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Dec.00 2000.12.1
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米国経済のリスクシナリオ

要旨
 

米国経済はソフトランディングするというのが通説ですが、日本経済を見慣れた視点でみると「景気減速→雇用減→個人所得減→消費減→生産減→雇用減」、「株安→景気悪化→企業収益悪化→株安」などのスパイラルで深刻な不況に陥るリスクも小さくないように思われます。

はじめに
 

米国経済は、インフレ無き高成長と株高を謳歌し、過熱気味であった景気も減速の兆しをみせてきたことからソフトランディング期待が高まっています。まるで「米国経済には悪いことは起こり得ない」という確信を世の中が共有しているような今日このごろです。天才とも神様とも言われるグリーンスパン連銀議長に対する信頼のなせる業なのかどうかはわかりませんが、傍目からみていると不思議な気がします。

私は日本経済が専門で、米国経済は詳しくありませんから、皆様に私の予測をご披露するというようなことは出来ませんが、詳しくないが故に抱く疑問も数多いので、わからないことは正直に述べたいと思います。ほとんどは勘違いや私の勉強不足のなせる業でしょうから、皆様に教えていただければと思っておりますが、中には「日本経済を見慣れている人がみると、米国経済はこう見えるのか」というような新鮮なものもあるはずです。「子供の質問はこわい。大人が当然だと思っていることを聞かれると、意外に答えられないことが多いから」と言われます。米国経済に関する私の理解レベルは専門の方々からみれば子供のようなものですが、それが故に役にたつこともあるかと思います。御意見、コメントなどが頂戴できればと存じます。

ニューエコノミー?
 

90年代後半の米国経済は、インフレなき高成長を謳歌し、株価も史上最高を更新しつづけるなど、文字どおりの絶好調でした。こうしたなかで、「株価は高すぎる。暴落するのではないか」「成長率が高すぎてインフレになるのではないか」という懸念を持つ人はいましたが、インフレなき高成長と株高は人々の予想を上回って順調に進展してきました。

株価の方は市場参加者の思惑で動く部分が多いですから、とりあえず考えないとして、エコノミストたちの間で最も疑問であったのが、なぜ成長率が高いのにインフレにならないのかという点です。「物の需要が供給を上回ると値段があがる」ということが当然予想されたのに、そうならなかったわけです。米国経済の潜在成長率(景気がよい時に、インフレならずに成長を続けられる上限の成長率)は3%台だと考えられていましたから、5%超の成長が続いてもインフレにならなかったのは大変不思議なことだったわけです。
はじめのうちは「アジアから安いものが輸入されるから」「企業がリストラに励んで生産コストを下げているから」などといった説明がなされていましたが、いよいよそれでは説明がつかなくなり、「IT革命による生産性向上が顕著なため、いままで考えられていた以上に生産力が伸ばせるようになり、したがって5%程度の需要の伸びに対しては供給側が応えることが出来るようになった」という理解が通説となっています。これを「従来の経済の枠組みと異なるニューエコノミーである」と呼ぶ人も多いようです。

    IT革命による生産性の向上がインフレを抑えているというのは理解出来ます。したがって、「失業率が低下して賃金が上昇したが、労働生産性がそれ以上に上昇して単位労働コストが安定し、したがってインフレが回避されている」ということならば、理解しやすいわけです。しかし、実際に起きたことは、失業率が低下しても賃金上昇が加速しなかったということです。なぜ低失業率が賃金上昇をもたらさないのか、大変不思議なことですが、ニューエコノミー論の流行(または浸透)とともに、この点は議論されなくなってしまったようです。
米国経済が専門ではない私には、不思議に思われることが多数あるのですが、その一つとして、なぜこうした不思議なことが議論されないのだろうかという疑問があるわけです。
 

