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景気の見方読み方
Mar.04

2004.3.1

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円高と景気について

はじめに> <円高は景気に悪い> <企業の利益と日本の景気
 <介入は効果があるか> <頭の体操> <学者などの視点


はじめに
  先月、日本では円高より円安の方がよいと考えられていると記したところ、いくつかのコメントをいただいたので、今回はこの点について考えて見ましょう
円高は景気に悪い
  円高は、輸出数量を減らし、輸入数量を増やしますから、国内生産が減って、企業収益が悪化したり設備投資が減ったり失業が増えたりする原因となります。円高がすすむと国内工場を閉鎖して海外に工場を移転する企業が出てきますから、国内の失業はますます増えることになるわけです。
円高の物価押し下げ効果も景気悪化要因と言えるでしょう。バブル期には、円高による物価の安定が金融緩和を通じて景気にプラスに働いたこともありましたが、今のようにデフレ気味の経済状況においては、円高で輸入物価が下がることがマイナスにはたらく可能性が高いからです。
「円高で消費財が値下がりした分だけ懐に余裕ができた消費者は別のものを買うだろうから、円高は景気にプラスだ」という人がいます。そういう面はたしかにありますが、同時に「輸出価格を円建てで見れば、円高分だけ下落しており、その分だけ輸出企業の収益が悪化している」という面もあるので、片面だけ強調するのは誤解を招くだけでしょう。
「円高トレンドが定着すれば、外国人から見た日本株投資が魅力的になり、株価が上がる」という人もいます。そういう面もあるでしょうが、株価が上がることの景気へのプラス効果よりも円高による景気へのマイナス効果の方がはるかに大きく、かつ直接的でしょう。
企業の利益と日本の景気up
  「輸出企業は海外現地生産などによって為替リスクに左右されない体制を整えているから、円高は日本経済にとって脅威ではなくなっている」という人がいます。これは、日本企業の利益と日本の景気を混同している危険な議論だと言えるでしょう。
国内と海外に工場を持っている企業は、円高になれば国内工場の操業率を落として海外工場の稼働率を高めます。その結果、この企業の利益は維持されますが、国内工場の雇用は減り、国内下請けメーカーの売上は減り、日本の景気にとってはマイナスの影響が大きいわけです。この企業が海外工場を持っていなければ、「円高になって採算が悪化しても輸出に頼らざるを得ず、国内工場の操業率はそれほど落ちなかった」かもしれないことを考えると、「企業が工場を海外に分散させて為替リスクに備えたことによって、円高の日本経済へのマイナス効果が高まった」とさえ言えるわけです。
極端な例として、国内工場を閉じて海外だけで生産している日本企業は、景気との関係で言えば「外国企業」です。こうした企業は円高を望むでしょうが、だからと言って、日本経済にとって円高が望ましいというような結論にはなり得ないでしょう。
昨年9月に日経新聞が主要企業相手に調査をおこなったところ、「人民元は現状が望ましく、性急な切り上げは悪影響がある」という結果が出て話題になりました。これをもって「人民元の切り上げは日本の景気にマイナスだ」と結論づけた人も多いようですが、それは違うのではないでしょうか。中国関係の事業を展開している企業にとっては急激な元高は望ましくないかもしれませんが、日本と中国に工場を持つ主要企業の国内従業員や国内下請けメーカー、中国からの輸入品に苦しめられている国内中小繊維業者などは急激な元高を望んでいるはずだからです。
なお、円高と企業収益については、「輸出企業は為替予約ができているから円高でも大丈夫だ」と言われることがありますが、注意が必要です。為替予約は、せいぜい3ヶ月か6ヶ月先の輸出代金までしか予約していないのが普通ですので、円高になってから半年すれば収益が悪化することになるからです。到底「大丈夫だ」と言えるようなものではないと言えるでしょう。
介入は効果があるかup
 

