割り切って考える人もいるかもしれません。
国内問題であれば、中央政府が地方政府に年金切捨てを強要する事も出来るのでしょうが、ギリシャは主権国家ですから、ドイツが無理やりギリシャの年金を切り捨てさせる事は出来ません。それを逆用してギリシャが捨て身作戦に出るとすると、チキン・ゲームの末、最悪の結果を招く可能性も、理論的にはあるでしょう。

以上、あくまでも、リスクシナリオとして頭の体操をしたまでで、そうならない事を切実に望んではいますが、どうなりますことか。

今回は以上です。
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