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景気の見方読み方
Sep.03 2003.9.01
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デフレは悪いことか?

はじめに
 

7月に「もはやデフレではない?」を記し、その内容に沿って講演をしたところ、いくつか御質問を頂戴しましたので、今回はそのときの質疑応答のあらましをご紹介しましょう。

デフレとは何かup
 

 デフレという言葉は、人によって使う意味が違うので注意が必要です。「原因はともかくとして、物価が持続的に下がること」という意味に使う人と、「望ましくない事態の結果として物価が下がること」という意味(たとえば不況で需給関係が悪化した結果として物価が下がること)に使う人がいるわけです。
 「景気は悪くないけれども輸入原油の価格が下落したために物価が下がった、技術革新で物価が下がった、規制緩和で物価が下がった、といった場合もデフレと呼ぶのか否か」ということが人によって異なるため、議論がすれ違ってしまう場合も少なくありません。
 もっとも、今次局面では、そもそも物価の下落が止まったということですから、どちらの意味でもデフレは止まったといってよいと思います。

なぜ消費者物価指数を見るのかup
 

 物価が下がっているのか否かを考える際に、何を見るのが適切なのでしょうか?物価の統計にはいろいろあります。企業向けサービス価格指数、企業物価(旧卸売物価)指数、消費者物価指数、GDPデフレーター、といったところが代表的なところでしょう。このうちどれを見るべきかというのは難しい問題だと思いますが、私は消費者物価指数を見るのがよいのではないかと思います。
 まず、企業向けサービス価格指数、企業物価指数は、カバーしている範囲が狭く、経済全体の動きを見るには適さないように思います。一方で、GDPデフレーターは、カバー範囲は非常に広いのですが、計算式の特徴から「輸入物価が上昇したことにより国内物価が上昇してもGDPデフレーターは上昇しない」という性格がありますから、これをインフレデフレの判断材料に使うとすると、たとえば石油ショックのようなときに「今はインフレではない」という結論になる可能性があるわけです。これも実感とかけ離れていて妥当とはいえないでしょう。
 消費者物価指数にも欠点はありますが、他の物価指数よりもインフレデフレの判定に便利なので、消費者物価指数を見る人が多いようです。なお、消費者物価指数のなかで生鮮食品は変動が激しく、かつ世の中全体のインフレデフレとは関係のない動き方をする場合が多いので、筆者はこれを除いた品目についての消費者物価指数を見ています。

よいデフレと悪いデフレup
 

 デフレの定義にもよりますが、「景気は悪くないけれども原油価格下落で物価が下がった、技術革新で物価が下がった、規制緩和で物価が下がった」といった場合もデフレと呼ぶとすると、こうしたデフレは「よいデフレ」と呼ぶことができるかもしれません。
 識者のなかには「原因が何であってもデフレは悪いものだ」という人がいます。デフレは不公平のもとであったり景気に悪い影響を与えたりするからというわけです。この議論は注意して聞く必要があります。というのは、「デフレになった原因がよい原因か悪い原因か」ということと、「デフレは景気によいか悪いか」といった影響についての議論をわけて考える必要があるからです。
 たとえば、技術進歩によってモノが安く作れるようになることは、とてもすばらしいことです。しかし、その結果として物価が半分になり、その結果給料も半分になったとしましょう。普通のサラリーマンは何も困らないでしょうが、住宅ローンを借りている人や、借金をして工場を建てた会社は非常に困るでしょう。一方で、貯金を持っている人はモノが安く買えるようになって得をするわけですから、世の中に不公平が生まれることになり、この部分は好ましいこととは言えないでしょう。
 さらに困るのは、「これからも技術進歩で物価が下がり続けるだろう。それならば、住宅ローンを借りて家を買うのはやめよう」といった人が増え、家や工場が建たず、景気が悪くなりかねないことです。もちろん、技術進歩によってモノが安く出来るようになれば、輸出が増えて景気がよくなるなどの効果もあるでしょうし、貯金を持っている人にとっては今までよりも多くのモノが買えるようになるので買い物の量が増え、これが景気にプラスに働くということもあるでしょう。こうしたプラスの効果もありますので、「技術進歩で物価が下がれば景気が悪くなる」と言い切るわけにはいきませんが、反対に「技術進歩はよいことだから、景気は必ずよくなる」というわけにもいきません。
 中国から安い衣料が大量に輸入されたり、規制緩和でディスカウント店が増えたりすれば、これも物価が下がりますし、ある意味では「よいデフレ」と呼べるのかもしれません。しかし、この場合には、技術進歩の場合に比べて景気が悪くなる可能性が高いので、注意が必要です。というのは、中国からの衣料との競争に敗れて倒産する国内の衣料品メーカーや、ディスカウントショップとの競争に敗れて倒産する駅前商店街のパパママストアーがあるからです。(こうしたことを考えると、規制を緩和するならば、景気が悪い時よりは景気のよい時の方が、デフレの時期よりはインフレの時期の方が、経済に与える影響は好ましいように思います。もっとも、だからといって景気が悪いことを理由に規制緩和を先延ばししてよいかというと、それは別の問題でしょう)。

