| はじめに
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引き続き本の原稿で忙殺されていたので、今回も、ある雑誌に寄稿した文章をそのまま載せることにしました。ご笑覧いただければ幸いです。
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米国経済が一人勝ちを続け、「ニューエコノミーだから、インフレなき高成長が続くだろう」と言われていたのは、一年前のことである。たしかにIT投資による生産性の向上で「成長してもインフレにならない」体質になってきたようで、人々が「インフレなき高成長が続く」と考える素地はあったのだろう。しかし、生産性が向上しただけで「インフレなき成長」が続くわけではない。
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成長持続の条件
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米国の状況を考えると、インフレなき成長が続くための必要条件としては、上記の「生産性の向上」に加えて、「株高が維持可能であること」「経常収支赤字が維持可能であること」「低貯蓄率が維持可能であること」、「需要があること」が重要であろう。
強気派は、「株高は米国経済の強さの結果であり、今後も続くだろう」、「経常収支の赤字は米国に投資機会があることの結果であって、外国からの積極的な投資でファイナンスされている経常収支赤字は懸念材料ではない」、「株価が上昇して個人の金融資産が増えているのだから、給料を全部消費にまわすことが不健全だとは言えない」、「株高による消費堅調、豊富な投資機会を背景とした投資堅調、などから需要は充分に存在している」と考えていたわけである。
これは、「景気がよいから株が高く、株が高いから景気がよい」「景気がよいから投資機会が多く、投資が行われるから景気がよい」「消費がふえるから景気がよくて株価があがり、株価があがるから消費が増える」というスパイラルにはいっているということであろう。
こうしたスパイラルが生じている時に懸念されることが二つある。一つは「このスパイラルが永遠に続いたときに、どこかに耐えられないような歪みが生じるのではないか?すなわち、現在の状況はサステナブルではない(バブルである)のではないか?」という懸念と、「何らかの事情(外的ショックかもしれないし、自律的な潮流の変化かもしれないが)で、スパイラルが止まったときに、逆向きのスパイラルに陥ってしまうリスクはあるか?」という懸念である。
現在までのところ、株価も経常収支赤字も貯蓄率も一年前に比べて大きな変化は起きていないため、サステナブルでないとの証拠は出ていないが、こうしたなかで、IT関連を中心とした需要の減退に伴い、景気が大幅に減速しているため、関心は「景気が減速して、上記のスパイラルが止まったが、それでも逆向きのスパイラルが生じていないのはなぜか?今後生じるのか?」といったところに移りつつある。
筆者の見るところ、「人々が現在の減速を一時的なものと考えており、その結果としてあたかもスパイラルが続いているような状況にある」ことがポイントであると思われる。「景気は遠からず持ち直すであろうから、現在の株価は妥当である」、「景気は遠からず持ち直すであろうから、海外からの米国への投資も続く」、「株価が高値圏で推移しているため、引き続き給料を全部使うことができる」ということが起きているわけである。
そうだとすると、人々が「景気はそれほど短期間では回復に向かわないかも知れず、もしかすると我々が信じていた米国経済の長期的な繁栄が途切れてしまったのかもしれない」と考え始めた時にスパイラルが逆転するという可能性は残っていることになる。
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不況のスパイラル
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さて、必要条件のなかで最も重要な「需要があること」については、どうであろうか?現在の米国は、企業関係の指標が弱く、個人関係の指標が底堅いという分断された景気状況にあり、先行きに関しては「個人消費や住宅投資が底堅い間に企業関連が回復に転じる」のか「企業関連の不振が雇用の調整などによって個人関連の不振につながる」のかが注目されるところであろう。
筆者のみるところ、米国の企業部門ははすでに「需要の減退→生産減少→設備稼働率低下、企業収益悪化→設備投資減退→設備機械などの需要の減退」といった不況のスパイラルにはいっている。これが「需要の減退→生産減少→雇用減少→個人所得減少→消費減少→生産減少」という本格的な不況のスパイラルに陥っていないのは、個人所得の減少が本格化していないからであろう。需要が減少すれば、生産が減り、付加価値が減るが、これが主に企業部門で負担されていて個人部門への転嫁が遅れているということではなかろうか。
単純化して言えば、企業としては「需要が減っているから値上げが出来ない」一方で、「賃金は引き続き上昇しており、雇用者数もそれほどは減少していない」ということで収益がダブルパンチになっている一方、「個人部門としては所得が減っていないので消費も減っていない」ということが起きているのであろう。売上が減り、付加価値が減った時に、賃金が抑制できなければこのまま企業部門の不況のスパイラルが続くであろうし、賃金が抑制できれば個人消費を含んだ広範な不況のスパイラルが始まるであろうから、いずれにしても当分のあいだ景気の下降トレンドが続く可能性が高いと考えておいたほうがよさそうだ。
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米国と日本の視点の違い
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米国でも、最近ようやく「景気回復には時間を要する」という見方が増えてきたが、それまでは「金融緩和と減税が景気を回復させる」という見方が多数派であったようだ。減税が成長率を押し上げるといっても景気の方向を転換させるほどの規模ではないから、結局金融緩和に大きな期待を寄せていたということになる。
米国ではそもそも公共投資によって景気を回復させようという発想が乏しく、景気調節は金融政策が主役だと考えられているから、そのこと自体は当然なのであろうが、不思議なのはなぜ「日本では不況期に公共投資が景気回復の主役とされるのに、米国ではそうではないのか」ということである。
筆者なりの仮説としては、「金融政策は、多すぎる需要を抑える効果は大きいが、少なすぎる需要を増加させる効果は小さい」、「米国人は消費好きなので、米国では常に需要が豊富にある。したがって、公共投資は必要ない。もちろん、金融の引き締め過ぎが原因で一時的に需要が不足することはあり得るが、その場合には金融引締めを弱めてやればよいのだ」、「日本人は貯蓄好きなので、恒常的に需要が不足している。そこで公共投資が必要になる。もちろん、景気刺激が過ぎて景気が過熱することはあり得るが、その場合には金融を引き締めればよい」と考えている。
「米国経済は浮揚力の強い風船であり、これを適度な高さに保つためには、紐を引っ張る力を調節するだけでよいが、日本経済は浮揚力の弱い風船であるから下から風を送ってやらないと丁度よい高さに保てない」というイメージだ。
そうなると問題は、今回の風船のしぼみ方がどの程度かということになる。紐をゆるめれば自分で再浮上を始める程度のしぼみ方なのか、下から風を送る必要があるのかということだ。米国政府は下から風を送る気がないため、後者のケースであるならば、調整が相当長期化する可能性もあるだろう。
現時点でいずれであるかを判断することは難しいが、筆者としては、あれだけ大きく膨らんだ風船がしぼみ始めたのだから、自分で再浮上するのは難しいだろうと考えている。
米国の調整が長期化すると、米国の為替政策は悩ましいものとなろう。米国の繁栄持続を前提に流入していた外資をつなぎとめるためのドル高政策と、不況対策としてのドル安政策を、同時におこなうことは不可能だからである。米国の為替政策が、資本の流れを重視したものになるのか実体経済を重視したものになるのか、大いに注目されるところである。
反対に、米国景気がこれで立ち直ったとすると、「株高、経常収支赤字、低貯蓄率」は調整されずに「問題が先送りされる」ことになる。一部の強気論者が考えるように、株高などが永続可能であればよいのだが。弱気論者の私からみると、リスクが積みあがっていくように思えるのだが。
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なお、上記は私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。(Sep.01記) |