景気の見方読み方
Feb.05

2005.2.1

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企業が大学に望む人づくり
はじめに> <(1)問題意識> <(2)企業が幹部候補生に求める能力
 <(3)企業が大学に期待するもの> <(4)就職を目指す学生のニーズ
 <(5)企業の望む大学像>  <(補論)経済同友会アンケートについて
はじめに
  企業社会では「大学で教わったことは役に立たない」と言われますが、企業は大学卒を好んで採用します。それは何故なのでしょうか?企業は大学に何を求めているのでしょうか?筆者はこうしたテーマについて、「教育目標・評価学会紀要第13号」に寄稿したことがあります。今回は、その内容について御紹介しましょう。
(1)問題意識
  多くの学生にとって、大学に通う目的のひとつが「企業社会で成功するため」であることは疑いない。企業側も、大学の卒業生を好んで採用する理由のひとつは、大学で企業社会に役立つような教育がなされていると期待しているからである。しかし一方では、「大学の教育は企業の期待に応えていない。大学の企業社会への最大の貢献は入試による選抜機能である」といった批判も聞かれる。
こうした批判の是非を論じるためには、前提として、企業が大学に何を期待しているのかを明らかにする必要がある。本稿は、こうした問題意識に基づき、企業の立場から、大学に期待するものについて論じるものである。大学教育の目的は多様であり、企業の要請に応えることも目的のひとつであることは疑いない。本稿が、大学側の検討の一助となれば幸いである。
(2)企業が幹部候補生に求める能力up
  企業が大学卒業者を採用する目的はさまざまであり、明確な目的別の採用がなされていない場合も多いが、あえて細部を捨象して大胆に区分すれば、企業が採用する大学卒業者は、技術職、幹部候補生、一般職員に大別できる。技術職は、理科系出身者を新商品開発室に配属する場合のように、大学で学んだ専門的な知識を活用せんとするものであり、企業が大学に求めるものは比較的明確である。そこで、本稿では企業が幹部候補生に求める能力について主に論じ、一般職員についても後に言及することとする。
企業の幹部に求められるものは実に多様であるが、これを大胆に分類すれば、「対人関係能力」「考える力」「ゼネラリストとしてのスキル」「スペシャリストとしてのスキル」「社内でのスキル」「積極性などの性格」といったところであろう。
「対人関係能力」とは、集団生活のルール、コミュニケーション能力、礼儀や思いやり、相手の視点に立ってモノを考える能力、などである。時と場所に応じた服装や言葉遣いをする、顧客との対話の内容を上司に伝える、といったことに加え、「顧客の視点にたち、一番やってほしいことをやる」「ライバルの視点に立ち、一番やってほしくないことをやる」といったことも含まれる。これらは、基本的に家庭と初等教育の担当分野であろうが、近年では大学においてもこうした教育(というよりも躾)を担当せざるを得ない場合もあるようである。
「考える力」とは、自分の頭でモノを考える能力、物事を論理的に考える能力、物事の本質を理解する能力、自説を理路整然と述べて他人を説得する能力、などである。これは重要な能力である。客のニーズを推し測り、どのようなアプローチが効果的であるかを工夫する、トラブルに際して適切な処理をする、といったことが日常的に求められるからである。視野の広さ、発想の柔軟性なども必要である。幹部は、問題点を発見して改善の工夫をしていくことが恒常的に求められているほか、時として想定していなかった事態の変化に対応していくことも求められるからである。こうした能力は、本来は自分で獲得していくべきものであろうが、高等教育に負うところも大きいであろう。
「ゼネラリストとしてのスキル」の半分は、ビジネスマナー、ビジネスコミュニケーション、部下の扱い方の基本、財務諸表の見方、といったスキルであり、これらは主に企業内の教育により習得されていくべきものである。名刺の受け渡し方、財務諸表の見方、といった講習が企業内で行われることもあるが、原則としてOJT(On the Job Training)によって習得されていくスキルである。残りの半分は、誤字のない文章を読みやすい字で書けるといったことや、基礎的な英語力やパソコン操作技術といった「道具」も必要である。これは就職前に習得されている場合もあるが、就職後に習得される場合もある。
「スペシャリストとしてのスキル」とは、為替ディーラーとしてのスキル、新商品開発のための金属材料の知識、などである。前者のスキルは企業内のOJTで習得されていくべきもので、大学教育に期待される部分は大きくない。後者のスキルについては、前述のように本稿の視野の外とする。
