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景気の見方読み方
Jun.04

2004.6.1

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米国景気の持続性

はじめに> <まえがき> <米国経済は好調に推移> 
FRBは利上げモード> <景気拡大ペースは減速へ> <リスクシナリオ


はじめに
  米国の景気見通しについて、ある雑誌に寄稿しましたので、今回はその内容を御紹介いたします。
まえがき
  最近の米国の経済指標には、明るいものが目立っており、足もとの景気は順調に拡大していると言えよう。先行きについても、米国内では楽観論が拡がっており、FRB(米国の中央銀行)は利上げに向けた地ならしを始めている。
もっとも、景気の好調の一因は減税であり、その効果は次第に剥落していくことが見込まれるし、最近の長期金利の上昇や一次産品価格の高騰も今後の景気を抑制していくと考えられる。こうした中で、米国の景気は本当に順調な拡大を続けていくことができるのであろうか。
米国経済は好調に推移up
  最近の経済指標を見る限り、米国経済は、ITバブル崩壊にともなう痛手から立ち直り、順調な回復過程にはいっているように見える。そもそもITバブルの規模が日本の平成バブルよりも小さかったこと、消費好きな国民性などが需要回復に貢献したこと、積極的な財政金融政策が採られたこと、などからバブルの痛手が日本よりも短い期間で克服できたのであろう。加えて、このところ為替がドル安気味に推移してきたことなども、回復に寄与しているようだ。経常収支や財政収支の大幅赤字といった「構造問題」は残っているが、当面の景気拡大の足枷とはなっていない。
経済成長率は3四半期続けて4%を上回っており、内訳も比較的バランスがとれている。個人消費は、雇用情勢の改善が最近まで遅れていたにもかかわらず、好調が持続している。減税の効果が出ていることはもちろんであるが、ITバブル崩壊後も貯蓄率が上がっていない(減税の効果を考えると、実質的にはむしろ貯蓄率が下がっている)ところをみると、キリギリス的な国民性の寄与が大きかったのかもしれない。住宅投資は、低金利を背景に、絶好調と言える状況にある。設備投資についても、稼働率が低いために従来型の設備投資は本格化していないものの、IT関連の投資は着実に回復しつつある。外需についても、景気回復にともなう輸入増はあるものの、ドル安などが寄与していることから、それほど成長率を押し下げているわけではない。
成長率だけではない。デフレに陥る懸念は、物価が上昇テンポを速めてきたため大幅に薄れている。雇用も、これまでは景気回復にもかかわらず目立った増加を見せてこなかったが、ここにきてようやく増加テンポが速まりつつある。景気の回復を受けて、企業家マインドや消費者マインドも改善している。
こうした中で、米国では、景気の先行きに対する楽観的な見方が拡がっており、FRBも景気の先行きに対して強気の見方をするようになりつつある。
FRBは利上げモードup
 

