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景気の見方読み方
Jun.05

2005.6.1

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最近の経済金融情勢について
はじめに> <自己紹介> <米国経済
中国経済> <日本経済> <為替と金利
はじめに
  投資家向けに経済金融情勢について講演を行ないましたので、今回はその概要をお伝えします。
自己紹介
  塚崎と申します。経済のファンダメンタルズを見ている者ですので、皆様が普段接しているマーケットエコノミストの話とは異なった視点で御話します。おそらく一番の違いは、マーケットエコノミストが個々の経済指標に一喜一憂したり市場参加者のポジションを論じたり日銀の姿勢に注目したりして詳細な分析をしているのに対し、私は大きな流れについて大局観を持つことに重点を置いているということです。喩えてみれば、歩行者が見れば丘や坂が気になるところを全部捨象して人工衛星から見てみようという「地に足の着かない」話でありますが、たまには見慣れない視点からモノを考えることもお役に立つのではないかと思っております。
米国経済up
  米国経済は、概ね順調に拡大中です。原油価格が高騰し、財政金融政策による景気下支えが剥落しつつある中にあっても、消費、住宅、設備などが好調で、これを受けて生産や雇用なども増加を続けています。背景としては、「原油価格が高騰しているわりにはインフレが抑制されており、景気を腰折れさせるような金融引締めが回避されている」ことが挙げられますが、長期金利が上昇していないことも、住宅投資の堅調や住宅担保借入による消費の好調などを通じて幅広く景気拡大に貢献しています。
何かが起きたことの影響は目に付きやすいですが、起きなかったことの影響は計測しにくいために見落とされがちです。しかし、今次局面では「起きるはずなのに起きなかったこと」の貢献度が非常に大きいように思います。

市場は米国の双子の赤字に強い関心を持っていますが、米国政府は市場が考えるほど双子の赤字に関心を持っているわけではありません。したがって、「不均衡があるから近々是正されるだろう。その際に起きる影響について考えておこう」というよりも、「不均衡を是正する力は働かず、当分不均衡が続くだろう」と考えておいた方がよいように思います。不均衡というと反射的に「遠からず解消される」と考える人が少なくありませんが、解消されるメカニズムがなければ解消されないというわけです(くわしくは、拙稿「簡単には減らない米国の財政赤字(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_017.html)」御参照)。
むしろ、今後数年間を考えると、不均衡が続くことが世界経済を発展させるという面が強いように思います。米国の赤字が世界の需要不足を解消し、途上国の外貨繰りを改善し、中国の黒字が安価な製品の大量供給を通じて世界のインフレを抑制するというわけです。(くわしくは拙稿「不均衡が支える世界経済の発展(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_023.html)」ご参照)。

米国の景気は自律的拡大が続くと考えています。そもそも景気というものは、ひとたび拡大をはじめると、生産増→雇用増→所得増→消費増→生産増といった好循環がはたらくため、勝手には方向を転換せず、そのまま拡大を続けるという性格があります。米国経済を巡る環境のなかに、米国の景気拡大を腰折れさせるような特段の事情は見当たりませんから、それならばこのまま拡大を続けるのだろうというわけです。今一つ心強いのが、仮に景気が減速しはじめるとしても、その時には原油価格と長期金利が大幅に低下して景気の悪化を食い止めるということが期待できるでしょう。自動安定化装置が働いて、深刻な事態を回避してくれるというわけです。

米国経済については、ITバブルのころから「米国人は米国経済に強気、日本人は米国経済に弱気」という傾向がありましたが、結果としてはおおむね両者の中間といったケースが多かったように思います。これには偶然の面もあるでしょうが、ある程度そうなるメカニズムが働いているようにも思われます。
すなわち、米国人のエコノミストのなかで悲観的に考えがちな人は90年代の長期好況時に表舞台から去り、現在表舞台にいる人は楽観的に考えがちな人が中心であるため、米国人に聞くとどうしても米国経済に強気のバイアスがかかるということです。日本人に聞くと反対に弱気のバイアスがかかるので、両者の平均が当たるというわけです。(くわしくは拙稿「エコノミストはなぜ弱気なのか(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_012.html)」ご参照)。
こうしたメカニズムが続くとすれば、今後についても楽観派と悲観派の中間があたるという可能性が高いでしょう。すなわち、米国経済は再加速することは考えにくいが、景気が後退することも考えにくいということではないでしょうか。

米国の景気を考える上で、現在のところ考え得る最大のリスクは長期金利の上昇でしょう。長期金利が上昇することで住宅市場に悪影響がでれば、消費にも悪影響が及ぶことになるからです。
原油高にともなうインフレもリスクにはちがいありませんが、50ドルまで上がったのにインフレ率がこの程度にとどまっていることを考えると、60ドル、あるいは70ドルになったとしても、景気を腰折れさせるほどの影響が出ることはないでしょう。

中国経済up
  中国に目を転じると、中国経済は問題を抱えながらも猛進を続けています。一言で言えば、日本の高度成長期に似ているわけです。需要が非常に強い一方で供給も高速度で伸びていますので、高い経済成長率が続いているというわけです。貧富の差の拡大、公害、不動産バブル的な動き、といった問題は抱えていますが、成長期の子供のようなもので、急激に発展する経済が完全にバランスよく育つなどということは期待できない中にあって、成長の持続を決定的に阻害するような特段の要因は見当たりません。