インフレより困る?up
 

 物価が10%あがったときには、給料も10%あがり、金利も10%あがるのが普通ですから、非常に不公平だということもありませんし、非常に困る人も少ないでしょう。もちろん、物価が上がるタイミングと給料や金利の上がるタイミングがずれたりしますし、物価の上がり方もモノにより異なったりしますから、比較的大きな問題が生じる場合もありますが。
 物価が10%下がった時に給料が10%下がり、金利がマイナス10%になるのであれば、インフレのときと同様に、それほど大きな不公平もそれほど大きな問題も生じないでしょう。しかし、物価が下がっても給料は下がりにくいですし、金利がマイナスになることは更に難しいことですから、インフレの場合に比べてさまざまな不公平や困ったことが生じやすいわけです。
 物価が下がっているのに労働組合が抵抗して給料が下げられない場合には、企業は人を雇わなくなるでしょうから、失業者がふえて不況になるでしょう。物価が下がるときに金利がマイナスになれなければ借金をして工場を建てる人が減って不況になるでしょう。また、金利がマイナスになれなければ、預金している人と借金をしている人との間で不公平が生じるでしょう。
 このように、デフレの方がインフレよりも困る場合が多いので、「物価上昇率ゼロを目標にするよりは、緩やかなインフレを目標にしておく方が望ましい」という人が増えてきています。

デフレ回避策はup
 

 技術進歩による物価の下落もデフレだと定義すると、「デフレ回避策は技術進歩を止めることだ」といった本末転倒した議論が出てくる可能性がありますが、ここではこうした可能性は考えないことにしましょう。同様に、「中国からの輸入を制限する」「規制緩和を先送りする」といった議論も止めておきましょう。
 さて、景気が悪いときは、モノを売りたい人が買いたい人よりも多くなり、需要と供給の関係によって物価は下がりやすくなります。したがって、デフレを回避するためにもっとも重要なことは、景気の悪化を防ぐことです。景気がよくなれば、モノだけではなく労働力の需給も引き締まり、労働力の値段である賃金も上昇しやすくなります。賃金が上昇すれば、これは企業にとってはコストですから、コストの上昇している企業が値下げをしたがらなくなり、デフレが止まるという効果も見込まれます。もっとも、どうすれば景気がよくなるのかということ自体が大問題ですから、景気をよくすればよいというだけでは、あまり役に立つ答えにはなっていないかもしれませんが。
 今ひとつは、円安にして輸入物価を上昇させることです。輸入原材料が値上がりすれば製品の売値も値上がるでしょう。それ以上に、輸入製品が値上がりすれば、輸入品との競争で値下げを余儀なくされていた国産品も値上げができるようになり、物価は上昇していくでしょう。もっとも、円安になると日本の貿易黒字が増えて外国との貿易摩擦が拡大しかねませんから、円安にしてデフレを止めようという政策は、実際には難しい面もあることに注意が必要でしょう。
 世の中に出回るオカネの量を増やせばモノの値段があがるという考え方があります。世の中に出回るモノの量はそれほど急には増減しないので、出回るオカネの量を大幅に増やしてやれば、オカネとモノとの価値の関係がモノ優位になっていくだろうということです。たしかに人類の歴史で超インフレが生じた場合を見てみると、世の中に出回るオカネの量が増えすぎた結果だという場合が多いので、オカネの量が物価になんらかの影響を与えることは間違いないところだと思います。しかし、「世の中に出回るオカネの量を3%増やしたら、物価が3%上がる」というようなわかりやすい関係にあるわけではなく、「オカネの量が増えると物価があがる可能性が高まる」といった程度のものにとどまるようです。
 また、実際にはどうやって世の中に出回るオカネの量を増やすのかという問題があります。現在、日本銀行は思い切り気前よく銀行にオカネを貸していますが、それでも銀行の貸出は増えてこないため、オカネが銀行の金庫に眠っていて(実際には銀行が日本銀行に預金している部分が多いのですが、これは銀行の金庫に眠っているのと同じことです)、世の中にオカネが出回っていないのです。世の中にオカネが出回らない理由については2説あります。銀行に言わせれば、借金を返せそうな企業はオカネを借りにこない(=資金需要がない)ということですし、銀行に借金を断られた企業に言わせれば銀行が貸し渋りをしているということですが、いずれが正しいのかはともかくとして、日銀が銀行に貸したオカネが世の中に出回っていないことは間違いないわけです。
 それならばヘリコプターで日銀がオサツ(日本銀行券)をばら撒けばよいという人もいますが、日本銀行は「気前よく貸してあげる」ことはできても、「ただであげる」ことはできないので、ヘリコプターでオカネをばら撒くのは政府の仕事ということになります。すると、政府が借金をして現金を手に入れる必要がでてきます。これは財政赤字を一層拡大させることになるわけです。「財政赤字は拡大してもデフレをとめるべきだ」という考え方もあり、「政府といえども返せるあてのない借金を増やすべきではない」という考え方もあり、議論の分かれるところでしょう。(実際にはヘリコプターからばら撒くかわりに、貧しい人に配る、家を建てた人に補助してあげる、などの工夫も必要です)。
 学者のなかには、「デフレは貨幣的な現象である」という人がいます。簡単に言えば、「物価は世の中に出回っているオカネの量だけで決まるので、世の中に出回っているオカネの量を増やせばデフレは止まる」という考え方です。純粋理論的にはそういう面も否定はできませんが、世の中はそれほど理屈どおりに動くわけではありませんし、第一にどうやって世の中にオカネを出回らせるかという点についても学者が考えるほど簡単ではありませんので、ここでは「そういうことを言う学者もいるんだ」ということを覚えておいていただけるだけで充分だと思います。学者には失礼かもしれませんが、まあ「風が吹けば桶屋が儲かる」というようなものだと思っていていただいてよろしいのではないでしょうか。

