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景気の見方読み方
jun.02 2002.6.03
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埼玉大学講義録--「経済事情」について

はじめに up
 

 4月から埼玉大学の非常勤講師として「経済事情」を担当していますので、今回は講義の様子をご紹介します。内容は本文のとおりですが、何よりも学生が真面目で礼儀正しいことに驚いています。将来は大学の先生になりたいと思っており、今回はじめて教壇に立ってみたわけですが、現在までのところ、大変満足しています。

講義の概要 up
 

 前半の数回は、戦後日本経済の復興、発展、バブル、低迷などについて、簡単に振り返りました。もっとも、質問に答えたり脱線したり、広く経済事情を説明しましたので、かならずしも下記の配布資料に沿った講義とはなりませんでしたが。
  付帯的な説明としては、「所得が増えた時に素直に消費を増やすのは、金持ちよりも貧しい人である。したがって、農地解放などの経済民主化が高度成長の遠因であったと言える」といったところからはじまって、「インフレは賃金上昇やインフレ期待などを通じてスパイラル的に加速していくから、政府にとってはインフレ抑制が重要な政策目標となる」「インフレ抑制のためには利上げをして政府が景気をわざと悪くする」といったことを、適宜解説していきました。

 

 質問としては「銀行がつぶれるって、どういうことですか?」「為替レートや株価などの決まり方を教えてください」といったものをはじめとして、多数寄せられました。
  銀行の倒産については、取り付け騒ぎによる資金繰り倒産の可能性と不良債権問題などに伴なう債務超過転落の可能性について説明しました。バランスシートというものの説明からはじまって、不良債権に対する引当金を積むと自己資本が減るという話をしましたが、そこから脱線して、不良債権が増えるとBIS規制比率が満たせなくなり、「貸し渋り」が生じかねないといった話などにも発展しました。
  為替については、貿易を通じて決まる部分、投資を通じて決まる部分、期待と思惑が影響する部分、などがあることを説明し、市場は美人投票であるから短期的な動きは予想困難だが、結局は当局の介入などによってファンダメンタルズから規定される一定の範囲に閉じ込められているといった話をしました。
  株価については、株式会社というものについて説明し、金利と配当の裁定によって株価が決まるという基本的な考え方を説明したあとで、市場モノは思惑などで決まる要素も大きいので理屈どおりには行かないということを付け加えました。さらに、世の中は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」であるから、市場参加者に対して情報か分析力で優位に立っているのでない限り、株式投資で儲けようという試みにはそれなりのリスクが伴なうのだという旨を説明しました。
  その他、「経済が成長すると環境が破壊されるといったことを、どう評価するのか」といった質問も多かったのですが、真の豊かさを測る統計を作るのは難しいといった話をしただけで、的確な答えは出せませんでした。「銀行が合併すると、だれにとってどういう良いことがあるのですか?」という質問も、真面目に考えると時節柄もあり立場上もあって答えるのが結構むずかしかったので、「長い間にはコスト削減効果が出ると期待される」といった苦しい答えをしておきました。
  また、「銀行のお仕事」という題で、私自身の銀行業務の経験を話すことに1コマを使いました。預金部では日銀口座を通じた他行との手形決済の話や何故預金を集めると収益に貢献するのかといった話、外為部では海外送金に伴なう銀行間決済と銀行の為替ポジションの話、営業部では審査の話、担保の話などに加えて、製品差別化の出来ないオカネを貸し出すための差別化の苦労、などについて話しました。
  後半は、テキスト(経済初心者のための景気の見方・読み方)を解説していこうと思っていますが、教科書の棒読みではつまらないので、適宜脱線などをしていきたいと考えています。
  全体として、学生の中でも、経済に関する理解度には幅があると思いましたので、経済というものを全くはじめて学ぶ学生を対象とした講義にしました。一例としては、以下の感じです。

