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景気の見方読み方
Sep.05

2005.9.7

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原油高と世界経済
はじめに> <原油高下の低インフレ> <人民元安の「恩恵」
今後の原油価格と世界経済> <原油高騰と日本経済
はじめに
  原油価格が高騰を続けていますが、世界経済は大丈夫なのでしょうか。今回は、高騰を続ける原油価格が経済に与える影響などについて考えてみました。
原油高下の低インフレup
 

原油価格の高騰が止まりません。2年前までは1バーレルあたり30ドル前後で推移していたものが、昨今では1バーレルあたり70ドル前後で取引されている状況です。70年代の第一次石油ショックは世界経済を大混乱に陥れましたが、当時の価格は12ドル程度でしたから、その後の物価上昇率を考えても現在の価格の方がはるかに高いものとなっています。物価上昇率の測り方にもよりますが、昨今の油価は第二次石油ショック時をも上回って史上最高水準であると言えるかもしれません。そのわりには、世界経済はたいした混乱も見せておらず、むしろ順調に推移しているように見えます。どうしてなのでしょうか、そして今後はどうなるのでしょうか。
当時との違いについて、まず思いつくのは先進国経済における原油の重要性が低下したということです。先進国では、経済構造が変化したことや省エネ努力が実ったことなどもあり、経済規模と原油消費量の関係で見ると、同じ経済規模ならば当時の半分程度しか原油を使っていないという計算になるようです。
また、当時はまさにショックだったということもあるでしょう。当時は「原油は安価でいくらでも入手できるもの」と思われていたために、経済の構造がそれを前提にして成り立っていました。そうした時に突然「価格が高騰し、しかも欲しい量が手にはいるか否かもわからない」ということになったわけですから、経済が大混乱になったというわけです。それと比べると、今次局面は、量が制限されたわけでもなく、価格の上昇も市場の需給を映じた自然な値上がりであったことから、ショックという感じではありません。
しかし、当時と今次の影響の違いはあまりにも大きく、到底これだけで説明できるようなものではないでしょう。では、何が影響の違いをもたらしているのでしょうか。
原油価格高騰が景気にマイナスに働く主な経路としては、「増税」と「インフレ」の二つがあります。まず、油価の高騰は、アラブの王様が税金を余分に取っていくようなものですから、国内の誰かがその分を負担する必要があります。企業が売値に転嫁できれば消費者が負担して個人消費が悪影響を受けますし、転嫁できなければ企業が負担して収益が悪化するというわけです。こうした経路については、「交易条件の悪化による景気の悪化」と呼ぶ人もいます。輸入価格が上がって輸出価格との比率が悪化するという点に着目した用語だそうです。もっとも、こうした「増税」効果は、石油ショック当時も今回も、若干大きさが異なる程度で大した差はないでしょう。
今一つの経路は、原油価格高騰がインフレをもたらし、当局がインフレ退治のために景気をわざと悪化させるというものです。じつは、この経路こそが、石油ショック当時と今次の違いをもたらしている最大の要因なのです。石油ショック当時はこの経路がフルに効いたのに対し、今次局面ではこうした経路がほとんど効いていないというわけです。
たとえば石油ショック時の日本では「狂乱物価」と言われるインフレとなりました。通常はインフレを抑制するために金融引締め(金利を上げて需要を抑制すること)が用いられますが、当時はそれでは足りずに「総需要抑制策」などという言葉も使われていたことを御記憶の方も多いと思います。日本のみならず、70年代の2度の石油ショックは世界的なインフレをもたらし、世界的な金融引締めを通じて世界の景気を後退させました。
一方、今次局面においては、米国も日本も景気が回復、拡大を続けており、しかも原油価格がこれだけ上昇しているのに、消費者物価は非常に安定しており、金融引締めも行なわれていないのです。米国の政策金利は緩やかな上昇を続けていますが、これは「緩和された状態を通常の状態に戻しつつある過程」ですから、引締めとは言えないでしょう。では、どうして今次局面ではインフレが生じていないのでしょうか。
IT技術の進歩などによって生産性が向上しており、それがインフレ抑制に一役買っていることはたしかですが、石油ショックの頃にも技術は急速に進歩していましたから、技術進歩で当時と最近の違いを説明するわけに行かないでしょう。

