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景気の見方読み方
Oct.01

2002.10.1

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アリとキリギリス

はじめに> <あとがき>  <あとがき2


はじめに
 

 週刊東洋経済に、童話を寄稿させていただきました。童話のプロが文章の手直しやイラストを担当してくださり、仕上がりは見違えるほどすばらしくなったのですが、著作権の問題もありますので、今回は私の書いた原文をご紹介いたします。

 

 アリの国に、勤勉で倹約家の王様がおりました。アリたちは王様を見習って勤勉に働き倹約につとめましたから、国の経済は大いに栄えていました。アリの王様は大いに満足し、国中を走り回ってはアリたちに一層勤勉に働き倹約に努めるように毎日命令していました。
 隣はキリギリスの国でした。キリギリスたちは、それほど勤勉でもなく倹約家でもありませんでしたが、豊かな土地と自由な雰囲気にあふれた国で、キリギリスたちは豊かで気ままな生活をエンジョイしていました。
 アリの王様は、キリギリスの王様に言いました。「国民が勤勉で倹約家でないと、経済が貧しくなりますぞ。わが国を見習われては如何でしょう?」キリギリスの王様が言いました。「大丈夫ですよ。『みんなで使えばこわくない』と言うではないですか。今までも困っていないし、これからも困ることはないでしょう。」

 アリたちは王様の命令に忠実でした。今まで以上に勤勉に働きましたから、今まで以上のパンが作られましたし、今まで以上に倹約しましたから、今まで以上に少ないパンで生活できるようになりました。しかし、困ったことがおきました。作ったパンが大量に売れ残り、腐ってしまうパンが増え始めたのです。
  アリの王様は焦りました。「勤勉と倹約は良いことだ。これを止めろとは言えない。しかし、国民が勤勉と倹約を続ければ、ますます多くのパンが腐ってしまうだろう」。そこで王様は、「皆が勤勉と倹約に努めたため、充分なパンが出来るようになった。褒美として抽選にあたったアリに長期休暇を与える」というおふれを出しました。休暇をもらったアリたちは、喜ぶどころか給料がもらえないことを悲しみ、更に一層倹約に努めました。働いているアリたちも、「次は自分が給料をもらえなくなるかもしれない」と考えて一層倹約に努めました。こうしてパンの売上が一層減ったため、作られたパンの量が減ったにもかかわらず、残って腐るパンは減りませんでした。
 王様はますます焦り、ますます多くのアリに長期休暇を与えましたが、同じ事でした。アリたちが一層倹約したため、残って腐るパンは減らなかったのです。こうしてアリの国は貧しくなっていきました。
 ケインズという経済学者が「王様が借金をして休暇中のアリを雇い、穴を掘ったり埋めたりさせればよいのです」と言うので王様はそのとおりにしました。すると王様に雇われた大勢のアリたちは給料がもらえたのでパンを買うようになりました。パンが足りなくなったので、休暇中だったアリたちがふたたびパンを作りはじめ、アリの国はもとのように豊かになりました。王様はしばらく喜こんでいましたが、やがて自分の借金が巨額に上っていることに気がつくと、穴掘りを止めてしまいました。すると、穴掘りのために働いていたアリたちが仕事がなくなり、給料がもらえなくなり、再び倹約をはじめ、・・・という具合に、アリの国はまた貧しくなってしまいました。

 一方、キリギリスの国では、キリギリスたちが大量にパンをたべる一方で、それほど真剣に働くキリギリスもいなかったので、パンが余って困ることはありませんでした。したがって、キリギリスたちは自分で働きたいと思った分だけ働き、給料をもらい、それを全部使って楽しく暮らしていました。だれも貯金などしませんでした。「生活に困ったら働けばいいんだ」という安心感がありましたから、将来に備えて貯えておく必要を感じなかったからです。じっさい、いつでも贅沢がしたければ多く働いて給料を稼いで贅沢をすることができましたし、いつでものんびりしたければ働く量を減らして少しだけ贅沢を我慢すればよかったのです。
  あるとき、キリギリスたちは、働いた以上に贅沢をするために、アリたちからパンを買うことにしました。お金はありませんでしたから、アリたちから借金をしてパン代を払うことにしました。アリたちは、倹約をしていたおかげで貯金をたくさん持っていましたし、栄えているキリギリス国を見て「この国におカネを貸せば、将来大きくなって戻ってくるかもしれない」と考えたため、気前よく貸しました。
  アリの王様はこれをみて喜んでいました。アリたちが働きすぎるとパンが出来すぎて余ってしまうのですが、これをキリギリスが買ってくれるならば、パンが余ることがなくなり、アリたちが全員働くことができるからです。実際、アリたちには仕事が増えて給料も増え、少しずつ豊かな生活が戻ってきました。王様がもう一つ喜んだことは、キリギリスにおカネを貸しておけばアリたちが老後の生活に困ることもないということです。アリたちの老後のためには、倉庫にパンを貯めておくよりもキリギリスたちにおカネを貸しておく方が、腐る心配もないし、ずっと安心だったのです。

