景気の見方読み方
Mar.10

2010.3.1

backindexnext

「十余年ぶりの貿易摩擦」

はじめに> <残念な出来事> <残念な出来事
ジャパン・パッシング> <敵失の利用> <困った事態


はじめに
 

景気は、あいかわらず回復を続けており、弱気派も二番底懸念を口にしづらくなって来たようです。論争相手が黙ってしまうと、する事がないので、今回はトヨタ自動車のリコール問題を考えてみましょう。

残念な出来事up
 

トヨタ自動車が、世界中で大規模なリコールを実施しています。急激な業容拡大に伴って、内部管理体制や危機管理体制に無理が生じていたとすれば、それは残念な事です。一刻も早く信頼を回復するように、努めていただきたいと思います。

トヨタ自動車は、長期にわたりマクロ経済が低迷している日本にとって、希望の星のような存在ですから、トヨタのイメージが低下することは、日本人の日本経済に対する将来展望が一層暗くなってしまいかねません。そうならない事を願うばかりです。
過去の貿易摩擦up
 

もっとも、本件は一面では、貿易摩擦の側面を持っています。本来行なわれなければならない非難を遥かに超えた厳しいバッシングが行なわれているからです。全世界でリコールが行なわれているのに、米国だけで厳しくバッシングを受けているという事、米国内でもトヨタの工場のある地域とそれ以外で大きな温度差があること、などが、貿易摩擦の側面を照らし出しています。
思えば、戦後の日米経済関係の歴史は、相当大きな部分を貿易摩擦が占めてきました。最初は、繊維や鉄鋼や自動車といった個別品目について、日本製品の脅威から国内特定産業を守る事が主眼でした。この段階では、自主規制が主に用いられました。これは、日本企業にとっては打撃でしたが、むしろ日本製品の優秀さをアピールする側面も持ち合わせており、長期的に見れば日本にとって悪い話とばかりは言えなかったわけです。ダンピングという批判も頻繁に行なわれてきましたが、これも日本製品自体の問題を指摘するものではなく、むしろ「安くて良い物を日本企業が作っているのに、米国政府が安すぎると批判している」という滑稽な印象も与えかねないものでした。
その後は、個別産業の保護という観点が薄れ、日本市場は閉鎖的である、といった観点に貿易摩擦がシフトしていき、日米構造協議などが行なわれました。時代は、日本経済が世界一であると言われ、米国民が日本経済に対する恐怖心を募らせていた時期であり、世界一の座を追われかねないというフラストレーションが日本叩きの原動力となったのです。火に油を注いだのが、日本企業によるロックフェラーセンター買収だったと言えるでしょう。

構造協議は、個別の日本製品に問題が無いから市場の閉鎖性くらいしか米国側の主張ポイントが無い、という実情を明らかにしたものであり、それが一層米国民のフラストレーションを高めた、という事もあったようです。
ジャパン・パッシングup
 

日本でバブルが崩壊し、日本経済が長期低迷を続けるようになると、米国民の日本に対する恐怖心は急速に薄れました。幸か不幸か、これによってジャパン・バッシング(日本叩き)の動きは消えて見えなくなりました。米国の貿易赤字は引き続き巨額でしたし、個別産業毎に見れば、摩擦が起きても不思議ではなかったのですが、米国経済がおおむね良好に推移して失業問題が深刻化しなかったため、日本からの輸入が問題とされるケースはほとんどありませんでした。日本企業が対米直接投資により現地生産化を進めたこと、中国の対米輸出が著増したために日本の対米黒字が目立たなくなったこと、なども貿易摩擦が沈静化した要因として挙げられます。この時期に問題となったのは、米国内の日本に対する関心の低下(ジャパン・パッシング=日本素通り)です。

敵失の利用up
 

GMが破綻した時、かつての貿易摩擦を知っている人々の中には、摩擦の再燃を懸念した人も少なくありませんでした。GMは最近まで米国経済の象徴的な存在でしたから、これが破綻した事は、米国人にとって大きなフラストレーションに違いないからです。
したがって、GM破綻時に何も起きなかった事は、不思議な事でありました。GMの破綻が「自損事故」である事は多くの米国民が認識しているため、GMがトヨタに負けたからといって、トヨタを不公正だと言って攻撃する事は憚られたのでしょう。
そうした中で、敵失が発生したため、これを絶好の機会としてトヨタ・バッシングが始まったわけです。そのこと自体は、特に驚くには値しません。中間選挙を前にした米国の議員たちにとっては、まことに合理的な行動と言えるからです。
米国民のフラストレーションは、かつての花形企業であったGMの破綻に留まりません。リーマン・ショックにより、最近の米国の花形産業であった金融業も壊滅的打撃を受け、失業率も高水準となり、過去十余年にわたり米国民が米国経済に対して抱いてきた誇りが大いに傷ついたのです。

こうしたフラストレーションがマグマのように溜まり、それが小さな割れ目を見つけて火山の噴火のように一気に流れ出した、といった現象が、今回の事態だと言えるでしょう。
困った事態up
 

問題は、今回のバッシングが従来のものと異なり、トヨタ車の高品質に対する消費者のイメージを直接攻撃するものであり、長期にわたってトヨタ車の売上にマイナスの影響を及ぼす可能性が高いことです。しかも、反論すればするほど事態が悪化しかねない、といった難しい状況に陥っているのです。
強者が転んだ時の怪我は、世論のフラストレーションによって必要以上に大きくなる場合があります。たとえばホリエモンは、犯した罪と比較して、受けた打撃は甚大でした。社会的制裁として表舞台から引き摺り下ろされたからです。バブル崩壊後の銀行も、ある意味で同様の状況にありました。貸し渋りなども行なってはいたようですが、誰が見ても貸したくないような赤字企業まで「貸し渋りされた」と声高に銀行批判を繰り広げていました。これによる被害も甚大でした。後日になって、不良債権問題が深刻化した際にも、銀行が公的資金の注入を受ける事が世論の反対で極めて難しくなってしまったからです。こうした時には、黙っているしかありません。下手に口を開くと「反省が足りない」と言われて世論の反発が一層強くなるだけだからです。
トヨタ自動車が同じ立場に立たされているとすると、事態は深刻です。小さな失策により大きな損失を被るだけでなく、安全性を強調すればするほど批判が強まりかねないからです。

今回の出来事は、トヨタが蒔いた種ではありますが、トヨタの置かれた難しい立場は、充分に同情に値するでしょう。是非とも頑張って苦境を脱して欲しいものです。それ以上に重要なことは、トヨタが再び元気な会社になり、再び日本経済の希望の星となる日が一日も早く来ることでしょう。事態の収束を願って止みません。
今回は以上です。
------[ ホーム] [ レポートの目次 ] -------
Copyright 2000 Tsukasaki.net All Rights Reserved
For information on webdesign, or problems with this site, send e-mail to [スタジオみと]