人民元安の「恩恵」
 

インフレが生じていない最大の理由は、中国などの生産力が急激に拡大し、世界中に安価な消費財を供給していることにあります。中国は安い労働力を無限に抱えていて、それを利用しようと海外からの直接投資が大量に流入していますから、生産力が急速に伸びています。こうして生産された安価な製品が世界中に供給され、世界的にインフレを抑制する役割を果たしているわけです。
数年前には中国が日本のデフレの要因だと言われ、昨今は人民元が安すぎることが問題だと言われていますが、じつは中国からの安い商品が世界経済のインフレなき成長を支えているというわけです。中国の急速な発展が世界の原油の需要を増やし、それが原油価格の高騰をもたらしているという面はありますが、中国の輸出はその悪影響を打ち消して余りある貢献を世界経済に対して行なっているということなのかもしれません。
ここで、世界経済を見渡してみましょう。米国は概ね順調な成長を続けています。成長率は「潜在成長率」といわれる「ちょうどよいスピード」となっていて、「不況で失業が増える」わけでもなく「経済が過熱してインフレになる」わけでもありません。グリーンスパン連銀議長による絶妙な金融政策が光っていると言えるでしょう。
米国経済について気になるのは経常収支赤字の大きさで、これが将来のドル暴落をもたらすのではないかと心配されています。しかし、昨今の為替相場はドルが高くなる方向にあり、米国の赤字がドル不安を高めているといったこともなさそうです。米国の赤字は他国の黒字であることを考えると、現状を見る限りでは、むしろ米国の経常収支赤字が世界経済に貢献していると言えるでしょう。米国が大量に物を輸入してくれるおかげで他国は輸出が伸びています。これにより各国の景気が下支えされていますし、対外債務を抱えた国々も米国からの輸入代金によって返済が進んでいて、深刻な問題を抱えている国は減りつつあるというわけです。
こうしてみると、意外なことに、現在の世界経済は「問題だ」と言われている「米国の経常収支赤字」と「安すぎる人民元」のおかげで順調な拡大を続けていると言えるでしょう。米国の消費者が過剰消費を続けているおかげで世界的に景気が下支えされ、中国が安い製品を大量に輸出することで原油高などによるインフレが防がれているというわけです。

今後の原油価格と世界経済up
 

では、今後の世界経済はどうなっていくのでしょうか。今後の景気を考える上で重要な論点は数多くありますが、一番基本となるのは「景気の拡大は止めるまで続く」ということです。景気が拡大をはじめると、企業の生産が増える→企業が雇用を増やす→雇用者所得が増える→家計消費が増える→企業の生産が増える、といった好循環がはじまるため、景気拡大を止めるような強い力が外部から働かない限り、景気は拡大を続け、自分で勝手に方向を変えることはないからです。したがって、以下では景気を腰折れさせるような強い力が働くかどうかを考えて、そうした可能性が低ければ景気は拡大が続くと考えることにしましょう。
そのためには、まず原油価格を予測しないといけないわけですが、原油価格には上がる材料も下がる材料も山ほどあって、専門家ではない筆者にとって予測することは不可能だと言わざるを得ません。たとえば「投機で上がっているだけだから遠からず下がるだろう」という専門家もいれば、「産油国の供給余力がない中で中国などの経済が発展を続ければ原油価格には上昇圧力がかかり続ける」という専門家もいますので、ここでは「原油価格は両方の力が等しく働いて、当分の間はハリケーン前の水準である60ドル程度が続く」ということにしておきましょう。
そうだとすると、世界経済についても今までと大きく異なる姿を考える必要はないように思います。原油価格は30ドル近辺で推移していたものが、1年ほど前から50ドル近辺で推移するようになっていたことを考えると、20ドルの上昇が30ドルの上昇に変わったことになりますが、その差が決定的な影響を与えるということは考えにくいからです。20ドルの「増税」が経済を失速させたわけでもなく、20ドルの値上がりがインフレをもたらしたわけでもありませんから、追加で10ドル値上がったら劇的な問題が生じると考える必要はないでしょう。
米国がインフレにならなければ、米国経済が引締めによって失速することもなく、今までどおりの順調な拡大を続けるでしょう。米国経済が概ね順調に推移すれば、海外から米国への資金流入も高水準を続けることになり、経常収支赤字のファイナンスも問題なく行なわれるでしょう。経常収支赤字は「構造問題」として先送りされるでしょうが、構造問題というのは慢性病のようなものですから、これが数年以内に差し迫った問題を生じさせる可能性は高くないと考えるべきでしょう。
米国の住宅バブルを心配する声もありますが、日本のバブル時とは過熱感もまったく異なりますし、それほど心配することはないように思います。インフレ懸念が高まらずに海外からの資金流入が続けば長期金利が大きく上昇することもなく、住宅投資が腰折れすることもないでしょう。もっとも、現在の絶好調が続くと考えるのも不自然ですから、ある程度減速しながらも高水準を続けるといったところではないでしょうか。
中国経済についてはどうでしょうか。経済が急に成長して投資機会が無限にある、国民が急に豊かになって消費需要が爆発している、といった姿は日本の高度成長期とそっくりです。更に言えば、日本の高度成長期には外貨不足や人手不足といった問題がありましたが、中国は巨額の外貨準備を持ち、人手も農村部から無尽蔵に調達できています。(最近中国で人手不足だという記事をみかけますが、「今までのような超低賃金ではさすがに人手が集まりにくくなってきたので、少しは賃上げをする必要がある」ということであって、本当に労働者が足りないということではありません)。外国からの直接投資が流入して技術と資金を持ち込み、場合によっては本国という製品の売り先まで面倒を見るという点も、外資に頼らず成長した日本よりも有利な点だと言えるでしょう。こうしたことを考えると、中国経済は今後も比較的高い成長が続くと考えてよいでしょう。
貧富の差が激しい、公害が深刻だ、鉄が余っている、電力が足りない、といった問題点を指摘する人は多いのですが、あれだけ大きくて多様性のある国があれだけのスピードで発展すれば、様々なひずみが生じるのは当然です。高度成長期の日本でも公害問題やインフレや過密過疎などの多くの問題を乗り越えて成長を続けたことを思い出せば、中国についても過度に悲観する必要はないでしょう。
「中国経済は過熱しているので引締め政策が採られ、経済が失速する」という懸念も一部にあるようですが、インフレ率は落ち着いているので、引締め政策は弱いものにとどまり、景気を腰折れさせるようなことにはならないでしょう。「急成長する若者は危なっかしいように見えるが、大人が考えるよりはしっかりしているものであるし、仮に怪我をしてもすぐに立ち直る活力があるから大丈夫」といったイメージでしょうか。
人民元が切り上がり、話題を集めていますが、2%といった小幅な切り上げでは、実体経済に与える影響はほとんどないでしょう。円相場が2%円高になったからといって「円高が日本経済に与える影響」を論じる人がいないことを考えれば、世の中が「人民元切り上げの影響」を議論していること自体が不思議なくらいです。

