景気の見方読み方
Jan.05

2005.1.1

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それでも景気は拡大する

はじめに> <景気指標の急変> <逆風は止まる> <日本経済復活の好影響
 <おまけ1:景気減速の要因について> <おまけ2:日米景気の連動性について
 <おまけ3:日中景気の連動性について> <おまけ4:今次円高の景気への影響について


はじめに
  あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。今回は、年初にあたり、今年の景気について考えてみましょう。
景気指標の急変
  昨年の夏場まで絶好調を続けていた景気指標は、秋以降一転して悪い数字が並ぶようになりました。実質GDP成長率は4−6月期と7−9月期が続けてゼロ成長となりました。鉱工業生産指数も機械受注(船舶と電力を除く民需ベース)も秋以降に明確な悪化を示しています。これをもって、景気がすでに後退をはじめたと考える人も増えています。たしかに、上記の数字だけを見ると、そう考える方が自然なのかもしれません。
しかし、筆者は結論として現在でも景気は拡大トレンドの上にあり、今後とも順調に拡大していくものと予測しています。最近の景気指標は一時的な振れ(踊り場と呼ぶ人もいるようです)であるというわけです。そう考える根拠は、「景気はひとたび回復をはじめると、そのまま回復を続ける性質がある。このトレンドを反転させるような力が働かない限りは回復、拡大を続けるはずであるが、今次局面においてはそうした力が働いていない」ということです。
昨年の後半には、景気に逆風が吹いていたことは確かですが、いずれも弱い逆風でした。原油価格は高騰しましたが、日本経済は原油依存度が低いためにインパクトは比較的軽微でしたし、何よりも原油高がインフレ懸念を通じて金融引締めを招くということがありませんでしたので、石油ショックの時とはまったく影響度が異なっていたわけです。
米国経済が減税の一段落により若干軟調になり、中国経済の過熱感が弱い引締め(マクロコントロールと呼ばれています)により若干緩和しましたが、いずれも小幅なもので、景気が後退をはじめたといった大袈裟なものではありませんでした。
世界的なシリコンサイクルが下降局面にあることもマイナス要因ですが、これは半導体関連産業についてのことであって、変動幅こそ大きいものの、経済に占めるウエイトはそれほど高くないので、影響を過大視する必要はないでしょう。
オリンピックに伴うデジタル家電ブームの反動、猛暑効果の反動、台風や地震の影響といった要因も指摘されますが、経済全体に与えた影響は限定的であったようです。
逆風は止まるup
  今後については、こうした逆風は止み、一部分は順風に変わることが期待されます。原油価格は、すでにピークアウトしたものと見られます。下がらないまでも安定してくれれば、前期比でみた悪化要因にはならないでしょう。米国経済は、引き続き「そこそこ」の状態での推移が見込まれ、景気が下降トレンドをたどるという可能性は大きくないでしょう。中国経済も、引締め策は採られていますが、景気が後退するところまで引締めが徹底されることにはならないと思います。米国と中国の景気が一時的な減速から巡航速度に戻れば、日本経済の前期比にとっては改善要因と言えるでしょう。そもそも内外成長率格差から考えると、日本の外需はプラスとなるのが自然であり、7−9月期の外需マイナスという状態は続かないと考えておくべきでしょう。
シリコンサイクルについても、それほど深刻な落ち込みにはならず、遠からず回復に向かうだろうと言われています。また、台風や地震の影響については、反動増が見込まれます。
こうしたことを考えると、昨今の経済指標に弱いものが多いからといって、そのまま景気が下降していくと考える必要はなく、むしろ一時的な調整を経て再び拡大トレンドに戻る可能性が高いと言えるでしょう。
なお、このところ為替相場が円高に振れていますが、円の切り上がり幅が限定的であること、日本製品の競合相手である欧州の通貨が円以上に切りあがっていることなどを考えると、影響は限定的なものにとどまると思われます。
日本経済復活の好影響up
 

