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景気の見方読み方
July.05

2005.7.1

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株安、円安のバブルは成立し得るか
要旨> <はじめに> <1.株安バブルの合理性について
2.円安バブルの合理性について> <小括> <補足1・2
要旨
  (1)株価の下方へのバブルは合理的バブルとして成立しえない。

バブルの永続可能性を合理的バブルの必要条件とすると、株価の下方バブル(株価がファンダメンタル価格から下方に乖離していくバブル)は合理的バブルとして成立しえない。これは投資家がリスク中立的であってもリスク回避的であっても同様である。

実際の株価をP、株式のファンダメンタル価格をF、バブルをBとすると、下方バブルの場合にはP=F−Bとなるが、バブルが持続する場合について市場が予測するBの成長率はFの成長率を凌駕するため、バブルが永続した場合について市場の予測する将来のPがマイナスになってしまうからである。

  (2)円の対ドル価値の下方へのバブルは合理的バブルとして成立し得る。

ドルのファンダメンタル価格をF円、バブルをB円とすると、1ドル=F+B円となる。日本人(円保有者)の為替投機によりドル高のバブルが発生したと仮定する。このとき、米国人(ドル保有者)にとっては円安のバブルが生じていることになる。ファンダメンタル価格は1/F(ドル/円)、実際の価格は1/(F+B)(ドル/円)であり、その差がバブルの規模である。

米国人投資家(ドル保有者)が少しでもリスクを許容できるならば、バブルが一定規模に達した段階でバブルを「空売り」することが合理的である。彼等にとっては、バブルの成長率が逓減していくことで「空売り」に際してのリスクが減少していくからである。したがって、ドル高(=円安)のバブルは永続しえず、合理的なバブルとは言い得ない。

しかし、米国人投資家が完全なリスク回避主体であれば、バブルの「空売り」は行なわない。バブルが拡大を続ける可能性がある以上、バブルの「空売り」にはリスクが伴うからである。したがって、この場合には、日本人投資家によるドル買いバブルが永続する可能性があり、「ドル高円安」の合理的バブルが成立し得ることとなる。

はじめに
  株価がファンダメンタルから説明できないほどに上昇していくバブルは、一定の条件が整えば「合理的なバブル」と呼べるかもしれない。一方、株価がファンダメンタルから説明できないほどに下落していくバブルは、いつか株価がマイナスになるという不合理が予測されるため、「合理的なバブル」とは呼び難いかもしれない。では、ドル高のバブルはどうであろうか。ドルの対円での価値が上昇していくバブルであると考えると一定の条件が整えば合理的であり得るようにも思えるが、ドル高が同時に円安であることを考えると円の価値が対ドルで下落していくバブルであるから合理的とは呼び難いようにも思われる。このように、通貨のバブルに関する合理性の有無については、矛盾した解釈が一見並立し得る。これを如何に整合的に理解すべきかを検討したのが本稿である。

バブルに関する先行研究は数多く存在しているが、ドル高が同時に円安であることに着目して通貨価値に関するバブルが合理的たり得るかを論じるものは簡見の限り存在しない。この点において、本稿は新たな分析視角を提示した研究と言えよう。
なお、バブルは非一意的な撹乱項であるとする先行研究が多いが、本稿では市場の予測するバブルの拡大経路に着目し、次期以降のバブルの拡大経路に関して市場が一意的な予測を有しているものとしている。すなわち、次期にもバブルが持続する確率について市場が一意的な予測を有しており、その場合に関して市場が予測するバブルの拡大経路は、バブルに投資した場合のリターンの割引現在価値が現在のバブルの価格に一致する水準に一意的に定まるとしている。

本稿の構成は以下の通りである。「1.株安バブルの合理性について」では株価における下方バブルが合理的バブルとして成立し得るか否かを、割引現在価値による株価の理論モデルをベースとして、株価をファンダメンタル項とバブル項とに分けて理論的側面から検討を行う。「2.円安バブルの合理性について」では円の対ドル価値の下方バブルが合理的バブルとして成立し得るか否かを、株価の下方バブル分析と同じ手法を用いて理論的側面から検討を行う。なお、ここではファンダメンタル項とバブル項それぞれの取引は円建て取引でしかおこなえないものとしている。最後に「3.小括」で本稿のまとめをおこなう。

