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景気の見方読み方
Nov.01

2002.11.1

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日本の景気について

はじめに
 

 今回は、雑誌への投稿のために原稿を書きましたので、ご紹介します。最終的には米国のものを用いましたが、日本の景気についても2本の原稿を用意しましたので、あわせて御紹介します。

日本経済の問題は需要不足。性急な不良債権処理は危険
 

 日本経済が低迷している主因は需要の不足であって、不良債権問題ではない。実際、不良債権は癌というよりも盲腸に近い存在だと言えるだろう。しかるに小泉内閣は、不良債権の処理を日本経済再生の第一歩であるとして、これを加速させようとしている。需要の創出に注力せずに性急に不良債権を処理するのは、貧血症の患者に輸血も麻酔もせずに不急不要の盲腸摘出手術を施すようなものである。
 小泉内閣の趣旨が「積むべき引当金を積んでいない銀行がある」ということだけならば、厳格な検査を行なって必要なだけ引当金を積み増させればよいし、その結果公的資金がはいろうと頭取が辞職しようと景気には影響がないので、本稿が案ずる事ではない。
 しかし、小泉内閣は「銀行が不良債権を持っていること」と「不採算企業が生き残っていること」が日本経済の不振の原因だと考えて、不採算な借り手を整理する方針のようである。これは、日本経済の現実を直視しない、危険な選択と言わざるを得ない。
 銀行サイドの問題について、小泉内閣は「不良債権があるから銀行が貸し渋っており、これが不況の原因だ」と考えているようである。しかし、日銀短観などをみると、「銀行は貸し渋っていない。銀行が優良先に貸したいという意欲は不良債権があっても変わらないが、信用力のある借り手に資金需要がないから融資額が伸ばせないのだ」という方が現実に近いように思われる。筆者個人としても、「銀行に貸し渋られた企業」に自分の虎の子を貸してみる勇気はないので、銀行の貸し渋りを批判するつもりも資格もない。
 更に問題なのは、「銀行が不採算企業を延命させているから日本経済が活性化しないのだ。不採算企業を整理すれば、資金や労働力などが効率的な成長産業に流れるだろう」という小泉政権の考え方である。
 こうした考え方は、米国では機能し得るが、日本では逆効果となろう。米国は基本的に需要超過の国、日本は基本的に供給超過の国、という本質的な違いがあるからである。
 違いの第一は、米国では例外時を除いて資金も労働力も不足気味で、その有効な活用が優先課題であるが、日本では例外時を除いていずれも余っているということである。
 現在でも、銀行は国債を買わざるを得ないほど資金を持っているし、失業者は多勢いる。このうえ不採算企業を整理して無理矢理に資金を回収したり失業者を増やしたりしなくても、効率的な成長産業に資金需要や雇用ニーズさえ出てくれば、いくらでも応じることができるだろう。すなわち、不採算企業の存在は、日本では成長産業の制約条件とはなっていないのである。
  日本では、「効率的な産業に資金や労働力を投入して経済全体の生産性を高め、供給力を増やす」という必要性が米国よりも低いということにも留意が必要であろう。需要不足の国で供給力を高めても、それは供給超過幅を広げるだけであって「需要と供給の均整のとれた健全な成長」には結びつかないからである。
 第二の違いは、更に重要である。不採算企業の整理で一時的に失業が増えた場合に、米国では金融緩和により景気が回復し得るが、需要不足の日本ではむずかしいのである。
 米国では、通常時には金融政策により需要を抑制しているので、需要後退期に金融を緩和すれば需要は自然と回復する。一方日本では、金融は極限に近く緩和されているのに需要が不足しており、政府が景気刺激型財政出動に消極的であるなど、需要回復の道筋は見えにくい状況にある。
 こうしたなかで不採算企業を整理すれば、「失業者が増え、消費がおち、一層生産が減り、ますます失業者が増える」、「不況が企業収益を悪化させ、銀行の不良債権がかえって増加する」、といった悪循環を招くだけに終わる可能性が大きい。欧米経済にも翳りが見えるなか、日本の景気はまさに内憂外患と言えよう。