バブルが崩壊してから15年が経過し、バブルの後遺症に悩んできた日本経済が、後遺症から解放され、押さえつけられてきた需要が表面化してきています。こうした大きな流れがあることも、景気回復を持続させる力強い要因となっています。
バブル崩壊以降、企業は「設備、人員、負債の過剰」を抱え、設備投資や人員採用を控え、負債の返済に注力してきました。10余年にわたる努力の結果、こうした過剰は概ね解消されましたが、振り返ってみると設備は古くなっており、正社員の年齢構成も歪んでいるわけで、潜在的な設備更新需要、新卒採用需要は高まっているはずです。こうした中で企業収益が順調に拡大してれば、潜在的な需要が顕在化していくことが期待されます。
銀行の不良債権問題も峠を越え、銀行経営が攻めに転じたと言われています。不良債権問題が貸し渋りをもたらしていたのか否かは議論がありますが、少なくとも銀行員のマインドが積極化したことは景気にとって明るい材料だと言えるでしょう。
都心の地価が反転をはじめたのも明るい兆しと言えるでしょう。「現在の価格ならば買いたいが、来年まで待てば更に値下がるだろうから、買うのは来年にしよう」と考えて待っていた需要が「もう下がらない」と思ったところで一斉に出てくるかもしれません。
昨今の景気については、90年代後半の超悲観論から解放されたことの影響が大きいことにも留意が必要です。「米国的なものは素晴らしく、日本的なものは遅れているので、日本経済に明日はない」といった論調がまかり通っているときには、設備投資や耐久消費財購入といった需要は手控えられがちです。「景気は気から」と言いますから、日本経済についての認識が変化したことの影響も大きいと考えるべきでしょう。
今後の懸念材料としては、政府が財政再建を焦って「税収という金の卵を得ようとして景気回復という鶏を殺してしまう」という可能性、急激な円高が進んでデフレが再燃してしまう可能性、などが挙げられます。もっとも、政府も過去の経験から学んでいるために、増税は景気を睨みながら慎重に進めていくでしょうし、デフレを再燃させるような急激な円高には介入で対抗するでしょうから、結論的には景気が失速するような事態には陥らないと考えてよいように思います。
今ひとつ、海外経済の展開についても注意深く見ておく必要があるでしょう。米国や中国の景気が大きく鈍化するとは思われませんが、米国や中国の景気が少しでも鈍化すると日本経済に大きな影響を与えるというメカニズム(下記おまけ2、3御参照)が働いている可能性もあるからです。

おまけ1:景気減速の要因についてup
  じつは、景気がなぜ急に減速したのか、よくわからないのです。景気弱気派は最近の指標を見て勢いづいてはいますが、なぜ弱い数字が出たのかということに関して筆者を説得することには成功していないのです。
「米国と中国が減速するから日本も減速する」と予測していた弱気派は多いのですが、米国と中国の減速が小幅なわりに日本の指標が大きく落ち込んでおり、彼らの予測が当たったとは言えないでしょう。
「交易条件が悪化したので景気は後退に向かう」と予測した人もいましたが、交易条件が悪化したにもかかわらず企業収益は絶好調を維持しており、これもあまり説得的ではありません。(景気回復に伴う生産性向上などが企業収益に寄与しているため、交易条件の悪化を充分に吸収出来ているということのようです)。
在庫循環についても、IT関係はともかくとして、全体としては未だに景気拡大期にあると考えてよいでしょう。「過去の景気拡大局面が平均33ヶ月であったから、そろそろ景気が後退するころだ」という人もいましたが、過去の平均が今回も実現すると考える根拠は乏しいでしょう。
株安が景気の先行指標だという人もいましたが、今次株安は逆資産効果をもたらしているようにも思えず、景気に与えた影響は限定的でしょう。(株安と景気については、拙稿 http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_016.html を御参照ください)。
スポーツで日本が活躍した後は経済が不振に陥るという予言(予測とは呼びにくい)もありましたが、神様のいたずらで今回もそうなったということかもしれませんね。
