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Jun.06 2006.6.4
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「銀行ビジネスの新展開」

<はじめに> <銀行の回復> <変化の深因
貸出姿勢の積極化><担保の変化> <シンジケート・ローン言
その他のビジネス> <新展開の行方> <リスクに応じた利鞘


はじめに
  勤務先大学の公開講座で「銀行ビジネスの新展開」という話をしましたので、今回はその内容を御紹介します。
銀行の回復up
 

塚崎と申します。1年前まで24年間にわたり、銀行に勤めていました。この24年間の銀行業界を一言で振り返ると、「こんな筈では無かった」ということになります。1981年に入行した時には、銀行に就職したということが誇らしく、その後もバブル期には世界を駆け巡るジャパンマネーに乗って巨大邦銀が一世を風靡していたものです。しかし、バブルが崩壊してからは、弱り目に祟り目といった状況が最近まで続きました。
まず、バブルの崩壊によって巨額の不良債権が発生しました。その後の長期不況によっても新たな不良債権が積み上がりました。ダブルパンチの結果として、すべての銀行が存亡の危機に立たされたと言っても過言ではないでしょう。過去の蓄えをすべて吐き出し、それでも足りずに公的資金を受け入れて合併をして厳しいリストラを行なって、文字通り「かろうじて生き残った」というわけです。あまり知られていないことですが、銀行員の給料も随分下がりました。銀行員といえば昔は高給の印象が強かったわけですが、最近では「大学の同窓会で年収を比べたら低い方だった」という話を頻繁に耳にします。
こうした実際の苦境にも増して辛かったのは、世論の銀行に対する風当たりの強さでした。銀行に非が無かったとは申しませんが、悪いことは全て銀行と大蔵省のせいであるといった世論には、正直なところ大いに疑問を感じました。しかし、世論というものの恐ろしいところで、そうした疑問を口に出すことすら許されないような雰囲気が最近まで続いていたわけです。
バブル期にはバブルを煽ったと言われました。銀行から貸し込みに行ったケースもあったようですが、借り入れ申し込みが先にあって、それに応じただけのケースが圧倒的に多かったのだと思います。後日不良債権が大量に発生したことから考えれば、借入の申し込みを断ればよかったのでしょうが、それとバブルを煽ったか否かは別の問題でしょう。
バブルが崩壊してからは、さらに厳しい批判にさらされました。バブルの崩壊によって借り手の状況が悪化すると、貸出を続けられない場合が出てきます。こうしたケースでも世論は「貸し渋りだ」と銀行に批判的でありました。評論家が銀行を批判するために挙げている借り手の実例の中には、「貴方の資金をその会社に貸し出す勇気がありますか」と聞きたくなるような例も多かったのですが、それを指摘する人はほとんどいませんでした。
反対に、貸し出しを行ったことが批判される例もありました。借り手の状態が悪化していて、銀行としては回収したいけれども、無理に回収すると借り手が倒産して何千人もの従業員が路頭に迷うことになるという場合、銀行はやむなく返済を待つことがあります。これに対しては、不良債権の処理を先送りしたという批判がなされました。バブルが崩壊した後に銀行が速やかに不良債権を処理していたら、考えられないような大不況が来ていたかもしれないのに、そうした可能性を指摘する人もほとんどいませんでした。
公的資金の導入に際しては、厳しいリストラを要求されて銀行員の懐が多いに痛みましたが、加えて銀行員の心も大きく傷つきました。私が入社した頃には銀行に入社したことが誇らしく感じられましたが、最近では飲み屋でも銀行員であることを隠す人が多いようです。国民の血税で助けていただいたのだからデカイ面をするなと言われればそれまでですが、国民の血税のお世話になった人々の中でも銀行員の萎縮振りは突出したものがあるように思います。
こうしてすっかり萎縮していた銀行ですが、最近ようやく少しずつ元気を取り戻しつつあります。何よりも景気回復を受けて不良債権問題が概ね克服されたことが大きいわけですが、これについて一言申し上げておきたいと思います。それは、構造改革が進んだから銀行が元気になったのではないということです。むしろ、小泉改革が緩んだから景気がよくなり、景気がよくなったおかげで借り手が借金を返せるようになったということであります。小泉首相が登場したときに使っていた「痛みに耐えて」というフレーズを覚えておられると思いますが、実際には財政赤字は大きく膨らみ、不振企業を淘汰する方針も再生させる方針に転換され、景気に優しい政策にソフトランディングしたということであります。