「社内でのスキル」とは、どの仕事は社内のどの部署に頼むとスムーズに行くかを知っている、社内に豊富な人脈を持っている、といったことがらであり、「転職をすると役に立たなくなるスキル」と言い換えることも出来る。サラリーマン社会においては重要なスキルであるが、大学教育とは関係がないので、本稿では考慮しないこととする。
「積極性などの性格」も、企業が幹部に求めるものであり、重要性も非常に大きいが、これも一般的には大学教育に期待されているものではないので、基本的には本稿の視野の外に置くことにする。もっとも、「大学での教育を通じて学生が自信を与えられ、それが学生の積極性につながる」場合があることを否定するものではない。
以上、幹部候補生について論じてきたが、一般社員に関しても、項目としてはおおむね同様のものが求められる。もっとも、ウエイトとしては「ゼネラリストとしてのスキル」のウエイトが大きく、「考える力」などのウエイトは小さくなる。
(3)企業が大学に期待するものup
  企業が幹部候補生として大学卒業者を雇う場合、大学で学んだ知識それ自体にはほとんど期待していない。これは、企業がプラグマティックな存在だからである。
若干の誇張を伴いながら、学問の世界と企業社会の差について述べるとすれば、学問の世界では真実を追究することが尊いとされるが、企業社会では役に立つことが尊いとされる。学問の世界では説明できることが正しいとされるが、企業社会では現実が正しいとされるのである。たとえば経済学は「人々が合理的に行動するとすれば・・・」という前提にたった議論をするが、ビジネスの社会では「人々に衝動買いをさせるような店作りの工夫」などが重要となるのである。
また、各学部の主要な科目を見ても、一般のサラリーマンの役に立つ知識は得られそうにない。
法学部生は就職に有利だと言われているが、法学部で学ぶ主なものは「憲法、民法、刑法、商法、訴訟法、行政法、政治学」といったところであって、これらのうちで一般のサラリーマンが使う可能性があるのは民法と商法のごく一部にすぎない。
経済学部生も就職に有利であると言われるが、サラリーマンが経済学を知っていて役に立つこともほとんどない。マクロ経済学は政策立案にたずさわる一部の官僚には役立つかもしれないが、通常の民間企業には関係がうすいであろう。ミクロ経済学も、リンゴとミカンの消費量が限界代替率によってどう変化するかを知っていることが八百屋の役に立つとは思われない。役にたつかも知れないのは企業の生産量の決定方法くらいであろうが、これも実際に活用することは難しい。理論が「何個作った時には何円で何個売れるかがあらかじめわかっているとすれば」という前提で成り立っている一方で、実際の企業にはこうした情報があらかじめ与えられてはいないからである。
他の学部は推して知るべしであって、たとえば文学部で徒然草を学んでもサラリーマンに役立つとは思われないのである。
このように、大学で教えている知識があまり役立たないにもかかわらず、企業が幹部候補生を採用する場合には、大学卒業者を雇うのが通例である。それは、大学で学ぶことで学生が考える力を身につけているからである。たとえば経済学の「人々が合理的に行動するとすれば」という前提は非現実的であるとしても、その前提の下で理論的に精緻な議論を積み重ねていくことが、考える力を養うとすれば、そのこと自体が幹部候補生としての価値を高めていくからである。
このことは、「企業が大学にもっとも期待しているのは、学生に考える力をつけさせることだ」ということを意味している。学部や専攻は重要ではなく、いかなる学問でもかまわないが、教育の過程で大学が学生に考える訓練をさせることが期待されているのである。
企業から大学に要請するとすれば、題材は法律でも経済学でも日本文学でも西洋史でも、題材について学生が疑問を持ち、それに対する答えを自分なりに模索するような機会を出来るだけ多く与えていただきたい。また、論述式の試験やレポートで論理的な思考を文章上に書き表す訓練もさせていただきたい。
可能であれば、教科書に論じられているような常識的な議論のみならず、「あえて非常識な提案をして学生に反論を試みさせたうえで、模範的な反論の例を紹介する」「通常と異なった視点でものを考えることを強要する」といった講義によって、学生に「頭の体操」をさせていただけるとありがたい。たとえば法学部であれば「民法の○○条を以下のように変更すると、どういう問題が生じ得るか」、経済学でいえば「円相場が固定相場制に戻ると、どういう不都合が生じるか」、政治でいえば「あなたがアラブ世界の実力者だとしたら、どのような外交努力を展開するか」といった議論を行っていただければありがたい。
