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景気の見方読み方
Apr.08

2008.4.1

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「食の安全と政府系ファンド」

はじめに> <政府系ファンドのコンセプト> <海外の大規模農場
他の選択肢との比較><国内農業をどうするか> <政府系ファンドの他の投資先


 
はじめに
  食の安全のために食料自給率を高めようという議論が聞かれます。日本に政府系ファンドを作ろうという話もあるようです。一見無関係に見える議論ですが、今回は両者を結びつけて、「政府系ファンドが海外に農場を作る」というプロジェクトを考えてみましょう。
政府系ファンドのコンセプトup
 

外貨準備を運用、活用するための政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)を設立するとなると、もっとも重要なのは、目的をしっかりと定めることです。外貨準備は国民の貴重な資産ですから、上手に運用して増やすということも重要でしょう。一方で、安全保障に資することも、目的の一つで有り得るので、両者のバランスを如何に考えるかが問題となるでしょう。その際には、安全保障のコストを保険料だと考える必要があるでしょう。
投資の方法としては、政府が単独で取り組むよりも、民間との共同プロジェクトにする方が、民間のノウハウが活用出来るのみならず、収益性に対するインセンティブを高めるという面でも有益でしょう(政府単独のプロジェクトについては、年金基金が贅沢な保養所を作って損をした例などが反省材料となります)。もっとも、その場合には安全保障を追及するための「保険料」を政府が分担する仕組みを如何に作るかが知恵の出し所となるかもしれません。

関係する省庁の数が多いこともあり、調整が難しいかもしれませんが、国益を考える重要な機会ですから、是非真剣に議論していただきたいものです。
海外の大規模農場up
 

穀物の価格が世界的に高騰していますが、将来の価格が今よりも高いのか低いのかを予測することは容易ではありません[1] 。そこで、将来の価格が上昇する確率と下落する確率を五分五分だと考えることにしましょう。
いま、海外に大規模農場を作るプロジェクトがあるとして、穀物価格が上がれば黒字、下がれば赤字で、期待値としては「手間賃程度の少額の儲け」だとしましょう。商社にとっては、リスクが大きいわりに儲からないプロジェクトなので、インセンティブが小さいでしょう。
しかし、日本政府の視点に立てば、こうしたプロジェクトは望ましいものです。海外に日の丸農場が出来れば、@農薬の使用等々の面で国民の食の安全が向上するでしょう。A穀物価格が高騰した場合にも、国民が困る一方で政府は儲かりますから、国全体としてのリスクは回避出来ることになります[2] 。B更に重要なことは、いつの日か食料確保が世界的規模で困難になった場合に対する備え、といった食糧安全保障にも資することです。
したがって、商社が手掛けないプロジェクトでも、政府が手掛けたいと考えるものは多いはずです。そこで、商社連合と政府が組んで、世界各地に日の丸農場を作るというプロジェクトが検討される必要が出てきます。
商社にインセンティブが無いプロジェクトを遂行させるためには、通常であれば補助金が必要ですが、政府との連合プロジェクトであれば、その必要はありません。政府と商社が資金を出し合って農場を作り、「穀物価格が一定幅以上に下落した際には政府が主に損をする。一方で、穀物価格が一定幅を超えて上昇した場合には政府が主に得をする」[3]「食糧危機の際には、農場で生産された食糧は日本向けに輸出する義務を負う」といった契約を結べばよいのです。
そうすれば、商社にとっては、収益が安定してリスクが減るので、薄い利益でも取り組むインセンティブが出てくるでしょう。政府にとっては、上記@〜Bのメリットが享受出来ます。 議論を呼びそうなのが、穀物価格が下落した場合に政府が損を負担することが、事実上は商社への補填に当たるということでしょう。しかし、これは、火災保険の保険料のようなものだと考えることが出来ます。「火事が起きずに嬉しかった時には保険料を払いっぱなしでも悔しくない一方で、火事が起きた時には保険金が受け取れるので安心する」、というのと同様に、「穀物価格が下がった時には国民が喜んでいるのだから政府が商社に補填しても悔しくない一方で、穀物価格が上がって国民が苦しんでいる時には政府に利益が出てほっとする」ということでしょう。実際に穀物価格が下落して政府が補填をする時になると、必ず政府を批判する人が出てくるでしょうが、それは正しくありません。火災保険に加入しても火災が起きなかった場合、保険料を支払ったのは誤りだったと批判するようなものだからです。

他の選択肢との比較up
  食糧危機への備えという観点からすれば、食糧を備蓄するという選択肢も有り得るでしょう。しかし、備蓄は単年度の世界的凶作に対するものであり、構造的な食糧不足に対しては無力です。地球が温暖化し、水不足問題が世界的に深刻化する一方で、中国やインドの生活水準が向上すれば、地球規模で慢性的な食糧不足に陥る可能性は無視できないでしょうから、そうした事態への備えとしては、自前で生産する必要があるわけです。
懸念材料としては、食糧が戦略物資となった場合に、生産国の政府が輸出禁止措置を採ったり農場を接収して国有化したりするリスクが考えられます。もっとも、「だから国内で生産すべきだ」という議論にはならないでしょう。
米国や豪州といった国であれば問題は生じないでしょうし、その他の国々でも相手国政府の過去の仕振りを見て慎重に投資先を選んでリスクを分散することは可能です。万が一にも米国や豪州等が穀物を禁輸するような事態に陥れば、日本にとっては絶望的な事態ですが、そうした可能性は極めて低いでしょう。そんな心配のために高いコストをかけて国産化を推進するくらいなら、関東大震災に備えて耐震構造化を推進する方が、予算の使い方として優先でしょうから、米国の禁輸に備えて食糧を自給しようという発想は生産的とは思われません。

そもそも、国産化を進めれば安心かと言えば、そうでもありません。仮に石油が禁輸になれば、耕運機が動かず、世界の食料生産は激減するでしょう。そうした中で、産油国である米国内の農場では穀物生産のためのコンバインが動かせるかもしれませんから、石油の禁輸に対しては海外日の丸農場プロジェクトの方が耐久性が強いとも考えられるからです。
国内農業をどうするかup
  海外日の丸農場プロジェクト案は、必ずしも国内農業不要論ではありません。本稿は、国内農業をどうすべきか、という点とは切り離して考えています。国内農業を保護すべきか否かは、農業従事者の生活、国土の保全、といった問題とも密接に絡みますから、別の機会に論じることとしましょう。
もっとも、「今以上に食糧自給率を高めよう」という議論に対しては、賛同しかねます。日の丸農場プロジェクトの方がコスト的にも遥かに安く、農村の高齢化といった問題を考えても現実的であり、安全保障上の機能は似たようなものだからです。
政府系ファンドの他の投資先up
 

今回は、食糧安全保障に焦点を当てましたが、天然資源の採掘権などに関しても、類似の議論は可能です。米国政府が農場を接収するリスクに比べて資源国の政府が鉱区を接収するリスクは格段に高いでしょうし、石油等はメジャーに握られていて、メジャーの一角を買収することは米国政府が認めないでしょうし、和製メジャーを作る試みも簡単ではないでしょうが、専門家たちの叡智を集めて、是非安全保障のために議論を尽くしていただきたいと思います。

 

今回は以上です。

 
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