  これまで、為替相場などの「市場モノ」はケインズの言う美人投票の世界であって、市場参加者たちが「他の市場参加者が何をするのか」にばかり関心を持っているのだということを説明してきました。では、実際の為替がどう決まるのか、考えてみましょう。
  為替相場がどう決まるのかというのは、大変むずかしい問題です。非常に大きな考え方としては、日本と米国のモノの値段が同じになるように為替相場が決まると考えてよいでしょう。パンの製造コストが日本で100円、米国で1ドルだったとしましょう。一ドルが200円だったら、日本のパン屋が米国にパンを輸出して1ドル受け取り、これを銀行に200円で買ってもらうでしょうから、日本のパン屋は大儲けですね。しかし、銀行としては、パン屋から買ったドルを金庫に入れておいても仕方ないので、200円以上で誰かに売らなければいけません。 ところが、1ドルが200円だと、米国のパン屋が日本に輸出して円を受取るということが起こらないため、誰も円をドルに換えたい(つまり銀行の持っているドルを買いたい)と思っている人がいないわけです。そこで銀行は反省して、パン屋に対して「明日からは1ドル100円でしか買わないから」と通告します。1ドルが100円ならば、日本のパン屋の米国への輸出が減り、米国のパン屋の日本への輸出も始まりますから、銀行は日本のパン屋から買ったドルを米国のパン屋に売り、皆が満足できるというわけです。昔、外貨預金が禁止されていた当時の為替レートはこうして決まっていたわけです。
  ところが、今は外貨預金が許されています。円預金の金利がほとんどゼロなので、外貨預金をしようという日本人も大勢います。すると、1ドル110円でも200円でも銀行からドルを買う人がたくさんいるわけです。銀行は日本のパン屋から買ったドルを外貨預金をしたがっている人に売ればよいわけですから、1ドルが100円である必要がなくなってしまったのです。では、1ドルが500円になることはあるのでしょうか?1ドルが500円でも外貨預金をする人が多ければ、そういうことは理屈上あり得ますが、実際には500円になることはありえないと考えてよいでしょう。
  仮に1ドルが500円だとすると、米国で売られるパンはすべて日本からの輸入になってしまうため、米国のパン屋が倒産してしまいます。そうなる前に米国パン屋連盟は米国大統領に直訴しに行くでしょう。米国大統領もパン屋が全部つぶれては困るので、為替市場に介入して1ドル100円に近づけようとするでしょう。米国の大統領が、いつ介入しようと考えるのかは、はっきりしません。101円なら介入しないでしょうし、500円なら絶対に介入するでしょうが、その間にある時は、だんだんに介入する可能性が高まっていくとしか言えないわけです。いずれにしても1ドルが500円になることは考えにくいということはわかっていただけたと思います。
  実際には、事態は更に複雑です。1ドル500円でドルを買って外貨預金をした人は、米国の為替介入によって1ドルが100円になってしまうと、大損です。金利は高くもらえたとしても、ドル建てで増えた金額を円に換える時に大きく損をするからです。したがって、1ドルが500円に近づくと、「500円になると大統領が介入する可能性が高い。したがって、今外貨預金を作るのは危険だ。前に作った外貨預金も解約しておいた方がよさそうだ」と考える人が増えてきます。こうした人は、500円に近づくずっと前からすこしずつでてきて、ドルが高くなる(500円に近づく)につれてだんだん増えてくるわけです。
  こうなると、先に説明した美人投票の世界です。「自分以外の人も、ドル預金を続けることが危険だと考えはじめているようだ。他人が外貨預金を解約すると、米国が介入しなくても円高になり、私の外貨預金が損をしてしまうだろう。他の人が解約する前に解約しておいた方がよいかもしれない」と考える人が増えてくるわけです。こういう考え方をする人が大勢いるときに、大口投資家の一人が外貨預金を解約したりすると、皆が一斉に外貨預金を解約し、ドルを売りたい人が銀行に殺到し、一夜にしてドルの値段が大きく下がる場合も少なくありません。
  こうして、ドルと円の為替レートは、見ている人にはよく理解できないような動きをするというわけです。為替レートが理解できない動きをすることで、私たちエコノミストは為替レートの予測をしばしば間違えます。都合がわるいのは、為替レートの動きが景気に影響しますから、為替レートの予測を間違えると、景気の見通しも外れてしまうということです。恨んでもしかたないのですが、為替レートというのはエコノミストにとって、本当に大きな頭痛の種なのです。

配布資料 up
  タイトル
「経済事情」について
 

開講日時:前期。水曜日3,4時限
教科書 :図解 経済初心者のための景気の見方・読み方
講師  :塚崎公義(財団法人国際金融情報センター調査企画部長)
ホームページhttp://www.tsukasaki.net、e-mail keizai@tsukasaki.net

(内容)

  1. 経済というものに興味を持ってもらうことを目的とする
  2. 就職するに際し、あるいは就職した後に、最低限しっておきたい日本経済の常識を身に付ける
  3. 景気の動き方などについて、教科書を用いて学んだのち、実際の経済指標の動きについて考察する
    ――経済学という学問よりも、実際の経済の動き方を見る。学者の視点ではなく、マーケットの視点でもなく、エコノミストの視点を中心に

(形式)
講義形式。ただし、学生の質問は歓迎し、質疑応答の時間は充分にとる。

前半数回は、戦後日本経済の歴史と現状について、その後は景気の見方について学ぶ予定であるが、学生の関心、質問の状況などにより、柔軟に対応する。

(評価)
出席はとらない。評価対象はレポートのみ。8月5日までに学務係に提出。 手書禁止、A4サイズ3ページ以内、片面印刷。

最近の景気について、3000字以内で論じよ。他人のレポートの引用ではなく自分なりの見方を記すこと。その際に教科書のどの部分を参考にしたかを記すこと(教科書と異なる見解を採る場合には、教科書の記述を批判的に論じること)。なお、自分の見方と相反するレポートなどを簡潔に紹介し、それに対する反論を試みることは義務ではないが、加点の材料にはなり得る。経済に対する理解度のみならず、レポートとしての文章力も採点の対象とする」

1.戦後経済史の概要up

 

