| 要旨
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日本経済は、バブルの後遺症から立ち直り、緩やかで息の長い回復局面に入ったと言えるでしょう。米国のソフトランディングを前提とすれば、2〜3%の成長が当分の間続くかも知れません。バブル後不況で日本人は自信を喪失していますが、少なくとも対米劣等感は和らいでいくでしょう。
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はじめに
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バブル崩壊後の90年代は「失われた10年」と呼ばれています。おおむねゼロ成長が続き、不況からの脱出を試みたけれども思ったようにいかず、経済の質的な面でも特段の進歩がなかったからでしょう。この間に日本人は、バブル期の慢心の反動などもあり、極度に自信を喪失してしまいました。日本経済がバブル後不況から本格的に回復する大きなチャンスとして96年度の好況が期待されましたが、政策的な失敗などから結果として景気回復が挫折したこともあり、ますます悲観論が強まって来たわけです。一方で、米国経済が長期的な繁栄を謳歌してきたこともあり、日本では対米劣等感が急速に醸成され、「日本はグローバル・スタンダードでないから駄目なのだ」と考える人が多数を占めるに至っています。
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しかし、ここへ来て、日本経済は未曾有の大不況を抜け出し、ようやく自律的な成長軌道に乗ってきましたし(拙稿Nov.00参照)、一方で米国経済はソフトランディングに対する懸念が高MFEM、相当深刻な不況に陥る可能性も否定出来ない状況です(拙稿Dec.00参照)。
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米国経済がハードランディングをすれば、対米劣等感が大きく緩和されると同時に日本経済も再び不況に陥るでしょう。個人的にはこうした可能性も小さくないと思いますが、本稿では多数説に従って、米国経済がソフトランディングをするという前提で、日本経済の中期的な展望を考えてみたいと思います。
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はじめに「失われた10年」を振り返り、何故10年間も低成長が続いたのかを考えてみましょう。次に、今後数年間の日本の成長率と景気について考えてみたいと思います。最後に、今後数年間を考える上で、注目しておくべき点などについて、若干の考察をしておきたいと思います。
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失われた10年
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バブルが崩壊して、日本経済は大変な不況に見舞われました。原因としては、
(1)株価、地価の下落に伴う「逆資産効果」、(2)企業が抱える設備、負債、雇用の「三つの過剰」、(3)銀行などの不良債権問題に起因する「金融システム不安」、(4)バブルの後始末を焦り過ぎた「97年の政策ミス」、といったバブル崩壊に伴うものと、(5)円高、(6)高齢化、晩婚化、少子化などといった社会的な変化、などが挙げられましょう。
(1)株価と地価は、バブル期の上昇とその後の下落が各々およそ1000兆円(GDPの約二年分)にも上りました。このことが実体経済に与えた効果としては、「バブル期の好況の反動で不況となった(バブル期の山が高かった分だけ不況期の谷が深かった)」という効果(下記a)のみならず、「バブルで儲けた時と損した時の行動様式の相違などにより、バブル期の好況を上回る不況となった」という効果(下記b〜d)も大きかったと思われます。
(a)バブル前後で売買しなかった人は、資産価格が上がったけれどもまた下がって、損得はありませんでしたが、バブル期に気が大きくなって贅沢をした(資産効果で消費が増加した)り設備投資を行ったりした場合も多かったようです。こうした人は、資産価格が下落すると、急に財布のひもが固くなって消費が減ったり(逆資産効果)や設備投資が抑制されたりしたのではないでしょうか。バブル期にあれだけ景気が良かった主因が資産価格の上昇であったわけですから、それと同じ幅の景気抑制効果があったとすれば、90年代前半の景気後退を相当程度説明できるほどのインパクトがあったと言えるでしょう。