いくらニューエコノミーといっても、景気が過熱すればいつかはインフレになるかも知れませんから、連銀は、成長率を潜在成長率にまで低下させるべく、少しずつ金融引締めを行いました。その結果、成長率は鈍化し、インフレ懸念は後退したと考えられています。株価も低下し、バブル的な雰囲気(バブルであったか否かは別として、放置するとバブルになる可能性は小さくなかったと思われます)も和らいでいるようです。
これをもって、世の中では「ソフトランディングだ」として歓迎する議論が大勢のようです。10月ころまでは、聞こえてくる懸念といえば、「減速は一時的なもので、再加速してインフレに至る」というものが多かったですし、ここへ来てようやく景気減速が明らかになりつつありますが、エコノミストたちの間では景気過熱感の後退とインフレ懸念の後退を評価する声が強く、「景気減速が行き過ぎて不況になる」という心配をしている人は少ないのではないでしょうか。株式市場も、ハイテク企業の収益懸念でハイテク関連株価の急落が起きていますが、ハイテク関連株を除けば比較的落ち着いた動きをしていて、米国経済全体の先行きを懸念するような動きは見えてきていないようです。

しかし、私は、米国経済が相当深刻な不況に陥る可能性が(メインシナリオとして考えるほどではないかもしれませんが)小さくないと考えています。人々は、連銀のグリーンスパン議長を天才とか神様とか呼んで崇めていますから、「彼がいる限り、変なことにはならない」という信頼感に基づいてソフトランディングシナリオを信じているようですが、冷静に考えて、これだけ大きく舞い上がった景気を、高すぎも低すぎもしないピンポイントに軟着陸させることが本当に出来るのでしょうか? 1)実体経済の景気拡大スパイラルが逆転したときには景気の後退がはじまる、2)景気後退→株価下落→景気後退の逆スパイラルが生じる、という二つの可能性を考えてみたいと思います。

景気循環の消滅?

景気が悪くなりはじめると、「需要減→生産減→所得減→消費減→生産減」、「需要減→生産減→投資減→生産減」、などのスパイラルが生じ、景気はどんどん悪化していくはずです。ちょうどよい所で景気がソフトランディングするメカニズムなどは無いわけで、天才グリーンスパン議長が超絶技巧で巧くコントロールすれば別ですが、それは旧式の石炭ストーブで部屋を適温に保つのと同じくらい難しいことではないでしょうか。
加えて、世の中では生産性の向上を「需要が強まってもインフレにならない」というポジティブな捉えかたをしていますが、需要が弱まった時のことを懸念している人が少ないのは不思議なことです。生産性が高いということは、需要が減ってもどんどん生産が増やせるということですから、企業が生産を続ければ在庫がたまるし、生産を止めれば失業が増えるのではないでしょうか。

 

   

米国経済を論じる時に、需要不足よりも供給不足に目が行くのは、なにも昨今のことではなく、レーガノミクスも「サプライ・サイド・エコノミー」と呼ばれたように、如何に供給力を強化するかというものでした。日本経済はバブルのピーク時を除いて常に「需要さえあれば供給は可能である。問題は如何に需要を高めるかである」という観点から論じられていますから、私には米国経済を論じている人たちの問題意識が感覚的に理解しにくいものがあります。
こうした着目点の違いは、日米経済の意外と本質的な違いに起因するのかもしれません。すなわち、米国の家計は消費好きで、放っておくと消費過多・貯蓄不足になりがちである一方で、日本の家計は貯蓄好きで、放っておくと貯蓄過多・消費不足になりがちだということです。この差が日米貯蓄率の差であり、日米貿易不均衡の原因だということでしょうか。
脱線しますし、極論ですが、これが日本の財政赤字が減らない原因かも知れないと時々思います。米国では、財政支出を減らすことは、一つには族議員や圧力団体との戦いであり、一つには国民の理解と協力を得ての増税であり、一つには「ソ連の消滅に伴う軍事費の削減」であったのかもしれませんが、ともかく財政赤字を如何に削減するかが問題であったということがここでは重要です。日本でも、「如何に族議員の抵抗を廃して財政を再建するか」といった議論がなされることがありますが、じつはそれだけでは日本の問題は解決しないのです。97年度には橋本首相が「族議員の抵抗を抑え、納税者の納得も得て?」歳出削減と増税を行いましたが、これが不況を招いて結果的に財政赤字を膨らませたことは記憶に新しいでしょう。「日本は規制緩和が進んでいないから投資機会が少なく、需要不足なのだ」といった意見を耳にしますし、そういった要素もあるとは思いますが、より本質的な問題の根が国民性にあるとしたら、相当やっかいな問題なのかも知れません。

