| 要旨
|
| |
米国景気のもたつき、構造改革の痛み、などを考えると、日本の景気は当分悪いと考えておいた方がよさそうです。
|
はじめに
|
| |
現在2冊目の本を執筆中です。手が回らないので、本文は最近ある雑誌に投稿した原稿をそのまま載せることにしました。後半には経済初心者の方を対象に、「財政赤字」という単語の解説をしてみました。ご笑覧いただければ幸いです。
|
当面の景気について
|
| |
景気の悪い話が増えてきましたが、これからの景気はどうなるのでしょうか?考えるべきポイントは三つあると思います。第一は、「景気は急に止まらない」ということ、第二は米国経済の見通し、第三は小泉首相の構造改革に伴う「痛み」です。結論からいえば、いずれも明るい話ではなく、当分不況が続くことを覚悟する必要があるようです。
景気が悪くなり始めると、「モノが売れない→企業が人を雇わない→失業者が増える→モノが売れない」という悪循環が始まります。モノが売れないと設備も余りますから設備投資が減り、設備機械メーカーの売上も減るでしょう。企業が儲からないと株価が下がり、株を持っている人が財布の紐を締めるかもしれません。失業するかもしれないと思う人が増えると、実際の失業者の増え方よりも個人消費の減り方の方が大きくなりがちです。
このように、悪循環がはじまると、なかなか景気が回復するのが難しい状況になるわけです。日銀が「金利を下げたから借金をして設備投資をしてほしい」と言っても、企業は「設備が余っているから、金利が低くても設備投資はイヤだ」というわけで、効き目は小さいようです。そこで天才経済学者ケインズは「不況の時は政府が借金をして失業者を雇って公共投資を行なえ」と言ったわけですが、今の政府は借金が膨らみすぎているので、これ以上借金を増やすつもりはないようです。
景気が回復をはじめる可能性としては、米国の景気が回復して日本からの輸出が増えることが考えられますが、米国の経済もそれほど急激には回復しそうにありません。米国でも「不況は急に止まらない」からです。米国の景気が減速しはじめた昨年秋ころには、「景気がよすぎたのでスピード調整をしているだけで、すぐに景気はよくなるだろう」というV字型回復説が有力でしたが、今では「年末ころには回復をはじめるが、それほど急激な回復にはならないだろう」という人が増えてきています。これでは日本の景気がよくなるほど対米輸出が増えるとも思われませんね。
第三のポイントは「構造改革の痛み」ですが、そもそも「構造改革」とはどういうものでしょうか?小泉首相は非常に幅広い改革を考えているようですが、中心はバブルの「後遺症」の治療だと言えるでしょう。日本経済は、バブルが崩壊してから10年以上経った今でも後遺症に悩んでいます。銀行の不良債権問題や、企業の抱える過剰設備の問題などが、未だに残っていますし、景気対策を行なってきたことで財政赤字が膨れているからです。これらは、慢性病のようなもので、「毎日の経済活動に大きな制約となっているわけではないが、これがあると経済が元気になれない」といったイメージでしょうか。
そこで、小泉首相は構造改革を断行し、こうした慢性病を一気に手術してしまおうと考えています。手術ですから痛みや出血を伴うことは当然ですが、長い目で見れば慢性病を抱えているよりも元気になれるということでしょう。では、短期的にはどういう痛みが伴うのでしょうか?
