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景気の見方読み方
Aug.05

2005.8.1

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人民元改革:名を取った米国と実を取った中国
はじめに> <改革の実施> <2.%の切上げ
バスケット制導入> <中国にはメリット> <おまけ:竹中プランについて
はじめに
  人民元の改革が行なわれ、大きな関心を呼んでいます。しかし、実体経済を見ている者からすると、これは名ばかりの改革で、影響はほとんど何も無いように思われます。米国が強く要求したから米国の顔を立てたというだけで、結局実をとったのは中国だったということのようです。今回は人民元改革について考えてみましょう。
改革の実施up
 

人民元の制度改革が行なわれた。かねてより米国などから人民元の制度改革が求められており、これが米中通商摩擦を深刻化させかねない状況にあったため、中国としても決断せざるを得なかったのであろう。

もっとも、今次改革の本質は、中国が人民元の「名ばかりの」切上げにより米国政府の顔をたて、人民元のバスケット制への移行という「実」をとったということであろう。今次改革は、「人民元の2%切上げ」と「バスケット制への移行」という二つの部分から成っているが、前者は切上げ幅が小さすぎて実体経済には何の影響ももたらさないし、バスケット制では円安の場合に人民元の対ドルレートも安くなるため、米国が期待するような人民元高が実現するとは限らないからである

2%の切上げ
 

人民元が2%切上がったことが大きなニュースとなり、その影響が様々に論じられているが、実体経済に関する限り、たかが2%の切上げで目に見える影響が出るとは思われない。マスコミやマーケットエコノミストは「2%だから大きな影響は無い」とは書きづらい立場にあるので、ある程度大きく採り上げているが、実体経済を冷静に見るファンダメンタルエコノミストの立場からすれば、騒ぐほどの事ではないと言えるだろう。

「海の水を一口飲んだら海の水は減るか」という問いに対して「減らない」と答えると誤りだと非難されるが、「減る」と騒ぐ方がよほどミスリーディングである。2%の切上げが実体経済に及ぼす影響についての議論は、これに近いものがあると言えるだろう。円相場が2%以上変動することは日常茶飯事であるが、そのことが日本経済やアジア経済に与える影響について議論されたという話は聞かないのであって、中国の人民元に関してだけ議論されるのは不思議なことである。

もっとも、市場的には大きな影響があり得るだろう。直ちに影響を受けたのは円相場である。理屈からすれば人民元が切り上がったからといって円高になる必要はないのであるが、市場は美人投票の世界であるから、皆が「人民元高は円高材料」と思っていれば実際にそうなるということなのであろう。2%の人民元高に対して円が2%以上高くなったのも、美人投票の世界の「不思議な」出来事だということのようだ。

市場的に一層重要なのは、人民元が更に切上がるという思惑が人民元買いの投機を過熱させるリスクである。「中華思想の国が米国に言われたくらいで人民元を切り上げるはずがない」と思って人民元買いを控えていた投機家が、一斉に人民元買いに参加するかも知れないからである。「固定相場制を続けると人民元切上げを期待した投機資金が流入して(介入を余儀なくされる結果マネーサプライが増えて)中国国内のバブルが拡大してしまうから、これを防ぐために切上げを行なったのだ」といった解説も見られるが、この面では逆効果となる可能性が大きいであろう。(銀行貸出の抑制などで結果としてバブルを防ぐことは可能だと思われるが、リスクが増すことには違いない)。

こうしてみると、中国としては、投機過熱のリスクは覚悟した上で、米国に名を取らせるために2%という文字通り「名ばかりの」切上げを行なったということであろう。世の中では、これを「更なる人民元切上げの第一歩である」と捉える向きが多いようであるが、そうなる保証はどこにもない。それは、人民元がバスケット制を導入したからである

バスケット制導入up
 

バスケット制とは、たとえば「円、ドル、ユーロをウエイト付けして通貨バスケットを作り、それに自国通貨の価値を連動させる」というものであるが、要するに「円が対ドルで10%高くなれば、自国通貨を対ドルで3%高くする」といったものだと考えればよい。

ここで注意を要するのは、人民元の対ドルレートを決めるのが、人民元の需給ではなく、円などの需給であるということである。したがって、「中国がどれほど貿易黒字を稼いでも、日本人が米国金利高に惹かれてドル資産を持つようになれば、円安を映じて人民元も安くなる」のであって、「人民元が割安だと中国の経常収支黒字が膨らみ、人民元の需給関係を映じて人民元が切上がる」という「市場メカニズム」は働かないのである。中国人民銀行は、厳密なバスケット制ではなく参考にするだけだと述べているので、極端なことにはならないと思われるが、少なくとも単純に中国の経常収支が黒字だから人民元が高くなるという期待は持てそうもない。仮に今後、米国経済が順調に拡大を続けて日米金利差が拡大し、円安ドル高が進んだとしよう。人民元も対ドルで安くなることが考えられるが、その場合米国はどのような顔をするのであろうか?自ら唱えた「人民元の柔軟性」が裏目にでたことになるが、黙って見過ごすのか別の要求を持ち出すのか、見ものである。