では、一体なぜ悪い景気指標が並んでいるのでしょうか?考えられる理由は3つあります。第一は、何らかの理由による一時的な振れであるとするものです。人間も「特に理由はないが、何となく体調が悪い」時がありますので、それと同じだと考えるわけです。特段の原因がないのに体調が悪い時は、お医者様も「基本的な問題があるわけではないので、しばらくすれば元気になるでしょう」とおっしゃいますし、実際にそうなる場合が多いでしょう。あるいは、もしかすると、何らかの事情で「需要の先喰い」が生じていて、昨春は実力以上の、昨秋は実力以下の指標が出たということで、実力としての景気は順調に拡大を続けていたということなのかもしれません。
第二は、取るに足らない原因であっても複数個集まると、「三本の矢」のように景気を後退させる力となるというものです。今回の指標がそうした理由で悪化しているとすれば、「個々の小さな原因が今後も続くのか否か」が重要となります。本文で見たところによれば、個々の矢の多くは動きを止めたり逆方向に飛んだりすると見込まれるため、それほど心配ないということになるでしょう。
第三は、本文の最後に指摘したように、米国や中国の景気が少しでも鈍化すると日本経済に大きな影響を与えるというメカニズムが働いている可能性です。夏場にわずかながら米中の経済が減速したことが日本の輸出に大きなマイナスとして働いたというわけです。そうであるとすれば、米国と中国がそこそこの拡大を続けるであろうということで、今後の日本経済にとってのマイナスは消えていくと考えてよいでしょう。
以上、考え得る3つの原因のいずれが真実であったとしても、今後の日本の景気にはそれほど心配は要らないということになりますので、とりあえず安心をしていて良いでしょう。
おまけ2:日米景気の連動性についてup
  バブル期には日本が絶好調でしたし、バブル崩壊後は米国の好調にもかかわらず日本は長期停滞でしたので、日米の景気の連動性はあまり見られませんでした。筆者は「経済がサービス化するにしたがって、財の輸出入を通じた景気の波及が重要性を失ってきたから、連動性は薄れてきたのだろう」と考えていたものです。
しかし、このところ、日本の景気と米国の景気が同じような動きをする傾向にあります。米国のITバブル時は日本も好況で、バブル崩壊により日本も不況に陥りました。その後も米国経済との連動性は比較的高いように思われます。理由はいくつか考えられます。
一つには、経済のグローバル化によって各国景気の連動性が高まっていることでしょう。「ITはすばらしい」というムードが世界的に高まったり冷えたりしたこと、米国の株高や株安が各国に波及したこと、中国の供給力増強によって世界的な製品価格安定がもたらされ、これが世界的な金融緩和につながったこと、といった要因は数多く挙げられます。
しかし、筆者には今ひとつ、「米国のアウトソーシング」が大きな要因であるように思えてなりません。米国は、モノ作りを海外に任せて自国経済をサービス産業に特化してきました。一般に需要が変動した場合、サービスよりもモノの方が需要変動の波の大きさは大きくなりがちですから、米国の景気変動で需要が落ち込んだ場合、米国内の産業よりも海外の産業の方が大きな打撃を受けることになります。需要が2%落ち込んだ場合に国内生産(GDP)は1%減り、輸入が5%落ち込むといったイメージでしょうか。GDPが需要の統計だと考えると「米国のGDPが1%しか減っていないのに米国の輸入が5%も減ったのは不思議だ」と思えてしまいますが、GDPは生産の統計であって需要の統計ではないことを考えれば、「需要が落ちたわりにはGDPが減っていない」ということに気付くというわけです。
日本の場合、アジアへの資本財の供給源となっていますが、資本財に対する需要は最終財に対する需要以上に変動幅が大きいため、「米国の需要減が増幅されてアジアの製品需要を減らし、これが更に増幅されて日本の資本財への需要を落ち込ませる」ということが起きているという面もあるはずです。
このように考えると、日本経済を考える上での米国の重要性は以前よりも増しているのかも知れません。戦後の外貨不足期に「米国が風邪をひくと日本が肺炎になる」と言われていましたが、昨今の状況をみていると、それに近いものすら感じられます。日本経済の担当者が米国経済のことを真剣に勉強する時代が再びやってくるのかもしれませんね。