変化の深因 up
 

さて、ようやく元気を取り戻して貸出にも積極的になってきた銀行ですが、そのビジネスは以前と随分異なっています。詳しくはこれから御話しますが、その前に覚えておいていただきたいことが三つあります。
第一は、銀行が手数料ビジネスに注力しているということです。銀行の収益源は大きく分けて貸出と預金の利鞘、ドルや国債などの売買益、送金などの手数料の三つがありますが、売買益を狙う取引は、相場の予想が外れた場合に損が出ることになりますから、リスクが高いビジネスです。バブルの崩壊を経験した銀行は、銀行の本業とも言える貸出についても、リスクを伴うということを痛感しました。そこで、リスクをとらずに収益を上げる方法としての手数料ビジネスが見直されてきたというわけです。貸出との対比については、BIS規制が導入されて貸出を増やすのに限度が出来たということも手数料ビジネスを見直す契機となりました。
銀行が手数料に注力する理由は今一つあります。それは、バブルが崩壊して以降、企業の資金需要が伸び悩んできたために、貸出資産が積み上がらず、利鞘で稼ぐということが難しい状況が続いていることです。不良債権の処理を進めるためにも公的資金を返済するためにも収益を稼がなくてはならない中で、手数料に着目せざるをえなかったというわけです。
ここで注目されるのは、当初に貸出を行った期の収益にはそれほど貢献しない場合が多いということです。貸出は、たとえ短期の貸出であっても、一度実行されると長年にわたって契約が更改され、残高として長年残り、利鞘を稼ぎ続けることができるわけですが、過去数年の銀行は将来の収益よりも今期の収益がとにかく絶対必要だという状況でしたらから、今一つ貸出には力が入らないという状況だったわけです。一方で、手数料ビジネスは、取引時点で手数料が支払われますから、当期の決算にそのまま貢献するということで、どうしても力が入ってきたというわけです。
覚えておいていただきたいことの第二は、銀行が資産のバランスに気をつけるようになったということです。難しくはポートフォリオとかリスク分散とかいう言葉を使いますが、要するに一つの籠にすべての卵を入れずに二つの籠に分けなさいという話です。
銀行はバブル期に不動産関連の貸出を大きく伸ばしました。これには大きな反省点が二つあります。一つはそもそも地価が高騰している時に不動産担保融資を行ったことです。当時は地価は下がらないという土地神話がありましたから、当時の担当者をどこまで責めてよいのかはわかりませんが、やりすぎであったことは間違いないでしょう。今一つの問題点は、銀行の貸出残高に占める不動産関連の比率が非常に高くなっていたことです。どの業種にも偏りなく貸していれば、不動産価格が暴落してもこれほどの被害にはならなかったはずで、貸出全体がバランスを欠いていたことが反省されるわけです。こうした反省が、アメリカで発展した理論と結びついて、幅広く資産のバランスを考えようという動きになったわけです。
資産のバランスというと、業種別だけではありません。大企業向け融資と中小企業向け融資のバランス、安全だが利鞘の薄い貸出と安全度は若干落ちるが利鞘が厚い貸出、地方の企業と東京の企業、といったバランスも重要です。
このことは、銀行と銀行が貸出債権を交換することでお互いがメリットを受ける可能性があるということです。リンゴ村とミカン村がリンゴとミカンを交換すればお互いが幸せになれるということと同じだと考えてください。
覚えておいていただきたいことの第三は、銀行が借り手のニーズに木目細かく対応しようとし始めたことです。銀行の貸出という商品は、メーカーの製品と異なり品質で差別化することが出来ませんから、貸出競争に勝つためには、顧客の悩みを聞き、顧客の悩みをともに解決していく中で顧客のニーズに合った商品を提供していくというサービスが不可欠です。これまでの銀行は、高度成長期の強い資金需要のなかで貸出競争よりも預金獲得競争に奔走してきましたし、その後も株式の持ち合いなどによる借り手との安定的なリレーションシップの中で安定的な貸出需要を確保することが出来ていました。それが、90年代以降に企業の資金需要が大きく落ち込み、株式の持ち合いも大きく緩んできた中で、銀行も普通の商売人らしくなりつつあるということなのでしょう。まだまだ御高く止まっているところもあるようですが、少なくとも変化の方向としては顧客のニーズを意識するようになりつつあることは疑いなく、それが新しいビジネスに注力している一因であることも間違いないことのようです。
こうしたことを念頭に置いていただいた上で、以下では、銀行の貸出姿勢が積極化してきたこと、貸出の形態としても、動産や売掛債権といった担保を活用する動き、中小企業向け無担保自動審査型融資の動き、シンジケート・ローンの増加などが目に付くこと、などについて御話していきたいと思います。