(b)高値で売り抜けた人は、売却代金をすべて消費などに回したというよりは、預貯金に寝ている場合も多かったのではないでしょうか(高値で資産を売却できたが、その資金で別の資産を購入したために損をし、結果として損得がなかった人は、ここには含めずに、(a)に含めて考えることとしましょう)。たとえば先祖伝来の土地を高値で売却した人は、直ちに全額を消費してしまうよりも、相当部分を金融資産で保有していたのではないでしょうか。
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バブル期にマネーサプライの伸びが高かった理由としては、株や土地を買うための待機資金が積みあがっていたことが主因であったようですが、中には売却資金が預金に滞留していた部分も大きいのではないでしょうか。バブル崩壊後に株や土地を買うための待機資金が急減した後も、マネーサプライがある程度の水準を保っていたのはこうした資金が相当多額に上っていたからだと思われます。
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(c)一方で、高値で購入した資産が値下がりした人は、相当大幅に消費性向を落とした人が多いのではないでしょうか。虎の子の貯金で株をかったり、住宅ローンで住宅を買った人は、自分の資産と負債のバランスが大きく崩れていることを思うたびに倹約せざるをえない気分になるだろうからです。
(d)借金をして資産を取得して返済できなくなった企業も多く、中には倒産した企業も多数あります。企業の倒産は、直接的に雇用を縮小させて雇用者所得減→消費減を招くとともに、世の中の企業経営者や消費者のマインドの萎縮などを通じて景気に悪影響を与えた部分も大きかったと思われます。
また、返済不能に陥った企業が負担すべきであった損は、結果として銀行が被ることになりました。これが銀行の不良債権問題として、別の面から景気を圧迫する要因となったわけです(後述)。
(2)企業が抱える設備、負債、雇用の「三つの過剰」の影響も深刻です。「設備投資は二面性を持っており、投資が行われている時には需要であるが投資が完成すると供給能力であり、需給を悪化させる要因となる」と言われますが、まさにこれが極端な形であらわれたものと言えましょう。
好況期には需要が強いために設備投資が活発化し、これが更なる需要として投資を誘発するということは、よくあることです。今回は、これに加え、「好況期にもかかわらず、金融の超緩和が続いていた」ことから、「山高ければ谷深し」になったわけです。
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通常の好況時は、需給逼迫からインフレ懸念が台頭し、金融引締めが設備投資を抑制しますが、バブル期には円高に伴う物価安定などから金融引締めが大幅に遅れたものです。金融が緩和されていたこと、株価や地価の値上がりにより担保が充分にあったこと、などに加え、当時の日本では資本コストの概念が薄く、「エクイティー・ファイナンスにより工夫すればゼロコストで資金が調達出来る」といった理解でしたから、まさに過剰な投資が行われるための条件がすべて整っていたような状況だったわけです。
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こうして企業は過剰な設備を抱え、90年代を通じての設備投資が不振を続けることになったわけですが、多額の負債を抱え込んだことも、その後の企業行動を大きく制約することになったわけです。更に問題であったのは、業容拡大を目指して人員の採用を大量に行ったことです。終身雇用制の下で大量の人員を抱え込んだ企業が過剰人員に悩まされたことは当然ですが、その後の新卒採用が絞られたために毎年の就職戦線が大変厳しいものとなり、中高年のリストラも行われ、こうしたことが世相の暗さを通じて人々のマインドに大きな陰を投げかけることにつながったわけです。
家計部門が、バブル期に大量の耐久消費財を購入したために飽和状態となり、90年代の消費の不振の一因となったことも、企業の設備投資などと同様な現象と言えましょう。「山高ければ谷深し」というわけです。
(3)銀行の不良債権問題も、90年代を通じて景気を抑制しつづけた要因であると言われています。「90年代が不況であった主因の一つ」と言えるほどのインパクトがあったか否かは議論がありましょうが、少なくとも98年の不況の原因の一つではあったわけです。