大学教育というと、「大教室での講義ノートの棒読み」が批判されることが多いが、本稿は必ずしも講義ノートの棒読みを非難するものではない。重要なのは講義ノートの中身であって、学生に考えながら聞くことを強要するような内容であれば、講義ノートが10年前の黄ばんだものであっても、教授がそれを棒読みしたとしても、非難される必要はないであろう。また、最低限必要な基礎知識を与えるに際しても、講義ノートの棒読みは許されるであろう。もっとも、知識の詰め込みは最低限必要なものに限るべきであり、無意味な詰め込みを避けるべきことは当然である。
今ひとつ避けるべきことは、教授による自説の押し付けである。教授の説の丸暗記や丸写しを強いることは避けなければならない。学説の対立のあるところは、両説をできるだけ公平に教えることで、学生にいずれかを選択させ、その理由を述べさせるように仕向けるべきである。教授が自説を説き、反対説を批判するのであれば、学生には反対説を擁護する論理を考えさせるといったことが望まれる。

考える力に比べると重要度は落ちるが、企業の幹部候補生は入社時点で経済や社会に興味を持っていることが望ましい。法学部や経済学部の学生が文学部などに比べて就職で有利なように見えるのは、経済や社会に興味を持つ学生が多いからであろう。しかし、他の学部であっても経済や社会に興味を持つことは充分可能である。たとえば心理学で「衝動買いの心理と売り手の戦略」といった課題はいくらでもあるはずである。
学生の興味の対象を大学が押し付けるわけには行かないであろうが、学生が経済や社会に興味を持つような契機を大学が与えていただけると有難い。たとえば、理論的な教科書のみならず、新聞を読むように学生を指導し、講義でも時事問題を採り上げるといったことが幅広く行われるようになれば、社会に興味を持つ学生が増えるのではなかろうか。

(4)就職を目指す学生のニーズup
  企業社会を目指す学生のニーズという観点からいえば、コストパフォーマンスが良好なのは、英語やパソコンといった「道具」を身につけることであろう。企業がこうした道具の有無を採用判断の一要素にしていることは疑いないところであり、幹部候補生ではない一般社員の採用試験においては、ある程度重視される項目と言えるからである。
加えて、英語やパソコンの能力が、実際の就職試験の際の合否決定要因として持つ重要性は、企業の採用基準における重要度よりも大きくなりがちであるという点にも留意が必要である。就職試験の試験官にとっては、他の項目が短時間の面接などで判断しにくいなかで、英語やパソコンの能力はある程度客観的に評価が行えるため、「他の項目が同点だから英語とパソコンの差で当落が決まった」という事例が実際には多いと思われるからである。
いずれにしても、学生が英語やパソコンに習熟することは企業にとっても望ましいことである。英語やパソコンが高等教育機関である大学の担当なのか否かは議論のあるところであろうが、大学としてもこうしたニーズに応えるべく、たとえば講義のなかで洋書を読みインターネットで調べごとをするように学生に仕向けていただければ、企業としてもありがたい。
近年、サラリーマン社会では能力主義が浸透しはじめ、転職も増加しつつあるなかで、資格志向が確実に高まりつつある。自らの専門性に関連した資格を取得しておくことがさまざまな場面で有利に働き得るからである。こうした面からすると、社会人大学院の学生は相当強い資格志向を持っている可能性が強く、MBAなども資格の一つと考えている学生が多いと思われる。学部の学生のなかにも、こうした意識を持つ学生が増えていく可能性はあろう。
資格を持っていることが有利になるのは、仕事に役立つような知識やスキルを持っていることを推測させるからであるので、おのずと「学問的に価値のあることがら」よりも「役に立つ知識など」にたいする需要が高まっていくであろう。企業としても、大学がこうしたニーズに応えていただけるとありがたい。
もっとも、大学の教育が英語やパソコンや役に立つ知識の習得に注力しすぎることで、学生に考える力をつけさせる教育が疎かになるとすると、それも望ましいこととはいえない。バランスのとれた対応が望まれるところであろう。
(5)企業の望む大学像up
  大学の目的が多様であることを理解した上で、企業からみて望ましい大学の姿について論じれば、各講座を目的別に「考える力を養成する講座」「役に立つ知識や技能を修得させる講座(英語、パソコン、資格取得など)」「企業人養成以外の目的の講座(教養科目、生涯教育など)」に分類していただきたい。そうすることにより、教授の目的意識が明確化されるとともに、学生が自分の目的に沿った教育を選択して受けることが可能になるからである。
