景気の見方読み方

May.00

2000.05.16
市場の景況感と景気実態との乖離について

市場の景況感と景気実態との乖離について><(参考)景気の実態について><需要項目面><生産、企業収益など
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私が5月16日に勤務先で発表したレポートを御参考までに付けておきましょう。景気の方はおおむね予想どおり動いているにもかかわらず、市場の方は予想とは全く反対に株安、円安、低金利が続いています。市場心理は誠に読みがたいということですね。
市場の景況感と景気実態との乖離について
 

このところ、株価が下がり、長期金利が下がり、円が安くなっている。米国NASDAQの調整などといった海外要因の影響もあろうが、これを差し引いても市場の景況感が今一つ現実の景気回復を織り込めていないものと推測される。市場関係者のコメントを見ても、日本の景気については今一つであるという印象を受けている人が多い模様である。
  一方で、景気実態は着実に改善しつつある。設備投資の先行指標を見ても在庫循環を見ても、景気が自律回復軌道に乗りつつある事を強く示唆しており、外需についても、内外成長率格差は依然として大きく、一方で円高の影響は一巡しつつあることから、実質ベースでは急速に拡大しつつある。
  個人消費の伸び悩みを指摘する声は多いが、消費者コンフィデンスが98年当時とは比較にならないほど改善しており、所得環境も緩やかながら改善に向かいつつある事を考えると、消費が回復に向かうのも時間の問題であると言えよう。
公共投資や住宅投資は既に景気底支えの大役を終え、次第に減少していくものと思われるが、自律回復の足を引っ張るようなネガティブな影響は見込まれない。
政府の経済見通しは2000年度1%成長というものであり、民間調査機関の見通しも平均すれば概ね同レベルにあるが、例えばGDPに占めるウエイトが16%である設備投資が10%伸びただけでも寄与度がこれを大きく上回ってしまうことを考えると、政府経済見通しは楽に達成できる状況にあるわけである。
  このように、市場参加者の景況感と景気実態とが乖離している状況は96年度にも見られた。当時の日本経済は、実体経済が相当好調で結果としては4%を超える成長を達成した一方で、市場参加者の景況感は弱気であり、特に長期債市場においては史上最低水準の金利が更に低下を続けるといった状況であった。
  しかし、当時はいくつもの特殊事情があったわけであり、今回とは様々な点で異なるという事には留意が必要である。第一に、「今の景気はともかく、来年度には消費税率が引き上げられて景気が悪化するであろう」と予想が広く行われていたし、客観的にもこれは合理的な予想であったが、今回は差し迫った景気悪化要因は見当たらない。第二に、当時はエコノミスト達の中にも弱気の景気見通しが多かったが、これには銀行系シンクタンクを中心に同僚が不良債権処理に追われている時にマクロ経済見通しに強気になれなかったという「不運」も影響していた。しかし、今回は銀行の不良債権処理に目処が立っており、前回のような「不運」は見込まれないわけである。
  こうした事を考えると、96年度とは異なり、市場の景況感は徐々に改善していく可能性が高いと思われる。
但し、市場自体は景況感のみで動くわけではなく、需給や米国株価動向等に大きく影響されるため、必ずしも「景況感が改善すれば、株高、金利高、円高に進む」というわけではない事には留意が必要であろう。
  今一つ留意すべきはリスクシナリオである。1)米国株価急落に伴う景気後退(詳しくは4月18日付米国トピックスレポート参照)、2)大幅な円高の進行、3)日本政府の景気回復優先路線の性急かつ大幅な転換、等の場合には、景気実態の方が市場の景況感の方に鞘寄せされていくことになろう。
 