 
 

「このところ、IT革命のおかげで潜在成長率である3%台を超えてもインフレになっていなかった」ということは、潜在成長率が上昇したということではないでしょうか。そうだとすると、人々が望ましいと思っている3%台の成長は、潜在成長率を下回っていて失業を増やすことになるのではないでしょうか?

今一つ、「設備投資の二面性」の問題も気になります。米国の生産性が向上したのは主にはIT革命のおかげかもしれませんが、非常に活発な設備投資が行われて生産能力が高まったことが需給関係の逼迫を避けながら高成長を維持出来た理由でありますから、米国の生産能力が急ピッチで増加してきたということは疑いの無いところでしょう。現在もこのペースで設備投資が計画され、着工されているとすると、需要が伸び悩みはじめた時に巨大な設備が立ち上がることになり、余剰設備を抱えた企業が一斉に設備投資を手控えるかも知れません。このように、設備投資の二面性(設備投資は当初は需要だが後に供給力となるために、景気の波を拡大する方向に作用するということ)が米国の景気後退を深刻化させるリスクも考えておかなければならないでしょう。

以上のように、実体経済の自然な循環だけを考えても、ここまで高成長を続けてきた後でソフトランディングするということは容易ではないはずなのに、こうした懸念があMFEM聞こえて来ないのはなぜなのでしょうか?

広義のバブル?
 

米国経済の高成長を支えてきた一つの大きな要因が、株高による資産効果であることは、疑い無いでしょう。問題は、株高→資産効果による消費増→企業収益増→株高というスパイラルで景気がサステナブルでない水準まで拡大する「広義のバブル」であった可能性が否定出来ないことでしょう。

通常バブルとは、「経済ファンダメンタルズは健全なまま、株価が経済ファンダメンタルズを離れて自己増殖的に上昇する」といった場合を指します。これを狭義のバブルと呼んでおきましょう。この場合には、PERなどから容易にバブルであることが推定できますし、バブル崩壊によっても経済ファンダメンタルズにはそれほど影響が及ばない場合も多いと思われます。この場合、人々は「株価が高すぎるのは知っているが、更に高値で買う人がいるだろうから自分も買う」という行動をとっていますから、いざ株価の上昇が止まると買手が消えて、株価は一瞬で暴落することになります。

問題は、株高→資産効果による消費増→企業収益増→株高というスパイラルで景気が拡大する「広義のバブル」の場合です。この場合はPERがおおむね適正な水準を維持しますから、バブルであるという明確な認識が共有されないまま、株価がどんどん上昇していきます。通常であれば、景気が拡大すればインフレを招き、金融引締めが行われますから、需要も落ち、株価も下がり、比較的早い段階でバブルが潰れるので、バブルがあったことさえも気付かれないかも知れません。しかし、何らかの原因でインフレが回避されると、引締めが行われないままに株価がどんどん上昇していきます。経済も株価も順調な期間が長くなるにつれて、人々が「永遠の繁栄」を信じて消費や投資をしはじめる場合も多いのではないでしょうか。(弱気派エコノミストが発言力を失ったり自信喪失から強気派に転向したりすることもあり、世の中の楽観的なムードを加速する場合もあるようです)。しかし、こうしたスパイラルは無限には続きませんから、いつかは景気がサステナブルでない水準に達し、いつかは逆向きのスパイラルが始MFEM、深刻な不況に陥る可能性が高いわけです。この場合には、株価は暴落ではなく、企業収益の低下にあわせて徐々に低下していくことになりましょう。

