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景気の見方読み方
Nov.01 2001.11.01
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テロは米国経済を壊したか

 


はじめに
 

「米国景気はテロのせいで悪化した」という人がいます。私に言わせれば、「テロの前から悪化していたのに、気付いていなかった人が、テロで悪化したと言っている」ということだと思います。そうした内容をある雑誌に投稿しましたので、ご紹介します。ご笑覧いただければ幸いです。

 
 
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 今次テロが米国経済に与えた影響をどう考えるべきであろうか?テロを巡る事態の先行きは不透明であるが、ここでは「アフガニスタン情勢も炭素そ菌の問題も、遠からず決着がつく。その後は目立ったテロ行為などが発生しない」という前提に立って考え方を整理してみよう。
 テロの影響を考える際には、「テロ前の経済状態がどうであったか(テロがなければどうなっていたか)」「テロのインパクトはどの程度であったか」「テロのインパクトを吸収する体力が経済にあったか」といった点に分けて考えるとわかりやすい。
 (テロ前の米国経済の状況)
 テロ前の米国経済は、「企業部門が急激に悪化しつつある一方で、個人部門は底堅さを維持している」といった二極化現象が生じており、「企業部門が回復しはじめるまで個人部門が底堅さを維持できるのか否か」が注目されていた。筆者は弱気派に属し、企業部門の悪さは雇用環境の悪化につながり、個人消費などを下押しすると考えていたが、「遠からず企業部門も回復に向かい、経済全体が上向く」と考えていた強気派も多かったようである。
 八月分の経済指標の中には個人部門の不振を示すものも多かったことから、筆者の見方が当たっていたと自負しているのだが、こうした指標の多くがテロ後に発表されたため、注目を集めなかったり「テロで景気が悪化した」と誤解されたりしたのは残念であった。
 もっとも、統計の振れなどの可能性もあるため、一ヶ月分の経済指標だけで景気の流れを判断すべきではない。弱気派としても自らが優位にあることを喜んだ程度で、「勝利宣言を出すほど確固とした証拠があるわけでもない」といった所であろうか。
 ことがらの一つに「経済は実験が出来ない」ということが挙げられる。「テロがなかった場合の経済がどうなっていったのか」を実験室でシミュレーションすることが出来ないのである。(コンピューターを使った「マクロモデル」という手法は存在しているし、筆者も試みたことがあるが、現実の経済は複雑すぎて、コンピューターで正確に見通せるようなものではないと筆者は考えている。マクロモデルを作っている人からは反論があるかもしれないが)。したがって、たとえば今次局面においては「景気がいつまでも回復してこないのは、強気派の見通しが誤っていたわけではなく、テロがあったからだ」という「強気派」の主張を否定できず、戦局優位であった弱気派にとって癪の種となるわけである。
 
本論に戻ろう。テロ前の米国経済は、企業部門の悪さに個人部門が引き寄せられて「生産減→雇用減→個人所得減→消費減→生産減」という不況のスパイラルに陥りつつあり、テロがなくても当分は景気が下降トレンドをたどったはずなのである。
 もっとも、この下降トレンドが、経済の底割れによる深刻な不況にまで到ったのか否かは判断が難しい。米国の個人部門の貯蓄率の低さ、経常収支の莫大な赤字、株価の高さなどは、いつかは修正されるであろうし、その過程では景気の底割れといった深刻な不況を経験することになるだろうが、今次不況がその契機となったとは言い切れない。そうした可能性もあった一方で、積極的な金融緩和などにより問題が「先送り」されて景気の底割れが回避されていた可能性も否定できないからである。