デフレが止まると困る人は?up
 

 デフレが止まると困る人もいないわけではありませんが、それほど多いわけでもありません。まず、収入はないけれども貯金が巨額にあるという人は、デフレでモノが安く買えるようになって得をしていたのがなくなってしまいます。しかし、得がなくなるだけで、それほど損をするわけではありません。物価が上がった分は、今までよりも金利がもらえるようになる分である程度カバーされるからです。(巨額のタンス預金を持っている人は困るかもしれませんが、そういう人はあまり多くないでしょう)。
 デフレが止まると金利が上がります。これは、日銀が「あまりいつまでもゼロ金利を続けていると、将来インフレになってしまうかもしれないから、少しずつ金利を引き上げよう」と考えるからです。金利が上がると借金をして住宅ローンを借りている人などが損をするかというと、そうでもありません。デフレが止まれば、持っている家の価値は下がらなくなるし、給料も増えるでしょう。借金をして工場を建てた企業も、金利支払いは増えますが、製品が高く売れるようになるので、それほど困らないわけです。
 デフレが止まって金利が上がると困るかもしれないと思われているのは、意外なことに銀行です。銀行は、国債を大量に持っていますが、金利が上がると国債の値段が下がるので損をするというわけです。国債の値段が下がるのは、「新しく金利の高い国債が発行されると、昨日発行された金利の低い国債は誰も買いたがらない」からです。しかし、それほど気にする必要はないかもしれません。それは、デフレが止まれば景気がよくなり、土地の値段もあがり、銀行への借金の返済が出来なかった借り手が借金を返済できるようになる(不良債権問題が緩和される)可能性が大きいですし、デフレが止まれば株価も上昇し、銀行が大量に持っている株の価値が高まる可能性も大きいからです。
 今ひとつ意外なことに、デフレが止まって金利があがると政府が困るという考え方もあります。政府は巨額の借金をしていますから、金利があがると利払い額が増える一方で、借金の中のかなりの部分は赤字国債として借金の穴埋めに使われているので、物価が上昇しても「持っている資産の価値が高まる」という安心材料がないからです。しかし、結論から言えば、これもそれほど心配する必要はないでしょう。デフレが止まれば人々の給料が増えて所得税が増えますし、景気がよくなれば企業の収益が増えて法人税も増えるでしょう。土地の値段があがれば固定資産税が増えますし、土地取引が活発化すれば取引税も増えるでしょう。今ひとつ考慮する必要があるのは、人々の利子所得には税がかかるということです。人々が持っている預金や国債の金利があがれば、利子額の一定割合は税金として政府の収入になりますから、これも財政にとっては助かります。
 ここでご説明しておきたいのは、国債を発行している政府と国債を持っている銀行が、ともに「金利が上がって損をする」といわれている理由です。銀行については、既に発行された国債を銀行が持っている部分について、金利上昇で価格が下がることを心配する人がいる一方で、政府については今後あらたに発行する部分について国債の利率が高くなってしまうことを心配しているというわけです。

 さて、こうしてみると、デフレが終わって本当に困る人はそれほど多くないということがわかります。少数派である筆者の予測があたって日本経済がデフレを脱却しつつあるのだとすれば、それはまことに素晴らしいことだといっても過言ではないのかもしれません。

     
  以上です。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。 SEPl.2003記)
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