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98年には、確かに「金融危機」であり、拓銀の破綻が消費者マインドの大幅な落ち込みの主因の一つとなりましたし、拓銀以外の銀行の貸し渋りなども相当見られたようです。しかし、それ以外の時期については、銀行の貸し渋りが景気悪化に与えた影響を過大視すべきではないように思います。世の中で貸し渋りと言われている個々の案件をよく見ないと、「銀行が緩すぎた融資基準を適正なものに修正した」のかこれが行き過ぎて「貸すべき相手に対しても融資を断ったのか」の判断は難しいですし、借り手側からみて「銀行の貸し出し態度が厳しくなった」としても、それは「銀行の基準が変化した」のか「借り手の信用状態が悪化した」のかの判断が客観的になされる必要があるからです。
銀行の貸し出し残高が増えていないことから「銀行が貸し渋ったに違いない」と考える人もいるでしょうが、借り手が過剰な債務を早く減らしたいと考えて積極的に借入を抑制しているのかも知れませんから、慎重に判断する必要がありましょう。
そもそも銀行がBIS規制の制約で貸し出しを回収せざるをえなかったのであれば、生保などの「BIS規制対象外金融機関」が肩代わりをしているはずですので、「長期にわたってBIS規制が銀行の貸し渋りを通じて景気を抑制しつづける」ということは、理屈の上では考えにくいように思います。銀行がBIS規制を契機として「健全とは言えないが、急いで資金を回収するほどには不健全でもない」ような取引先から資金の回収を行ったということはあったでしょうが、これを「銀行の不良債権問題が景気を悪くした」と考えるべきか否かは、判断の分かれるところではないでしょうか
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(4) 97年には、二つの「正しい意図を持った誤った政策」により、立ち直りかけた景気が奈落の底に落ちることになりました。一つ目は、バブル崩壊後の不況で財政赤字が脹らんだため、財政再建のために大増税などが行われたことです。二つ目は、バブル期の「飛ばし」を隠し続けていた山一証券、バブル期の貸し出しが焦げ付いて債務超過に陥った北海道拓殖銀行を、「存続しているべきでない金融機関はつぶすべきである」という「正しい意図」のもとに、生命維持装置をはずしたことです。
二つとも、TPOさえ心得れば「正しい政策」となったのでしょうが、残念ながら日本経済がこうした荒療治に耐える体力を持っていなかったわけです。この結果、せっかく回復しかけた日本経済が大不況に陥り、かえって財政赤字が大きく膨らみ、ゼネコン救済的な公共事業が著増することになったのは、皮肉としか言いようがありません。「肺炎の入院患者が回復しきらないうちに、体質改善のための寒中水泳を強いた」ために、入院期間が大幅に延びてしまったようなものではないでしょうか
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バブル崩壊後に不良債権処理などの問題を先送りしてきたことが、不況長期化の諸悪の根元であるように言う人が多いのですが、私には素直に納得する自信がありません。バブル崩壊直後の邦銀に「不良債権を一気に処理する」体力があったとは思われないからです。一行だけがすべての不良債権を処理することは可能だったかもしれませんが、全部の銀行が一斉に担保不動産を売却すれば、地価が暴落して回収率が激減し、全部の銀行が債務超過に陥っていた(合成の誤謬)のではないでしょうか。
今から思えば「債務超過に陥った銀行には公的資金を注入すればよかったのだから、膿は出し切るべきであった」ということなのかも知れませんが、住専問題で数千億円の公的資金を注入するのに四苦八苦するような政治風土のもとで、90年代初頭に何兆円もの公的資金をタイミングを失することなく注入することができたか否か、私にはわかりません。
非常に少数説に属するのでしょうが、私は「90年代の初頭に外科手術を行わずに漢方医療で対処したことは、患者の体力を考えればやむを得ない処置であった」と考えているのですが、いかがでしょうか
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(5)