(参考)景気の実態について
  経済企画庁の5月の月例経済報告によると、「各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加え、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きも徐々に現れており、景気は緩やかな改善が続いている」という状況である。
  97〜98年には増税に伴う実質可処分所得の減少と大型倒産に伴う消費者心理の冷え込み、金融危機に伴う銀行の資金仲介機能の低下、財政再建路線に沿った公共投資の削減、アジア諸国の景気後退等が概ね同時に発生し、日本経済は未曾有の不況に陥った。
  しかし、景気重視型への政策転換により、景気悪化要因の殆どが反転し、景気は99年春頃から回復に向かい始めた。まず、大規模な公共投資等が景気を底支えし、銀行への公的資金注入等により金融仲介機能が回復した。国による信用保証で中小企業の倒産が減少したことも、消費者心理、企業家心理へのプラスの影響を含めて大きな景気浮揚効果があったと言えよう。アジア諸国がV字型の回復に転じた事の影響も重要である。
  はじめは公共投資に頼った回復であり、「倒産などのマイナス要因が前年比で減少した」という極めて消極的なものであったが、在庫調整が進んでいた事、アジア向けの輸出が急回復し始めた事、等により生産が下げ止まった事もあり、景気悪化のスパイラルはこの時点で反転したと判断されるわけである。
  足許では、企業部門の顕著な回復と家計部門の伸び悩みという二面性を有しながらも、景気は着実な回復過程を辿っており、自律的回復軌道に乗りつつあると言っても過言ではない状況にまで来ている。
需要項目面
  需要項目別に見ると、景気を牽引しているのは設備投資と輸出である。
  企業収益は、生産の回復とリストラの進展から顕著に回復している(99年10〜12月期の法人企業統計季報ベース経常利益前年比+41.8%)が、これに低金利、稼働率上昇が加わり、設備投資の環境は大変良好と言える。加えて、米国の情報通信革命に触発された競争力確保のためのIT投資も活発化しつつある。実際、設備投資の先行指標である機械受注(00年1〜3月期の船舶電力除く民需前年比+11.7%)、建築着工床面積(民間非居住用の00年1〜3月期前年比+11.9%)等は顕著な回復を見せており、少なくとも当面は設備投資が景気回復に大きく寄与しそうである事を強く示唆している。
  輸出についても、海外の景気が好調であることから、円高の抑制効果にもかかわらず、数量が前年比二桁の伸びを見せるなど、好調である。今後は米国景気のソフトランディング、アジア諸国のペントアップディマンドの一巡などに伴い所得要因が緩やかに鈍化していく一方で、円高に伴う下押し効果も一巡することから、輸出数量の伸びは比較的順調と見込まれる。
実質輸入も伸びてはいるが、今後は伸びが一巡しよう。99年に輸入数量が拡大したのはアジア諸国の金融混乱が収まって生産が回復し、輸出余力が出てきたことが日本の輸入数量を押し上げた事が主因であるが、こうした要因は一巡している。円高による輸入数量拡大効果も一巡しつつある。景気回復に伴う輸入拡大効果も諸外国の成長に伴う輸出拡大と比べると相対的には小さい。こうしたことを総合的に考えれば、輸出との差し引きである純輸出も拡大していこう。
  個人消費は回復が遅れているが、雇用・所得環境の底打ち、消費者マインドの回復などを考えると、落ち込みが続いていくという状況には無く、緩やかながら回復に向かっていく公算が高い。雇用環境は、企業のリストラに伴って不振を続けてきたが、生産の回復や企業収益の好調などを受けて、徐々に改善しつつある。失業率は未だに高いが、これは遅行指標であり、先行きを占う際には求人数の増加や残業時間の増加などに注目すべきであろう。所得面でも、現在の所得減少の主因となっているボーナスが企業収益の増加に遅行して増加していくであろうこと、残業代が増加していくこと、等を考えると、既に底は打っているものと思われる。一方で98年当時と比較して消費者マインドは顕著に改善しており、99年末頃の消費性向の低下も一過性であったものと思われる。失業率は高止まっているが、現在職のある人が倒産又は解雇により職を失うリスクは減少しつつあり、消費者マインドに与えるマイナスの影響は限定的であろう。
  郵便貯金が大量満期をむかえており、消費者マインドが改善していることを考えると、全額が再貯蓄されるとは限らず、一部は消費に回る可能性も高いものと思われる。株価のもたらす資産効果についても、足許の下落に注目して個人消費へのマイナス効果を懸念するよりは、98年の水準と比較して遥かに高い水準にある事に注目すべきであろう。
  一方で、今まで景気の底支え役として重要な役割を果たしてきた公共投資と住宅投資は、大役を果たして表舞台から退場しつつあり、今後は景気の牽引役としては期待出来ないが、需要が減少していくテンポは比較的緩やかであるため、これが景気の足を引っ張るほどのネガティブな影響を与える可能性は小さいと思われる。公共投資に関しては、相次ぐ景気対策で消化不良を起こしている部分や執行が遅れている部分も多く、予算ベースで減少したとしても、実際の執行の減少ペースは緩やかであろう。住宅投資に関しては、01年6月末までに入居すれば減税措置の対象となるため、少なくとも00年中は住宅投資の落ち込みは限定的であろうし、01年にはいれば全体としての景気が「病み上がり」ではなく完全に自律的回復軌道に乗っているであろうから、多少のマイナスでは影響されない可能性が高いわけである。
 
生産、企業収益など
  生産面から見ても、景気は自律的な回復軌道に乗りつつある。在庫調整は既に完了して在庫の積み増し局面に入っているし、生産も順調に増加している(1〜3月期の閏年要因調整後の鉱工業生産指数前年比伸び率+4.8%)ことから、在庫循環から見て回復局面にあることは疑いない。仮に今年度の生産が5%伸びたとして、GDPに占める製造業のウエイトが27%程度あるため、こちらの面から見ても政府経済見通しの達成は確実であると言えよう。
  企業収益に関しても、稼働率の回復が大きく収益を押し上げることから増益基調が持続する公算である。一方、金利は上昇が見込まれるものの、限度があることから、収益の足を大きく引っ張る要因とはなるまい。収益の回復に伴ってボーナス等の抑制基調が緩む可能性は高いが、これはあくまでも収益を圧迫しない範囲内で行われるものであるため、増益基調を阻害するものにはなり得ない。
  為替については、予測を行うことは非常に難しいが、仮に105〜110円の範囲であるとの前提で考えれば、輸入物価は緩やかに上昇し、国内の景気回復と相俟って、国内物価も緩やかな上昇に転じる可能性が高い。物価面からもデフレ懸念が薄らいでいくとともに、物価が緩やかに上昇していく方が下落していくよりも経済全体として活力が保てるという効果も見込まれよう。

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