    80年代後半の日本のバブルは、中盤までは広義のバブルの要素が強かったように思います。バブル期の日本株のPERはバブル以前と比べて高かったわけですが、金利が低かったことを考慮に入れて過去の水準と比較すると、バブルの中盤までは必ずしも不合理とは言い切れなかったようです。景気は過熱していましたが、円高で物価が安定していましたから、金融の引締めが遅れ、株高と高成長が長期間持続し、人々は「日本が米国を抜いて世界一の国になった」とはしゃいでいたわけです。 しかし、ついには狭義のバブル的な状況に至り、最後にはバブル潰しのための金融引締めでスパイラルが逆転したわけです。
こうした見方を裏付けるように、株価が天井をつけてからも「暗黒の○曜日」というような暴落は発生せず、比較的緩やかに株価が下落していったわけです。株価が天井をつけてから半年以上経過してから株価が急落しましたが、これは湾岸戦争によるものであって、自然体であれば比較的緩やかな下落トレンドをつづけたのではないかと考えられます。
もちろん、90年代後半の米国経済は80年代後半の日本経済と異なるところも多く、類似性ばかりを強調するのはフェアではありませんが、類似性がないと言い切る根拠にも乏しいような気がします。
 

米国経済に、「広義のバブル」的な要素があったと考えることは、不自然ではないでしょう。第一に、個人の金融資産に占める株式の比率は米国の方が日本よりも圧倒的に高いことを考えると、株高の資産効果が消費を押し上げた効果は米国の方が日本よりも更に大きいと思われます。したがって、株価が下がれば(少なくとも上昇を止めれば)米国の消費は相当減少するのではないでしょうか。多くの米国担当エコノミストたちが回帰分析により「株価暴落の影響で消費がどれだけ落ちるか」を計算していますが、日本のバブル後不況のような落ち込みを予測している機関が無いのは何故なのか、不思議な気がします。

    米国の家計貯蓄率がマイナスであること自体、尋常ではありませんが、80年代の双子の赤字の時代に「今は米国のベビーブーマーが消費をする年代だから家計貯蓄率が低いが、あと10年もすればベビーブーマーが貯蓄する年代にはいるから、米国のISバランスは改善するだろう」と言われていたことを思い出すと、尋常でない程度が計り知れようというものでしょう。これが株高を原因とするものであるとすれば、逆回転をはじめた場合のインパクトが想像出来るのではないでしょうか。
 

第二に、企業収益の好調は高成長と密接に関係していますから、ものごとが逆回転をはじめると消費減→企業収益減→株安→消費減のスパイラルを描くことが容易に想像できるわけです。どの程度深刻なものになるのかはわかりませんが、「問題ない」と言い切る材料はないように思います。

   

「バブル」という単語を米国に適用することに抵抗感のある人も多いでしょうが、少なくとも過去数年間にわたって株高と景気が相互に影響しあってきたことは疑い無く、株高と好況の流れが逆転した後も、株安と消費減少などが連鎖的に影響を及ぼしあって行くかも知れないという可能性は、否定し得ないように思います。

財政金融政策?
  世の中では、「仮に景気が後退に向かっても、米国政府が景気刺激型の財政金融政策に転じれば、谷は浅いであろう」と言われていて、これもソフトランディング論の大きな根拠となっているようですが、本当でしょうか? 第一に、米国の財政が大幅な黒字であるが故に財政政策が採りうるという点ですが、日本もバブル期には税収の好調で財政が黒字であったことを思い出せば、財政収支などは景気に大きく左右され、景気が悪くなった時には財政収支が赤字に転落して財政政策が出動できないという可能性も考えておくべきではないでしょうか?特に、資産価格の大幅上昇がキャピタルゲイン課税などを通じて財政収支を改善している場合には、GDP成長率の変化よりも税収の伸び率の方がはるかに大きく変化する可能性が高いと思われます。
   