90年代前半の円高も、景気に大きなマイナスとなりました。プラザ合意の当時は製品輸入が少なかったことから、円高は輸出を通じて景気を下押しする一方で、輸入粗原材料価格の低下などが「円高メリット」として景気にプラスに働いていましたが、90年代にはアジアなどからの輸入製品がすでに大量に流入していましたから、円高は国内メーカーにとって競合商品の値下がりを意味し、売上げ数量が減少したのみならず、対抗上値下げを強いられて大いに収益が悪くなる要因となったわけです。
世の中にはプラザ合意後の経験をもとに、円高の景気抑制効果を深刻に受け止めないエコノミストも多いようですが、私は製品輸入が定着した現在の日本とプラザ合意当時の違いを重く見て、円高は景気に悪いという要素を重視するようにしています。
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96年には相当景気に強気でしたが、その主たる根拠は円安でした。結果として人々の予想に反して相当高い成長率を記録しましたから、予想が当ったということになりましょう。(97年には、強気を続けていたため、消費税増税のインパクトは乗り切れるだろうと考えていました。不覚にも山一証券などの倒産を予期出来ませんでしたので、結果としては、秋以降の消費者マインドの急低下により予測が外れてしまいましたが、これは円安の景気浮揚効果とは関係ないものと言えましょう)。
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(6)高齢化、晩婚化、少子化などといった社会的な変化は、毎年の成長率を論じる際には話題になりにくい項目ですが、中期的な成長率には相当大きな影響があったのかも知れません。第一の影響は団塊の世代が老後に備えた貯蓄に励む年齢に達しつつあることでしょう。しかし、晩婚化、少子化の影響もこれに劣らず重要だと思います。結婚すると、披露宴、家具の新調などを含めて生涯所得との比較において無視出来ない金額の出費が行われますし、育児に要する費用は想像を絶するものがありますから(私事ですが、現在実感しております)、こうした需要が存分に喚起されないことは、マクロ経済面での活力や成長率という観点から見る限り、相当大きな抑制要因であると言えましょう。
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日本経済の復活?
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90年代を「失われた10年」にさせた諸原因のうち、(1)から(3)はバブルの後遺症と言え、じきに解消に向かうでしょう。(4)以下は、何とも言えませんが、景気の腰を折るようなことが起きる可能性はそれほど高くないのではないでしょうか。
(1)地価の下落は、ようやく少しずつ緩和されてきつつありますし、株価も(米国のソフトランディングを前提とする限り)下値には限りがあるでしょうから、逆資産効果のインパクトは次第に減衰していくでしょう。地価下落が止まった事が確認できれば、そのこと自体が与える心理的な影響も大きいでしょうし、買い控えから買い急ぎへの転換が地価の戻りを促す可能性もあるでしょう。
(2)設備、負債、雇用の「三つの過剰」は、設備投資や採用の抑制、負債圧縮努力などにより、徐々に縮小しつつあることに加え、景気回復に伴う過剰感の緩和も見込まれます。現に設備投資は急激な盛り上がりの兆候を見せていますし、日銀短観などからは、雇用の過剰感が景気回復に伴い大幅に緩和されつつあることが見てとれるわけです。
(3)銀行の不良債権問題は、峠は超えているでしょう。10年間の業務純益と注入公的資金が不良債権処理に使われてきたわけですから、少なくとも事態が大きく改善していることは疑いないでしょう。また、倒産可能性が懸念されていた大手銀行がすでに破綻していることも、金融システム不安やジャパンプレミアムといった観点から今後の大手銀行の破綻可能性を考える際にはプラスでしょう。貸し渋りの問題も、大手銀行が自己資本が充実していること、公的資金注入の条件として収益を稼ぐことを求められており、各行の融資拡大競争が促されるメカニズムが働いていること、などを考えると、景気を圧迫する要因としては考える必要に乏しいでしょう。