  原油高騰と日本経済up
 

日本経済は、第一次石油ショックの影響が大きかったことなどから、かつては「石油に弱い経済」だと言われていました。しかし、今次局面においては世界でも最も原油価格高騰の影響が小さい経済の一つとなっています。
日本経済は、高度成長期の重厚長大型産業中心から軽薄短小型産業中心の経済に移行したことなどにより、経済規模に比べた石油消費量が大きく減少しました。加えて、長期的に円高が進んだことにより、原油輸入代金が経済全体に占める比率は大きく低下しました。
また、日本がデフレ気味の経済であることも、原油価格高騰に対する耐久力という点ではプラスに働いています。景気がそこそこ回復し、原油価格がこれほど高騰しても、ようやく「デフレ脱却の時期」が議論されているだけで、日銀の量的緩和政策は当分続くでしょう。現在の景気と原油価格を考えると、デフレ気味の経済でなければ、とっくに利上げが行なわれていても不思議はないでしょうから、やや極端ですが、「デフレの恩恵」と言ってもよいのかもしれません。
日本経済にとって今一つの追い風は、日本企業が省エネルギーに努めてきたことの成果として、日本製品は省エネに役立つということです。典型的な例が自動車で、燃費のよい日本車は、ガソリン価格が上昇すると競争力を増すというわけです。
こうしたことから、日本経済は原油価格高騰にもかかわらず、底堅く景気の拡大を続けています。加えて、底流には日本経済がバブル崩壊後の後遺症から脱却しつつあるという大きなプラス要因があることも忘れてはなりません。不良債権問題が一段落したこと、企業の抱える設備や人員や負債の過剰がおおむね解消したこと、「日本的経営はダメだ」といった極端な悲観論が影を潜めたこと、都心の地価が上昇しはじめたこと、などなどを考えると、「もはやバブル後ではない」と言ってもよいでしょう。
長期的には少子・高齢化の影響が避けられませんし、財政赤字などの問題も深刻ですが、今後数年間といったタイムスパンでみれば、こうした問題が経済に与える悪影響はそれほど深刻ではないように思います。したがって、当面の日本経済に関しては、世の中で言われているよりは明るいイメージを持ってもよいのではないでしょうか。
もっとも、あまりに明るい見通しを持つ事は危険でしょう。たとえば、今後数年間の日本経済を考える際の具体的な懸念材料としては、政府が増税を焦る可能性、大幅な円高となる可能性、米国や中国の経済が落ち込む可能性、などが挙げられます。
また、日本経済が本質的な問題を抱えていることにも留意が必要です。世の中ではあまり注目されていませんが、日本人が勤勉で倹約家であるという「望ましいこと」が、じつは日本経済全体を考える上では極めて大きな問題となっているわけです。経済の神様は皮肉屋ですから、個々人が望ましいことをすると経済全体として悪い結果が生じるという場合があります(学者はこうした事態を「合成の誤謬」と呼びます)。昨今の日本経済で言えば、「全員がよく働いて多くのモノを作り、全員が倹約してモノを使わないと、国全体としてモノが売れ残って景気が悪くなる」というわけです。
したがって、日本経済は、どうしても海外にモノを輸出し続けなければいけないという状態が当分の間(少なくとも団塊の世代が完全に引退するころまで)続くでしょう。その間は、海外の景気が悪化すると日本の景気も悪化するという傾向が続くでしょうから、海外の経済が順調な拡大を続けてくれることが重要であるということは、是非心に留めておきたいと思います。

   
  以上です。なお、本稿は、七十七銀行市場国際部の顧客向け冊子に寄稿したものを、一部分修正したものです。筆者個人の見解を御紹介するものであって、読者に投資などを勧誘するものではありません。念のため。
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