不良債権の処理として首相が考えているのは、「借金の返せないような会社は、立ち直る見込みがない限り清算してしまえ」ということです。「立ち直る見込みのない重病の会社は、時が経てば病気が一層重くなり、結局清算されるだろう。それならば少しでも資産があるうちに清算するべきだ」ということでしょう。その方が銀行の損が少なくなるだけではなく、従業員が成長産業に転職できるチャンスも出てくるからということでしょう。しかし、倒産した会社の従業員がすぐに新しい仕事を見つけるとは限りません。そこで、当面の景気に与える影響としては、失業した人が消費を減らし、景気が悪くなる方向に働くでしょう。
財政赤字を減らすことも小泉首相の大きな目標の一つです。「山奥に立派な道を作るような無駄なことを止めよう」ということで、必要な改革ではあるのですが、「無駄な道路を作る作業でも、それによって失業者が雇われれば景気にプラスだ」というケインズの教えからすると、これも当面の景気という意味ではマイナスに働くでしょう。
政府は、「不効率な使われ方をしている労働力や資本が、構造改革の結果として効率的に使われるようになれば、景気にもプラスだ」と言っていますが、プラスの効果がマイナスの効果を上回るようになるまでには少なくとも2〜3年は必要でしょうから、その間は改革の痛みとしての景気悪化を覚悟する必要があるように思います。
政府は「マイナス成長にはしない」と言っていますが、これは少し楽観的すぎるように思われます。現在すでにゼロ成長であること、景気が悪化しつつあること、米国向け輸出の急回復が望みにくいこと、などを考えると、構造改革の痛みがなくてもマイナス成長になる可能性があるわけです。これに構造改革の痛みが加われば、マイナス成長に陥る可能性も小さくないでしょう。
景気がよくなる可能性も無いわけではありません。米国の景気が予想以上に回復すれば、日本からの輸出が急増するかもしれませんし、日本でも規制緩和などによって新しい需要が出てくるかもしれないからです。しかし、注意が必要なのは、景気が回復をはじめても、人々がそれを実感できるようになるまでには時間が必要だということです。
重病人が峠を越して回復に向かい始めた(方向が転換した)としても、彼が元気になったわけではない(水準は低い)でしょう。景気も同じで、景気が回復に向かいはじめても、人々がそれを実感できるまでに1年程度は必要でしょう。したがって、いずれにしても来年中は景気のよい話は聞けないと考えておいた方がよさそうです。
ここに書いたのは筆者の個人的な見解です。詳しくはホームページをご覧ください。
|
おまけ:経済初心者のための用語解説「財政赤字」
|
| |
財政収支とは、国の家計簿のことです。これが大幅赤字だと借金が増えて困りますよね。個人の場合であれば、家計簿が赤字なら、アルバイトなどで収入増を図ったり、消費を抑えたりして家計簿が黒字になるように努力しますよね。そうしないと、いつかは借金が増えて返済できなくなり、破産してしまうからです。国の場合も、基本的な考え方は似ていますが、家計と違うところも随分あります。
家計であれば、自分が緊縮したことで店が困っても気にする必要はありませんが、政府が緊縮して国民が困れば、政府は気にする必要があるからです。第一に行政サービスが低下しては困ります。橋や道路が必要なのに政府が緊縮して建設を取り止めれば国民が不便になるでしょう。第二に道路や橋を作るはずだった労働者が失業することで景気が悪くなるでしょう。第三に、景気が悪くなると税金を払う人が減って政府の収入が減りますし、景気をよくするための支出が必要になるかもしれません。
家計が収入を増やすには、自分が働けばよいのですが(どれほど不況でも、時給の安いアルバイトくらい見つかるでしょう)、政府は自分で働いて収入を増やすことが出来ません。税収は、国民に働いてもらってサラリーマンの給料から所得税をとったり企業の利益から法人税をとったり人々の消費に応じて消費税をとったりするわけですから、税収を増やすためには景気をよくしてサラリーマンの給料や会社の利益が増え、人々の消費が増えることが重要なわけです。
政府が何もしなくても景気がよくなればよいのですが、今の日本では政府が精一杯の努力をする必要があるでしょう。景気が悪いときに政府が民間の景気をよくさせる手段としては「金利を下げて住宅投資や設備投資を誘う」、「減税をして消費を誘う」、「公共投資を増やして雇用を増やし、消費を誘う」の三つが代表的です。もっとも、金融の緩和は充分行われていて、減税と公共投資(あわせて財政政策と呼びます)に期待がかかりますが、減税をすれば税収が減りますし、公共投資をすれば政府支出が増えますから、財政収支は悪化してしまう可能性も大きいわけです。
