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景気の見方読み方
Feb.04

2004.2.1

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為替の介入について

はじめに
  日本の為替介入が巨額にのぼっていることが、さまざまな面で話題になっています。そこで今回は、為替の介入について、いろいろな角度から考えてみました。
日本だけが明確な通貨安志向
  日米欧を見渡すと、日本だけが巨額の介入を行っていますが、欧米では為替の介入は稀にしか行われていません。その理由の第一は、明確な通貨安志向を持っているのが日本だけだということです。
為替相場は、日本経済に与える影響が極めて大きいため、日本政府の最大の関心事項の一つです。したがって、日本人は世界中の政府が為替に強い関心を持っていると考えがちですが、必ずしもそうではないようです。また、関心の持ち方も、日本では「自国通貨が高くなると輸出産業が困るので、自国通貨が弱い方がよい」という一方的なものが普通ですが、欧米では、「自国通貨が高くても安くても一長一短だ」という場合が多いようです。

まず、米国政府は為替にそれほど関心を持っていません。米国は基軸通貨国なので、為替がどう動こうと自国の輸出入価格にあまり影響が出ないということが根本にあるわけです。たとえば国際商品の価格はドル建てで決まっていますから、30ドルの原油はドル高でもドル安でも30ドルです。また、「円高になっても日本の輸出企業はその分だけそっくりドル建て輸出価格に転嫁することは出来ない」ということを考えると、米国にとってはドル安でも輸入物価はそれほどあがらないというわけです。
また、米国政府が弱いながらも為替に関心を持つとすると、ドル安のメリットと同時にデメリット(またはリスク)にも関心が行くので、必ずしもドル安を一方的に志向するということではないようです。
ドル安になれば米国の製造業の競争力が増して貿易赤字が縮小するという面は皆無ではありませんし、大統領選挙を控えて製造業を意識した選挙民向けのパフォーマンスとしてドル安誘導をしたいという面はあるでしょうが、米国経済を全体としてみると、製造業のウエイトは大きくありません。よく言えば経済がサービス化しているということですし、悪く言えば製造業が空洞化しているということでしょう。
一方で、米国の景気は株価に影響されるところが大きいですし、米国の家計が広く株式を保有していることを考えると、株価が上昇することが現職大統領が再選されるためには重要な要因となります。特に共和党は裕福な層が支持基盤となっていますので、株価には敏感なはずです。そこで、ドル安が進んで外国人投資家が「米国の株式を保有しているとドル安による為替差損を被りそうだから、米国株を早めに売ろう」と考えるようでは大統領は困るわけです。
したがって、米国がドル高を志向するかドル安を志向するかは一義的には決まらず、大統領や財務長官などが製造業や雇用を意識すればドル安志向、株価を意識すればドル高志向になりがちです。現在のブッシュ政権は、雇用が増えないと選挙で困るという面と、ドル安を推し進めると株価が心配だという面があり、どちらともつかない立場ではないかと思われます。

欧州においては、ECB(欧州中央銀行)がインフレを抑制することに非常に熱心です。ユーロが高くなれば、輸入物価が下がってインフレが抑制されますから、ECBは基本的にはユーロ高を歓迎する立場です。
欧州の各国政府や経済界などはユーロ高が輸出に与える悪影響を懸念しますが、その声は、日本で同じ幅だけ円高になった場合に比べてはるかに控えめなものです。理由の一つは「ユーロ高によりインフレ懸念が遠ざかれば、ECBが金融を緩和する(あるいは引き締め時期を先延ばしする)だろうから、ユーロ高の景気への悪影響は緩和されるだろう」ということのようです。今ひとつは、エコノミストたちが「ユーロ高で消費者が輸入品が安く買えるようになると、消費者の財布に余裕が出来て従来よりたくさんモノを買うようになるから」という発想をすることもあるようです。日本では「円高だと消費者が国産品の代わりに輸入品を買うようになるので国内生産にマイナスだ」という見方が多いのですが、欧州では別の側面に着目する人が多いということでしょうか。
経済的な損得をはなれて、欧州では、かねてより通貨が強いことを誇りに思う傾向があるようです。特に、統一通貨ユーロが誕生してからは、「通貨が弱いことが統一通貨がうまくいっていないという挫折感につながりかねない」というマインドの問題や、ECBに対する信認の低さがユーロ安につながるという見方などもあり、欧州の人々にはユーロ高を望む深層心理が働いているように思います。
なお、欧州の人がユーロ高の貿易への影響を気にしない理由として、「欧州諸国は域内貿易の比率が高いので、通貨の変動の影響を受けにくいのだ」という説明をする人が少なくありません。ややミスリーディングな面もありますが、そうした要因があることは間違いないでしょう。(参考までに、ミスリーディングである理由は、「貿易に占める米国の比率が低い」けれども「貿易がGDPに占めるウエイトが大きい」ので、「対米輸出がGDPに占める比率はそれほど小さくない」ことです。もっとも、日本が中国などのドルリンク圏にも大量に輸出を行っているのと比べると、ユーロ圏は米国以外のドルリンク圏への輸出はそれほど多くないので、全面的にミスリーディングだということでもありません)。