本稿においては、すべての投資家は合理的期待形成仮説に従っていると仮定する。また、すべての投資家は同時点において同じ情報を共有しており、将来の資産価格に関して同じ予測を共有しているものとする。
資産価格については、ファンダメンタルを映じた価格をF、実際の資産価格をPとし、差額部分のバブルをBと表示する。したがって、P=F+BまたはF−Bが成り立つ。前者はいわゆる「買われすぎ」の場合、後者はいわゆる「売られすぎ」の場合である。さらに、利子率をr、バブルが各期に消滅する確率をπ(0<π<1)、投資家の要求するリスクプレミアムをβ(β≧0)とする。
全ての投資家はFおよびBの値を知っている。それに加えて、ファンダメンタル部分をF円で、バブル部分をB円でそれぞれ個別に円建てで取引することが可能であるとし、空売りも実行可能とする。すなわち、「投資家はファンダメンタルから妥当と考えられる価格と比較して実際の資産価格が一定の幅だけ乖離していることを知りながら、その乖離幅が来期にはさらに拡大するという確率を考えて、あえてバブルが生じている現在の価格で当該資産を取引している」という状況を想定するものである。
バブルの価格(=B)は、来期にかけて大幅に上昇するかゼロになるかのいずれかであり、上昇する確率、その場合の上昇率ともに、あらかじめ投資家が予測しているものとする。したがって、投資家はBに投資した場合のリスクとリターン(将来のキャッシュフローである売却価格の標準偏差および期待値)を予測し、リスク勘案後の割引率を用いてキャッシュフローの期待値の割引現在価値を求めることが可能であるとする。
こうして求められた割引現在価値は、バブルの現在の取引価格(=B)と等しくなるはずである。割引現在価値がBよりも低ければ、バブルを購入する投資家がいないためにBが下落し、割引現在価値がBよりも高ければバブルを購入する投資家が増えてBが上昇するからである。
こうしたバブルが成立するためには、「バブルが永続する可能性が皆無ではないと市場が認識している」必要がある。バブルの最大持続期間が決まっていると、合理的な投資家はその前にバブルを売却するであろう。これを見越して、他の投資家がさらにその前にバブルを売却することが予想されるという具合にバブルの最大持続期間が短縮されていくため、結局合理的な投資家ははじめからバブルを購入しないということになるからである。
本稿においては、上記の条件を満たすバブルを「合理的バブル」と呼ぶものとする。

1.株安バブルの合理性についてup
  ここでは、配当のない株式について、株価がファンダメンタルを映じた価格から下方に乖離するバブルが永続可能性を持つか否か、すなわち、いわゆる「売られすぎの状態」も合理的なバブルと言い得るのか否か、を検討する。
はじめに、ファンダメンタルの価格は将来にわたってあらかじめ確定しているため、これを購入する投資家はリスクプレミアムを要求しないものとする。したがってFt+1の割引現在価値がFと等しくなるためには

Ft+1/F=1+r

となる必要がある。

つぎに、Bについては、Bt+1の期待値の割引現在価値がBと等しくなるためには

E(Bt+1)/B=(1+r+β)

となることが必要である。ここで、バブルが次期に崩壊する(Bt+1がゼロになる)確率がπであることから、バブルが崩壊しない確率は(1−π)であり、E(Bt+1)=(1−π)Bt+1となる。したがって、バブルが崩壊しなかった場合のBt+1として市場が予測している値は

Bt+1/B=(1+r+β)/(1−π)

を満たしているはずである。この関係は、にかかわらずπが一定であるとすると、いかなるについても成立する。
さて、株価に売られすぎのバブルが生じているとすれば、株価P=F−Bとなっているはずである。第0期のバブルとファンダメンタルの価格をそれぞれBとすると、第n期のP