 日本の大規模介入については、米国は愉快ではないと思いますが、黙認すると思います。理由の第一は、ブッシュ政権にとって最重要の問題はイラクだということです。米国のイラク政策を支持している小泉首相を為替で困らせたくないという配慮は当然働いているはずです。理由の第二は、日本経済が立ち直ってくれないと世界経済にとって困るので、日本の景気回復の腰を折るような円高誘導は避けたいということです。理由の第三は、製造業向けのパフォーマンスを試みてドル安誘導を行うと、上記のようにそれが株安につながるリスクがあることです。ドル安誘導で選挙前に株価が下がり、ドル安の効果で輸出が増えるのがタイムラグを経て選挙後になったとすれば介入の効果については「世界で取引されている為替の量に比べて介入金額はあまりに小さくて効果がない」「投機資金の量と比べて介入金額はあまりに小さくて効果がない」といった疑問の声も聞かれます。
世界で取引されている為替の量はたしかに天文学的な数字ですが、これに驚く必要はありません。プロのディーラーたちが一日に何度も巨額の売り買いを繰り返している分がすべて計上されているからです。彼らは買ったら売る、売ったら買うことで利益を狙うわけで、買ってばかりいるディーラーはいないでしょう。買ってばかりいるディーラーは、少しでも買ったものが値下がりすると直ちに破産するわけで、そのようなリスクをプロが採るはずがないからです。したがって、彼らの取引は、売買額は巨額ですが、売り買いがおおむね同額であると考えてよいわけです。
一方、広い意味での投機資金は、巨額です。ヘッジファンドなどの「本当の投機資金」に加えて、円高を予想して輸出代金を急いで円に換える輸出企業、円高を予想して(金利を払ってでも)輸入代金の支払いを待ってもらう輸入企業、円高を予想して円建ての預金をしようという米国人、などなどが一斉に行動すれば、相当な額になるでしょう。昨今の介入額が経常収支黒字額を大きく上回っていることを考えても、その規模は推測できるでしょう。
年初から2ヶ月で10兆円という介入規模はたしかに尋常ではありませんし、持続可能性を疑う声があることも事実です。しかし、悲観的な話ばかりではありません。第一は、投機資金の動きは人々の期待で決まるということです。人々が円高になると思うから人々が円を買い、実際に円高方向の力がはたらくというわけですから、人々が円高になると思わなくなるまで徹底して介入をすれば、円買いの投機は止まるかもしれないわけです。最近になって円高が止まって反落している理由の一つは「円高を予想して円を買っていた投資家(および投機家)が、あまりに徹底した介入が行われるのを見て、円高予想を変更して円を売ったため」だと言われています。これは、明るい材料の一つです。
今ひとつの明るい材料は、ドルの方が円よりも金利が高いということです。これは、米国人にとっては、「ドルで預金しておけば利子がもらえるのに円を持っていても利子がもらえないのだから、円高になるという自信がある人だけしか投機をしない」ということです。一方で、日本の当局にとってみれば、ゼロ金利で円を借りて、それでドルを買って預金しておけば利子がもらえるのですから、いくらでも介入を続けようという元気が出ようと言うものでしょう。

頭の体操up
  10兆円の公共投資と10兆円のドル買い介入では、どちらが望ましいでしょうか?頭の体操として、ドル買い介入の方が望ましいという説(我が友人である佃佳志氏の主張)を紹介しますので、本当かどうか考えながら読んでみてください。
ここでは、「政府が10兆円で失業者を雇って道路をつくらせる場合」と、「政府が10兆円で失業者を雇って自動車を作らせ、これを海外で売って外貨を受け取る場合」を比べてみましょう。雇われる失業者の数は同じですから、景気に与える影響は同じだと言えるでしょう。もちろん、実際には政府がゼネコンに道路を作らせてゼネコンが失業者を雇うことになるのでしょうが、政府が自分で道路を作った場合と景気への影響は同じです。また、輸出の場合も、実際には、「政府が介入してドルを押し上げてくれたおかげで、自動車会社が採算がとれるようになって10兆円分だけ輸出を増やす」ことになるのでしょうが、これも政府が自分で作った場合と影響は同じです。なお、頭の体操ですから、ここでは自動車を作るための鉄鉱石も、輸入するのではなく、雇われた失業者が掘ってくるということにしておきましょう。
政府が10兆円出して取得した資産はどちらが望ましい資産でしょうか。作られた道路が本当に役に立つ道路であれば問題ないのですが、公共投資で作られた道路のなかにはあまり役に立たないものも少なくありません。一方で、政府が取得した外貨は、将来の高齢化社会において日本が経常収支赤字に陥ったときに、私たちの老後の生活を支える原資となってくれるわけです。
産業政策としても、道路を作ってゼネコンを育成(あるいは延命)するよりも、自動車産業(あるいは、少しだけ円が安くなれば輸出できるような他の輸出産業)を育成する方が望ましいのではないでしょうか。
学者などの視点up
  アカデミックな視点からもコメントをいただいたので、最後に学者などの考え方について、筆者の見方を記しておきましょう。
経済学の基本は「政府が経済に介入しなければ神の見えざる手に導かれて経済はうまくいく」という「市場メカニズム(価格メカニズムとも呼びます)」です。したがって、学者は政府が為替に介入することを好まない傾向があります。「円安でも円高でも市場が決めたことが正しいので、為替相場を誘導すべきではない」という考え方です。
かつて高名な学者氏と「円高は困ったことか」という話をしていたときに、「円高だと輸出企業がつぶれて失業者が増えて困る」という私の意見に対し、「輸出企業に勤めていた人は、こんどは別の企業に勤めればよいので、君のいうことは説得的ではない」と教えられたのを覚えています。私は「別の企業ってどこですか?そんな会社があれば、今のように失業者が街にあふれているはずはありませんよ」と反論しようと思いましたが、思いとどまりました。
このときに思い出したのが、伝統的な経済学の世界では「失業問題も神の見えざる手が解決するので気にする必要はない」とされているということです(経済学にも流派があって、ケインズ派は失業を気にしますが)。
小泉内閣発足当時の「骨太の方針」は、「非効率な企業は清算した方が経済のためだ。そうすれば、そこに勤めている従業員は成長性の高い企業に移ることができるからだ」という発想で書かれていますが、根は同じところにあるわけです。
なお、介入の効果について、多くの学者は「日本人はドルよりも円を持ちたがるのかもしれないが、そういうことは考えないようにしよう。そうすると、・・・」といった仮定を置いた議論をしています。しかし、実際には輸出企業は給料を払うためにドルよりも円を欲しがるわけで、筆者から見ると、こうした仮定は無理があるように思いますが、いかがでしょうか。
  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため
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