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景気の見方読み方
Nov.00 2000.11.28
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最近の日本の景気をどう見るか

要旨

米国のソフトランディングを前提とする限り、日本の景気は比較的順調に回復していくでしょう。私は、日本経済単独で考えた場合には他のエコノミストよりも強気です。しかし、米国の先行きには他のエコノミストより弱気なため、期待値としての予想成長率は多数説と大差ないかもしれません。

なお、グラフなどについては、日本銀行の金融経済月報11月号(一部については同10月号)を適宜(ダウンロードして)ご参照ください。

はじめに up
 

景気の現状については、緩やかな回復基調にあるというのがコンセンサスでしょうが、先行きについては見方が分かれているようです。私は、「米国がソフトランディングする」という前提に立てば、多数説よりも日本経済には強気です。
私は、景気は一度回復をはじめたら、何らかの「事件」(山一証券倒産、大増税など)が起きない限りは拡大が続き、インフレ懸念で日銀が引き締めてはじめて景気が後退に転じると考えています。世の中には過去10年間の不況に「順応」して、「どうせ今回もそれほど景気がよくなるはずはない」という先入観を強く持って「来年度の成長率は今年度より低いだろう」と考えているエコノミストも多いようですが、私はこうした先入観を持たないようにしています。したがって私は、来年度の景気に関しては、世の中のエコノミストたちの平均よりは、景気に強気の方だと思います。

   

96年度にも、私は景気に強気でしたが、景気に弱気のエコノミストたちのなかには、こうした先入観を持った人も多かったようです。結果としては、「事件」のなかった96年度の景気は好調で4%超の成長を達成し(68SNAベース。以下同じ。当時は68SNAベースで1%以下を予想するエコノミストも大勢いました)、97年度には大増税に続く山一倒産という「大事件」で一転して不況になりましたから、96年度は私が当たり、97年度は弱気派が当たったわけです。(96年度は消費税前の駈け込み需要で成長率が高かった面もありますので、公平のために96暦年をみると、成長率は5%とむしろ高くなっていて、景気が実際に強かったことがわかります)。こうした中で、96年度の結果を見ても「それでも景気は悪かった」と言い続け、97年度の結果を見てから「だから景気は悪いと言っただろう」というエコノミストが大勢いましたが、いかがなものかと思います。私が97年度の予測を誤ったのは山一倒産を予測出来なかった私の不徳の致す所かもしれませんが、だからと言って、弱気派エコノミストの予測が正しかったということにはならないでしょう。(96年度は景況感を大きく誤ったわけですし、97年度も多くの弱気派の予想と全く異なる経路で景気が悪化していったからです)。

今回も、たとえば具体的な説明ぬきで「構造問題があるから日本経済の成長率は高くならない」というコメントをするエコノミストがいますが、私は「96年度も構造問題を抱えていたのに4%成長が出来たのだから、今回も出来ないとは限らないので、すべてを構造問題のせいにするのは思考停止である」と考えています。

 

 

なお本稿は、米国経済はソフトランディングに成功する、極端な円高にはならない、政府が大きなミスをしない、原油価格はWTIで30ドル強、という前提をメインシナリオとして書かれています。

   

私は、多数説よりも米国経済に悲観的で、ソフトランディングしない可能性も相当高いと考えていますので、結果としては日本経済がどうなるか、非常に難しい局面であると考えていますが、米国経済については稿を改めて私なりの見方を申し上げることとし、本稿では米国ソフトランディングシナリオに基づいて、私の見方を申し上げたいと思います。

成長率については、次回発表のGDP統計から新基準(93SNA)で作成されますが、私も読者の皆様も成長率のイメージは旧基準(68SNA)で持っておられるでしょうから、本稿においては、特に記さない限りは旧基準で議論することにしました。

全体感 up
 

日本の景気は99年春が谷で、その後は「緩やかながら回復しつつある」というのがエコノミストたちの共通認識となっています。日銀金融経済月報の冒頭(要旨部分)は「我が国の景気は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している」となっていますし、政府の月例経済報告の冒頭(要旨部分)は「景気は、家計部門の改善が遅れるなど、厳しい状況をなお脱していないが、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが継続し、全体としては緩やかな改善が続いている」となっています。

民間調査機関の成長率見通し(今年度分)も平均すれば2%前後と思われますから、昨年度(実績0.5%)よりはるかに高く、景気が方向として改善しつつあることを示していますし、2%という数字は多くのエコノミストが「日本経済の巡航速度(潜在成長率と呼びます)である」と考えているわけですから、景気が悪いというほど低い成長率ではないわけです。しかし、景気が回復しているという実感を持っている人は少ないでしょう。これは、「景気の方向と水準のずれ」、「成長率と景気のタイムラグ」などに起因するものでしょう。たとえていえば、成長率が2%ということは、部屋の石炭ストーブが「中程度の強さ(部屋が適温であれば、それを維持できる程度の強さ)」で燃えているということですから、「厳しい不況で冷え切った部屋を暖めるには力不足で、人々には部屋の温かさが実感できない」というイメージではないでしょうか。