欧米が介入しない理由up
  日本だけが巨額の介入を行っている理由ということを裏返すと、欧米で巨額の介入を行わない理由ということになります。米国と欧州それぞれに理由があるのです。
そもそも米国では、経済学の教科書に言う「神の見えざる手(政府が経済に手出しをしなければ、価格メカニズムというものが働いて、経済は自然にうまくいくという考え方)」を大切にする傾向があります。したがって、通貨についても「変動相場制なのだから、市場の需要と供給が通貨の価値を決めるべきで、介入は原則としては行うべきでない」という基本的な考え方を持っているわけです。もちろん例外のない規則はないというわけで、プラザ合意の時などには介入を行いましたが、こうした例をのぞけば米国が介入することはそれほど多くありません。
加えて、市場が米国の当局者の為替に関する発言に非常に注目しているので、仮に為替を操作したいと思った場合でも「口先介入」と呼ばれる手法(市場に為替に関する当局の意向を伝えるだけで、市場がそのとおりに動くこと)が使えるということも、米国が介入を行わない理由だと言えるでしょう。口先介入だけでも充分に効果があるのに、実際の介入を行ったりすれば、効果が大きすぎて為替が反対方向に大きく振れ過ぎるリスクさえもあるわけです。

ECBが介入を行わない理由の一つは、米国と同様に「変動相場制なのだから介入は原則として行うべきではない」ということのようです。もっとも、これとは全く別の、ECBの内部事情が実際には重要な要因となっているようです。
一つには、ECBが寄り合い所帯であって、内部の意思統一が難しいということが挙げられます。ユーロ圏内には、輸出に頼っている国もそうでない国もあり、各国の景気が同じように動くわけではないといったことを考えると、各国の足並みが揃うことは簡単なことではありません。今ひとつには、ECBが介入を行う際には「市場との充分な対話」が必要であり、これに失敗するとECBに対する信認が失墜するというリスクを負っていることでしょう。発足して間もないECBとしては、下手なことをして信認を失うリスクを冒すよりは介入を行わない方がマシであるという判断もあるように思われます。

日本の介入についてup
 

 日本の大規模介入については、米国は愉快ではないと思いますが、黙認すると思います。理由の第一は、ブッシュ政権にとって最重要の問題はイラクだということです。米国のイラク政策を支持している小泉首相を為替で困らせたくないという配慮は当然働いているはずです。理由の第二は、日本経済が立ち直ってくれないと世界経済にとって困るので、日本の景気回復の腰を折るような円高誘導は避けたいということです。理由の第三は、製造業向けのパフォーマンスを試みてドル安誘導を行うと、上記のようにそれが株安につながるリスクがあることです。ドル安誘導で選挙前に株価が下がり、ドル安の効果で輸出が増えるのがタイムラグを経て選挙後になったとすれば、ブッシュ政権にとって最悪のシナリオでしょう。理由の第四として、日本が介入で買ったドルが米国債の購入に充てられ、結果として米国の経常収支赤字のファイナンスに役立っているので、これを止めさせることは米国にとっても痛手であるという人もいます。これを強調しすぎるのは如何かと思いますが、そういう面も無いとは言えないでしょう。