短期的には、引締めによるハードランディングを懸念している人が少なくないようですが、そうした可能性は小さいでしょう。バブル的な現象は局部的に生じているに過ぎないため、政府としてはピンポイントで「上海の高級不動産に対する譲渡益課税」といった対策を打つだけで足り、景気全体を冷やす必要はないでしょう。インフレは落ち着いており、インフレ抑制のための金融引締め策なども必要ないでしょう。さらに重要なことは、中国政府は、失業者が増えて社会不安から暴動が起きることを最も懸念しており、本気で過熱経済を引き締めようという気がないということです。

中期的にも、中国の高成長は続くでしょう。今の中国には、日本の高度成長期よりも恵まれている面が少なからずあります。日本の高度成長期に制約条件であったのは外貨不足と人手不足でしたが、今の中国には外貨も人手も充分にあります。また、外資系企業が直接投資をすることで、資金と技術(および本国の市場)が利用可能となることも、当時の日本と比べて成長を容易にする要因と言えるでしょう。(くわしくは、拙稿「中国経済の中期展望(http://www.tsukasaki.net/report/report0409.html)」ご参照)

なお、中国を理解する上で、知っておいていただきたいことは、中国の政治体制が江戸時代の日本に似ているということです。江戸時代の日本は各藩が独自の経済政策を採っており、中央集権とは程遠いものでしたが、今の中国も同じくらい中央集権から程遠いと考えてよいでしょう。汚職や腐敗も横行しているようです。しかし、だから成長率が保てないということにはならないでしょう。各省の競争は成長率を高める方に働くケースも多いでしょう。汚職や腐敗は経済成長にマイナスですが、「昨年も汚職や腐敗があったが、それでも高い成長率を記録した」ことを考えれば、今年の成長率が昨年より低くなる理由として汚職や腐敗を挙げることは適当ではないでしょう。

日本経済up
  日本に目を転じると、日本経済は踊り場を抜けて再び拡大トレンドにはいっています。昨年後半になぜ踊り場があったのか、あまり明確な理由があったわけではありませんが、一つには昨年前半の輸出が伸びすぎて、後半に頭打ちになったことが挙げられます。米国と中国の経済が昨年夏場に小幅な減速を見せたことに加え、中国の在庫管理などが稚拙で前半に輸入しすぎたといったことも影響しているのでしょう。今一つ、デジタル家電が絶好調の反動で緩んだということも挙げられるでしょう。しかし、輸出もデジタル家電も、大きな拡大トレンドの中の小休止ということでしょうから、私のように人工衛星から大きな流れを見ている立場からすると、気にする必要はなさそうです。

上述のように、景気というものは拡大を始めると好循環が働きますから、これを止めるような大きな力が働かない限り、当分は拡大が続くと考えてよいでしょう。海外要因としては、米国経済も中国経済も失速は見込まれず、急激な円高の可能性も大きくはなさそうです。国内的にも小泉改革が「外科手術」的に景気を腰折れさせる可能性は消えたと見てよいでしょう。1−3月期のGDPが高成長となったことを見ても、大きなトレンドとしての景気拡大は持続しており、今後とも当分は持続するというのが私の大局観です。

今一つ重要なことは、日本経済が復活したため、久々の大型景気がくるかもしれないという大局観です。数年前と比べてみると、金融危機の可能性は激減しています。企業が「設備の過剰、人員の過剰、負債の過剰」を抱えていると言われていたのも数年前のことで、今ではいずれも概ね適正水準と言えるでしょう。「グローバルスタンダードを導入しない限り日本経済はよくならない」といった極端な悲観論も影を潜めており、「景気は気から」という観点からも心強い限りです。採用を絞りすぎた企業が若手の採用を積極化する、都心の土地が下がりすぎたので、買い控えの需要が一斉に顕在化する、といったことも期待できるかもしれません。(くわしくは、拙稿「超悲観論からの解放(http://www.tsukasaki.net/report/report0407.html)」を御参照)。

こうしてマクロ的には日本経済は拡大トレンドをたどるわけですが、今回の景気の特徴は経済主体による景況感格差が激しいということです。大都市と地方、大企業と中小企業、素材産業とゼネコンといった違いに加え、収益の好調な企業部門と所得の伸びないサラリーマンといった格差も鮮明です。従来は景気のよい時には日本人のほとんどが好況感を共有できたものですが、今回はそういうわけにいかないわけです。このことは、皆様の運用に際しても、ご自身の周りの人々の景況感に惑わされないように、マクロ的な景気を的確につかむ必要があるということを意味しています。私達景気の予想屋も同様で、自分たちの周りの人々の景況感に惑わされないように注意する必要があるというわけです。むずかしい時代ですが、それだけにやりがいがあるとでも考えるしかないでしょう。