(4)政府の失策は、いつの時代にも可能性はありますが、現時点で特に懸念が大きいとは言えないでしょう。景気回復を優先する政府の基本姿勢には変化が見られず、「少しは財政再建のことも考えないと」という程度であれば、すでに自律回復を始めている景気の腰を折ることは考えにくいと思います。また、「そごう」の件で債権放棄というスキームが使いにくくなり、ゼネコンなどが次々と倒産するリスクもありましたが、現在のところ「メインバンクを中心とした銀行団が、外科手術ではなく漢方的に処理する」という日本的な処理スキームが一応は機能しているように見えますから、現時点では大きな懸念はないと言えましょう。生保の破綻などは生じていますが、山一証券の時に比べると国民が馴れていることもあり、不安心理の高まりに伴う消費者マインドの低下は大きくはないようですし、コントロールされた速度で構造問題が一つずつ片づけられていくとすれば、中長期的には好ましい姿が実現していくと期待できるかもしれません。
(5)円高については、予想が難しいのですが、今後数年を展望すれば、経常収支もそこそこの黒字が続き、日米の景況感格差(および成長率格差)も少なくとも90年代よりは縮小するでしょうから(個人的には少数派で、逆転する可能性も相当高いと思ってはいますが)、トレンドとしての円高は続くと考えておいた方が良いようです。市場の動きを予測することは極めて困難で、急激な円高が進んで景気の腰を折る可能性も否定出来ませんが、ここでは緩やかな円高をメインシナリオと考えておきましょう。
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当面は、市場の景気認識は力強いとは言い難いでしょうから、市場の円買い圧力はそれほど強いわけではなく、日本政府も景気腰折れ回避のために円高阻止のための介入を行う可能性が高いでしょう。米国の景気がソフトランディングするという仮定のもとでは、米国政府も日本の円売り介入を容認するでしょう。しかし、次第に日本の景気が本格的に回復し、市場もそれに気が付くと、市場の円買い圧力が強まると同時に、日本政府が介入により円高を阻止する必要性が薄れてくるばかりか、米国政府が「失業の輸出である」として日本の介入を非難するようになるでしょう。したがって、中期的にみれば、政府の介入で急激な円高を止めることは出来ても、緩やかな円高であれば市場に任せるということにならざるをえないように思います。
もっとも、20年後には高齢化が本格的に進み、「使う人は減らないのに作る人が急激に減り、経常収支の赤字が大幅な円安をもたらす」という可能性が高いため、個人的には老後の資金をドルで持ちたいと考えており、今後数年の円高局面でドルに転換したいと考えています。(住宅ローンの返済に追われて、老後のための貯えなど雀の涙ほどしかありませんが)
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(6)は、簡単にトレンドが変わるとは思われません。高齢化の流れは不可逆ですし、晩婚化、少子化も、最近の若者の行動パターンが急に変化すると考える理由は特にないようです。ただし、これは徐々に進展していくもので、急激に事態が変化して景気を腰折れに導くような要因とはならないでしょう。
このように、90年代の不振が今後も続くと考える材料は多くないものと思われます。そうであれば、長年の不況に馴れて「どうせ景気が良くなる筈がない」と決めてかかるのは危険だということになります。
現在の景気は緩やかながら回復の途上にあり、すでに自律的回復軌道に乗っているわけですから、このまま「事件」が起きなければ、回復を続ける可能性が高いと言えましょう。緩やかな円高トレンド、少子化の持続、などを考えると、急激な回復は望み難いわけですが、回復速度が緩やかであることは、「景気過熱によるインフレ懸念が金融引締めをもたらして景気を反転させる」という可能性を低下させ、景気を長持ちさせる要因として働くことになりましょう。場合によっては、今後数年間は潜在成長率を若干超えた景気拡大が持続するということも考えられなくはありません。そうなれば、今後数年の日本経済は90年代に比べて遥かに活気のあるものとなり得るわけで、日本に対する極度に悲観的な見方は修正されていくことになりましょう。同時に米国経済が90年代ほどは好調でなくなるでしょうから、相対的な暗さは更に大きく修正されるかも知れません。バブル期には「日本は米国から学ぶものがない」といった自信過剰、バブル後には「日本はグローバルスタンダードではないから駄目なんだ」といった極度の自信喪失、というように、振り子が大きく振れ過ぎた状態が続いていましたが、ようやく中間地点にうまく落ち着いてくるのかも知れません。
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今後の注目点