Pn=F・(1+r)n−B・(1+r+β)n/(1−π)n

となる。ここで、株価はマイナスにならないことを考えると、すべてのnに対して

・(1+r)n≧B・(1+r+β)n/(1−π)n

が成立する必要がある。しかるに、この式を変形すると

(F/B)・((1+r)n/(1+r+β)n)≧1/(1−π)n

となる。ここで、

(1+r)n/(1+r+β)n≦1

lim 1/(1−π)n=∞
n→∞

であることを考えると、少なくともnに近いときには符号が逆転してしまうため、この条件は満たされない。このことは、「株価がファンダメンタルを映じた価格よりも下方に乖離していくバブルが仮に生じ、それが永続すると仮定すると、いつかは株価がマイナスになるという不合理なことを市場が予測せざるを得ない」ということを意味している。したがって、株価の下方へのバブルが、永遠に拡大を続けると予測することは出来ないということになる。このことは、「バブルが成立するためには、バブルが永続する可能性が皆無ではないと市場が認識している必要がある」ということと考え合わせると、株価の下方へのバブルは「合理的バブル」として成立しえないということを意味している。

2.円安バブルの合理性について
  ここでは日本人投資家(円保有者)による米ドル為替投機にともなうドル高バブルについて考察する。1ドルのファンダメンタル価格をFとし、日本と米国の実質金利、インフレ率をいずれもゼロとする 。ファンダメンタルの価格は将来にわたってあらかじめ確定しているため、これを購入する投資家はリスクプレミアムを要求しないものとすると、将来のFの割引現在価値が現在のFと等しくなるためには、ファンダメンタル価格は将来においてものまま不変となる必要がある。
つぎに、Bについては、Bt+1期待値の割引現在価値がBtと等しくなるためには

E(Bt+1)=(1+β)B

でなければならない。ここで、バブルが次期に崩壊する(Bt+1がゼロになる)確率がπであることから、バブルが崩壊しない確率は(1−π)であり、E(Bt+1)=(1−π)Bt+1となる。したがって、バブルが崩壊しなかった場合のBt+1として市場が予測している値は

Bt+1/B=(1+β)/(1−π)

を満たしているはずである。この関係は、にかかわらずπが一定であるとすると、いかなるについても成立する。
さて、円で表示したドルの価格を$とし、「ドルが買われすぎ」のバブルが生じているとすれば、$=F+Bとなっているはずである。したがって、第0期のバブルとファンダメンタルの価格をそれぞれB、Fとすると、以上で示した仮定のもとでの第n期の

n=F+B・(1+β)n/(1−π)n

となる。これは、通常のバブルであって、少なくとも理論上は永続する可能性があるため、「合理的バブル」であるように思われる。

ここで留意を要するのは、ドル高は同時に円安でもあるということである。日本人(円保有者)から見たドルの価格がファンダメンタルを映じた価格から上方に乖離していくということは、米国人(ドル保有者)からみた(ドル建てで表示した)円の価格がファンダメンタルを映じた価格から下方に乖離していく(いわゆる売られすぎ)ということである。円とドルの取引は米国人(ドル保有者)も行っているので、バブルが永続可能であるというためには、米国人投資家の目から見ても少なくとも理論上はバブルが永続可能なものでなくてはならない。そこで、米国人(ドル保有者)の目から見て「売られすぎ」のバブルが永続する可能性があるのか否かを検討することが必要である。
米国人(ドル保有者)から見た(ドル建てで表示した)円の価格については、日本人(円保有者)から見た(円建てで表示した)ドルの価格の逆数になる。したがって、ファンダメンタルを映じたレートは将来にわたって1円=1/Fドルで推移することになる(ファンダメンタル価格は将来にわたってあらかじめ確定しているため、米国人投資家も、ファンダメンタル部分の売買に関しては、リスクプレミアムを要求しない)。
さて、ドル建てで表示した円の価格をと表示すれば、

¥=1/$
 =1/(F+B)

となる。FBの個別取引は円建て取引でのみ可能であるため、バブル部分(B\と表示する)はファンダメンタル価格(1/F)と実際の取引価格()の差額で表すことができる。したがって、

B\=1/F−1/(F+B)

となる。このとき、米国人(ドル保有者)とってのバブルの成長速度は、バブルが崩壊しない場合、

B\t+1/B\= {1/F−1/(F+Bt+1)} ÷ {1/F−1/(F+B)}   
        
となる。これに、上記の

Bt+1/B=(1+β)/(1−π)

