景気の見方読み方
Apr.10

2010.4.1

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「ゆうちょ銀行は国債消化専門機関に」

はじめに> <国の資金集め> <金利リスク?> <成長資金が廻らない?
財政が肥大化する?> <ゆうちょ銀行の貸出業務は許されず


<はじめに>
 

景気は相変わらず順調な回復を続けています。政府が大きな誤りを犯さない限り、当面は順調な回復が続くでしょう。そこで今回は、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額拡大について考えることにしました。

<国の資金集め>up
  国有銀行であるゆうちょ銀行が預金を集め、それを全額国債の購入に充てるとすれば、要するに国が郵便局で国債を売っているのと同じことです1。最大の資金不足主体である国が、資金を調達するために国有銀行を運営していると考えれば、理に適った資金仲介活動だと言えるでしょう。民間銀行が国債を買ってもよいのですが、国が直接資金を集めても同じことなら、その方が素直でしょう。
<金利リスク?>up
 

「長期国債相場が暴落するとゆうちょ銀行が損をする」という人がいますが、それはゆうちょ銀行の国債保有を抑制する理由とはなりません。国債相場が暴落する理由としては、「予想インフレ率の上昇により、長期金利が上昇する」場合と、「長期債需給の悪化により長期金利が上昇する場合」がありますが、後者に関しては、満期まで持っていれば損をすることはありませんから、前者に関してだけ検討すれば良いでしょう。
予想インフレ率が高まると、長期債の市場価格が下落しますから、ゆうちょ銀行は保有している長期国債を売却すると損が生じます。売却せずに保有していても、やはり損をします。予想どおりインフレ率が上昇すると、短期金利は上昇しますから、ゆうちょ銀行は高い金利を払って預金を集める必要が出てきます。一方で保有している長期国債はインフレ前の低い金利しか払ってくれませんから、満期まで持っていても損が出るというわけです。その限りでは、「ゆうちょ銀行が金利リスクを負っている」わけですが、これは、とりたててと懸念するほどのものではありません。
理由の第1は、長期金利は予想短期金利の平均にリスクプレミアムを上乗せした水準に決まりますから、インフレが生じなければゆうちょ銀行はリスクプレミアムの分だけ利益が稼げるからです。インフレの時期とそうでない時期を均せば、ゆうちょ銀行の収益が大きなリスクに曝されていると考える必要はないでしょう。(民間銀行が国債を保有している場合も、同様です。儲かることも損することもあるでしょうが、期待値としては悪くないと考えるから投資を行なっているわけです。)
理由の第2は、本来国が持っているリスクをゆうちょ銀行に移転しているだけで、「連結決算」すれば新たにリスクが生じているわけではない、ということです。国が不足資金を短期国債で調達していれば、インフレ時に国が高い金利を支払わされ、国債を保有しているゆうちょ銀行には損得が生じません。国が長期国債を発行してゆうちょ銀行に売っているということは、このリスクを移転していることになりますが、連結してしまえば同じ事です。

<成長資金が廻らない?>up
 

ゆうちょ銀行が大量に資金を集めてしまうと、民間の成長分野に資金が廻らなくなる、という懸念が聞かれますが、これも杞憂です。バブル崩壊後、20年にわたって民間の資金需要は弱いままで、銀行の預金が不足して貸出に支障をきたした事はありませんでした(金融危機で銀行の資金仲介機能が麻痺した事はありましたが)。
今後も、基本的には資金需要は弱く、銀行の貸出は預金を下回り続けると思われます。そうであれば、ゆうちょ銀行の肥大化が「成長分野に資金が流れなくなる原因」とはなり得ないでしょう。
ゆうちょ銀行の肥大化が民間銀行を圧迫するという懸念も、深刻なものではありません。預金を集めても貸し出す先がない状況下、民間銀行にとって預金集めの業務は収益性が低く、彼等は預金集めには不熱心だからです。
なお、将来景気が本格的に回復し、民間の資金需要が旺盛になり、経済成長のための前向きな投資案件が増加してきた時に、民間銀行の資金が不足する可能性はあるでしょう。そうなれば、民間銀行がゆうちょ銀行よりも高い金利で預金を集める必要が出てきて、それが銀行貸出の金利を上昇させ、企業の投資を阻害する可能性はあるでしょう(いわゆるクラウディングアウト)。しかし、仮にそうなったとしても、その原因は財政赤字が大きいことであって、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額が拡大した事ではありません2, 3

<財政が肥大化する?>up
 

ゆうちょ銀行に資金が集まり、それが自動的に国債購入に廻ると、財政規律が失われて財政が肥大化する、という見解もありますが、これも杞憂でしょう。ゆうちょ銀行が肥大化しなくとも、民間銀行が国債を購入するでしょうから、国が資金調達に困る事は考えられず、したがって国の資金不足によって財政規律が働くという事はもともと考えにくいからです4
ちなみに、「郵貯資金が財投機関に流れていたから財投機関に財政規律が働かなかった」事を引き合いに出して、財政の肥大化を懸念する論者もいますが、「信用力の低い財投機関のために国の信用で資金を集めてあげる」構図と、「信用力の高い国が自分の信用で(国有銀行経由で)資金を集める」構図では、事情が全く異なるので、同列に論じる事は出来ません。

<ゆうちょ銀行の貸出業務は許されず>up
 

以上見てきたように、ゆうちょ銀行に対する預け入れ限度額が拡大され、ゆうちょ銀行が「肥大化」しても、資金が国債購入に使われる限り、大きな問題にはならないでしょう。
しかし、ゆうちょ銀行が貸出も行なうとすれば、それは様々な意味で問題です。第1に、融資先に対する信用リスクの判断が出来る人材をどのように確保するのかが問題です。不良債権を大量に発生させた新銀行東京の失敗を繰り返す可能性もあるでしょう。
第2に、これこそ民業の圧迫になることです。民間銀行が乏しい貸出先を巡って激しい金利ダンピング競争を行なっている時に、新たに巨大国有銀行が参入したのでは、民間銀行の収益が一層悪化して経営が成り立たない銀行が増えてしまうでしょう。
したがって、ゆうちょ銀行は、「幅広く資金を集めて国債を購入する業務」に専念するべきだと言えるでしょう。


今回は以上です。

1) ゆうちょ銀行は、多数の預金者から零細かつ短期の預金を集めて巨額かつ長期の国債を購入するという変換機能を営んでいるようにも見えますが、もともと国が発行する国債が1円単位で随時償還可能なものであると考えれば、こうした機能も表面上のものに過ぎません。
2)実際には、銀行の資金が不足した場合には、インフレ懸念が高まらない限り、日銀が追加的に資金を供給して企業の投資を支援するでしょうから、それほど深刻な事態には陥らないと思われます。
3)民間投資が非常に盛り上がるような状況になれば、税収もあがって財政赤字が縮小する展望も開けてくるでしょうから、長期金利はそれほど上昇しない、という可能性もあるでしょう。

4)理論的には、「財政が破綻する可能性が高まっても、一般預金者は危機感が薄いので国有銀行に預金し続けるが、民間銀行は国債購入を控えるようになる」という可能性が考えられますが、それでも「ゆうちょ銀行が肥大化したから事態が深刻化した」という因果関係にはならないでしょう。民間銀行が国債を買わなくなるほど財政が悪化した段階で既に事態は救いようもなく深刻だからです。

 

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