そんなある日、アリの王様は夢を見ました。キリギリスたちが「俺達はアリ国からたくさん借金をしているが、これほど巨額の借金はとても返済することが出来ない。返さないことにしよう」と相談している夢です。王様はびっくりして飛び起きましたが、キリギリスたちが借金を返さないはずがないと自分に言い聞かせて、安心して再び寝ました。すると、今度は別の夢を見ました。キリギリスたちが「アリ国に借金を返さなくてはならない。まず、これ以上アリから借金をするのはやめよう。これからはアリの作ったパンを買うことが出来ないが、我慢しよう。それから、出来れば大いに倹約して作ったモノが余るようにして、余った分をアリたちに買ってもらおう」という相談をしているのです。王様はふたたびびっくりして飛び起きました。そんなことになったら、アリたちの働き口がなくなって、アリ国はふたたび貧しくなってしまうではありませんか。
 すっかり目が覚めた王様は、考え込んでしまいました。「どちらの夢もアリ国にとっては悪夢だ。しかし、このままキリギリスたちの借金が膨らんでいけば、どちらかの悪夢が正夢になってしまうだろう。どうしてアリ国はこれほど困難な事態に陥ってしまったのだろう」。しばらく考えた後、王様はつぶやきました。「1匹だけが勤勉で倹約家ならば、そのアリは豊かになれるだろう。しかし、国中のアリが勤勉で倹約家だと、国中のアリが貧しくなってしまうのだ。経済の神様は何という悪ふざけをなさるのだろう」

それから王様はどうしたのでしょう?記録が残っていないので、はっきりしたことは言えませんが、一説によれば、国中を歩いて「贅沢のすすめ」を説いてまわったということです。もっとも、キリギリスたちも借金が返せずに大いに苦労したということですから、倹約のしすぎも贅沢のしすぎも困った結果に終わったのでしょう。「過ぎたるは及ばざるが如し」というわけでしょうか。

あとがきup
 

 日本経済が長期不況に苦しんでいる理由として、構造問題の存在や、不良債権処理の遅れなどが指摘されていますが、どうもそれだけでは説明できないように思います。もっと根本的な原因がありそうです。
  もしかすると、意外なことに、日本人が「勤勉と倹約」に励みすぎていることが原因ではないでしょうか。皆が正しいことをすると悪い結果を招くという「合成の誤謬」が生じているのかもしれません。
 本当にそうならば、今まで正しいと信じて実践してきたことが否定されているようで、ショックですね。

 (注)抽選という表現は、失業した人が悪いのではなく、不運だったということを示したつもりです。

 (注)本当のケインズは、アリではなく人間に、「不況の時は政府が借金をして失業者を雇って穴を掘らせるべし」と教えています。

東洋経済に送った原稿は、ここまでですup
 

 東洋経済に送った原稿は、ここまでです。
  読めば読むほど、日本経済の先行きは、どうみても明るくないという結論になってしまいそうですが、それほど悲観することはないでしょう。「好況も不況もあるが、総じて不況の方が長い」といった状況が、当分の間つづくイメージではないでしょうか。
  一方で、数年のうちに景気が本格的に回復する可能性もないとは言えませんが、従来の発想ではむずかしいかもしれません。
  財政が再度出動して公共投資を行なえば景気はよくなるでしょうが、それは財政赤字を増やすということで、あまり人気のある政策にはならないでしょう。
  構造改革は、サプライサイドの強化には有効かもしれませんが、供給超過の国においては、どこまで経済の活性化に役立つのかわかりませんし、短期的な需要の下押し効果も懸念されるでしょう。
  数年のうちに景気を本当によくしようと思うならば、もう少し発想を変えて、民間の需要を喚起する必要があるでしょう。そのあたりは近いうちに佃氏のアイデアをうかがうことにいたしましょう。

     
  今回は以上です。私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。 (Oct.2002記)
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