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景気の見方読み方
Mar.08

2008.3.1

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「株安は不況の前触れか」

はじめに> <株安の原因
株安は景気に悪いか> <株安と日本経済没落論


 
はじめに
 

株価が下がると、経済に関する悲観論が台頭してきます。今回も、短期的には恐慌の懸念が、中期的には日本経済の没落の懸念が、声高に主張されはじめました。しかし、そうした論者の中には、聞き手の不安心理を利用して目立とうとしている人も多いでしょうから、注意が必要です。そこで今回は、株安と実体経済の関係について考えてみました。

株安の原因up

 

昨年夏にサブプライム問題が表面化して以降、米国の株価よりも日本の株価の方が下落するという奇妙なことが起きています。
日本の景気指標は、従来よりも若干弱くなっているようですが、急激な悪化とは言えません。円高が輸出にマイナスに働くことが懸念されますが、過去の円高に比べれば速度も幅も限定的で、しかも現状水準自体が輸出に優しいレベルであることを考えると、これも急激な株安の主因とは考えられません。企業の予想収益は下方修正が目立ちますが、これも総じてみれば小幅で、増益基調は維持されていますから、株価急落の主因とは言えないでしょう。
結局のところ、外人投資家が日本株を売ったから日本株が下落した、という需給面の悪化が主因であり、日本株それ自体に問題があるというわけではないようです。外人投資家が日本株を売った理由の一つは、利益捻出のためでしょう。サブプライム問題で被った損を日本株の売却益で打ち消す必要があった投資家も多かったのでしょう。そうした要因で株価が下落したのであれば、株価下落が日本経済の悲観論につながる理由はありません。
外人投資家が日本株を売った今一つの理由として、改革の後退を挙げる論者も多いようですが、改革が後退すると直ちに景気が悪化するという筈はありません。では、「改革の後退が日本経済の長期的な成長率を押し下げるから株価下落の要因になる」のでしょうか。財政資金の配分がわずかに変化しただけで、日本経済の長期的な成長率が劇的に低下するはずはありませんし、過去半年間の長期金利の低下幅が限定的である[i] ことを見ても、市場が日本経済の長期的な成長率に対する見方を劇的に変更したわけでもなさそうです。
そうだとすれば、外国人投資家が日本株を売った理由は、「日本が外国人投資家に分かりやすい国から分かりにくい国に戻った」ということでしょう。グローバル・スタンダードという価値観を外国人投資家と共有する、あるいは共有しようと務めている国には、外国人投資家が投資しやすい一方で、そうでない国には投資しにくい、ということでしょう。
要するに、日本経済が元気か否か、という観点とは全く異なる観点から株が売られ、株価が下落しているのであって、「株価が下がったから景気が悪いのだろう」といった連想は的外れだと言えるでしょう。

