一般に、自国通貨が高くなることのデメリットは、輸出が減って輸入が増えて国内生産が減少することです。自国通貨建てで見た輸出価格は下落し、輸出企業の収益を圧迫しますが、輸入価格も下落するので、概ね同額の円高差益が発生すると考えれば、価格変化の直接的な影響は概ねニュートラルだと考えてよいでしょう。(部門別に見れば、企業部門にデメリットが生じる一方で、家計部門にメリットが生じます*注。これが経済にとって望ましいことか否かは経済状況にもよるでしょうから、一概には言い難いでしょう)。
一方で、自国通貨が高くなることのメリットは、インフレを抑制する効果が期待出来ることでしょう。
こうしたメリットとデメリットの比較から最も素直に自国通貨高を歓迎しているのは、ユーロ圏でしょう。ユーロ圏は、もともとインフレへの警戒感が非常に強く、インフレ懸念が出てくると金融が引き締められて景気が失速しかねない風土にありますが、昨今の経済情勢を見ますと、景気が好調な一方でインフレが懸念されかねない状況となっています。こうした中で、自国通貨であるユーロが高くなることのデメリットは余り感じられず、むしろ需要超過を抑制するといった効果も見込まれるかもしれません。一方でユーロ高がインフレを抑制する効果は確実に見込まれますから、ユーロ圏は全体としてユーロ高を歓迎していると言えるでしょう。
日本は、本来であれば円高に弱い経済です。勤勉に働いて倹約するという文化により、本源的に需要不足の経済だからです。円高による需要抑制がこれに追い討ちをかけるというわけです。さらに、最近ではインフレよりもデフレが心配な物価動向が続いていますから、円高の物価押し下げ効果がむしろ有害なものとなりかねません。
しかし、今回は円高と言っても水準的には充分輸出採算のとれるレベルです。更に重要なことは、日本製品と競合するユーロ圏や韓国といった地域の通貨が数年前に比べて格段に高くなっているということです。日本の主要貿易相手は米国と中国ですが、米国は製造業が空洞化していますからドル安が日本の対米輸出入数量に与える影響は限定的でしょうし、中国製品と日本製品との競合は価格と品質という比較ですからストレートに価格変動が影響するわけではありません。その意味では、ユーロ圏や韓国などの方が、日本との直接貿易のウエイトはさほど高くありませんが、日本製品の競争力という観点からすれば重要なのかもしれません。
米国は、製造業が空洞化しているため、ドル安になっても輸出が増えたり輸入が減ったりするメリットは大きくないようですが、一方で米国の輸入がドル建てで行なわれているため、ドル安が輸入インフレをもたらすといったデメリットも小さいようです。
中国は、人民元の対ドルレートが緩やかに上昇していますが、他の通貨の対ドルレートがそれ以上に上昇しており、競争力はむしろ増しているかもしれません。それが国内経済の過熱を招くという懸念も聞かれますが、輸出産業の生産や設備投資が問題とされているわけではなく、それ以外の投資の過熱が問題となっているわけですから、国内の金融を引き締めれば良いのであって、ドル安のデメリットが大きいとは言い難いでしょう。
産油国などには、ドル安によって受け取ったドルの価値が低下するというデメリットが生じているはずですが、原油価格の高騰により、それを補って余りある利益が上がっているというわけです。 |