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景気の見方読み方
Apr.01 2001.4.01
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最近の日米景気をどう読むか

要旨

米国経済に関する人々の見方は、日を追って弱気になってきています。人々が事態の深刻さに気がつき、予想を修正しつつあるのでしょう。一方、日本経済は、株価が示すほど悲惨な状況ではありません。「米国が肺炎になったから日本も風邪が再発した」といったところでしょうか。

はじめに up
 

米国の景気は、急激な悪化を見せており、エコノミストたちの景気見通しも、日を追って弱気になりつつあります。まさにリスクシナリオ(Dec.00)で懸念したとおりのことが起きつつあるのではないでしょうか。日本の景気については、Nov.00に記したとおり、私は「国内景気については人々より強気だが、米国景気に弱気なので、その影響で結局は人々と似たような成長率見通しとなる」という立場であり、これは今でも変わっていません。
今回は、過去数ヶ月に起きたことを振り返り、拙著にある「景気の見方・読み方」がどのように役立ったのかを検証してみることにします。

米国は広義のバブル up
 

リスクシナリオを書いた際に考えた最重要ポイントは、米国経済は「株価と景気がスパイラル的に上昇していく広義のバブル(拙著123ページ参照)」だということです。バブルというと、「株価だけが高くなり、それが修正される(狭義のバブル)」というイメージを持つ人が多いわけですが、「株高に支えられた好景気」であれば、株価が下がれば景気が悪化するでしょうし、景気が悪化すれば株価が一層下がるということは充分考えられるからです。(昨年春の時点では、広義のバブルの上に狭義のバブルが乗っていたわけですが、リスクシナリオ執筆時点では狭義のバブルが概ね消滅し、広義のバブルのみが残存していたというイメージでしょう)。

現在は広義バブル崩壊の第2段階だと考えています。株価下落が消費や投資を抑制し、それが企業収益を悪化させつつありますし、雇用も抑制されつつあります。こうした動きが第2段の株価下落をもたらしはじめており、それが更なる景気悪化につながっていく可能性は充分にあるでしょう。とくに、株価下落がNASDAQ中心からダウ平均に及びつつあることを考えると、いよいよ景気の悪化が株価の下落につながり始めたと考えるべきではないでしょうか。
可能性としては、金融緩和により株価が維持され、消費水準もそれほど落ちないという「ソフトランディング」も考えられるかもしれませんが、その場合には「マイナスの家計貯蓄率」などの「サステナブルでない実体経済」が持続するということで、要するに広義のバブルを破裂させずに維持したということになり、将来に問題を先送りしただけということになりかねないでしょう。

経済がバブルだということは、人々が浮かれていますから、冷静な判断が出来る人が少なくなっているということも意味します。「恋すれば、アバタもエクボ」というように、米国経済に恋している人たちには悲観論が聞こえないということもあるでしょう。日本のエコノミストたちの中には、「米国経済を知るには米国に出張すべき」といって恋する人たちの話を聞きに行き、「やはり米国は素晴らしい」と考えて帰ってくる人も多いようですが、こういう時には外から眺めている方が正しい理解が得られる場合もありますから、注意が必要でしょう。

今回の米国景気の動きも基本に忠実 up
 

狭義のバブル崩壊の後に広義のバブルが崩壊したという特殊な状況にあっても、拙著にお示しした景気の基本が意外なほど当てはまっていることがわかります。

今回の動きの第二のポイントは、「景気には後退しはじめるとそのまま後退するというメカニズムが備わっている(拙著12ページ)」ということです。景気がひとたび後退をはじめると、「生産減→雇用減→消費減→生産減」などのスパイラルが生じるため、公共投資などで景気を刺激しないかぎり景気は悪化を続けます。 米国では景気対策として公共投資を行うという発想が希薄ですから、金融緩和に頼ることになりますが、「金融政策はゴムひものようなもので、引くことは出来ても押すことは出来ない」といわれるように、景気刺激効果は今ひとつと言われています(拙著67ページ)。もちろん、相当思い切った金融緩和を長期にわたって続ければ、いつかは景気も回復して来るでしょうが、相当深刻で長い不況に悩む可能性も決して小さいとは言えないでしょう。
米国では、「景気がV字型で回復する」という見方が多かったようですが(今でも少なくないようですが)、「景気は一度後退をはじめたらしばらく後退を続ける」という基本的な原則が当てはまったということでしょう。

第三のポイントは、景気を決めるのは需要であって供給ではないということです。「需要が生産を決めるのであって、生産が需要を決めるのではない(拙著30ページ)」ということでしょう。これは、日本では当然と考えられていることですが、米国ではそうでもないようです。米国では「IT革命で生産性の向上が続くから、景気後退は短期で終わる」というような主張が多かったわけで、このあたりは、日本人エコノミストと米国人エコノミストの経済に対する根本的な視点の違いということではないでしょうか。過去数ヶ月の推移を見る限りでは、米国経済の動き方は日本経済とそれほど異ならないという気もしてきますから、今回の景気後退が短期間で終了するという理由として生産性の話を持ち出すのは、妥当でないように思えますが、いかがでしょうか?