なお、日本の大規模介入を対米貢献であるとする人(たとえば対米貢献をしているのだから米国に恩を売るべきという人、ドル安で損するリスクをとってまで対米貢献をする必要はないという人など)がいますが、賛同しかねます。
日本は、介入しないと円高が進んで日本経済に悪影響が出ること、実体経済がデフレ気味で推移していることなどを総合的に考えて、仕方なく介入をしているわけであって、対米貢献をするために介入をしているわけではありません。
米国から見て、日本の介入が米国のためになっているかどうかも疑問です。「日本が介入しなければ、円高ドル安が進み、製造業は必ずメリットを受けるであろう。経常収支赤字のファイナンスも、円高が行き着くところまで行けば必ずだれかが対米投資をするだろうから、日本の介入が必要不可欠だというわけでもない。ドル安が進む過程で外国人投資家が米国株を売ると、株価が下落するリスクもあるので、日本の介入がそうしたリスクを軽減してくれることなどは認めるが、そうしたメリットと、円高ドル安が進んだ場合に米国製造業が受けるメリットのいずれが大きいかは、一概にはいえないのではないか」といった程度ではないでしょうか。

さて、上記のように、日本は必要に迫られて介入を続けているわけですが、それにともなう弊害はどれくらい大きいのでしょうか。結論から言えば、それほど大きな弊害はないと筆者は考えています。
考えられる弊害の第一は、介入に用いた円資金が市場に出回ることです。現在は日銀が量的緩和を行っている時期ですから資金が市場に出回ることの弊害は考えにくいですが、将来金融緩和をやめる時に問題となりうるというわけです。もっとも、介入のプロセスを考えると、これはそれほど気にすることはないでしょう。政府が円を渡してドルを買う段階ではたしかに市場に出回る円が増えますが、政府が円を調達する段階で国債(為券と呼ばれる国債の一種)を発行して市場から円を受けとっていることを考えると、結局のところ「政府は市場に国債を渡してドルを受け取っている」だけで、市場に出回る円は増えないとも考えられるからです。
考え得る弊害の第二は、介入によって得たドルの価値が、ドル安によって減少することでしょう。しかし、冷静に考えれば、外貨準備は将来使うために持っているのであって、評価損を計算するために持っているわけではありません。そして、外貨準備を使う場合というのは、日本の経常収支が赤字に転落して(あるいは大規模な海外投資ブームが発生して)円安ドル高になっている局面であろうと予想されます。したがって、外貨準備が近い将来に含み損を生じるか否かということは、それほど気にするようなことではないと言えるでしょう。ドルの価値がインフレによって減少するリスクについては、短期債で運用していれば気にする必要はないでしょう。インフレになれば金融引き締めのために短期金利が上がるからです。
なお、政府としては、米国の金利を予想して長期債で持つべきか短期債で持つべきかを考える、ユーロとドルのレートを予想してドルで持つかユーロで持つかを考える、といったことは考えてもよいかもしれませんが、リスクを避けるという観点で言えば、基本的には基軸通貨であるドルの短期債で持っていればよいのではないでしょうか。

最後に、頭の体操として、少し変わった見方をしてみましょう。日本の輸出企業と政府を連結決算で見てみると、日本という商店が米国という消費者にツケでモノを売っているということになります。米国が日本からモノを輸入するが、代金が払えないので借りておくというわけです。日本から見れば米国は「ツケで大量にモノを買ってくれる得意客」です。普通の客であればツケがたまると踏み倒される心配が出てきますが、米国政府は踏み倒したりしないでしょうから、安心してツケの客にでもモノが売れるというわけです。
日本の経常収支黒字は未来永劫続くわけではありません。高齢化が進むと30年先には間違いなく経常収支が赤字になるでしょう。その時にツケを払ってもらえばよいわけですから、それまでの間は思う存分貸しておけばよいのではないでしょうか。
政府が為替に介入することを例外的なことだと考えると「為替安定のためには米国の双子の赤字を減らさせる必要がある」といった話が出てくるわけですが、経常収支黒字は全部政府が介入で買い取ることを原則であると考えれば、米国の双子の赤字ほど好ましいものはなく、これを減らせというのはツケで買う得意客に「あまり買い物をするな」と言うようなものかもしれませんね。

なお、2月6日からのG7に関しての各国の立場などについては、知人が運営するサイト(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_index.html)に寄稿した「来月のG7について」をご覧いただきたいと思います。

  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。
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