FRBは、ITバブル崩壊後に景気の底割れを防ぐべく、積極的な金融緩和を行ってきたが、ここに来て方向転換をはかるべく、利上げに向けた「地ならし」をはじめている。景気の持続性について楽観的になってきたことに加え、デフレへの懸念が薄れ、雇用情勢も回復しはじめた中で、いつまでも極端な緩和を続ける必要性が薄れてきたことから、金融政策を徐々に中立に戻していこうというわけである。
一般的には、金融緩和が長期化すると、過剰流動性が蓄積され、それを前提とした投資家のポジションが積みあがったり、不動産価格が高騰するなどといった弊害が生じかねない。実際にもこうした減少が見られはじめていることを考えると、FRBが金融政策を中立に戻そうとするインセンティブは理解できる。
ポリシーミックスとしては、財政赤字が拡大しつつある一方で金利が引き上げられていくことが望ましいのか否か議論の余地があるが、FRBとしては独立性を盾に我が道を行くということであろうか。
市場との対話を重視するFRBは、利上げを行う前に市場に対してメッセージを送り、実際の利上げの時のショックを和らげようとしているが、これが市場の過剰反応を招いている面は否定できない。FRBのメッセージを受けた市場では、相当大幅な利上げを織り込みはじめており、長期金利が急激に上昇し、金利の上昇を受けて株価が下落するとともに、外国為替市場においてはドル高が進展している。
市場の反応が大幅である要因としては、FRBの利上げ幅に関する市場の予想がやや極端に振れているという面もあるが、問題を複雑にしている要因の一つとしては「各投資家が金融緩和を前提として組み立ててきた資金ポジションを一斉に巻き戻している」ことが挙げられる。たとえば多くの投資家が「実質短期金利がマイナスである米国で資金を調達し、これを実質短期金利がプラスである円に換えて運用する」という投資行動をとり、それがこれまでの円高基調をもたらしてきたとすれば、こうした流れが逆流する際にドル高円安が進むということは想像に難くないわけである。また、円に換えられた投資資金の一部が日本株にまわっていたとすれば、その巻き戻しが昨今の日本株の下落の一因となっているのかもしれない。
もっとも、市場が大幅に混乱することにはならないであろう。投資資金の巻き戻しの動きは、積み上がった投資家たちのポジションが解消されれば鎮静化するからである。
後述のように、米国の景気拡大ペースが減速してくるとすれば、これも市場の動きを沈静化させる方向に働くかもしれない。市場は順調な景気拡大が大幅な利上げにつながると予想しているが、実際の利上げ幅は市場の予想よりも小幅にとどまる可能性が大きいからである