  中国にはメリットup
 

このように、バスケット制は、米国にはさしたるメリットをもたらしそうにないが、一方で、中国にはメリットをもたらすであろう。「米国の要請に沿って柔軟な為替制度を導入したのだから結果として人民元が高くならなくても米国にとやかく言われない」ということも重要であるが、「中国自身の為替リスクが減少する」という点はそれ以上に重要である。人民元の対ドルレートが固定していると、円安の際に中国製品が日本製品に対する競争力を失うリスクがある。一方で、バスケット制にしておけば、円安の際には人民元が対ドルで小幅安となるため、日本製品に対して競争力を失った分を米国製品に対する競争力強化で補えるため、対世界の競争力という点ではリスクが減少することになるのである。

日本にとっては、円と人民元との関係が若干安定することで、わずかながらメリットがあるかもしれない。今までは、対ドルで10%円高になると、人民元に対しても10%競争力が低下していたが、これからはたとえば7%で済むからである。もっとも、これも海の水を一口飲むような話であり、過大な期待は禁物であろう。

なお、少し長い目で見ると、今次改革がアジアの覇権争いで中国に有利に働く可能性があることには留意しておく必要があろう。中国がバスケット制を採用したことで、既にマレーシアは追随しているが、他のアジア諸国の中にも追随する動きが出てくる可能性がある。仮に多くのアジア諸国が追随するとなると、「日本を除くアジア諸国は、皆が同じバスケットにペッグしているので、お互いの貿易を為替リスクなしに行なえる」ことになるかもしれない。そうなると、「日本と貿易するよりも韓国や中国と貿易する方が便利だ」と考える国が増え、アジア諸国の間で経済関係が緊密化していく際に日本だけ取り残される可能性が高まるであろう。これは遠い将来のことではないかもしれない。ひとたびアジア諸国間の為替リスクがなくなれば、数年単位の比較的短期間で日本を除くアジア諸国の貿易・投資関係が緊密化していくことは充分あり得ることだからである。圧倒的な技術力格差がある分野はともかく、多くの分野で中国がアジア経済の「かなめ」となる日が遠からず来るかもしれないのである。

学会ではアジア諸国がバスケット制に移行することを共通通貨への第一歩として歓迎する向きもあるようだが、日本の国益という観点からすると、喜ばしいこととは言い切れないのではなかろうか。

  おまけ:竹中プランについてup
 

週刊エコノミストに竹中プランについて寄稿しましたので、結論とも言える最終部分を御紹介します。

竹中プランについては、メガバンクの国有化を目指した強硬路線というイメージが強いが、こうしてみると、銀行には厳しい一方で、借り手には優しいプランであったことがわかる。大手銀行は不人気であるから、これに厳しくあたることは世論も政治家も容認するが、一方で借り手に厳しくあたることには抵抗勢力が激しく反発したということなのであろう。結局、抵抗勢力に阻まれて、初期骨太方針の基本理念の一つであった市場原理主義を修正させられたということになる。
しかし、構造改革全体が抵抗勢力に阻まれて頓挫したのかといえば、決してそうではない。構造改革が曲がりなりにも進んでいるということは疑う余地のないことであろう。ちなみに、最近では構造問題という言葉をほとんど聞かなくなった。景気の回復に助けられている面はあるものの、構造改革が進んでいることの証左でもあるのだろう。
こうした状況は、改革派と抵抗勢力が必死に綱引きをして到達した均衡点が、偶然にも日本経済にとって最も好ましい点であったということを意味している。改革が進みすぎて景気が腰折れしたわけでもなく、抵抗勢力に阻まれて改革が挫折したわけでもなく、景気を腰折れさせない適度なスピードで構造改革が進んでいるという、まことに望ましい姿が実現しているわけである。
これは、日本にとって大変幸運なことであったが、さらに強運であったのは竹中大臣だと言えるだろう。徹底改革を掲げて世論の支持を集めたのみならず、改革を軟化させられたことさえも、結果として景気の回復をもたらし、竹中大臣の評判を高めることになったからである。怪我の功名というのであろうか、運も実力のうちというのであろうか、結果オーライというのであろうか、いずれにしても名声を手にされたことは、御同慶の至りである。

  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。
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