| 原油価格の高騰が止まりません。2年前までは1バーレルあたり30ドル前後で推移していたものが、昨今では1バーレルあたり70ドル前後で取引されている状況です。70年代の第一次石油ショックは世界経済を大混乱に陥れましたが、当時の価格は12ドル程度でしたから、その後の物価上昇率を考えても現在の価格の方がはるかに高いものとなっています。物価上昇率の測り方にもよりますが、昨今の油価は第二次石油ショック時をも上回って史上最高水準であると言えるかもしれません。そのわりには、世界経済はたいした混乱も見せておらず、むしろ順調に推移しているように見えます。どうしてなのでしょうか、そして今後はどうなるのでしょうか。
当時との違いについて、まず思いつくのは先進国経済における原油の重要性が低下したということです。先進国では、経済構造が変化したことや省エネ努力が実ったことなどもあり、経済規模と原油消費量の関係で見ると、同じ経済規模ならば当時の半分程度しか原油を使っていないという計算になるようです。
また、当時はまさにショックだったということもあるでしょう。当時は「原油は安価でいくらでも入手できるもの」と思われていたために、経済の構造がそれを前提にして成り立っていました。そうした時に突然「価格が高騰し、しかも欲しい量が手にはいるか否かもわからない」ということになったわけですから、経済が大混乱になったというわけです。それと比べると、今次局面は、量が制限されたわけでもなく、価格の上昇も市場の需給を映じた自然な値上がりであったことから、ショックという感じではありません。
しかし、当時と今次の影響の違いはあまりにも大きく、到底これだけで説明できるようなものではないでしょう。では、何が影響の違いをもたらしているのでしょうか。
原油価格高騰が景気にマイナスに働く主な経路としては、「増税」と「インフレ」の二つがあります。まず、油価の高騰は、アラブの王様が税金を余分に取っていくようなものですから、国内の誰かがその分を負担する必要があります。企業が売値に転嫁できれば消費者が負担して個人消費が悪影響を受けますし、転嫁できなければ企業が負担して収益が悪化するというわけです。こうした経路については、「交易条件の悪化による景気の悪化」と呼ぶ人もいます。輸入価格が上がって輸出価格との比率が悪化するという点に着目した用語だそうです。もっとも、こうした「増税」効果は、石油ショック当時も今回も、若干大きさが異なる程度で大した差はないでしょう。
今一つの経路は、原油価格高騰がインフレをもたらし、当局がインフレ退治のために景気をわざと悪化させるというものです。じつは、この経路こそが、石油ショック当時と今次の違いをもたらしている最大の要因なのです。石油ショック当時はこの経路がフルに効いたのに対し、今次局面ではこうした経路がほとんど効いていないというわけです。
たとえば石油ショック時の日本では「狂乱物価」と言われるインフレとなりました。通常はインフレを抑制するために金融引締め(金利を上げて需要を抑制すること)が用いられますが、当時はそれでは足りずに「総需要抑制策」などという言葉も使われていたことを御記憶の方も多いと思います。日本のみならず、70年代の2度の石油ショックは世界的なインフレをもたらし、世界的な金融引締めを通じて世界の景気を後退させました。
一方、今次局面においては、米国も日本も景気が回復、拡大を続けており、しかも原油価格がこれだけ上昇しているのに、消費者物価は非常に安定しており、金融引締めも行なわれていないのです。米国の政策金利は緩やかな上昇を続けていますが、これは「緩和された状態を通常の状態に戻しつつある過程」ですから、引締めとは言えないでしょう。では、どうして今次局面ではインフレが生じていないのでしょうか。
IT技術の進歩などによって生産性が向上しており、それがインフレ抑制に一役買っていることはたしかですが、石油ショックの頃にも技術は急速に進歩していましたから、技術進歩で当時と最近の違いを説明するわけに行かないでしょう。 |