株価が下がると、「株価が下がっているのだから、景気は悪いのだろう」と考える人は多いようです。エコノミストの中にも、「景気の先行きは暗い。株価が下落しているのを見てもらえば、お分かりだろう」といった説明をする人がいます。しかし、これは奇妙です。
エコノミストが弱気な見通しを説く時には、経済指標から景気が悪化するであろうという予測を立てて、これを説明する必要があります。エコノミストがそれをせずに、「株価が下がる時は景気が悪化する」、と発言することは、「株式市場の参加者はエコノミストよりも景気を予測する能力が高い」と言っているに等しいからです。
株価は景気の先行指標だと言われます。たしかに、外国からの影響が小さい場合には、株価はある程度景気変動に先行する可能性が高いでしょう。株式市場の参加者が景気を予測するということもありますが、金融緩和が景気を回復させるまでには時間がかかる一方で、株価は(金利と配当との関係を比較して株価が割安になるという経路から)比較的迅速に上昇する場合が多いということもあるでしょう。しかし、これとてもエコノミストの予想よりも当たるということでは無いはずです。エコノミストも当然のこととして金融緩和の効果などを考慮するからです。そもそも、今回は外国人の売りが原因ですから、株安が日本の景気悪化を予測しているということではないでしょう。
株安で景気悪化を予想するのではなく、反対に株安が景気悪化の原因となるという可能性をどう考えるべきでしょうか。理屈の上では、株価が下がると、逆資産効果(消費者が、株安によって老後の蓄えが減るので財布の紐を締める等々)や、企業家マインドの悪化(経営者が、景気が悪くなりそうな気がして設備投資などを控える)などが景気にマイナスに作用するかもしれません。しかし、日本では消費者が持っている株式はそれほど多くありませんし、企業家マインドも、実際の受注等の影響の方が遥かに大きいでしょうから、こうした影響も過大視すべきではありません。
90年代には、邦銀がBIS規制ii に悩んでおり、株価の下落が邦銀の貸し渋りを通じて景気を下押しする可能性もありましたが、昨今ではそうした懸念もありません。
外貨不足に苦しんでいる国であれば、外国人が株を買ってくれないと外貨が入ってこないという悩みがあるでしょうが、日本は外貨不足と無縁ですし、かえって外国人の株買いが減ると円安になって輸出が容易になるというプラス面もあるかもしれません。
要するに、株価が大幅に下がったからと言って、直ちに「大不況が来るのではないか」といった心配をする必要はないということです。
もちろん、不況が来ないとは限りません。しかし、「株価が下がったから不況が来るのだろう」というほど単純なものではありません。特に、現在は判断の難しい局面にあるため、米国の景気がサブプライム問題の影響でどの程度悪くなるのか、それが中国等の景気にどの程度影響するのか、それが日本の輸出にどの程度影響するのか、輸出が減った際に日本政府が景気を下支えする可能性はあるのか、といったことを総合的に考える必要があるでしょう。 気になるのは、「外人投資家が日本株を買わなくなると、日本の株価が下落して困る。だから日本の市場を外国人好みに改造しなくてはならない」という議論があることです。これは、角を矯めて牛を殺す議論です。日本の市場を外国人好みに改造することは、大きなコストを伴ないます。そうまでして、外国人投資家に日本株を買ってもらう必要性は小さいからです。
上記のように、株価が下落することが、景気に与える悪影響はそれほど大きくありません。一方で、外人投資家が「フェアバリュー」以下で売り逃げた日本株を、日本人が割安に取得することが出来れば、日本人にとってメリットとなるでしょう。
重要なことは、株価を上げることが経済政策の目的では無いということです。改革派の論者が小泉構造改革の成果を強調する際に、株価が大きく上昇したことを論拠として挙げる場合も多いようですがiii、株価が上がることが日本人の幸せとは限らないということです。
たとえば、株価を上げるためには、法人税を引下げて消費税を上げることが考えられます。法人税負担が軽減された分の一部が配当に回れば、株価にはプラスに働くでしょう。これは、日本人消費者の負担増の一部が外国人株主に移転されることを意味するわけで、日本人として嬉しい話なのか否か、慎重に検討する必要があるでしょうiv。
政策の話ではありませんが、たとえば日本企業が従業員への配分を減らして株主への配分を増やせば、やはり外国人投資家の評価が高まって日本の株価は上がるでしょう。しかし、これも所得が日本人従業員から外国人株主に移転されることになりますから、日本人の幸せに貢献したとは言えないかもしれません。
日本経済が弱体化したことで株価が下落したのであれば問題ですが、外人投資家が売ったことで日本の株価が下落したのであれば、それは気にする必要は無いでしょうv。 |