を代入して整理すると


             (1+β)(F+Bt)
B\t+1/B\=―――――――――――――― 
             (1−π)F+(1+β)Bt

となる。
このことは、米国人(ドル保有者)にとっては「バブルの規模が非常に小さい間は(≒0ならば)、バブルは毎期(1+β)/(1−π)倍の成長速度(厳密にはこれを若干下回る速度)で拡大していく。バブルの規模が非常に大きくなると、上式のFが無視できるほどになるためバブルの成長率はゼロ(B\t+1/B\=1)に近づいていく」ということを意味している。
バブルが次期も続いている確率はtにかかわらず(1−π)と仮定している。そのため、Btがゼロに近い初期の段階でバブルに投資した場合の期待値は、投資額の(1+β)倍よりもわずかに小さな値となるが、遠い将来までバブルが持続した場合にその段階でバブルに投資した場合の期待値は、Btが莫大なものとなるため投資額の(1−π)倍よりもわずかに大きな値にとどまるということになる。
こうした中で、米国人投資家(ドル保有者)の投機行動は、彼らのリスクに対する許容度によって異なることになる。(@)はじめに、米国人投資家がリスク中立的である(リスクの大小にかかわらず、収益の期待値のみに基づいて行動する)場合について考察する。リスク中立的な場合、米国人投資家はバブルの初期においてはバブルを購入する。しかし、次第にバブルの成長率が低下してくると、バブルの「空売り」に転換する。次期のバブルの価格の期待値が今期の価格を下回るに至った段階では、バブルの「空売り」が合理的行動となるからである。(本稿のモデルにおいては、ドル保有者である米国人はバブルそのものを空売りすることを想定していないが、米国人は手持ちのドルを円に換えることにより、バブルそのものを空売りしたのと同様のポジションを持つことが出来る。すなわち、ドルを円に換えた後にバブルが崩壊した場合には、再び円をドルに換えることによって利益が得られると期待できるからである)。
したがって、日本人(円保有者)が買い上げていくドル高バブルは、将来のある時点では米国人投資家の「空売り」によって押しつぶされることになる。このことと、前記の「バブルが成立するためには、バブルが永続する可能性が皆無ではないと市場が認識している必要がある」ということを考えあわせると、合理的バブルははじめから成立しないということになる。
(A)米国人投資家がリスク回避的である場合にも、彼等が少しでもリスクを許容できるのならば、基本的にはリスク中立的である場合と同様の結果がもたらされる。当初バブルを購入するか否かはリスク回避度の強弱によるが、結局最終的にはバブルを「空売り」することになるからである。これは、次第にバブルの成長速度が漸近的にゼロに近づいていくため、バブルの「空売り」によってリスクが極めて低い状態でバブル崩壊を待つことが可能となるからである。
しかし、米国人投資家が完全なリスク回避主体であって、如何なるリスクも絶対にとらないという場合には、彼らがバブルを「空売り」することはない。バブルの拡大スピードはゼロに近づくだけでゼロにはならないからである。
このことから、「米国人(ドル保有者)がリスク回避の観点からドルの『空売り』を決して行わない場合、日本人(円保有者)がドルを買い上げていくドル高バブルは合理的バブルとして成立し得る」という結論が導かれる。このことは、円の価格がファンダメンタルを映じた価格よりも下方に乖離していくバブルが特定の条件下で成立し得るということを示唆しているわけである。

