米国の景気が減速した時に、日本経済にどの程度の影響があるのか、という問いは、ITバブル崩壊時以降、筆者の重要課題となっています。当時は、米国のITバブル崩壊により、米国よりも日本経済に大きな影響が出ました。「米国が風邪をひいたら日本が肺炎になった」というわけです。
戦後の日本経済は、米国経済の影響を大きく受けました。輸出減が需要減として景気を下押ししたことは当然ですが、ドル不足経済にあって、米国経済減速→輸出減→ドル不足→国際収支の天井による引き締め→景気後退といったパスも重要だったはずです。
その後、日本経済が外貨不足から解放され、経済がサービス化して財の輸出に頼る必要性が減じ、事実バブル期からバブル後不況にかけて米国経済と日本経済は互いに「我が道」を歩んでいました。そんなわけで、ITバブル崩壊時も、筆者は「日本経済は米国経済の影響はあまり受けないだろう」と考えていました。しかし、そうではなかったのです。対米輸出のみならず、アジア向けの輸出も大きな影響を受け、日本経済は米国以上に落ち込むことになったのです。これは、米国経済のサービス化が影響していたものと思われます。
通常の場合、需要が落ちた時には、サービスよりも財の需要の方が大きく落ち込みます。したがって、米国の需要が落ちても米国内ではサービスの生産はあまり減らず、したがってGDPも大きくは落ち込みませんが、外国のGDPは大きく落ち込むことになります。日本はアジア諸国に部品や設備機械などを輸出していますから、アジア諸国の対米輸出が落ち込むと、アジア向けの輸出も大きく落ち込み、GDPは大幅に下押しされることになるのです。ITバブルの際に日本経済が大きな痛手を被った一因は、こうしたメカニズムでした。
では、今回はどうでしょうか。今回も、理屈的にはそうしたメカニズムが働くと思われますが、前回ほどの影響は受けないのではないかと考えています。第一の理由は、米国の景気減速の主因が住宅投資の落込みであり、これは正に米国内の需要の減少だからです。もちろん、建設労働者の失業や住宅価格の下落によるホーム・エクイティ・ローンの減少などで、米国の個人消費にも影響が出るでしょうし、その影響は輸入減を通じて日本にも及ぶでしょう。しかし、ITバブルの時のような直接的な影響ではないでしょう。
第二の理由は、新興国や産油国などの経済が、米国経済とはある程度独立して好調を維持する可能性が高いことです。たとえば中国では投資の過熱を政府が抑制しているわけで、輸出の減少が景気を冷やしかねない事態に陥れば、投資抑制策を緩めれば景気は維持できるでしょう。産油国などの発展に向けた投資プロジェクトは、米国経済が減速しても無関係に続けられるでしょう。新興国や産油国の需要は、日本製品にも及ぶはずです。
第三の理由は、ユーロや韓国ウォンに対する円安です。日本のユーロ圏や韓国に対する輸出がそれほど多いわけではありませんが、「値段は高くても品質が良いものが欲しい」という需要を巡って世界の市場で日本製品と競合しているのは欧州製品と韓国製品ですから、そうした需要に関して言えば、「日本の対中国輸出を考える際には、人民元と円の関係よりもユーロと円の関係の方が重要である」という面もあるわけです。
もちろん、楽観は禁物です。最大のリスクは、米国経済が失速することです。住宅価格が上昇し、住宅投資が盛り上がっていた部分が剥落し、逆に反動減で住宅投資が凍りつき、住宅価格も大幅に下落することになれば、影響は相当大きなものになるかもしれません。バブル後の日本経済で、過剰投資の反動で投資が止まり、景気が急激に悪化したことが思い出されるような状況です。
しかし、住宅関係が悪化しても、それが米国全体の景気を後退させる可能性はそれほど大きくないかもしれません。米国は日本と異なり、潜在的な需要は十分にあるため、金利さえ下げれば需要はいくらでも顕在化させることが出来るからです。インフレ懸念がくすぶる中で思い切った利下げが行なわれるか否かが焦点となりますが、住宅価格が大幅に下落すれば消費者物価指数に大きなウエイトを占める帰属家賃が下落するでしょうし、米国の景気減速で原油消費量が減れば、原油価格も落ち着くでしょう。WTIは世界の原油価格の基本となっていますが、所詮は米国の原油であり、米国の原油在庫の増減に顕著に反応するというわけです。 |