米国の税制は94年以降ほとんど変化していませんが、税収は非常に大きく増加しています。しかも、増加ペースは94年時点の見通しを大きく上回っているのです。その大きな理由が「株価上昇に伴いキャピタルゲイン課税が好調であること」、「所得格差が広がったために高税率の金持ちの所得が大きく伸びたこと」であると言われていますので、株価が大きく下落して現在羽振りのよい高所得者が落ち目になれば、あっと言う間に財政収支は再び赤字に転落するのではないでしょうか。
そもそも米国では日本ほどケインジアン的な発想が強くないため、景気鈍化に際して公共投資で景気を刺激するという発想が政府に薄いと言われていますから、どこまで景気刺激のために財政支出が行われるのかは今一つ不確定なのかも知れません。

 

金融政策は、緩和の余地がありましょうが、そもそも「金融政策はゴムひものようなもので、ひもで引っ張ることは出来ても押すことはできない」といわれていることを考えれば、どの程度の効果があるのかは疑問です(米国経済は日本よりは金融緩和に反応しやすいと言われていますが、本質的な違いではないと思われます)。

それから、今次金融引締め局面において長期金利がほとんど上昇していないことも、来るべき金融緩和の際に長期金利の低下余地が限られているという意味で、金融緩和の効果に多くを期待できない理由となるのではないでしょうか。

日本への影響
 

米国がソフトランディングする場合、日本にどういう影響があるでしょうか。

直接的な影響としては、1)日本の対米輸出が減るでしょう。次に、2)アジアの対米輸出が減り、日本のアジア向け輸出が減るでしょう。

1)「米国の成長率が5%から3%に低下すると、日本の対米輸出の伸び方も7%が5%になる」というような単純なものではない可能性があり、留意が必要です。「景気が過熱してくると、需要の伸びに供給が追いつかず、追加的な需要はすべて輸入で賄われる」という場合があり、これが輸入の著増をもたらしている可能性があるからです。そうであれば、成長率がわずかに低下しただけで輸入の伸び率が大きく低下するということになりかねません。
   今回の場合、判断が難しいのは、「米国の貿易収支赤字が成長率を大きく超えて拡大しているのは、需要の増加を供給がまかないきれずに輸入に頼っているためであり、いわば輸入の安全弁が働いているのであって、需要が落ちれば輸入も大きく落ちる」という考え方と、「米国の設備稼働率は特別高いわけではなく、したがって需要が少しのびると輸入が急に増えるというメカニズムは働いていないはずである。逆に言えば、需要が落ちても輸入が急減するとは限らない」という二つの考え方が可能だからです。

2)米国経済で最も伸びているのはIT関連ですが、米国むけにIT関連の輸出を伸ばしているのはアジア諸国でしょう。米国の景気がソフトランディングしたときにIT関連の輸入が急速に減少するか否かはわかりませんが、米国の減速がレバレッジの効いた形でアジアの急減速をもたらす可能性は小さくないでしょう。少なくとも今後も急激な伸びが続くことを前提にアジア諸国は設備投資に励んでいますから、アジアの対米輸出の増加のペースが落ちただけでも、過剰設備などの問題からアジアの景気が大きく減速する可能性は小さくないと思います。アジアは日本の主要輸出先であり、対米輸出用IT関連財のための生産設備や重要部品なども多く輸出されていますから、日本の輸出も相当大きな影響を受けるかもしれません。
   米国がソフトランディングする場合には、金融市場を通じた日本への影響は大きくないでしょう。米国の株価が若干下がることはあるかもしれませんが、むしろソフトランディングを好感して上がるかもしれず、大きく下がることは考えなくてよいでしょう。グローバル・マネーフローも米国の好調を前提とした流れが続くでしょうから、大きな変化はなく、為替もドルが暴落したりする懸念は小さいでしょう。

米国が「広義のバブルの反転」で深刻な不況に陥った場合、日本にどういう影響があるでしょうか。直接的な影響としては、1)日本の対米輸出が減るでしょう。次に、2)アジアの対米輸出が減り、日本のアジア向け輸出が減るでしょう。間接的な影響としては、3)大幅なドル安が進むかもしれませんし、4)日本株が大きく値下がる可能性は高いでしょう。