貸出姿勢の積極化up
 

不良債権問題が峠を越えたことで、銀行の貸出姿勢が積極化しはじめたという話を耳にします。こう言うと、いかにも最近まで銀行が貸し渋りをしていたようですが、そういう意味ではなく、何となく勢いがなかった貸出部隊に勢いが戻ってきたという意味です。
理由はいろいろあると思いますが、やはり銀行自身が元気になってきたことが大きいでしょう。実際問題としては、前向きの案件に人手を投入できるようになったという面が大きいでしょう。融資担当者にとって、取引先が返済困難に陥ると、一般の方には想像もつかないほどの手間がかかります。したがって、銀行全体で数多くの不良債権を抱えていると、前向きの融資に手が回らないということが起こり得るのです。また、気分の問題としても、せっかく苦労して貸出を行った先が次々と返済不能に陥っていくのを見ると、貸出意欲が薄れますが、最近は逆にあきらめかけていた不良債権が回収できるといった事例が増えていますから、担当者の気分が前向きになっているのでしょう。いま少し大きな話として、銀行のリストラが一巡して銀行全体のムードが縮み志向から脱却したということも影響しているように思います。銀行の自己資本と収益が戻ってきたことで、BIS規制の制約をあまり意識しなくてよい状況になってきたということ、あるいは多少のリスクをとっても大丈夫だという安心感が出てきたこと、なども影響していると言われています。
借り手が元気になってきたということも、重要な要因です。返済能力の高そうな借り手に資金需要が戻って来たということは、銀行の融資担当者を大いに活気づけるからです。銀行自体の戦略としても、今までは「どうせ貸出は出ないだろうから、フィー・ビジネスで稼ぐしかない」と考えていたものが、貸出でも稼げそうだという状況になると、人員を貸出にシフトするなど、貸出に積極的な姿勢を見せるようになります。
裏話をすると、人事考課の際の重点項目をフィーを稼いだことから貸出を伸ばしたことにシフトしつつある銀行もあるようで、これが担当者を俄然張り切らせているという面もあるようです。銀行内部の手続きとしても、本部の決済を得ないで支店長の判断で貸出が出来る範囲を広げているケースが見られます。これにより銀行の判断を早め、貸出競争に遅れないようにしようという努力の一環と言えるでしょう。
なお、貸出姿勢の積極化がメガバンクは海外で、地方銀行は東京で目立つということは興味深いことだと言えるでしょう。メガバンクにとっては国内の、地方銀行にとっては地元の取引先が言わば主戦場でありますから、こうした貸出は縮み志向の中でも可能な限り前向きに取り組んできた一方で、その他の戦場に於いては背に腹は代えられずに戦線を縮小したという状況が、縮み志向からの転換で元に戻りつつあるということなのでしょう。