為替と金利up
  為替と金利の話に移りましょう。市場関係の方からすると、「ファンダメンタルズを見ている連中は、為替と金利を理路整然と間違える」という傾向があるようにお感じかもしれませんが、いろいろな見方を聞いておかれることも無駄ではないとお考えください。
まず、金融政策は、非常に選択肢が幅広い状況です。「景気がよいので利上げをしても問題はないが、インフレ懸念が皆無なので利上げをする必要はどこにもない」というわけですから、「景気は悪いがインフレが心配で金利が下げられない」というありがちな状況と比べると、いかに今の日本経済が良好な状態にあるか、改めて認識させられるわけです。
こうした中で、日本銀行は自ら手足を縛り、超緩和を当分続ける姿勢を示しています。ゼロ金利解除時の失敗がトラウマとなって金利が上げられないとか、日銀が政府の言いなりになっていて独立性が失われているとか、批判的に見ることも可能でしょうが、結果として財政赤字の削減を優先するという望ましいポリシーミックスが採用されているわけですから、目くじらをたてる必要はないでしょう。
短期金利が当分上がりそうもないことは、イールドカーブ面から長期金利を抑えます。また、超緩和の持続が景気回復を持続させて税収を伸ばすといったことが財政赤字を縮小させるため、需給面からも長期金利は抑えられるでしょう。企業の資金需要が引続き弱めで推移すること、日本の資金は為替リスクを嫌うためにホームバイアスが強いこと、などを考えると、消去法的に日本国債に資金が集まらざるを得ないということも長期金利を抑えるでしょう。したがって、景気回復下の長期金利安定といった状況は当分の間続くと考えてよいでしょう。

為替については、グリーンスパン議長でさえもわからないと言っているので、私が何か言うのも憚られますが、強いて言えば日米金利差が拡大していくなかで急激な円高が進むとは考えにくいでしょう。仮に急激な円高が進めば、日銀が介入で止めるでしょうから、いずれにしても極端な円高にはならないと思います。

市場に関してのリスクとしては、米国の利上げなどによってグローバルな過剰流動性が縮小していくなかで、信用力の乏しい借り手が資金繰りに破綻をきたす可能性が挙げられるでしょう。途上国については、資源国は資源価格の高騰により、アジア諸国は対米輸出の好調により、それぞれ外貨繰りに余裕がありますので、従来よりは懸念が薄いのかもしれませんが、何かあるかもしれませんので、ある程度の注意はしておいた方がよいように思います。

最後に、市場関係者の間で注目度の高い話題として、人民元の切り上げに触れておきたいと思います。結論的には、人民元は上がらないでしょう。
人民元の切り上げを示唆するような発言が中央銀行から漏れてきますが、これはあまり気にする必要がありません。米国においてグリーンスパン議長が持っている力と比べると、中国において中央銀行総裁が持っている力は比べものにならないほど小さなものだからです。マスコミの中には「中央銀行総裁」という肩書きに反応して大きく採りあげるところもありますが、人民元の切り上げを決めるのは共産党幹部の政治家であって中央銀行ではないということは、はっきり認識しておいていただきたいと思います。
中国の有力シンクタンクからも切り上げ論が聞こえてきますが、これもあてになりません。学者と政治家では発想が根本的に異なるからです。もっとも大きな違いは、失業の問題を気にするかどうかです。学者は「労働者は失業すれば安い賃金の職を探すだろうから、失業問題は時が解決する」と考えますから、人民元切り上げのもたらす失業増加には関心を示さず、プラスの面を強調します。しかし、政治家にとっては、とくに現在の中国の政治化にとっては、失業問題こそが最大の関心事項であって、人民元の切り上げが失業増加につながる以上、慎重にことを運ぼうとするに違いないわけです。
そもそも固定相場制によって問題が生じていないという点も重要です。「固定相場制を守るために介入を強いられ、その結果マネーサプライが増加してバブルが発生する」というメカニズムを主張する論者が少なくありませんが、中国でマネーサプライが増加している主因は銀行貸出の増加であって、マネーサプライを抑制するために人民元を切上げるというのは本末転倒と言わざるを得ません。
米国などからの外圧が逆効果となっていることにも留意が必要です。中華思想の国にとって、外圧に屈して通貨を切上げさせられたということは許されがたいことだからです。
数%の切り上げならば失業も増えないし、実施されるかもしれないという見方もあるでしょう。しかし、数%の切り上げを行なうことで、次の切り上げに対する投機筋の期待をかえって高めてしまうというリスクの方が大きいため、こうした危険なことはしないと思います。
人民元をドルとユーロと円のバスケットにペッグするということは、充分あり得るでしょう。しかし、これは人民元の切り上げでもなく、市場メカニズムの導入でもなく、まったく事態の解決にはなりません。人民元の対ドルレートは変動するようになるでしょうが、それは人民元の需給を映じた変動ではなく、ユーロと円の需給を映じて人民元が動くということになるわけです。ユーロや円が対ドルで安くなれば、人民元もドルに対して安くなり、中国の貿易黒字はますます増大し、中国政府の介入額も一層増えることになるというわけです。それで米国政府が満足するとは思われませんが、いかがでしょうか。(人民元については、拙稿「人民元は上がらない(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_015.html)」を御参照)。

以上です。

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