トップへ (今次テロの米国経済への影響)
 今次テロは、米国経済の心臓部を直撃したが、金融取引もすでに表面的には正常化している。物流面や金融面で諸機能が若干低下している(たとえばテロ対策で貨物や資金の移動に時間とコストがかかるようになった)ことなどは指摘されているが、マクロ経済を見る際には、「供給面での影響は深刻化していない」と言ってよいであろう。
 問題は需要面の影響であろうが、結論としては需要面でのインパクトもそれほど深刻ではないと思われる。
  テロが需要面に与える影響としては、@旅行などの特定産業に与える影響、A消費者マインドの低下を通じた影響、B金融政策を通じた影響、C物価上昇を通じた影響、などが挙げられよう。
 @は避けようもなく、マスコミでの取り上げ方も大きいが、マクロ的な経済に占める旅行業界の比率はそれほど大きくないこと、消費者マインドさえ保たれていれば旅行で浮いた資金が別の消費に回る場合も多いこと、などを考えると、マクロ的なインパクトはそれほど深刻ではないと思われる。
  Aは、事態が短期間で収束するという前提に立てば、遠からず消えていくであろう。テロが根絶されることはありえないが、だからといって米国の消費者がいつまでもテロを恐れて消費を抑制し続けるとは思われないからである。株価の下落が限定的であることも、消費者マインドにはプラスであろう。
  Bは、金融がすでに大幅に緩和されていることから懸念は小さいものと思われる。湾岸戦争の時には、原油価格の上昇もあってインフレ懸念から金融政策が引き締め気味に推移しており、これが景気に悪影響を及ぼしていたが、今回は原油価格が大幅に値下がっていることもあり、状況が異なるわけである。(金融緩和の効果が大きいか否かは議論があろうが、引締めが行われないことがプラスであるのは間違いない)。
  Cは、湾岸戦争時には原油価格の値上がりなどで物価が上昇して給料が目減りしたが、今回は物価が安定しているため、給料の目減りによる消費の減少や消費者マインドの悪化は考えにくいわけである。 このように、テロが経済に与えるインパクトは深刻ではなく、比較的短期間で景気はテロ前のトレンド近くまで戻るであろう。ここで注意が必要なのは、「テロ前のトレンドが下を向いていた」ということである。「テロの影響さえなくなれば経済が上を向く」わけではないのである。
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 (結果としての景気見通し)
  景気には、一度動き始めた方向に動きつづけるメカニズムが働いている。一度悪化しはじめるとスパイラル的に悪くなる一方で、よくなりはじめるとスパイラル的によくなるわけである。もっとも、その分岐点近くでの動きは微妙である。天秤は、勢いよく動いているときには多少の重りの移動があっても影響はないが、おおむね釣り合っている時には少し重りが動いただけで方向が変わりかねない。景気もこれと同じで、テロのインパクト自体は小さくても、景気が微妙な時期にあると、結果としては大きな影響を受ける場合もあるということになる。別のたとえで言えば、健康な人は多少の寒波で風邪をひくことはないが、体力の弱った人は弱い寒波でも風邪をひきかねないといったイメージである。
 筆者はテロ前の段階で景気に対する弱気派であったから、「寒波が来る前の段階で、すでに体力の低下から風邪をひいており、発熱の寸前であった」と考えている。その意味ではテロはインパクトが小さいのみならず、影響も小さいということになる。もっとも、単なる風邪が肺炎に進む転換点については、弱い寒波が契機となったかもしれない。すなわち「通常の景気後退」がテロの影響で「景気の底割れによる、株価の下落や消費性向の低下などを伴った深刻な不況」になってしまった可能性は否定できないわけである。
  筆者が正しければ、強気派の人々の予想に反して景気は当分悪化を続けるであろう。その際に注意すべきことが二点あると考える。一つは、景気の悪化はテロのせいではなく、米国がテロに屈したわけではないということである。強気派が自己弁護のために「テロのせいで景気が悪くなった」などというのはテロリストを喜ばせるだけかもしれないのである。今ひとつは、景気対策をしっかり行って景気の底割れを防ぐべきだということである。「テロ自体は大したインパクトを与えられなかったにもかかわらず、米国経済が弱っていたことと財政金融面での支援が足りなかったことによって、テロによる小さなインパクトが景気の大きな転換点で重大な役割を演じてしまった」ということになれば、それこそテロリストが喜ぶだけだからである。

     
  なお、上記は私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。(2001.11.01記)
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