担保の変化up
 

銀行が不動産担保を重視しすぎたことが、バブル後の不良債権問題を深刻化したと言われています。また、不動産担保を偏重することにはいま一つ問題があるようです。不動産担保に頼りすぎると、場合によっては企業の本業に対する銀行のチェック機能が疎かになりかねないわけで、これがバブル期以降に銀行員の借り手に対する「目利き」機能が衰えた一因と言う人も少なくないわけです。こうしたことから、銀行は不動産担保に頼らない型の貸出を模索しつつあります。
一例としては、動産担保や売掛債権担保が挙げられます。こうした担保は、企業の身の丈にあった借入残高に対応するもので、バブル期のような過大な負債には相応しくないという「長所」のほか、銀行が企業の本業をしっかりチェックしていないと担保の価値が大きく損なわれかねないものであるため、銀行の借り手に対する「目利き」能力が養われるという点も長所であると言えるでしょう。
プロジェクト・ファイナンスと言われるものも、こうした流れに沿ったものだと言えるでしょう。これは、企業が油田を掘るとか貸しビルを建てるといったプロジェクトを行う時に、プロジェクトから発生する収入だけを返済の原資にするというものです。イメージとしては、借り手がプロジェクトを行う子会社を設立し、子会社が銀行から借入を行うというのに近いでしょう。親会社は子会社の借金を保証せず、子会社が倒産しても親会社は知らん顔をするということです。企業にとっては、プロジェクトが失敗して借金が返済できなくなっても、プロジェクトに投下した資金(喩えでいえば資本金)を失うだけで、会社の従来の資産など(喩えで言えば親会社の資産)には銀行からの返済要求が及ばないという安心感があります。一方で、銀行からみれば、リスクが高い分だけ金利が高くとれるということもありますし、プロジェクトが成功すれば、仮に会社が倒産しても貸出が回収できる(喩えで言えば仮に親会社が倒産しても子会社が倒産しなければ回収できる)というメリットもあるわけです。
注目されるのは、無担保自動審査型融資と呼ばれるもので、中小企業に対して担保をとらずに貸出をするという新しい形態の融資です。これは、大数の法則というものを用いて、はじめから一定の確率で借り手が返済不能に陥ることを計算に入れた上で、担保をとらずに審査も簡略なものだけを行って融資を行うというものです。もちろん、その分だけ金利は高くなります。
銀行は今まで、貸出前に充分な審査を行って懸念がほとんどない場合にのみ貸出を行うという建前をとってきました。この建前を大転換して「多くの取引先に貸せば一定の確率で焦げ付きも生じるだろうが、その分だけ金利を高く設定しておけば全体としての収益は確保できるだろう」というビジネスを始めたということです。
対象となる取引先は、貸出金額が小さすぎて手間をかけて綿密に審査をするとコスト割れになってしまうような所が中心のようです。今まで取引ができなかった所とも取引をしていこうという積極姿勢の一つだと言えるでしょう。
少し変わったところでは、売掛債権の流動化というビジネスもあります。銀行が借り手をファクタリング会社などに紹介して、借り手の売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうというものです。その結果、借り手は売掛債権が早期に現金化できますから、銀行借入を圧縮することができることになります。それでは紹介した銀行が融資を返済されて利鞘を稼ぐチャンスがなくなってしまうではないかと心配になりますが、そうとは限りません。
他の銀行から主に借りていて、自分の銀行からは少ししか借りてくれない会社については、売掛債権を流動化されても自分の銀行の融資はそれほど減りません。一方で、借り手からは手数料がもらえますし、ファクタリング会社に対しては買い取りに必要な資金を貸し付けることができるでしょう。
銀行としては、ポートフォリオを適正化するためにある取引先に対する貸出残高を絞るという目的に使うこともあります。特定の業種、あるいは超優良企業で利鞘が極めて薄い取引先、利鞘はある程度とれるものの信用力が十分ではない借り手などに貸出が集中している場合、そうした貸出をある程度減らす手段として流動化を用いる場合もあります。