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今後数年間の日本経済の成長率に影響を与えうるものとしては、第一に「事件」(景気循環を軌道から撥ね飛ばすような「外生的ショック」)が挙げられます。現在視野にはいっているところでは、「米国経済のハードランディング」、「急激かつ大幅な円高」、「原油価格の暴騰」などが主なものでしょうが、今後も何か起きるかもしれないわけです。しかし、こうした「事件」についてとやかく考えても仕方ありませんし、一過性の事件の影響は一過性ですから、その後はやはり「日本経済の復活」が展望出来るかもしれないわけです。
第二の要因としては、構造改革が挙げられましょう。世の中では、「構造改革が進まない限り日本経済に将来は無い」という人も多いようですが、そこまで深刻に考える必要はないように思います。「構造問題」という単語は人によって意味するものが異なるようですが、いずれにしても96年当時に無かった問題がその後新たに出現したというわけではなさそうですから、構造改革が進まなくても96年度程度の成長は可能であるということではないでしょうか。
また、実際には日本の構造改革が進まないと考える理由も無いようです。構造改革は、現に進みつつありますし、今後とも緩やかに進展していくでしょうし、それは望ましいことでしょう。構造改革は外科手術のようなものですから、焦り過ぎず、患者の体力にあわせて緩やかに行われていく程度が丁度良いのではないでしょうか。
第三の要因としては、IT革命の進展度合いが挙げられましょう。IT革命についても、「ここで出遅れれば日本経済に将来はない」と言う人がいますが、やはり深刻に考え過ぎる必要はないでしょう。「IT化の進んだ国は発展するから、IT化の進まない国は相対的に発展度が低くなる」ということは言えても、「IT化しない国は今までのような発展は持続出来ない」ということではないような気がします。また、日本経済の最大の問題が需要の不足であり、IT革命の最大の利点が供給側の強化であることを考えると、少なくとも日本経済にとって最重要の課題というわけではないのではないでしょうか。
また、実際にIT革命が世界的な規模で進行していくとすれば、日本経済にとって予想以上の牽引役として作用するかも知れません。IT革命には、IT機器の需要増とIT機器を用いた非IT産業の生産性向上という二面がありますが、コンピューター関連財や通信関連財のハードは、日本が基本的に得意とするところであり、90年代の日本企業総シュリンクの時代から立ち直った日本経済が00年代には世界に向けての供給基地となることも充分考えられるからです。
IT機器を用いて非IT産業が生産性を向上させるという後者の効果についても、米国ほどではないにしろ、緩やかには進んでいくでしょう。長期的には、高齢化時代を迎えて、使う人が働く人よりも遥かに多いという状況に対処していくために、生産性向上の必要性からIT活用が進むかも知れません。
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今後数年を考える限り、日本における生産性向上の景気に与えるプラス効果は、最近の米国ほどには大きくないかも知れません。第一に、生産性が向上しても解雇が容易ではないため、企業の利益に直接結びつかない場合もあるからです。第二に、米国は基本的に需要が強い家計部門を有しており、貿易収支も赤字ですから、供給力を増やせば需要は何とか付いてきますが、日本は基本的に需要が弱い家計部門を有しているため、生産性が向上すると直ちに余剰生産能力の問題が生じ得るからです。
もっとも、米国にしても「株高の資産効果でたまたま需要が盛り上がっているから供給と釣り合っているのであって、消費が巡航速度に戻れば直ちに供給過剰の問題が生じる」という懸念も個人的には持っていますが。
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第四の要因としては、個人の消費パターンの変化を挙げておきましょう。これは、「消費者コンフィデンスが回復しても消費性向が上昇しない」という最近の傾向が中長期的に持続するというリスクです。メインシナリオとしては考えにくいですが、本当にそうなれば、今後数年間の日本経済にとって極めて深刻な問題となるかもしれません。 |
