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景気の見方読み方
jul.03 2003.7.01
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もはやデフレではない?

はじめに
  日本経済がデフレであることは疑う余地の無いことだと信じられていますが、虚心坦懐に統計を眺めると、実は日本はすでにデフレから脱却しているのかもしれません。今回は、その背景などについても考えてみましょう。
消費者物価は下がっていない?up
 

 デフレか否かを判断する最も基本的な材料は、消費者物価指数が上昇しているのか下落しているのかということです。そこで、コア消費者物価指数の季節調整値(下に説明があります)をみると、なんとこの5月は昨年10月と同じ値になっていて、過去7ヶ月間の動きをならしてみると、横ばいで推移していたというわけです。
 消費者物価指数の前年比はマイナスが続いていますので、どうしてもデフレというイメージが拭えないのですが、季節調整値でみると、物価が下がっていたのは去年の10月までのことで、日本はもう半年以上も前にデフレから脱却しているということになるわけです。統計を前年比で見るのは便利なようですが、このように転換点に気づくのが遅れるという重大な問題点があることには充分注意する必要があるでしょう。
もちろん、これから再び日本の景気が悪化していけば物価がふたたび下落をはじめる可能性は決して小さくないでしょうが、反対に景気がそれほど悪化しなければ、あと数ヶ月で物価が前年比プラスに転じる可能性もあるわけです。そうした可能性があるということを頭に入れておくだけでも経済に対する見方が大きく変わってくるのではないでしょうか 。

景気は悪くない?up
 

 2001年は輸出の急減で景気が悪化し、2002年は輸出の急増で景気が回復したわけですが、このところ輸出数量(季節調整値)は半年以上も横ばいで推移しています。この間、構造改革の痛みにより公共投資は減り、不良債権処理は進展していましたから、景気には下押しの力が加わり続けていたはずです。企業がリストラに励んだためにサラリーマンの給与所得が減ったばかりではなく雇用不安が消費者心理を冷やしましたし、株価の低迷も人々の景況感に大きなマイナスとして働いていたはずです。
  筆者は、こうした認識に立ち、「輸出の一時的な増加の影響で景気は一時的に底支えされるかもしれないが、景気は基本的には相当悪くなると考えておくべきだろう」と考えていました。昨秋、金融担当大臣が交代してからは、構造改革の痛みが急増するとの懸念から、景気に対して一層悲観的になっていました。しかし、これは正しくなかったのかもしれません。
 筆者が誤っていたとすれば、考えられる要因は二つあります。第一は、財政再建や不良債権処理といった構造改革がマクロ的には当初予想されたほどの「痛み」をもたらしていないことです。今ひとつは、「リストラや構造改革の痛みへの不安」に基づく人々の過剰反応が薄れてきたことです。 <

構造改革は痛くない?up
 

 小泉政権の発足当時、財政赤字を30兆円に抑えるという目標を聞いたときは、「不況で税収が落ち込むと財政赤字が増えるので増税をして景気がさらに悪くなる」というスパイラルを予想しましたが、この目標はすでに放棄されていて、いまや財政赤字は40兆円にも達しようとしています。したがって、実際にはビルトイン・スタビライザー(景気が悪いときには税収が減って民間部門の所得の減少を和らげる効果など)が景気を相当程度下支えしていたのだと言えるでしょう。
 公共投資を減らすというのが小泉内閣の柱の一つでありましたから、これも景気を大いに悪化させると筆者は懸念していましたが、公共投資の減り方も、小泉政権以前から始まっていた減少基調が淡々と続いているだけで、政権発足後に急激かつ大幅な減少が起きているわけでもないようです。
 不良債権処理も、各銀行がバランスシート上で粛々と進めているペースは若干速まったのかもしれませんが、少なくとも景気との関連で注目される顧客との関係は劇的には変化していないようです。「不良債権処理を通じてダメ企業を退出させ、その従業員などを成長産業に振り向ける」ということが内閣の方針として謳われていますので、これが短期的な景気を大いに悪化させるのではないかと筆者は懸念していましたが、どうもそうなっていないようです。金融担当大臣がハードランディング主義者に代わってからも倒産件数が増えるどころか減っているということですから、筆者の懸念は杞憂だったのかもしれません。
 これを印象づけたのは、りそな銀行に対する寛大な御処置です。どこかの銀行が国有化されれば、金融担当大臣がハードランディング派を取締役に送り込み、借り手のダメ企業をすべて整理するだろうという過激なシナリオを筆者はおそれていたわけですが、それほど過激なことは起きそうもないことがわかってきたからです。
 筆者が景気見通しを弱気から中立に変更した最大の契機は、りそな銀行への御処置を見たからです。改革派も意外と現実的だということなのか、抵抗勢力が強くて思ったことが実行できないということなのか、いずれかの理由により、激痛を伴う改革は行われないだろうと思うようになってきたからです。
 このところ、株価が戻ってきています。米国株価の戻りに追随しているといった要因もあるのでしょうが、国内勢の買い意欲の深層心理には、「竹中ショックで売ってみたけれど、杞憂だったようだ」という安心感があるのかもしれませんね。