3.小括up
  株価の下方へのバブルに関しては、市場の予測するバブル価格の成長率はファンダメンタルの成長率を凌駕するため、バブルが永続した場合には将来の株価がマイナスになると予測せざるをえない。しかし、株価がマイナスになる事態は実現不可能であり、バブルの永続可能性を合理的バブルの条件とすると、株価の下方バブルは合理的バブルとして成立しえないということになる。
円の対ドル価値の下方バブルに関しても、米国人投資家(ドル保有者)が少しでもリスクを許容できる場合には、円の対ドル価値の下方バブルは合理的バブルとして成立しえないということになる。彼らの目から見たバブルの成長率が逓減していく際に、バブルの「空売り」によってローリスクでリターンを得ることが可能となるため、結果として円の対ドル価値の下方バブルは永続しえないからである。
ところが、米国人投資家(ドル保有者)が全くリスクを許容できない完全なリスク回避主体である場合には、彼らはバブルの成長率が逓減するにせよゼロにはならないことを考慮してバブルの「空売り」を行わない。したがって、円の対ドル価値の下方バブルに関しては、株価の下方バブルと異なり、米国人投資家(ドル保有者)が完全なリスク回避主体であるという条件のもとで、合理的バブルとして成立し得る。
  (補論1)up
  上記を数値の具体例で表してみよう。ファンダメンタル価格に基づくと1ドルが100円であるべきなのだが、円安のバブルが発生しているとする。現在1ドルは200円であり、バブルが続けば来年は300円、再来年は500円になるとしよう。バブルの規模は現在が100円、来年が200円、再来年が400円、バブル崩壊の確率は各年とも50%とする。日本人はリスク中立的とする。
米国人から見ると、ファンダメンタル価格に基づいて100円の値段が1ドルであるべきなのだが、現在は50セント、来年は33セント、再来年は20セントと予想されるわけである。バブルの値段はファンダメンタル価格である1ドルと実際の価格の差であるから、現在が50セント、来年が67セント、再来年が80セントということになる。
この場合、米国の投資家は、バブルそのものを「空売り」するのではなく、ドルを支払って円を購買することによって同様の経済効果を得ようとするであろう。参考までに数値例を示すと、今年50セント出して100円を買い、その100円を来年になってからドルに換えるという場合、来年バブルが崩壊して1ドル戻る確率が50%、来年もバブルが継続して33セントしか戻らない確率が50%となる。期待値は67セントであって投資した50セントよりも17セントだけ大きい。
本稿では米国人がバブルそのものを空売りすることを想定していないが、仮にそうした取引が行なわれる場合にも、(裁定取引が行なわれることを考えれば当然ではあるが)、同様の経済効果を得ることになる。参考までに数値例を示すと、今年50セントのバブルを「空売り」した場合、来年バブルが崩壊すれば50セントの利益になり、来年もバブルが続けば17セントの損になる。これが各50%の確率で生じるとすれば、「空売り」を行うことによる収益の期待値は17セントのプラスということになるわけである。
  (補論2)up
  日本人(円保有者)が「絶対にリスクを取らない投資家」ではないことは、ドルのバブル資産に投資していることからみて明らかである。そこで、「それならば、米国人(ドル保有者)が絶対的なリスク回避者であったとしても、日本人がドルを空売りすることによってバブルは崩壊するのではないか」という疑問が生じるかもしれない。しかし、そうはならない。ドルのバブルに立ち向かう際のリスクとリターンの大きさが日本人と米国人で異なるからである。
日本人がドルを空売りしてバブル崩壊を待ち続けた場合のリスクは無限大である。バブルが永遠に続いた場合、空売りしたドルを買い戻すための費用は円貨で無限大まで拡大し得るからである。一方で、米国人がバブルを「空売り」してバブル崩壊を待ち続けた場合のリスクは有限である。たとえば補足1の例では、50セントでバブルを「空売り」してバブル崩壊を待ち続けた場合の米国人投資家のリスクは最大で50セントである。バブルは1ドル以上には拡大しないからである。(同じことであるが、50セント出して100円を買った投資家のリスクは最大で50セントである)。
1期間だけの投資であっても、補足1の例で言えば、日本人にとっては「1ドル200円のときに「空売り」をすれば、バブルが続いて100円損するかバブルが崩壊して100円儲かるか、確率は五分五分であり、期待値はゼロ」であるが、米国人にとっては「50セントでバブルを「空売り」すれば、バブルが続いて17セント損するかバブルが崩壊して50セント儲かるか、確率は五分五分であり、期待値はプラス」というわけである。
こうしたことから、「米国人がドル売り円買いを行わないならば日本人がドル売り円買いでバブルに立ち向かうはずだ」という推論は棄却されるのである。
  [参考文献]
翁邦雄(1985)『期待と投機の経済分析−「バブル」現象と為替レート』東洋経済新報社
諸井勝之助(1989)『経営財務講義』東京大学出版会
東京三菱銀行資金証券部(2004.7)「直近の株価上昇時における合理的バブルの検証」Focus on the Markets
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