ホームへ
景気の見方読み方
JUl.04

2004.7.1

backindexnext
超悲観論からの解放

はじめに> <日本経済の復活> 
失われた10年からの脱却> <超悲観論からの解放


はじめに
  日本経済について、ある雑誌に寄稿しましたので、今回はその内容を御紹介いたします。
日本経済の復活
  景気が底堅さを増してきた。景気回復の初期には、病み上がりの病人に見られる脆弱さがつきものであるが、最近では底堅さ、あるいは力強ささえ感じられるようになりつつある。景気に広がりも見えてきた。景気の牽引役をみると、輸出と設備投資が景気を牽引していたが、ここにきて個人消費も盛り上がりを見せ始めている。大都市の好調と地方の停滞、大企業製造業の好調と中小企業非製造業の不振、といった分野別の景気格差も縮小に向かっている。
デフレも、景気の圧迫要因という観点からは、完全に脱却したと考えてよいであろう。実際、「議論のためのデフレ論議」を除けば、デフレという言葉を耳にする回数は激減している。
景気を方向転換させかねないリスクも縮小してきた。昨年春ごろには金融危機の可能性さえささやかれていたが、景気の回復、当局のソフトランディング路線への転換などもあり、金融システム全体としては安定感を回復しつつある。小泉内閣の唱える「痛みに耐えての構造改革」が急激に進展して景気の腰を折る可能性も縮小している。米国や中国の経済が近々腰折れする可能性は小さいであろうし、急激な円高の可能性も(米国大統領選挙で民主党が勝った場合は未確定要因が残るが)大きくはないだろう。
こうしてみると、今次景気局面は、久々の大型景気の序章なのかもしれない。バブル崩壊後にあった二度の回復が儚くも消え去った時の状況と今回は明らかに異なっているからである。97年は、大型増税、アジア通貨危機、山一證券廃業に伴う雇用不安のトリプルパンチに見舞われたが、今回は大増税も海外発の大トラブルも見込まれないし、万が一大型倒産があったとしても国民の雇用不安慣れを考えればパニック的な事態には到らないであろう。2000年は米国ITバブル崩壊の余波をまともに受けたものであるが、今次局面はバブルではないので、同様のショックを受ける心配は不要であろう。
今ひとつ、モノ作りに関する日本企業の競争力がモノを言い始めたことにも留意する必要があろう。デジタル家電は久々の大型商品であるが、日本が圧倒的な優位に立っている。自動車を見ると、米国市場で日本車のシェアが着実に上がっているなど、(一部のメーカーを除き)好調である。重厚長大型の衰退産業と思われていた鉄鋼業でさえも、品質の高さを武器として中国の物量経済の恩恵を享受している。
失われた10年からの脱却up
  今次局面において、大型景気論に劣らず重要なことは、日本経済がバブルの後遺症から脱却しつつあるということであろう。バブルの後遺症といえば何と言っても不良債権問題であるが、これは明確に緩和されつつある。バブル期の投機資金が焦げ付いた部分については、すでに償却が終了している中で、不況とデフレによって新たに発生する不良債権は、景気の回復によって着実に減少してきている。
企業の抱える設備、人員、負債の過剰という問題も、ここ数年で大きく緩和されてきた。設備稼働率は生産の回復との相乗効果で顕著に上昇しているし、日銀短観などをみると企業の人員過剰感も和らいでいる。企業の借入金返済意欲は依然として強いものの、自己資本比率などの指標を見ると、マクロ的な負債の過剰感は相当薄れている。
都心の地価が下げ止まりを見せていることも、バブルの後遺症の克服という観点からは感慨深い。現状の都心地価は、水準としては比較的低いところにあり、先安観が消えれば一転して先高観から価格が回復する可能性さえ見込まれる。
財政赤字は、バブル崩壊後の不況に対処する過程で顕著に拡大してきたが、ここにきてようやく改善に向かう兆しが見えてきた。第一の要因は、小泉内閣の姿勢の軟化である。政権発足当初は、「財政再建を焦って景気悪化を招き、結果として財政赤字を拡大させる」リスクもあったが、結果的には景気に優しい予算が組まれ、景気が回復に向かっている。第二の要因は、「金融緩和と財政再建」というポリシーミックスの採用である。景気回復下で金融緩和が続けば、景気の一層の回復、資産価格の上昇、政府の利払負担の軽減、といった多方面の財政改善効果が見込まれることになろう。
こうした「構造問題」からの脱却は、「構造改革」による部分もあるが、「景気の強さが七難を隠してくれた」といった面も強い。
銀行の健全化がすすんで金融システムリスクが遠のいたのは、銀行の不良債権処理が進んだことにもよるが、景気回復で借り手の状況が改善したこと、株価の上昇で銀行の資産が増加したこと、などの影響も大きい。
財政再建の兆しが見え始めたのも、景気回復で税収が増加しはじめたことが大きい。デフレが事実上解消したのも景気回復で需給バランスが戻ってきた面が大きい。
企業の人員などの過剰が解消されつつあることも、直接的には企業のリストラ努力によるものであるが、たとえば「雇用不安から個人消費が落ち込んで景気が腰折れ」していれば元も子もなかったであろう。
超悲観論からの解放up
 

バブルの後遺症について考えるとき、上記のような現象面での改善と並び、忘れてはならないのが日本人の意識面での変化である。日本人の意識は、バブル期に尊大かつ楽観的になりすぎ、バブル崩壊後に卑屈かつ悲観的になりすぎるといった極端な振れを経験したが、両極端に振れた大きな振り子が最近ようやく戻りつつあるというイメージだろうか。
対米劣等感から「グローバルスタンダードでないから日本はダメなんだ」と言われていたが、最近ではそういう論調は聞かれない。ITバブル崩壊とエンロン事件で米国的システムへの信仰が薄らいだこと、気づいてみれば世界的に注目されている日本企業の多くがグローバルスタンダードを採用していないこと、などが寄与したのであろう。
「構造問題がある限り景気はよくならない」といった論調も聞かれなくなった。景気が回復してしまえば、こうした思い込みは霧散してしまうということであろう。また、こうした議論は市場系の論者に多かったわけであるが、政府の構造改革がソフトランディング路線に転換したことが株価の上昇につながったのを見て、戦線を転換したという面もあろう。
こうした中で、振り子の戻りが遅れているのが景気認識ではなかろうか。日本経済は順調な回復過程にあり、GDPも生産も設備投資も伸び率が米国を上回っているにもかかわらず、日本経済が米国経済よりも好調だという論者はほとんど見かけない(筆者は3月1日号の当欄で「日米再逆転?」と記したが、賛同する意見はほとんど聞かれなかった)。長年の不況で強気派のエコノミストたちが淘汰され、あるいは弱気派に転向したため、表舞台には弱気派のエコノミストしか残っていないのかもしれない。そうだとすると、人々は下方にバイアスのかかった見通しを聞かされ続けることになり、世の中の景況感が回復してくるには今少し時間がかかるのかもしれない。
もっとも、これも時間の問題であり、本当に大型景気が到来するのであれば、世の中の景況感も確実に回復していくことになろう。その時にはじめて、本当にバブルの後遺症から日本経済が解放されたということになるのではなかろうか。

  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
------[ ホーム] [ レポートの目次 ] -------
Copyright 2000 Tsukasaki.net All Rights Reserved
For information on webdesign, or problems with this site, send e-mail to [スタジオみと]