個人消費関連の指標が弱含んでいる。サンプル要因が影響していると思われる家計調査を別としても、販売側統計などにも弱いものが目立っている。
ガソリン価格が高騰していたこと、夏と秋の始まりが遅かったこと、名目賃金が伸び悩んでいること、などが影響しているのであろう。消費動向調査からは、消費者マインドの悪化も読み取れる。
しかし、過度な心配は無用である。ガソリン価格はピークアウトしているし、天候不順はいつまでも続くものではない。消費者マインドは悪化の理由が見当たらないことから、統計上の振れである可能性が高い。
問題は、賃金が伸び悩んでいることであるが、毎月勤労統計の前年比ゼロというのは極端で、統計上の誤差である可能性がある。統計の内訳で零細企業の所定内給与が前年比マイナスとなっているが、客観的な情勢から考えてマイナスとなる要因は見当たらないからである。仮に伸び悩みが本当だとしても、雇用者数が増加していることから家計部門の所得は全体としては増加している。個人企業の収益も改善を続けており、これも個人消費を支えるであろう。
そもそも景気が大きな流れであって簡単には方向を変えない一方で、経済指標が振れるものであることを思えば、一喜一憂する必要は無い。大河の流れにも緩急があり渦を巻くこともあるが、結局は大局的な流れに従うものである。特に、個人消費が景気に遅行する性質を持ち、みずから景気の方向を変える役割を果たすことがほとんど無い(先行して動くのは消費者マインドが大きく悪化する場合、たとえば山一證券廃業に伴って雇用不安が一気に高まったときなど)ことを考えれば、最後は景気全体の流れに鞘寄せされて再び強含むと考えるべきであろう。
いま少し大きな目で見ると、構造変化が個人消費の回復を遅らせている姿が見えてくる。企業経営者がどこまで「グローバル・スタンダード」を指向しているのかは不明だが、現象としては終身雇用制に綻びが見え、非正規雇用が増え、従業員の忠誠心が薄れてきたことで、少なくとも「会社は家族」ではなくなってきた。それにより、企業収益が増えても雇用者所得が増えにくいという構造になってきたわけである。(本来であれば、企業収益の増加が株高を通じて個人消費にもプラスの影響を与えるはずであるが、株価も今ひとつである。)
経済予測はもともと永年の経験と勘が頼りとなる面が大きいため、こうした構造変化が生じると予測者の間で見解が大きく割れる場合も多い。そのなかで、本件に関しては、筆者は楽観的な方に属している。
第一に、雇用者所得が減っているわけではないため、事態を深刻に考える必要はない。消費がマイナスになった主因は雇用者所得ではないのである。第二に、雇用情勢は確実に改善しつつあり、これが消費者マインドを改善させる方向に働くであろう。更に言えば、第三に、これから徐々に団塊世代の退職金が支給されはじめる。雇用情勢の好転は、団塊世代の再就職にプラスとなり、退職金に関する財布の紐を緩めるであろう。第四に、賃金自体も遠からず上昇に向かうと考えられる。
雇用情勢は目覚しく改善しつつあり、人手不足感が強まりつつある。景気回復が労働力需給の逼迫を通じて賃金を上昇させる時期が近づきつつあるのである。従来は経営者がよろこんで労働者と利益を分かち合っていたのが、今次局面では労働力需給の逼迫を受けて経営者が仕方なく労働者と利益を分かち合うということだとすると、景気回復のタイミングと雇用者所得増加のタイミングの差は従来よりも大きくなるであろうし、増加幅も従来よりは小さくなるであろう。しかし、景気回復が雇用者所得を増加させるという本質まで変化したわけではない。正社員の本給が上がるのは先のことであろうが、限界的な労働市場としてのパートやアルバイトは需給を敏感に反映して上がり始めてもおかしくないであろう。
余談であるが、労働力需給が逼迫すると、パートやバイトは値上がりするであろうが、正社員の給料はそれほど上がらないかもしれない。企業から見ると「正社員は釣った魚なので餌が不用」だからである。(長期的には正社員の給料を上げないと新卒採用が難しくなるという可能性はあるが、学生が就職先を選ぶときに見るのは初任給であって生涯所得ではないという見方もあろう。また、すべての企業が正社員の給料を抑えれば、新卒の採用が難しくなるというメカニズム自体が働かないかもしれない)。そうだとすると、ますます従業員の忠誠心は薄れ、会社は家族とは程遠いものとなり、米国的な色彩を強めていくのかもしれない。それが「グローバル・スタンダード」だとすると、寂しい気もするが、これも時代の流れというものなのであろうか。
今ひとつ余談であるが、景気回復を受けた財政赤字の縮小も、消費増につながっていない。かつては「財政赤字が増えると消費者が将来の増税を予想して消費を抑えるから財政政策は有効ではない」といった主張も聞かれたが、もともと世の中はそれほど理屈どおりに動くものではあるまい。論者たちに従えば、財政赤字が減ったので消費者が将来の減税を予想して消費を増やすはずなのである。今回の消費不振を見て、論者たちにも、世の中は理屈どおりに動かないのだということを理解してほしいものである。 |