その意味では、本稿でも今年の米国経済がなぜ「そこそこ」であるのか、検討する必要があるのでしょうが、くわしくは別の機会に譲るとして、ここでは「生産性向上などに伴う物価の安定と、それを受けた長期金利の低位安定、加えてドル安の好影響もあって、景気の落ち込みは考えにくい」というにとどめておきましょう。
おまけ3:日中景気の連動性についてup
  中国経済は、引締めによる効果も見られてはいますが、総体としてみれば順調な発展を続けています。そうした中で、わずかな景気の鈍化(むしろ過熱感の緩和というべきか)が日本経済に意外なほどの影響を与えている可能性があり、留意が必要です。
昨今の中国の輸入は、GDPの伸びと比較にならないほど急激に増えています。一つの理由は輸出が急激に伸びているために原材料の輸入なども急激に伸びているということでしょう。この部分は、輸出の伸びが鈍化するとGDPの伸びがそれほど鈍化しなくても輸入が大きく落ち込むことになります。
今ひとつは、中国の需要の伸びが生産の伸びを上回るがゆえに生産が追いつかず、足りない部分を輸入しているということでしょう。この部分は、需要の伸びが少しでも鈍化すると、生産が追いついてくるために、生産(=GDP)が伸びれば伸びるほど輸入が減るということになるわけです。
この場合も米国の場合と同様に、GDPが需要の統計だと考えるとミスリーディングです。GDPは生産の統計であり、需要が生産能力よりも大きい場合には生産上限がGDPとなるわけで、需要よりもGDPが小さくなります。慢性的に需要不足である日本経済を見慣れていると、「需要さえあれば必ず供給で満たされるので、GDPは需要によって決まる」と考えがちですが、中国においてはそうではないということです。現在の中国においては需要が増えなくても、生産が増えてくる(需要に追いついてくる)とGDPは増えるわけですから、反対に「GDPが増えているということは需要が増えているということで、日本の輸出が減るのはおかしい」と考えるのは誤りだというわけです。
したがって、「中国経済の専門家がGDP成長率の落ち込みを予測していない」というだけでは日本経済を予測する上で不完全だと言えるでしょう。本来は、中国の需要が今後も伸び続けると考える根拠をくわしく示す必要があるのでしょうが、ここでは「中国で採られている引締め策は、一部の過熱した部分を狙い撃ちにしているだけで、失業問題を気にしている中国政府は全面的な引締めを行なうつもりはない。一方で潜在的な需要は日本の高度成長期に似て極めて旺盛である。したがって、景気は概ね順調な拡大を続けるであろう」と述べるに止めておきます。
おまけ4:今次円高の景気への影響についてup
  一般論として円高は景気に悪いと言えます。学者系の人は円高が景気に悪いということを認めない人も多いですが、これは失業ということを気にしないからであって、実務系の人は円高が失業を増やすので景気にマイナスだと考える人が多いようです。筆者もその一人で、「円高になると輸出数量が減り、輸入数量が増えるので、国内生産が減り、雇用が減り、結果として消費が減って生産が一層減るという悪循環に陥る」と考えています。
もっとも、今次局面においては、日本製品の競合相手である欧州の通貨が円以上に対ドルで切りあがっているため、日本の輸出数量は減らず、輸入数量もそれほど増えないと考えられます。
米国や中国や中東との貿易については、円高の影響が懸念されますが、欧州と比べて日本製品との競合度が少ないものが多いので、結果として影響は軽微だと言えるでしょう。極端な話として、米国や中国との貿易は日本製品と競合しない品目だけだとすると、円高になっても輸出入数量は変化せず、輸出企業の収益が悪化する一方で輸入企業のコストが低下することになり、日本企業全体の収益もそれほどは悪化しないからです。
輸入品価格の下落によってデフレが再発し、実質金利高や広範囲の買い控えなどが景気を悪化させる効果は考えられますが、マイルドな円高であれば、こうした効果も限定的なものにとどまると考えてよいでしょう。
  今回は、以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため
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