    

日米でエコノミストの視点の差が生じた原因を大胆に推論すれば、米国経済が過去インフレに悩んできた一方で日本経済が過去需要不足に悩んできたということではないかと思います。米国の個人は消費好きですから、基本的に需要が足りないということはなく、政策担当者にとっては「需要が大きいのに供給が間に合わなくてインフレになる」ということが一番の懸念事項であるといえましょう。一方で日本人は貯蓄好きですから、基本的には需要が足りなくて困っている経済だと言えるでしょう。だからこそ米国では「サプライサイドを強化しよう(供給力をつければインフレなき成長が謳歌できる)」という主張が折に触れなされるわけでしょう。
こうした個人の消費行動の本質的な差(遺伝子の差?)を背景としているわけではないでしょうが、米国ではケインジアン的な発想が比較的弱く、「財政再建により長期金利が低下して景気が良くなる」などという人もいるほどです。「どうせ消費者の財布の紐は早晩緩むのだから、クラウディングアウトによって高金利が邪魔をすることがないようにしたいものだ」というイメージでしょうか。
仮に今後、私の予測が外れて米国経済が本当に短期間で回復に向かうとすれば、「米国人は消費好きだから、日本と異なり基本的には需要不足という問題は米国には無いのだ」ということなのかもしれず、「経済の本質が異なるからエコノミストたちの視点が異なるのだ」ということかも知れませんが。

 

 

 

第四のポイントは、「エコノミストの予測が修正された時には、次回も同じ方向に修正されると思えばよい(拙著158ページ)」ということです。はじめは、「景気が悪いという統計が出たけれど、一度だけでは異常値かも知れないから、今までの景気見通しを変更せずに、次回の統計発表を待とう」という人が多いでしょう。景気後退を示唆する統計が何ヶ月も続くと、次第に「景気は後退し始めているのかもしれない」と思う人が増えてきますが、通説と異なる説を自信を持って発表する人は少ないでしょう。今回のように、「ニューエコノミー論」が通説となり、「米国経済には景気循環は無いのだ」という説が幅を利かせている時に、これと正面から対決するようなことを言うのは勇気が要ります。従って、「今は一時的に景気が悪いが、近々再び拡大軌道に戻るだろう」と言っておくことが「安全だ」ということになります。そうなると、事態が悪化を続けても、全く同じコメントを出し続ける人が大勢いるということになるでしょう。ニューエコノミー論のような通説に正面から反対意見を述べる人が増えてくるのは、事態が相当進展してからということになりましょう。
こうした流れを考えると、「エコノミストの中に景気悪化を認める人が出てきたということは、相当事態が悪化しているのだろう」「事態が相当悪化しているとすれば、第二のポイントで見たように、景気は一層悪化していく可能性が高い」ということになりましょう。もしかすると、「近々反転して回復する」と言っている人は、当分同じコメントを繰り返すことになるのかもしれませんね

第五のポイントは、「在庫が景気を動かす」よりも「需要の変動が在庫を動かす」要素の方が最近は強いということでしょう(拙著50ページ)。米国では「在庫調整が迅速に進んでいるから景気減速は長引かない」という人も多いようですが、需要の落ち込みが進めば在庫は自ずから増えるわけで、「すでに積みあがっている在庫の処理が終われば在庫調整が終了する」と考えるわけには行かないのではないでしょうか?

私は米国経済について深く知りませんし、日本経済と異なるメカニズムで動いている面もあるようですから、上記の予測部分については今ひとつ自信はありません(たとえば、上記予測が外れるとした場合に最も可能性が高いのは、個人が消費好きであるがゆえに、政府がたいした景気刺激策を採らなくても消費主導で景気が回復してしまうといった場合でしょう)。しかし、過去数ヶ月の動きを見る限り、日本経済について拙著が記しているメカニズムが米国にも当てはまっているように見えますので、「図に乗って」今後についても日本のメカニズムが当てはまるという前提のもとに「書きたい放題」を書いてみたわけです。米国経済は短期間で回復に向かうようなことがあれば、「国により経済を動かすメカニズムが異なるから、日本経済ばかり見ている者には米国は予測できない」ということで、上記については笑って忘れていただきたいと存じます。