明るい材料に欠ける日本経済。不良債権処理が命取りにup
 

 日本の景気には明るい材料がほとんどない。強いて挙げれば輸出の好調だが、これも今後は減速が見込まれる。一方で暗い材料には事欠かない。
  まず、最大の需要項目である個人消費は不振を続けている。所得面でも消費者マインド面でも好材料は見当たらず、今後の回復も期待しづらい。
 雇用者数が増えないなかで企業が正社員からパートへの移行を進めていること、賞与をきびしく抑制していること、などを考えると、今後も雇用者所得の回復は見込みにくい。くわえて、失業への不安や株価の低迷などから消費者マインドの回復も見込まれないため、今後についても個人消費は低迷する可能性が高い。
 住宅投資も、バブル崩壊後の相次ぐ促進策で需要が先喰いされており、雇用不安やデフレ懸念も下押し要因となっているため、現在も低迷しているし、回復も見込みにくい。
  設備投資は、生産の一時的な回復にもかかわらず、需要の先行きが不透明なことから低迷している。今後についても、輸出の鈍化を前提とすれば、明るい展望は描きにくい。
 公共投資は財政再建路線のなかで減少基調を続けており、今後も一層減る見込みである。
  輸出は足許好調であるが、これは米国の在庫変動に起因する一時的なものであり、先行きは鈍化が見込まれる。更に悪いことに、米国経済は「バブル崩壊後の緩やかながら長い下降局面」にある可能性が高い。在庫変動による一時的な生産増が一服しつつあるなかで、米国景気の先行きは相当不透明だと言えよう。
 以上のように、日本の景気は下降局面にあると思われるが、景気というものは、ひとたび悪化をはじめると、生産減→雇用減→所得減→消費減→生産減といったスパイラルに陥りやすいものである。したがって、輸出増が期待薄だとすると、政府支出によってスパイラルが断ち切られるまで悪化を続ける可能性が高い。
 こうした中で、小泉政権は財政再建路線を堅持し、需要喚起策には申しわけ程度の配慮しかしていない。近々デフレ対策が発表されるらしいが、政権の基本的な姿勢を考えれば期待薄である。
  金融はすでに極限近くまで緩和しているし、これ以上緩和しても景気回復にはつながらないだろう。資金需要がない時の緩和は「喉の渇いていない馬に水を飲ませる」ような難しさがあるからである。
 何よりも悪いことに、不良債権の処理が加速される模様であり、これが非常に大きなデフレ圧力となることが懸念される。実際に倒産する企業も多いと思われるし、それ以上に「我が社も倒産するかもしれない」と皆が思うことが経営者心理や消費者心理に悪影響を与えるからである。
 「生産性の低いダメ企業が退場すれば、失業した労働者が生産性の高い企業に雇われて、日本経済全体の生産性が上がる」というサプライサイド的な考え方が小泉政権の経済政策の根底にあるようだが、日本の実情を考えれば妥当とは言い得ない。
  日本は需要不足の国である。サプライサイドの政策で供給力を伸ばしても、需要が伸びなければ経済成長にはつながらず、需給ギャップが拡大するだけに終わるであろう。
 不良債権は盲腸と同じで、「あるより無い方がよい」が、癌ではないので、焦って除去する必要はない。しかし、これを癌だと信じる医者が、患者の体力も考えない大規模な手術を行なおうとしている。しかも痛み止めも輸血もほとんど行なわないようだ。
 下手をすると、不良債権処理→景気悪化→不良債権増加といったスパイラル、不良債権処理→担保処分の増加→地価の下落→銀行の回収可能額の減少といったことになり、これが本格的な貸し渋りを招くことにもなりかねない。
  可能性は低いが、経済が文字通り底割れしてしまう可能性も皆無とは言い切れない。危険な賭けに挑む以上、せめて緊急時に備えた対策を政府が用意してあると期待したい。