株安は景気に悪いかup
 

株価が下がると、「株価が下がっているのだから、景気は悪いのだろう」と考える人は多いようです。エコノミストの中にも、「景気の先行きは暗い。株価が下落しているのを見てもらえば、お分かりだろう」といった説明をする人がいます。しかし、これは奇妙です。
エコノミストが弱気な見通しを説く時には、経済指標から景気が悪化するであろうという予測を立てて、これを説明する必要があります。エコノミストがそれをせずに、「株価が下がる時は景気が悪化する」、と発言することは、「株式市場の参加者はエコノミストよりも景気を予測する能力が高い」と言っているに等しいからです。
株価は景気の先行指標だと言われます。たしかに、外国からの影響が小さい場合には、株価はある程度景気変動に先行する可能性が高いでしょう。株式市場の参加者が景気を予測するということもありますが、金融緩和が景気を回復させるまでには時間がかかる一方で、株価は(金利と配当との関係を比較して株価が割安になるという経路から)比較的迅速に上昇する場合が多いということもあるでしょう。しかし、これとてもエコノミストの予想よりも当たるということでは無いはずです。エコノミストも当然のこととして金融緩和の効果などを考慮するからです。そもそも、今回は外国人の売りが原因ですから、株安が日本の景気悪化を予測しているということではないでしょう。
株安で景気悪化を予想するのではなく、反対に株安が景気悪化の原因となるという可能性をどう考えるべきでしょうか。理屈の上では、株価が下がると、逆資産効果(消費者が、株安によって老後の蓄えが減るので財布の紐を締める等々)や、企業家マインドの悪化(経営者が、景気が悪くなりそうな気がして設備投資などを控える)などが景気にマイナスに作用するかもしれません。しかし、日本では消費者が持っている株式はそれほど多くありませんし、企業家マインドも、実際の受注等の影響の方が遥かに大きいでしょうから、こうした影響も過大視すべきではありません。
90年代には、邦銀がBIS規制ii に悩んでおり、株価の下落が邦銀の貸し渋りを通じて景気を下押しする可能性もありましたが、昨今ではそうした懸念もありません。
外貨不足に苦しんでいる国であれば、外国人が株を買ってくれないと外貨が入ってこないという悩みがあるでしょうが、日本は外貨不足と無縁ですし、かえって外国人の株買いが減ると円安になって輸出が容易になるというプラス面もあるかもしれません。
要するに、株価が大幅に下がったからと言って、直ちに「大不況が来るのではないか」といった心配をする必要はないということです。
もちろん、不況が来ないとは限りません。しかし、「株価が下がったから不況が来るのだろう」というほど単純なものではありません。特に、現在は判断の難しい局面にあるため、米国の景気がサブプライム問題の影響でどの程度悪くなるのか、それが中国等の景気にどの程度影響するのか、それが日本の輸出にどの程度影響するのか、輸出が減った際に日本政府が景気を下支えする可能性はあるのか、といったことを総合的に考える必要があるでしょう。

気になるのは、「外人投資家が日本株を買わなくなると、日本の株価が下落して困る。だから日本の市場を外国人好みに改造しなくてはならない」という議論があることです。これは、角を矯めて牛を殺す議論です。日本の市場を外国人好みに改造することは、大きなコストを伴ないます。そうまでして、外国人投資家に日本株を買ってもらう必要性は小さいからです。
上記のように、株価が下落することが、景気に与える悪影響はそれほど大きくありません。一方で、外人投資家が「フェアバリュー」以下で売り逃げた日本株を、日本人が割安に取得することが出来れば、日本人にとってメリットとなるでしょう。
重要なことは、株価を上げることが経済政策の目的では無いということです。改革派の論者が小泉構造改革の成果を強調する際に、株価が大きく上昇したことを論拠として挙げる場合も多いようですがiii、株価が上がることが日本人の幸せとは限らないということです。
たとえば、株価を上げるためには、法人税を引下げて消費税を上げることが考えられます。法人税負担が軽減された分の一部が配当に回れば、株価にはプラスに働くでしょう。これは、日本人消費者の負担増の一部が外国人株主に移転されることを意味するわけで、日本人として嬉しい話なのか否か、慎重に検討する必要があるでしょうiv
政策の話ではありませんが、たとえば日本企業が従業員への配分を減らして株主への配分を増やせば、やはり外国人投資家の評価が高まって日本の株価は上がるでしょう。しかし、これも所得が日本人従業員から外国人株主に移転されることになりますから、日本人の幸せに貢献したとは言えないかもしれません。
日本経済が弱体化したことで株価が下落したのであれば問題ですが、外人投資家が売ったことで日本の株価が下落したのであれば、それは気にする必要は無いでしょうv

