| 日本の大規模介入については、米国は愉快ではないと思いますが、黙認すると思います。理由の第一は、ブッシュ政権にとって最重要の問題はイラクだということです。米国のイラク政策を支持している小泉首相を為替で困らせたくないという配慮は当然働いているはずです。理由の第二は、日本経済が立ち直ってくれないと世界経済にとって困るので、日本の景気回復の腰を折るような円高誘導は避けたいということです。理由の第三は、製造業向けのパフォーマンスを試みてドル安誘導を行うと、上記のようにそれが株安につながるリスクがあることです。ドル安誘導で選挙前に株価が下がり、ドル安の効果で輸出が増えるのがタイムラグを経て選挙後になったとすれば、ブッシュ政権にとって最悪のシナリオでしょう。理由の第四として、日本が介入で買ったドルが米国債の購入に充てられ、結果として米国の経常収支赤字のファイナンスに役立っているので、これを止めさせることは米国にとっても痛手であるという人もいます。これを強調しすぎるのは如何かと思いますが、そういう面も無いとは言えないでしょう。
なお、日本の大規模介入を対米貢献であるとする人(たとえば対米貢献をしているのだから米国に恩を売るべきという人、ドル安で損するリスクをとってまで対米貢献をする必要はないという人など)がいますが、賛同しかねます。
日本は、介入しないと円高が進んで日本経済に悪影響が出ること、実体経済がデフレ気味で推移していることなどを総合的に考えて、仕方なく介入をしているわけであって、対米貢献をするために介入をしているわけではありません。
米国から見て、日本の介入が米国のためになっているかどうかも疑問です。「日本が介入しなければ、円高ドル安が進み、製造業は必ずメリットを受けるであろう。経常収支赤字のファイナンスも、円高が行き着くところまで行けば必ずだれかが対米投資をするだろうから、日本の介入が必要不可欠だというわけでもない。ドル安が進む過程で外国人投資家が米国株を売ると、株価が下落するリスクもあるので、日本の介入がそうしたリスクを軽減してくれることなどは認めるが、そうしたメリットと、円高ドル安が進んだ場合に米国製造業が受けるメリットのいずれが大きいかは、一概にはいえないのではないか」といった程度ではないでしょうか。
さて、上記のように、日本は必要に迫られて介入を続けているわけですが、それにともなう弊害はどれくらい大きいのでしょうか。結論から言えば、それほど大きな弊害はないと筆者は考えています。
考えられる弊害の第一は、介入に用いた円資金が市場に出回ることです。現在は日銀が量的緩和を行っている時期ですから資金が市場に出回ることの弊害は考えにくいですが、将来金融緩和をやめる時に問題となりうるというわけです。もっとも、介入のプロセスを考えると、これはそれほど気にすることはないでしょう。政府が円を渡してドルを買う段階ではたしかに市場に出回る円が増えますが、政府が円を調達する段階で国債(為券と呼ばれる国債の一種)を発行して市場から円を受けとっていることを考えると、結局のところ「政府は市場に国債を渡してドルを受け取っている」だけで、市場に出回る円は増えないとも考えられるからです。
考え得る弊害の第二は、介入によって得たドルの価値が、ドル安によって減少することでしょう。しかし、冷静に考えれば、外貨準備は将来使うために持っているのであって、評価損を計算するために持っているわけではありません。そして、外貨準備を使う場合というのは、日本の経常収支が赤字に転落して(あるいは大規模な海外投資ブームが発生して)円安ドル高になっている局面であろうと予想されます。したがって、外貨準備が近い将来に含み損を生じるか否かということは、それほど気にするようなことではないと言えるでしょう。ドルの価値がインフレによって減少するリスクについては、短期債で運用していれば気にする必要はないでしょう。インフレになれば金融引き締めのために短期金利が上がるからです。
なお、政府としては、米国の金利を予想して長期債で持つべきか短期債で持つべきかを考える、ユーロとドルのレートを予想してドルで持つかユーロで持つかを考える、といったことは考えてもよいかもしれませんが、リスクを避けるという観点で言えば、基本的には基軸通貨であるドルの短期債で持っていればよいのではないでしょうか。
最後に、頭の体操として、少し変わった見方をしてみましょう。日本の輸出企業と政府を連結決算で見てみると、日本という商店が米国という消費者にツケでモノを売っているということになります。米国が日本からモノを輸入するが、代金が払えないので借りておくというわけです。日本から見れば米国は「ツケで大量にモノを買ってくれる得意客」です。普通の客であればツケがたまると踏み倒される心配が出てきますが、米国政府は踏み倒したりしないでしょうから、安心してツケの客にでもモノが売れるというわけです。
日本の経常収支黒字は未来永劫続くわけではありません。高齢化が進むと30年先には間違いなく経常収支が赤字になるでしょう。その時にツケを払ってもらえばよいわけですから、それまでの間は思う存分貸しておけばよいのではないでしょうか。
政府が為替に介入することを例外的なことだと考えると「為替安定のためには米国の双子の赤字を減らさせる必要がある」といった話が出てくるわけですが、経常収支黒字は全部政府が介入で買い取ることを原則であると考えれば、米国の双子の赤字ほど好ましいものはなく、これを減らせというのはツケで買う得意客に「あまり買い物をするな」と言うようなものかもしれませんね。
なお、2月6日からのG7に関しての各国の立場などについては、知人が運営するサイト(http://www.analyst-fp.co.jp/ja/economist/tsukasaki_index.html)に寄稿した「来月のG7について」をご覧いただきたいと思います。
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