シンジケート・ローンup
 

貸出の新形態として、もっとも注目されているのはシンジケート・ローンです。これは、各銀行がバラバラに借り手と交渉して契約するのではなく、アレンジャーと呼ばれる幹事銀行が一括して借り手と交渉するというものです。従来の取引銀行が交渉を幹事に一任するという場合もありますが、幹事行が条件を決めた後で各銀行に参加を打診するケースも多いようです。
幹事行としては、幹事手数料が得られます。また、取引先に対する融資シェアを落としたい場合に落とせるというメリットもあります。理屈の上では既存の貸出債権を売却してもよいのですが、日本では既存の貸出債権の流通市場が今一つ活発ではなく、買い手が見つかりにくいため、新規の貸出を行う際に他行の参加を積極的に募ることで残高のシェアを落とすということが模索されるというわけです。
幹事行をメインバンクが務める場合には、メインバンクの責任というものを明確化するというメリットもあります。これまでは、借り手が傾いた時にメインバンクがどこまで責任を持つべきかが不明確でした。メイン以外の銀行が融資の回収を急ぐ中でメインバンクが肩代わりを迫られるケースも少なからずあったようです。シンジケート・ローンになれば、各銀行が自らの融資残高に責任を持つという体制が整いますから、メインバンクとしての責任が薄まるということになります。もっとも、借り手の業績がある程度以上に悪化するとシンジケート・ローンを返済しなければならないといった条件がつく場合も多いので、この場合に返済資金をメインバンクが融資せざるを得ない場合もあり、メインバンクが取引先を支えるという機能は引き続き残っているようです。
幹事行以外の参加行のメリットとしては、今まで取引が出来なかった先と取引が出来るようになることが挙げられます。東京の取引先への融資残高を増やしたい地方銀行、ある業種向けの融資残高を増やしたい銀行、下請け企業との取引を活発化するために親会社向けの残高を持ちたい銀行、などとの取引ができるようになります。うまくいけば、最初はシンジケート・ローンへの参加であっても本格的な取引を開始する契機となるかもしれないわけです。
借り手と交渉する手間が省けることも参加行のメリットの一つです。また、取引条件の透明性が高まることで、銀行ごとに取引条件が変わることが防げるというメリットもあるでしょう。
借り手にとっては、各銀行と交渉する手間が省けること、大量の資金を機動的に調達できるようになること、などのメリットがあります。場合によっては、各行と個別に契約するよりもトータルコストが低くなる場合もあります。また、企業イメージの向上に役立つ場合もあります。シンジケート・ローンを借りているということが、先進的な企業であるというイメージにつながる場合もありますし、中堅企業の場合には「シンジケート・ローンが借りられるほど立派な企業なのだ」というイメージにつながるかもしれません。
なお、シンジケート・ローンが増加している背景の一つとして、銀行と借り手、特に優良企業の関係がドライになってきたということが挙げられます。かつては銀行と企業が株式の持ち合いを通じてしっかりと結びつき、借り手ごとに各銀行の融資シェアが固定しているのが一般的でしたが、株式の持ち合いが緩んできたこと、長年に及ぶ金融緩和の中で銀行取引をドライに考える企業が増えてきたこと、などが反映し、案件ごとに銀行のシェアが変動するシンジケート・ローンに対する抵抗感が薄れてきているということなのでしょう。