「景気がよくならないなら、増税により収入を増やしたり、公共投資の抑制などにより歳出を抑制したりしよう」ということも可能で、たしかに一時的には財政収支が改善するでしょうが、景気は悪くなるでしょう。景気を過熱させず(加熱するとインフレになるから)悪化させず(悪化すると失業がふえるから)、ある程度よい状態に保つことが政府の重要な役割であるわけですから、財政収支を改善するために景気が悪くなったのでは困るわけです。景気悪化の結果として景気対策が必要になり、減税や公共投資を行うことになったり、景気悪化の結果として税収が落ち込んだりするリスクを考えると、長い目でみれば財政収支がかえって悪化する可能性も否定はできないわけで、増税や歳出削減も財政収支改善の特効薬とは言えないでしょう。
日本は巨額の財政赤字を抱えていますので、財政収支の改善が最重要課題の一つとなっているわけですが、上に見たように、簡単な解決策は見当たらないわけです。「代議士が地元に道路を作らせるから財政赤字が増える」という人も多く、一面では真理ですが、では「代議士が何も要求しなければ何も作らずに歳出を削減してよいか」というと、そうともいえないわけです。もちろん、「代議士の無理な要求がなければ、同じ予算額でも一層国民の役にたつようなものを作ることが出来るのに」ということは言えるでしょうが、そのことが直ちに財政収支の改善につながるとは限らないわけです。
さて、財政収支が赤字だと何が問題なのでしょうか?個人であれば、借金が膨らんでいけば誰も貸してくれなくなって破産するというリスクがありますが、国の場合には「いざとなれば増税をして借金を返済する」という選択肢があるため、借金をすることは容易です。特に日本の場合には、貿易収支が黒字であるために国全体としては外国におカネを貸す立場ですから、政府が外国に借金を頼む必要もないわけです。(貿易収支が赤字の途上国などでは、政府が外国からドルを借りてくる必要があるため、日本政府ほど簡単に借金をすることができない場合も多いのです)。しかし、だからといって無限に借金を膨らませてよいというわけではありません。
いくら増税しても返せないほどの借金がたまれば、やはり誰も国におカネを貸してくれなくなるでしょう。「だれも国債を買ってくれずに、国債相場が暴落した」というような小説があったように思いますが、遠い将来に至るまで国の借金が無限に膨らんでいけば、国債を誰も買わなくなる可能性もゼロではなくなってくるわけです。
そこまで行かなくても、「財政赤字が増えているので、将来増税されるのではないか」とか「国が私たちの生活を保障してくれる能力が将来落ちてくるのではないか」などと人々が考えれば、「老後が不安だから現在の消費を切り詰めて貯金をしよう」という人が増え、その結果として景気が悪くなるということが考えられます。この効果がどれほど大きいのかは、人によって見方が違いますが、全くないとは言えないでしょう。
今ひとつ、「個人が貯金したおカネを国が全部借りてしまうと、企業が設備投資をしたい時におカネが借りられない」ということを心配する人もいます。クラウディング・アウトと呼ばれる現象で、満員電車に政府が強引に乗り込んできて民間人を押し出してしまうというイメージでしょうか。今の日本では設備投資のためのおカネを借りたい人が少ないため、問題となっていませんが、今後景気が回復して設備投資や住宅建築のための資金需要(おカネを借りたいという希望)が増えてきたときには問題となるかもしれません。
ところで、何故日本は大幅な財政赤字なのでしょうか?一言で言えば、景気が悪いからです。バブル崩壊後、深刻な不況が続いていましたから、毎年のように景気対策として国債を大量に発行して公共投資を行ってきたわけです。景気が悪い理由については「バブルの後遺症で銀行が不良債権を、企業が三つの過剰を抱えているからだ」「グローバル・スタンダードへの移行が進んでいないからだ」「財政赤字の大きさから人々が将来に対して不安を抱いており、これが人々が消費をせずに貯蓄に励んでいる原因だ」「消費者の嗜好が高級品から安くて良い物にシフトしたから」「晩婚化・少子化で需要が喚起されなくなったからだ」などと言われていますが、いずれにしてもこうした状況だとしばらくは厳しい財政状況が続くと考えておいたほうがよいのかも知れませんね。
|
| |
|
|
| |
なお、上記は私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。(Aug.01記) |