株安と日本経済没落論up
 

今回の株安が、「日本経済は没落しそうだから、日本株は買えない」という投資家の動向を映じたものであるならば、株安を契機に日本経済没落論が盛んになるのも理解できます。しかし、そうではないようです。
株価下落によって日本経済没落論が盛んになってきた一因は、「株価が下がった時に日本経済没落を論じれば、人々の注目が得られる」と考えている人が多いことでしょう。日本人は、もともと悲観論を聞くのが好きな人種ですから、悲観論が受ける土壌はあるのですが、タイミング的に株価下落で人々が不安になっている時は、特にそうした傾向が強まるというわけです。
株価下落によって日本経済没落論が盛んになってきた今一つの理由は、グローバル・スタンダード信仰者の失望感でしょう。日本型システムよりもグローバル・スタンダード(=米国流のシステム)が優れていると考える人々は、「日本がグローバル・スタンダードを採用すべきだ」「そうすれば、外人投資家が評価して日本株を買うだろう」「しかるに、外人投資家が日本株を売っているということは、日本がグローバル・スタンダードから遠ざかっているということだ」「グローバル・スタンダードを採用しなければ、日本は没落するだろう」という思考回路のようです。
しかし、グローバル・スタンダードという名の米国流が日本流よりも優れているという証拠はありません。80年代は日本経済が好調だったから日本経済礼賛論が流行し、90年代は米国経済が好調だったから米国経済礼賛論が流行しただけで、いずれも論理的に優劣が証明されているわけではないのです。トヨタがGMに勝ったという一つの事実だけを見ても、事態はそれほど単純ではないことは明らかです。
米国には米国の、日本には日本のやり方があります。どちらが優れているということではなく、単にやり方が違うのです。日本のやり方が米国人に理解されず、米国から投資が来なくても、日本は日本の資金で日本のやり方を続けていけばよいのです。米国に理解されるシステムは繁栄するが米国に理解されないシステムは没落する、という理由は無いからです。

もちろん、日本が長期的に没落するかもしれないと考える理由は数多くあります。少子高齢化、勤勉を重んじる文化の衰退、等々を考えれば、長期的な日本経済に悲観論が多いことは、むしろ当然かもしれません。しかし、外人投資家の日本株売りと日本経済の没落を結びつけることは、短絡的に過ぎると言えるでしょう。
 

今回は以上です。

up

i 多くの市場関係者は、一国の長期金利はその国の長期的な名目経済成長率と強い関係があると考えているようです。したがって、市場が「構造改革の後退で日本の長期的な成長可能性が低下した」と考える場合には、長期金利が大きく低下するはずなのですが、実際にはそうなっていないことを考えると、市場関係者は日本経済の長期的な成長力には大きな変化がないと考えているのでしょう。

up

ii BIS規制とは、ラフに言えば、銀行が自己資本の12.5倍までしか貸出を行なえない、という規制です。銀行の持っている株が値下がりすると、自己資本が少なくなるような計算式であるため、90年代には株価が下落すると銀行が貸し出せる金額が減少する可能性があったわけです。一方現在では、銀行の自己資本が増えたため、貸出残高と自己資本の比率に余裕があり、多少自己資本が減っても直ちに銀行が貸出を減らす必要はありません。

 
up

iii 小泉改革の時代には、米国や中国の経済の好調といった望ましい外部要因にもかかわらず、日経平均が2万円を超えることはありませんでした。90年代には何度も2万円を超えていたことを考えると、本当に株価の上昇が誇れるものであったのか否かは疑問ですが。

 
up

iv もっとも、法人税率の問題は、企業が所得を海外子会社に溜め込むといった問題とも絡みますので、単純には結論が出せない問題ですが、株価との関係だけを捉えれば、望ましいこととは言えないでしょう。

 
up

v 問題は、日本の株が外人投資家に嫌われると、株価上昇を目的とする外国からの投資が減ることで、株価が下落し、買収を目的とする外国からの投資が増える可能性があることです。そうした事態を防ぐためには、値下がりした株価で日本企業相互の持ち合いを強める等の対策が必要となるかもしれませんね。

 
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