戦後復興期 1945年〜1955年ころ--終戦後の混乱期から復興
 
  • 米国の援助で飢えをしのぐ状況:都市の荒廃と農村の人口吸収
  • 超インフレ(生産力の落ち込みと通貨供給量の増加)とその抑制
  • 財閥解体、農地解放などの経済改革、傾斜生産方式による生産力の復興
  • 49年のドッジライン(財政均衡化、単一為替レート設定など)で不況に
  • 50年の朝鮮戦争による特需で外貨と需要を獲得、復興が本格
高度成長期 1955年ころ〜1973年--平均9%超の実質成長率
 
  • 需要面は自由貿易主義に乗り輸出が好調、経済民主化で個人消費が活発
  • 供給面は技術革新、都市労働力人口の増加、労働力の優秀さなどで増加
  • 設備投資の好調が、需要面にも供給面にも寄与
  • 制約は国際収支の天井と労働力不足。歪みは公害問題、インフレなど ・ 高度成長の終焉は石油ショック

 

安定成長期 1973年〜1986年ころ--世界経済の重要なプレーヤーに
 
  • 重厚長大から軽薄短小へ産業構造を転換。国際的な非価格競争力が向上
  • 円高、第二次石油ショックを乗り越えて、経済は安定的に成長
  • プラザ合意で国際分業が大きく進展。製品輸入、対外直接投資が増加

 

バブル期 1987年ころ〜1990年ころ--株価と地価が高騰
 
  • 永遠の繁栄を信じた投機。金融緩和と日本経済の強さが背景に
    ――円高による物価安定で金融引締めが遅れた面も
  • 日経平均4万円直前。日本の土地で米国全土が買える計算

 

バブル後遺症期 1990年ころ〜
 
  • 株価、地価が低迷、景気も低迷、国民も自信喪失
  • 三つの過剰(負債、設備、人員)が景気を圧迫
  • 銀行は不良債権を抱えて弱体化
  • 96年の景気好調を、バブル後遺症の一服と考えるか否か、議論あり
  • 日本的経営、日本的官僚統制の変質。グローバルスタンダード志向
  • 少子化・高齢化の影響も加わり、先行きの展望が描きにくい時代
2.付表:戦後日本経済の主な出来事 up
45.08.15 終戦。以後、GHQによる民主化が始動
46.12.27 傾斜生産方式決定
49.03.07 ドッジライン提示(超均衡予算、インフレ対策、為替レート設定)
50.06.25 朝鮮動乱勃発。以後、戦争特需で復興が軌道に
51.09.08 平和条約調印。日米安保条約調印。西側の一員として再出発
56.07.17 経済白書「もはや戦後ではない」
60.12.27 国民所得倍増計画(池田内閣)。政治の時代から経済の時代へ
64.04.01 IMF8条国へ移行。同月28日にOECDに加盟
64.10.10 東京オリンピック開会式。同月1日、東海道新幹線開業
66.01.28 財政特例法により赤字国債発行へ(19年ぶり再開)
70.03.31 新日本製鉄発足。同月万国博覧会開幕
71.06.17 沖縄返還協定調印。翌年1月の日米繊維協定とバーターとの説も
71.08.15 ニクソンショック(日本時間16日)。28日に円が変動相場制移行
73.10.06 第4次中東戦争勃発、第一次石油ショック発生
79.01.17 第二次石油ショック発生(イラン革命の影響)
80.12.01 改正外為法施行。従来の原則禁止から原則自由・有事規制へ
81.02.18 レーガノミクス発表(歳出削減、減税、規制緩和など)
81.05.01 日米自動車協議決着。対米輸出は年間168万台に
83.08.13 金融機関・郵便局、月1回の週休2日制スタート
85.09.22 プラザ合意。以後、円高不況対策として金融を緩和
86.03.31 原油北海ブレントが10ウ/b割れ。年初比半値以下に
87.02.09 NTT株上場。買いが殺到
88.04.21 米下院、スーパー301条、包括貿易法案を可決
88.07.11 BIS、国際統一基準(8%ルール)を正式決定。実施は92年度
89.11.09 ベルリンの壁が消滅。90年10月ドイツ統一、91年12月ソ連消滅
89.12.29 日経平均最高値(38,915円)。10ヶ月後には一時2万円割れ
90.03.27 不動産向け貸出の総量規制。3月と8月には公定歩合を引上げ
90.08.02 イラクがクウェートに侵攻。翌年の湾岸戦争を招く
91.08.25 ソ連共産党解散。同年12月ソ連崩壊
93.05.27 93.05.27 都銀11行の不良債権額公表。破綻、延滞計で8兆円強
95.04.19 1ドル79円75銭と、円が戦後最高値
97.04.01 消費税率引上げ。7月のアジア通貨危機などもあり、景気が腰折れ
97.11.03 三洋証券破綻。同月中に北海道拓殖銀行が破綻、山一證券が廃業
99.03.27 日産自動車、ルノーの傘下に
     
  なお、上記は筆者の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。
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