その他のビジネスup
 

最近話題となっている銀行のビジネスとしては、投資信託の販売が挙げられます。金余りのなかで、銀行としては預金を集めても借り手が見つかりませんし、顧客としても預金の金利がゼロだという状況にあって、銀行が顧客に投資信託を販売することが許されましたので、これを積極的に推進しようということです。販売をはじめて間もないにもかかわらず、銀行の販売残高はすでに証券会社を超えています。銀行にはすでに預金があるため、これを振り替えることが出来るのに対し、証券会社で投資信託を買うためには銀行から資金を移してこなければならないという顧客側の事情が大きいのでしょうが、銀行に対する顧客の信頼感といったものも寄与しているのかも知れません。
投資信託の販売先は、ある程度預金残高を持っている顧客が中心となりますが、投資信託に限らず銀行が富裕層を対象としたビジネスに注力していることも最近の特徴です。富裕層向けのサロンや応接間を作り、ゆったりとした雰囲気の中で様々な顧客のニーズに丁寧に対応していきながら、さまざまな商売に結びつくことを期待しているというわけです。これまで銀行では、預金残高1万円の顧客と1億円の顧客が同じように窓口に並んでいましたが、銀行の収益を考えると富裕層からの収益が圧倒的であるということもあり、富裕層を別扱いすることで囲い込もうということになったようです。
デリバティブズと呼ばれる新金融技術を用いた顧客サービスなども行なわれています。たとえば将来金利が上昇した時にも借り手の支払い金利が一定水準を超えないように「保険」をかけ、銀行はその代わりに「保険料」を受け取るという取引で、顧客のリスクを軽減しようというわけです。
コミットメント・ラインという取引形態も伸びています。これは、銀行から資金を借り入れる代わりに、「いつでもあなたが融資を申し込んだら即座に融資します」という約束をとりつけるというものです。約束の御礼に銀行に支払う代金は、借入に対する金利よりはるかに低いので、「いざと言う時に必要な資金を手元に持っておくために借金をしている」という企業などにとっては有効に活用できる取引だと言えるでしょう。
実際のコミットメント・ラインはシンジケート・ローンとして設定されている場合が多いようです。約束の内容と「御礼」について幹事行が交渉し、決まった内容で他の銀行に参加を呼びかけるというわけです。用途としては、たとえば他社の買収を考えている企業にとって、巨額の金額を短期間で揃えなければならない可能性があるためにコミットメント・ラインを設定しておこうという場合などが考えられますし、通常の設備投資などの場合にも使えるでしょう。
設備投資もM&Aも考えていないけれども、手元に資金がないと不安だという企業にとっても、コミットメント・ラインがあれば、預金を取り崩して借入を返済することが出来ますから、有効に使える取引だと言えるでしょう。もっとも、この場合は銀行の立場が難しいものがあります。銀行としてみれば、わずかな「御礼」をもらうだけで融資と預金が両方減ってしまうということは望ましくないからです。他の銀行と取引している会社に対してであれば、コミットメント・ラインを設定して「御礼」をもらうことの抵抗感は少ないのかもしれませんが、この場合にも、「借り手が元気な間はわずかな御礼をもらえるだけなのに、借り手の状態が悪化した場合には既存の取引銀行が融資を引き揚げるので自分の銀行が貸出を行わざるを得なくなる」という可能性があるので、慎重な対応が必要でしょう。コミットメント・ラインがシンジケート・ローンを中心に増えている理由としては、こうした銀行側の事情があるのかもしれません。
銀行の注力分野として、投資銀行業務も注目されています。これは、M&Aの仲介、株式や社債の引受けなどで、主には大企業を対象にしたビジネスだと言えるでしょう。