米国経済はバブル崩壊過程。緩やかながら長い下り坂にup
 

 米国の景気は、V字型回復という大方の予想に反し、低空飛行を続けている。ここに来て、ようやくバブルの陶酔感から目がさめた人が増え始め、「あれはニューエコノミーではなくバブルだった」と認める人が増えてきたようだ。
 米国経済がバブル崩壊の過程にあるとすると、回復をはじめるまでの道のりが遠いことは覚悟すべきだろう。グリーンスパン議長の巧みな調整によってバブルの急激な破裂は防がれているが、それが故にバブル部分が消滅するまでに長期間の調整を要するということである。同じ高さから降りるのに、ハードランディングを避けるために緩いスロープを設ければ、それだけ下降の期間は延びるといったイメージであろうか。
  今年の前半には、「米国景気はすでに回復過程にはいった」という見方も多かった。しかし、最終需要が回復しない中で、在庫の変動に起因する一時的な生産の増加が生じていただけで、本当の景気回復ではなかったようだ。
  米国経済には、底堅い家計部門と不振を続ける企業部門が並存しており、「家計部門が底堅い間に企業部門が回復するのか、企業部門が回復をはじめる前に個人部門が失速するのか」が注目されている。
  株価が大幅に下落し、失業率も上昇しているにもかかわらず、家計部門は消費も住宅も底堅く推移している。金融が緩和されていること、給料水準が上昇を続けていること、住宅価格の上昇が続いていること、米国人の国民性が日本人と比べて楽観的であること、などが要因として挙げられる。
  日本人の感覚では理解しづらいが、「住宅価格が上昇し、担保価値が増えたので、その分だけ住宅ローンを借り増して消費しよう」という行動が消費を支えている面も強いようだ。こうしたキリギリス的な行動により、貯蓄率はバブル崩壊後も歴史的な低水準を続けており、これが景気の底割れを防いでいるわけである。
 もっとも、現在の底堅さにはタイムラグによる部分も多いため、時間の経過とともにこれが剥げ、家計部門も減速してくる可能性が高い。
 第一に、株価の変動が逆資産効果により消費を抑制するまでには二年程度のタイムラグがあるという説がある。株価が下がる一方で住宅価格が上がっているのも、タイムラグかもしれない。日本のバブル崩壊時も、株価が先に下がったことと同様であろう。労働需給が緩んでいるのに賃金が上昇を続けているのもタイムラグの要因が大きそうだ。
  一方で、企業部門が近々立ち直る可能性は大きくない。売上の不振から生産活動は鈍く、売値が抑制されている一方で賃金が上昇しているために企業収益は低調である。加えてバブルの後遺症として過剰な設備と負債を抱えている企業が多いこともあり、設備投資の誘因は乏しいと言える。企業会計不信などにより企業の経営者マインドが萎縮していること、資金調達環境が悪化していること、なども影響するだろう。
  財政による景気の下支えも期待しずらい。財政が赤字に転落している上に、そもそも景気のための財政出動という発想が乏しい国だからである。
  以上を総合すると、米国でも需要不足による不況が続くかもしれない。「米国経済は生産性上昇率を維持しているので、まもなく回復ペースが戻る」という見方もあるが、生産性といった供給サイドの強さは、需要不足期には成長に結びつきにくいだろう。
  もっとも、キリギリスの経済をアリである筆者が予測することには限界もある。予想に反し、景気が落ち込まずに回復に向かってしまう可能性も否定はできないだろう。
  その場合には景気拡大に伴なって株価も再び上昇し、「高すぎる株価、低すぎる貯蓄率、大きすぎる経常収支赤字」という米国経済の三大構造問題が「先送り」されてしまうということになるのだろう。世界経済にとっての本当のリスクはこちらの方かもしれない。

     
  今回は以上です。私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。 (Nov.2002記)
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