1)日本の対米輸出がどの程度減るかどうかは、ソフトランディングの時と同様の問題があり、考え方の分かれるところでしょうが、いずれにせよ相当の影響は受けるでしょう。

2)アジアの対米輸出も大きく落ち込み、したがって日本の対アジア輸出も相当大きな影響を受けるでしょう。

3)最も懸念されるのが、グローバル・マネーフローが変化して、大幅なドル安が進むことです。米国の経常収支赤字が急激に脹らんでいるにもかかわらず、「米国経済の一人勝ち」「米国経済の永遠の繁栄?」を信じて外国から大量の投資が流れ込んできているために、ドルは対ユーロを中心に高くなっています。円相場も、日本が景気回復途上にあるにもかかわらず、日米景気格差などがまだ大きいという水準感から円高方向の圧力は見えてきていません。
   しかし、ひとたび米国のバブルが崩壊し、米国経済に対して世界が抱いていたイメージが大きく反対側に振れると、対米投資の流れが止MFEM、経常収支不均衡の分だけドルが市場で余剰になるからです。市場関係者の目が日米経常収支不均衡に再び向かう可能性もありましょう。

    日本のバブル期には「日本経済はすばらしい」「日本的経営はすばらしい」「日本は外国から学ぶものがなくなった」という人も多かったわけですが、バブルが崩壊してみると「日本はグローバル・スタンダードでないから駄目なんだ」という一言で切り捨てて思考を停止してしまう人も多いようで、いずれも行き過ぎのような気がするのですが、いかがでしょうか?米国でも同様のことが起きるかもしれませんね。
  この結果、急激な円高が進み、日本政府は必死で介入しようとするでしょうが、米国が反対するのではないかと思います。米国は、今でこそ失業率が低いために、ドル高による輸入増を気にしていませんが、米国の失業率が高くなれば「日本は意識的に円安誘導して対米輸出を増やし、失業も同時に輸出している」という摩擦が高まることが予想されるからです。
   

米国の景気が過熱気味である現在、ドル高により外国の製品が安く輸入されることは悪いことではありません。労働組合がおこらないこと、物価安定に資すること、経常収支不均衡が順調にファイナンスされていること、などが見込まれるからです。しかし、一旦米国の景気が悪化に向かうと、これらが逆転します。労働組合は「ドル高は失業の輸入だ」と騒ぐでしょうし、インフレの懸念が遠のけばドル高による物価安定のメリットは縮小して安値輸入品による国内製造業収益の圧迫が目立つようになるでしょう。こうしたことから、米国政府が円高を望むようになる可能性は決して小さくないでしょう。

なお、「経常収支赤字が仮に縮小に向かうとすると、外国投資を引き付けておく必要性が薄れる」かどうかは疑わしいと思います。フローはともかく、ストックでみた累積経常収支赤字が短期間に縮小に転じるとは思われないからです。しかし、この点については、私は「そもそも米国は経常収支赤字のファイナンスを致命的に重要な問題とは考えていない。日本の投資家が米国債を買わなければ、円高が進み、日銀がドル買い介入を行い、結果として日銀が米国政府短期証券を買うからである」と考えていますから、米国政府の行動に大きな影響を与えないのではないかと考えています。

 

4)日本株も安くなるでしょう。米国人が「本国に資金を回帰する」、「円高に伴う利益を取りに来る」、などの理由からか日本株を売るからです。株安が予想されれば、国内投資家も株式投資に慎重になるでしょうから、日本株が大きく値下がることも充分あり得ましょう。その場合の景気への悪影響は、逆資産効果や銀行の自己資本比率低下などにとどまらず、人々の景況感を大きく押し下げることで、経営者マインドや消費者マインドを大きく下押しするでしょうから、実体経済へのインパクトは相当大きくなることが予想されるわけです。

以上のように、米国経済がリスクシナリオをたどれば、日本経済にも甚大な影響が及ぶでしょうから、今後の推移が大いに注目されるところでしょう。

 

    なお、当然のことですが、上記は私の個人的な見解であり、私の勤務先などの見解をお示ししたものではありませんし、読者に特定の投資行動をお勧めするものでもありません。念のため。
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