新展開の行方up
  ここまで、比較的明るい話をして来ましたが、実際のところは、必ずしもうまくいっていることばかりではありません。
貸出には積極的に取り組んでいますし、企業の資金需要もようやく少しずつ出てきましたが、現在までのところ、貸出残高は思ったように伸びていません。住宅金融公庫が業務を縮小したために従来であれば公庫から借りていたであろう個人が銀行から住宅ローンを借りるようになっており、個人に対する貸出は伸びていますが、銀行の本業というべき企業向けの貸出は、ようやく増加の兆しが出てきたといった段階です。企業の収益が高水準である一方で設備投資などがようやく盛り上がり始めたという段階ですから、時間が経てば資金需要が増加してくると期待されますが、企業が長年の不況の経験から慎重化していることもあり、どの程度のスピードで貸出が伸ばせるのかは、予断を持たない方がよいのかもしれません。
動産担保や売掛債権担保といった動きは、担保となる不動産を持たない新興企業に対する融資を可能とするという意味でも、銀行の本業に対する「目利き」機能を育てるという意味でも、大いに歓迎されるところです。もっとも、若手融資担当者の「目利き」機能が低下しているなかで、どこまで動産担保などで資金が貸せるのか、どの程度の速さで担当者の目利き機能が充実していくのか、少し長い目で見ていく必要があるようです。
クレジット・スコアリングについては、ノウハウが蓄積するまでしばらく時間がかかると思われます。決算書だけを見て融資の可否を機械的に決めるということだとすると、下手をすると他の金融機関が審査をして融資を断った借り手だけが申し込みに来るということにもなりかねず、こうした事態を如何に防ぐかということも、容易なことではないでしょう。
従来の取引先とは異なる顧客層をターゲットにしているということも、ノウハウの不足を示唆しています。信用金庫を定年退職した人をメガバンクが嘱託として雇うといった工夫はしていますが、銀行にノウハウが定着するまでにはしばらく時間がかかるのではないでしょうか。
シンジケート・ローンについては、このところ急成長を遂げており、各銀行がポートフォリオの調整に利用するという目的には今後も資していくでしょう。しかし、たとえば幹事銀行が公的資金を返済し終えて短期的な収益よりも中長期的な銀行の発展に目を向ける余裕が出来た時点で、目先の手数料収入よりも貸出残高の積上げに努力目標をシフトすることが考えられます。そうなると、案件によってはシンジケート・ローンを組成せずに自行で全額を貸し出すようになるかもしれません。
長期間にわたるシンジケート・ローンの場合、手数料は初年度に受け取れる一方で、長期間にわたって融資残高すなわち利鞘収入が減ります。背に腹が代えられずに今期の収益を稼がなくてはならない中で、やむを得ずシンジケート・ローンを組成していたような案件は、幹事行に余裕が出来てくると組成されなくなる可能性があるというわけです。私募債なども同様に、幹事行のインセンティブが低下していく可能性には留意が必要です。
シンジケート・ローン全体としては、借り手のニーズや参加行のニーズを着実に捉えた取引が増加していくものと思われますが、初期の増加が幹事行の手数料狙いで嵩上げされていた分が剥げることを考えると、今後更なる増加トレンドが見られるようになるまでには、しばらく時間を要するかも知れません。