米国景気後退が日本の景気に影響 up
 

日本経済は、緩やかな回復の過程にあります(少なくとも昨年秋ころまでは回復過程にありました)。したがって、米国景気の後退といった「事件」がなければ、そのまま緩やかな回復を続けたはずです(拙著12ページ)。しかし、病み上がりの病人が僅かな冷気で風邪をひくように、景気の回復力の弱いときには小さい事件でも景気後退のきっかけとなり得るわけで、今回の米国の景気後退と株安が日本を再び景気後退に陥れたとしても、不思議はありません。米国経済に弱気な私としては、今後も「事件」は拡大し、日本経済も悪くなっていくという可能性が大きいものと考えています。
ここで注意を要するのは、第一に「日本の景気が悪くなるとしても、米国の景気よりも悪くなるというわけではなさそうだ」ということです。現在の為替市場を見ると、「米国経済は近々回復に向かうだろうし、日本経済は泥沼だろうから、相対的には米国の方がマシだ」と考えて、円をドルに換えている人が多いようです。しかし、米国が「山高ければ谷深し」である一方で、日本は「山低ければ谷浅し」ということでしょうし、そもそも米国主導の景気後退ですから、米国の方が影響が深刻であると考えるのが自然でしょう。

    米国の大統領が日本の首相に向かって「日本の景気が心配だ」などと言ったようですが、自分の国の景気の方を心配しなくて良いのだろうかと思います。少なくとも昨年10〜12月期の成長率は日本の方が高かったし、今年1〜3月期も日本の方が高い可能性も充分あると思いますが。
 

第二に、日経平均がバブル後最安値を更新していますが、経済の状況が当時よりも悪いと考えるべきではないということです。日常業務が多忙で個々の経済指標を見る余裕の無い人は、どうしても「株価が下がったから景気が悪いのだろう」と考えるでしょう。最近はマスコミに出るエコノミストたちも「市場の動きを解説して予想する人(マーケット・エコノミスト)」が中心で、「経済指標をじっくりと分析する人(ファンダメンタル・エコノミスト)」の出番が少ないようですので、どうしても株価が下がると「株価が下がった原因」が毎日報道され、経済の良い部分には脚光が当たりにくくなります。したがって、世の中でも景気が悪いと考える人が多くなるのはやむを得ないことですが、実際の経済はそこまで悪くないのだということは覚えておいていただきたいと思います。
また、98年との比較でも、経済指標を見るかぎり、当時よりも悪いものはほとんどありません。国債残高は当時よりも増えていますが、これが直ちに景気に悪影響を及ぼすという状況でもありません。(国債残高が増えると長期金利が上昇して景気に悪影響を及ぼすことが理屈の上では考えられますが、現在の長期金利はむしろ98年当時よりも低くなっています)。もちろん、長期的には国債残高の大きさは深刻な問題でしょうから、株式市場がこれを「売り要因」にすることはあるでしょうが、これを「景気が悪いから株価が低い」というように理解してはならないと思います。

弱気派が当たったわけではない up
 

日本の景気は後退しはじめている可能性があり、そうでなくとも米国景気の失速を受けて景気が後退する可能性は小さくないでしょう。その時に、日本の景気に弱気の見方をしていたエコノミストたちが「私が申し上げていたとおり、景気は悪くなりました」と言うでしょう。しかし、気をつけなければならないのは、彼らの多くが「米国はソフトランディングするだろうが、日本の景気は悪化するだろう」と言っていたということで、そうした人々は、二つの誤りを犯し、結果として幸運にも結論部分だけが当たったということです。
第一の誤りは、「米国の経済がソフトランディングする」という予測です(今後の予測については諸説ありましょうが、少なくともソフトランディングではなくバンピー・ランディングであったというのは疑いない事実です)。「私は日本経済の専門家で、米国には詳しくないため、通説を前提条件として使っただけだ」という人もいるでしょうから、「誤った」というのは言い過ぎかもしれませんが、少なくとも「当たった」というわけではないでしょう。
第二の誤りは、「米国がソフトランディングしたとしても、すなわち外需の落ち込みがなくても、国内要因で景気が悪くなる」というのが彼らの論旨だったことです。実際の推移をみると、「国内需要が底固く推移する一方で、米国、東南アジアなど海外経済の急減速を背景に、純輸出は大幅に減少している。その影響を主因に鉱工業生産は減少に転じており・・」(日本銀行「金融経済月報」01年3月号)というように、国内要因で景気が悪くなったわけではないからです。
エコノミストはポジションを張っている市場関係者と異なり、論理展開で勝負しているわけですから、「景気が悪くなる」という予測が当たったからと言って喜ぶわけにはいかないでしょう。
今回は、幸運なことに珍しく私の予測が当たっています。「私は、日本経済単独で考えた場合には、他のエコノミストよりも強気です。しかし、米国の先行きには他のエコノミストよりも弱気なため、期待値としての予想成長率は多数説と大差ないかもしれません」というスタンス(拙稿Nov.00要旨より)が、最も正確であったということになるわけです。やはり、「景気は一度良くなり始めたら、事件がおきない限り、自分で勝手に方向転換することはない」という拙著12ページの理屈が当てはまったということでしょう。

     
  なお、上記は私個人の見解であり、私の属する組織などの見解を示すものではありません。また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。
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