目が慣れた?up
 

 危険を感じたとき、亀は首を引っ込めます。そのまま外の様子をうかがい、何事も起きなければ、しばらくしてから恐る恐る首を出し、再び歩き始めるでしょう。日本人の消費者を亀に喩えるのは不適切かもしれませんが、昨今の消費の底堅さを説明するには亀の例が適切なように思えてなりません。
 97年に山一證券が消滅するまでは、終身雇用制度に支えられて自分の職は安泰だと多くの人々が考えていました。倒産や失業も皆無ではありませんでしたが、交通事故に遭ったような例外的な不運だと考えられていたわけです。しかし、旧山一證券のエリート社員たちが路頭に迷う姿が毎日報道されはじめると、人々は「もはや自分の職も安泰ではない」と考えはじめたのでしょう。「見たこともない敵であるリストラ怪獣」が出現したということで、自分が被害に遭う可能性に怯えて首を引っ込めていたというわけです。
 数年間が経過し、怪獣は相変わらず暴れていますが、人々の目が慣れてきて冷静に眺めるようになると、失業率はたかだか数%で、残りの人々は従来どおり(若干所得は減ったかもしれませんが)職についているわけで、怪獣に極端に恐れおののく必要はないということがわかってきたのではないでしょうか。
 「構造改革による短期的な痛み」についても同様です。長期的には構造改革という外科手術が必要だとしても、短期的な痛みはやはり嫌なものです。小泉政権が登場した当時、あるいは金融担当大臣がハードランディング派に交代した当時は、公共投資を減らす、不良債権を処理する、といった処置がどの程度の規模で行われてどの程度の痛みをもたらすのか、わからなかったために「とりあえず首を引っ込めて様子を見た」ということでしょう。怪獣が出現したが、大きさも強さもわからなっかたのですから、とりあえずの反応としては当然だと言えるでしょう。時間の経過とともに、怪獣の全容がイメージできるようになり、しかも破壊力はそれほど大きくなさそうだということがわかってきたわけですから、消費者が首を出して歩き始めたと考えても不思議はないでしょう 。

景気は横ばい?up
 

 先入観を取り除いて冷静に見て見ると、昨年度に比べて今年度の方が景気にプラスに働きそうな(またはマイナスに働く力が弱そうな)要因は少なからずあります。企業収益が史上最高をうかがう中で、リストラの勢いは衰えつつあり、サラリーマン平均でみた年収の減少幅は昨年度よりも小さくなるものと予想されます。上記の「消費者の目が慣れる」という効果は今年度も持続するでしょう。対ドルの為替相場は政府が死守して円高を防いでいますし、対ユーロでは大幅に円安となっていますから、これも少しはデフレ阻止要因として、また企業収益押し上げ要因として働くでしょう。企業の設備投資も、少しは出てくるかもしれません。現在の設備投資がマクロ的に見て減価償却の範囲内にとどまっているということは、ラフに言えば更新投資をようやく行えているに過ぎないということですから、企業収益が最高、金利が史上最低、しかもデフレ傾向が弱まりつつあるとすれば、前向きな投資も少しは出てくる可能性があるからです。
 もちろん、景気に悪い材料を挙げれば、こちらもきりがありません。米国の景気はパッとせず、公共投資は減り続けるでしょうから、景気を回復させる外的なインパクトには期待できないでしょう。不良債権の処理は今年も淡々と行われ、景気の下押し要因となるでしょう。失業率も高く、年金などの将来不安も大きいままです。しかし、こうした下押し要因は昨年度も存在したことに留意が必要です。昨年度はこうした悪材料にもかかわらずプラス成長を遂げており、今年もそうならないという保障はないでしょう。
 昨年度に比べて今年度の方が景気にマイナスに働く要因としては、在庫循環が下を向きそうだということと、ラチェット効果(所得が減っても消費は急には減らない効果)がタイムラグを経て今年度の消費を押し下げるかもしれないといったところでしょうかい。
  こうしたことを総合的に考えると、今年度の景気は低水準横ばいといったところではないでしょうか 。

おまけ:コア消費者物価指数の季節調整値とはup
 

 消費者物価指数とは、消費の対象であるさまざまな財やサービスの価格が全体として上昇しているのか下落しているのかを示す統計です。全部の品目について集計すると、変動のはげしい生鮮食料品の動きがいたずらをして本当の姿が見えなくなってしまう場合があるので、「生鮮食料品以外の財とサービスについて集計した値」も発表されています。これを「コア消費者物価指数」と呼びます。ここでは、コアの指数について見ていくことにしましょう。
 コア消費者物価指数は、毎月の物価を示すものですが、これを前の月と比べて物価が上がったとか下がったとか判断するのは若干危険です。物価が上がりやすい月と下がりやすい月という季節性があるからです。そこで、通常は「前の年の同じ月の物価指数と比べて上がったのか下がったのか」を比較することになります。そうすれば、季節性について気にする必要がないからです。世の中で「消費者物価の前年比は○○ヶ月連続でマイナスだった」と言われているのは、こういう計算をした結果です。
 しかし、季節性を気にしなくてよい方法が今ひとつあります。季節調整値という統計を見ることです。これは、「4月というのは物価が上がりやすい月なので、4月の消費者物価指数から0.2%引いた値が4月の実力ベースの物価だと考えてよいだろう」という調整をした後の統計と言えるでしょう。この数字であれば、前の月とくらべて物価が上昇したか下落したかを比べてみても問題はないということになるわけです。

 

 以上です。りそな国有化以後、急に見方を変えたので、自分でも未だ半信半疑なところがありますが、週刊東洋経済のインタビューでも「デフレは終わったかもしれない」などと喋ってしまったので、その背景となる見方を御披露させていただいたものです。
 なお、本稿のなかで構造改革に否定的と読まれそうな表現を用いましたが、これは「今年の景気にプラスかマイナスか」という意味で用いたものであり、筆者が構造改革に反対しているということを意味するものではありません。

     
  今回は以上です。。なお、上記は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示す
ものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。 (Jul.2003記)
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