景気拡大ペースは減速へup
  足元の米国景気の好調は、減税と低金利によるところが大きいので、減税効果が一巡し、金利も上昇に向かうとすると、景気拡大のペースは減速することが見込まれる。
減税は、ブッシュ政権の景気拡大策として数次にわたって景気を刺激してきたが、春の確定申告をもって減税額はピークを迎えている。増加してきた減税額が増えなくなるということは、前期比で見た可処分所得の伸び率が低下することを意味している。これは、消費の伸び率を抑制することで、夏場以降の成長率を鈍化させる要因であることは間違いないところである。
長期金利の上昇は、住宅投資を抑制する要因となる。住宅投資にとっては、住宅ローン金利の影響は非常に大きいため、最近絶好調の住宅投資は次第に減少していくことになろう。一部地区では住宅価格の高騰も見られるが、これが下落に転じることのマイナス効果もあるかもしれない。
また、住宅ローンの低利借換えに際して元本を借り増しし、これを消費に用いるということが金利低下局面では広く行われていたが、長期金利の反転上昇とともに、こうした動きも止まることになろう。
最近の一次産品価格の上昇も、景気拡大を抑制する要因として働こう。そもそも一次産品価格の上昇は資源国による「増税」であるため、企業が仕入れ価格上昇を売値に転嫁できない場合には企業収益の悪化を通じて、転嫁できる場合には消費者の実質購買力の低下を通じて、景気抑制効果を持つ。これまでは、需給が緩んでいたために、企業が仕入れ価格の上昇を売値に転嫁できず、生産性の向上によって必死に収益悪化を食い止めてきたが、ここにきて景気の回復とともに、仕入れ値の上昇を小売価格に転嫁する動きが広がりつつあるようだ。こうした動きが広がると、インフレ懸念が高まることで金融の引締めが早まり、これが更なる景気抑制効果を持つことも考えられる。
消費も住宅投資も、これまで伸びきっているために、今後追加的に伸びる余地が限られているということにも留意する必要があろう。通常の景気回復局面においては、不況期に我慢してきた消費者が一斉に消費をはじめることで景気回復に弾みがつく場合が多いが、今回はそうしたことが望めないのである。
今ひとつ留意するに値するのは、ITバブル期以降、米国人による景気見通しは強気すぎて当たってこなかったということである。米国人エコノミストたちは、バブル期には「永遠の繁栄」を予想し、バブル崩壊後は「V字型の回復」を予想していたが、そうはならなかったわけで、今回に限って彼らの強気見通しが当たると考える根拠も特には存在しないわけである。日本人の方が平均すれば米国経済に慎重な見通しを持ってきたが、傍目八目ということで、こちらの方が結果としてあたっていたように思われる。少なくとも最近の米国経済に関する限り、「米国のことは現地の人の方がよくわかっている」ということでもなさそうだ。
こうしたことを総合すると、今が景気拡大スピードのピークであって、今後は少しずつ景気拡大テンポが鈍化してくると考えられる。もっとも、緩やかながら景気の拡大は続くと思われる。大きな「事件」が起きれば別であるが、そうでなければ、景気が方向転換して後退をはじめるには至らないのではなかろうか。
景気には、ひとたび拡大をはじめると「生産増→雇用増→所得増→消費増→生産増」「生産増→設備投資増→生産増」といった好循環が生じるため、多少の景気抑制要因が働いても景気拡大が持続する場合が多い。
今回については、減税額が増えなくなるだけで、水準としては高止まりする(厳密には前期比で少しずつ減少していくが、大勢に影響を与えるほどの減り方ではない)し、長期金利についても、上昇はするものの、水準としては低めの水準にとどまっている。一次産品価格も、投機的な面が剥げてきたことによって一時よりは落ち着いてきた面もある。こうしたことを考えると、メインシナリオとしては、景気後退は回避できると考えるべきであろう。
リスクシナリオup
  上記のとおり、景気の拡大にともなう自然な金利上昇であれば、市場の混乱も限定的であり、景気が後退に転じる可能性も小さいであろう。しかし、諸般の情勢を考えると、いくつかのリスクシナリオは想定しておいた方がよさそうである。
第一は、超短期的なリスクとして、雇用統計で悪い数字が発表され  る場合である。デフレ懸念の方は、このところの物価上昇率が着実に上がってきつつあること、一次産品価格の上昇がタイムラグを伴って物価上昇の圧力となること、などを考えると、ほぼ解消されたと考えてよい。しかし、一方の雇用情勢の方は、直近2ヶ月分の雇用統計のみをもって回復を始めたと人々が理解しているだけであるため、たとえば次に発表される雇用統計において非農業雇用者数の増加幅が市場の予想を大きく下回った場合には、過去の2ヶ月分が異常値であったという解釈によって、市場の利上げ観測が一気に遠のくことになりかねない。この場合には、最近2ヶ月の市場の動きが逆回転を始めることになり、たとえば再び急激な円高が進むことなどが考えられよう。
第二のリスクシナリオは、一次産品の価格が上昇を続けることである。米国と中国の成長が続けば一次産品価格には上昇圧力がかかるが、とりわけ原油価格についてはイラク情勢の影響もあって予測することが難しいため、今後もしばらく高騰を続けるリスクは無視し得ない。
この場合には、FRBはインフレ懸念から利上げを行わざるを得ないことになるが、景気回復スピードが減速するなかでの金利上昇と仕入れ価格上昇は、企業収益を圧迫して株価の押し下げ要因となるであろう。
場合によっては、景気後退とインフレが並存する「スタグフレーション」に陥る可能性も皆無ではない。米国がスタグフレーションに陥るような状況においては、日本も欧州も景気の後退を免れないであろう。もっとも、世界同時不況的な状況になれば、さすがの原油価格も下落するであろうから、事態が一方的に悪化を続けることは考えにくいであろう。
第三のリスクシナリオは、米国の景気が減速し、雇用の回復が進まない中で米国大統領選挙が行われ、民主党が勝利する結果、急激な円高が進む可能性である。米国の景気が減速すれば、それ自体が市場のドル売りを誘うであろう。また、雇用の確保に熱心な民主党が政権をとれば、ドル安政策により対日輸入を抑制する手段を選ぶ可能性は小さくないであろう。ブッシュ政権は、小泉内閣が最重要課題のイラク問題で米国を支持していることに対して恩義を感じており、正面から円高を推進することはないと思われるが、民主党政権になるとそうした抑制が働かなくなるからである。
  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
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