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現在生じていること(消費者コンフィデンスが顕著に上昇しているのに消費性向が下がっていること)は、従来の経験からは説明しにくいことと言えましょう。「消費者が国債発行残高の大きさや年金を巡る不安などで消費を抑えているから消費性向が上がらないのだ」という人もいますが、諸調査で消費者コンフィデンスが顕著に上昇していることからすると、これは正しい理解ではないでしょう。
「家計部門の抱える住宅ローン残高が90年代を通じて上昇してきており、返済負担に追われて消費が増やせない」という説明も聞かれますが、去年から今年にかけて急に住宅ローン残高が増えたわけではありませんから、「去年から今年にかけての消費者コンフィデンスと消費性向の変化」を説明する材料としては不十分でしょう。
強いて説明しようとすると、「日本人の消費行動が、バブルの反動で『節約を楽しむ』ようになった」「豊かな時代に育った若者は、所得が増えたら贅沢をしたいというような欲求が薄い」という仮説は有り得るかもしれません。そうであれば、所得が増えても消費者コンフィデンスが改善しても消費は増えないでしょう。品質よりも価格を重んじて国産品から輸入品に消費がシフトしていることも説明がつくでしょう。消費税率引上げ前の駈け込み需要がバブル期の消費税導入前の駈け込み需要よりも遥かに大規模であったことも、消費者の節約意識の高まりで説明することが可能なのかも知れません。
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仮に、何らかの理由で日本の消費性向がコンフィデンスの回復に追随しない構造となっているとすると、これは由々しき事態であって、もともと貯蓄好きの国民性から需要不足気味の経済であったものが、ますます消費性向を落とすことで、恒常的な需要不足による不況が続くかもしれないからです。おカネはあるけれども需要がない国として、永遠に民需が盛り上がらず、財政赤字の拡大で公共投資は増やせず、海外に投資資金を提供するだけの国になってしまうのかも知れません。
私には「最近の若者」が理解出来ないということかもしれませんが、どちらかと言うと「豊かな時代に育って倹約を知らない」ようにも見えますし、そもそも「人々が倹約を楽しむ」などということはエコノミストの常識からもかけ離れていますから、こうした懸念はおそらくは杞憂でしょう。消費関連統計の不備(サンプリングの問題など)により足許の消費が弱く見えているだけであり、コモ法で推計されるGDP確報の段階で大幅に修正される可能性が一番あり得ると思いますし、消費者コンフィデンスの回復から消費性向の回復までに若干のタイムラグがあるということも考えられなくはないでしょう。いずれにしても、消費性向とコンフィデンスの相関関係は世代の差によっても大きくは低下していないと考えるべきではないでしょうか。
第五の要因としては、財政赤字の累積を挙げておきましょう。日本経済は需要不足経済であり、財政による景気刺激を恒常的に必要とする構造であると言えましょうから、「族議員の抵抗を封じ込めて歳出を削減し、納税者を説得して増税を行う」ことは必ずしも正しい政策とは言えないでしょうし、そうした政策は今後数年間は採用されないでしょう。従って、緩やかな景気拡大を前提とする限り、単年度財政が黒字化する可能性は小さく、政府債務残高は累積を続けるでしょう。しかし、今後数年間を考える限り、このことが何らかの困難をもたらすことにはならないでしょう。
日本経済が需要不足である原因が貯蓄超過型経済であることを考えると、財政赤字は容易に国内の貯蓄で賄われるでしょう。むしろ、国内貯蓄が財政赤字を賄って余り有り、余った部分が為替差損をおそれて海外に出て行かないから円高が進むと言うことが問題なわけです。従って、国債の大量発行が続くことによって需給が悪化して長期金利が上昇し、民間の投資を抑制する要因になる(いわゆるクラウディング・アウト)は深刻な問題とはならないでしょう。
もちろん、景気の回復に伴う自然な金利上昇は当然あるでしょうし、現在の債券市場が景気後退を織り込んで買い上がっている部分の修正などはあるでしょう。しかし、緩やかな景気回復と緩やかな円高は物価を安定的に推移させるでしょうし、金融政策も中立に戻ることはあっても強力な引締めに転じることは考え難いですから、長期金利は「歴史的にみれば低位」と言える範囲内での動きとなるのではないでしょうか。
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なお、上記は私の個人的な見解であり、私の属する組織などの見解をお示ししたものではありませんし、読者に投資などを勧誘するものでもありません。念のため。 |