一部の科目を除いては、教授が研究者である必要はなく、目的に沿った講義が行える教育者であればよい。学生の考える力を養成したり役にたつ知識や技能を修得させるためには、かならずしも教授自身が専門分野の研究において実績をあげている必要はないからである。むしろ、ねがわくばサラリーマンなどを経験して世の中の動きを体験したことのある人が教授陣の中である程度のウエイトを占めることが望まれる。
学生に夏季休暇中の体験入社を奨励し、これを単位として認定するといったことも、検討課題であろう。企業側の受入体制の問題もあり、事実上の青田刈りになる可能性もあるが、学生が早期に企業社会に触れることで経済や社会への関心が高まり、勉強に対する目的意識が高まることは期待できよう。
(補論)経済同友会アンケートについてup
  本論で示した企業の考え方は、経済同友会の教育委員会が実施した「企業の教育・人材に関するアンケート調査1)」にも表れている。同調査は、調査期間が2003年1月14日から2月28日、調査対象が経済同友会の会員および会員企業であり、発送数は1307会員、939企業、回答数は会員387人、回答企業226社であった。
「ビジネスの基礎・基本能力として、今後必要となると思われるものに○印を付けてください(いくつでも)」という質問に対し、回答数が多かったのは、経営者では「問題を発見する力」「論理的に考えられる力」「行動力・実行力」「語学力」「常に新しい知識・経験・学力を身につけようとする力」、人事担当者では「問題を発見する力」「行動力・実行力」「常に新しい知識・経験・学力を身につけようとする力」「論理的に考えられる力」「状況の変化に柔軟に対応する力」という順であった(図表1)。「行動力・実行力」は大学教育に求めるべきものではないために除くとすると、「考える力」に類するものが圧倒的に多く、語学力も重要であるということが読み取れよう。こうした回答が「専門能力」への回答を大きく上回っていることは、注目に値しよう。
経営者に、「現在の若者に不足していると思われるもの」を複数回答可として選択してもらったところ、過半数が「忍耐力」「問題解決能力」「市民としての自覚」を挙げた一方で、「専門知識」を挙げた経営者は13.1%に過ぎなかった。人事担当者の回答もおおむね同様であったことを考えると、企業にとっては、大学教育が専門知識よりも問題解決能力(考える力の一部分)を充実していくことが望ましいと言えるであろう。
「大学の4年間では、専門能力を身につけさせるより、哲学・歴史・文学・芸術・科学などの、リベラル・アーツを重視した教育を徹底して行い、大学院はより専門的な高度職業人養成のための役割を充実させる」という質問に対し、経営者の回答は「そう思う」が19.6%、「どちらかと言えばそう思う」が19.6%、「どちらとも言えない」が27.9%、「どちらかと言えばそう思わない」が15.1%、「そうは思わない」が17.8%となっている。
文科系理科系を分けずに質問した場合でも「大学ではリベラル・アーツを充実させる」ということに約4割が賛成しており、反対を上回っているということは、「企業が幹部候補生として大学卒業者を雇う場合、大学で学んだ知識それ自体にはほとんど期待していない」という本文の認識と共通するものであろう。
1)このアンケートの調査結果は、経済同友会による提言・意見書『「若者が自立できる日本へ」−企業そして学校・家庭・地域に何ができるのか−』(2003年4月6日)に掲載されており、下記ウエブアドレスより2003年7月1日に入手した。
http://www.doyukai.or.jp/database/teigen/030409_2.pdf
up
  表1:今後必要となるビジネスの基礎・基本能力についての回答(単位:%)
選 択 肢 経営者 人事担当者
問題を発見する力 73.0 75.9
論理的に考えられる力 69.9 67.4
常に新しい知識・経験・学力を身につけようとする力 65.2 72.3
情報を収集する力 52.4 50.0
人間関係を円滑にする力 36.1 43.8
人脈形成力 25.4 19.6
自己表現力 54.5 42.0
交渉力 48.4 47.3
状況の変化に柔軟に対応する力 57.3 64.7
異文化を受容する力 45.3 33.0
語学力 66.8 51.3
コンピューター活用能力 49.5 47.3
熱意・意欲を維持する力 45.8 47.8
行動力・実行力 69.4 75.0
専門能力 40.3 42.4
体力 36.1 26.3
その他 5.2 6.3

 

  今回は、以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため
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