リスクに応じた利鞘up
  最後に、銀行にとっての最大の課題について御話しましょう。それは、リスクに応じた利鞘をとることです。貸出金利は、預金などの金利に人件費などを加えて決めますが、その際には予想される貸倒れの確率、あるいは期待値とも言いますが、を考慮して金利を上乗せする必要があります。しかし、現在の貸出金利を見ると、この分がきちんと上乗せされているとは言い難い状況です。そこで、貸倒れリスクに応じた利鞘をとろうということが銀行の大きな目標として掲げられているわけです。これには二つの意味があります。
第一は、日本の銀行の利鞘は焦げ付きのリスクを考えると低すぎるので、貸出の平均利鞘を引き上げる必要があるということです。最近までの日本の銀行は、貸倒れが非常に少なかったために、貸倒れのリスクを考えて金利を上乗せする必要がほとんど無かったようです。戦後の日本経済は、おおむね順調な成長を遂げて来たため、銀行の融資が焦げ付くことが少なかったですし、時として不況が来て銀行の融資が焦げ付いても、しばらく返済を猶予していれば景気が回復して返済が再開される場合も多かったからです。
しかし、低成長時代を迎え、貸倒れのリスクは大幅に高まりました。90年代の高い貸倒れ率は、バブルの崩壊という特殊要因によるところも大きいのですが、これを除いても低成長時代への移行に伴って貸倒れ率は高まっていたと考えるべきでしょう。したがって、この部分については貸出平均金利を引き上げる必要があるわけです。現在は景気がよいので貸倒れの発生率はそれほど高くありませんが、次に不況が来たときに多くの貸倒れが発生するであろうことを考えると、今のうちに利鞘を厚くして貸倒れに備えておかなくてはならないわけです。
しかし、銀行の努力にもかかわらず、利鞘の改善はほとんど進んでいないようです。統計を見ると、貸出の平均金利は低下を続けていて、銀行の利鞘が逆に悪化していることを示唆しています。その理由は、銀行間の競争が激しすぎることにあります。
日本には銀行が多すぎるから過当競争が生じるのだという人もいましたが、21行あった大手銀行が3つのグループに集約された今も、競争の激しさはほとんど変わっていませんから、原因は別のところにあるのでしょう。日本の銀行は、高度成長期の頃に規制金利体系の中で量さえ増やせば利益はついてくるという発想で量の拡大を追い求めてきましたから、その発想が今でも何となく残っていて、ついつい量を追い求めてしまうということもあるでしょう。政府系の金融機関が低い金利で貸出を行っているので民間銀行も競争上金利を上げられないという面もあるでしょう。しかし、それだけでは説明がつかないでしょう。
最大の要因は、資金需要が伸びない一方で銀行が貸出を増やさざるを得ないという状況下で、各行が利下げ競争を行っているということだと思います。銀行は、不良債権の処理で大きな損失を出しましたから、これを補うために収益を稼ぐ必要に迫られました。特に、公的資金を受け入れた銀行は収益を稼ぐことが義務付けられたわけです。そのため、手数料ビジネスにも注力しましたが、貸出も出来る限り伸ばす必要が生じました。特に、公的資金を受け入れた銀行は中小企業向け貸出を増やすことが義務付けられたわけです。
需要が伸びないのに供給圧力が強まれば、当然に価格(利鞘)は低下していきます。昨今の景気回復で貸倒れ率が低下していることも、銀行のリスク判断を甘くしている一因かもしれません。
少し難しい言葉ですが、合成の誤謬という言葉があります。火事の時に、一人が非常口に走れば助かる可能性が増しますが、全員が非常口に殺到すれば誰も助からないといったことです。銀行も、一行だけが貸出を増やそうとすれば収益が増加するが、全部の銀行が貸出を増やそうとすれば、利鞘が薄くなるだけで残高が増えず、全部の銀行の収益が減ってしまうということが起きているわけです。
リスクに応じた利鞘という意味の第二は、取引先ごとに利鞘が異なるはずであるということです。さきほども御話しましたが、これまでの銀行は、返済に問題ない先だけに貸すことを建前としてきました。このことは、貸出先はいずれも優良先だということで最優遇貸出金利、いわゆるプライムレートまたはそれに近い金利で貸し出して来ました。しかし、実際には取引先によって返済の確実性は異なっているわけですから、貸出に際してのリスクの高い先からは高い金利をとるということが必要なわけです。そこで、実際に借り手のリスクに応じた金利を要求しようという動きが銀行から出てきたというわけです。
リスクに応じたメリハリのある利鞘という面では、地域金融機関がそこそこの成果をおさめている一方で、メガバンクについては苦戦しているというのが現状です。メガバンクでも、取引先ごとの利鞘の差は若干拡大しているようですが、優良先に対する利鞘が下がったことによる部分もありますから、喜べるものではないようです。地域金融機関は地元に密着した営業によってメガバンクの融資対象となっていない顧客層をしっかりと捉えているわけで、相対的に競争が激しくない一方で、メガバンクはお互いに似たような顧客層を巡って熾烈な貸出競争を繰り広げているということのようです。
メガバンクにとっては、地域金融機関の存在も大きな障害となっています。地域金融機関は地域に密着していて、顧客との強固な関係を確立していますから、メガバンクが地域金融機関の取引先と新規に取引を行なおうと思っても、なかなか成功しません。とくにメガバンクがターゲットとする地方の有力企業は、地域金融機関にとってみれば最重要な取引先ですから、最優遇貸出金利で取引をしているため、新参者のメガバンクがプライムレートよりも高い金利をとれるはずがないわけです。
もっとも、今後景気が本格的に回復して企業の資金需要が出てくれば、過当競争をしなくても銀行の貸出残高がそこそこ増えるようになり、全体としてある程度の利鞘がとれるようになるのかもしれません。また、取引先ごとのリスクに応じた利鞘があまり取れていないメガバンクも、ある程度は取れるようになるのかも知れません。銀行の利鞘が上がるということは、借り手からみると困った話に聞こえるかもしれませんが、そうなるほど景気がよくなるのであれば、多少の金利高は気にならないかもしれません。しばらく時間はかかるかもしれませんが、景気の回復がしばらく続き、そうした状態になることを期待して今日の御話を終えたいと思います。
   
以上です。なお、上記はすべて筆者の私見であり、筆者の現在および過去に属する如何なる組織の見解をも代弁するものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
 
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