主な統計を見ると、経済活動の中心である企業部門が相当活発に活動しはじめていることがわかります。生産はおおむね順調に増加を続けており、平均すれば年率5%を超える高い伸びを示しています(日銀月報図表12参照)。出荷と在庫の伸びをグラフにすると、「在庫積み増し局面(在庫循環は出荷が伸びて在庫がそれほどではない)」であることがわかり(日銀月報図表13参照)、これは景気が青年期の勢いのよい時期であることを示しています。
機械受注の統計も、景気が順調に回復しつつあることを物語っています(日銀月報図表7参照)。機械受注は設備投資の先行指標ですから、半年から1年後の設備投資が相当高い伸びを示すことが見込まれるわけです。背景には、生産増加などに伴う稼働率の上昇、企業収益の好調、低金利の持続などの客観条件と、企業経営者のマインドの着実な改善(たとえば日銀月報10月号図表9で日銀短観の業況判断DIを参照)が噛み合っていることが挙げられましょう。

雇用、賃金の関係が、回復の鈍さを見せており、これが個人消費の回復を妨げているように見えますが(日銀月報図表14参照)、これらは景気の回復に遅れて改善してくる指標ですから、今の段階で回復が鈍いのは、それほど気にする必要はないでしょう。日銀短観の雇用判断をみても、雇用の過剰感はピークアウトしていますから、リストラなどの動きも沈静化しつつあるでしょうし、状況は最悪期を脱して緩やかながら改善しつつあるわけですから、個人消費が景気の足を引っ張るようなことにはならないと考えてよいと思います。
公共投資や住宅投資には多くを望めませんが、現状の水準が高くないため(日銀月報図表2、11参照)、今後さらに大きく落ち込んでいくことも考えにくいでしょう。輸出は減速するでしょうが、米国のソフトランディングを前提とするかぎり、景気の腰を折るような急減は見込まれません。

以上のことから、景気は「国内民間需要主導の自律的な回復局面」という大変望ましい状況にあると考えられます。「生産増→稼働率上昇、企業収益増加→投資増→生産増」、「生産増→雇用回復、賞与回復→消費増→生産増」、といった好循環が成立しているからです。以下では需要項目別に見てみましょう。

個人消費 up
 

個人消費は、すでに景気の下押し要因ではなく、緩やかながら増加トレンドにはいった(または近々はいる見込みである)と言えるでしょう。可処分所得と消費性向にわけて考えてみましょう。

雇用者の名目所得は、すでに下げ止まっています(日銀月報図表14参照)し、今後は回復してゆくものと考えるべきでしょう。一人当りの可処分所得はすでに下げ止まっており、今後は増加してゆくでしょうし、雇用者数に関しても、新規求人数の急激な伸び(日銀月報図表15参照)などをみると、今後は遠からず減少基調から増加基調に転じるであろうからです。雇用者所得以外の家計所得に大きな変化が見込まれないこと、大幅な増税も見込まれないこと、物価の安定基調が持続すること、などから、実質可処分所得は緩やかに増加をしていくと考えるべきでしょう

    

一人当たりの可処分所得については、所定内給与(いわゆる基本給)は増加に転じていますし、残業時間は順調に増加を続けていますから、所定外給与(残業代)も増加していくでしょう。今まで家計可処分所得を押し下げていた特別給与(ボーナス)も、ようやく下げ止MFEMましたから、今後は企業収益の急回復を映じて回復してくるものと思われます。
雇用者数に関しては、失業率の低下が緩やかであることをもって雇用環境が悪いと考えるべきではなく、失業率の改善は新規求人数よりも遥かに遅行するということに着目し、雇用環境はすでに、相当顕著に回復していると考えるべきでしょう。 マクロ的にみて労働分配率が高いことなどを根拠に、「企業が引き続き人件費の抑制に注力するので雇用者の可処分所得は伸びにくい」と言う人が多いようです。一理あるとは思いますが、「景気に関係なく人件費が減り続ける」ということではないので、注意が必要です。「企業収益の伸びよりもボーナスの伸びの方が低い」というようなことは言えるでしょうが、同時に「企業収益がマイナスからプラスに転じれば、タイムラグを置いてボーナスの伸びもマイナスからプラスに転じる」というようなことも同時に言えるからです。

 

 

消費性向は、家計調査でみる限りは顕著な回復を示していませんが、消費者コンフィデンスの顕著な改善から考えて、今後の消費性向は確実に回復していくものと思われます(日銀月報図表10参照)。企業経営者の雇用過剰感が急激に緩みつつあること(日銀月報10月分図表19参照)に加え、事業主都合による離職者の数がすでにピークアウトしていることから、リストラによる雇用不安も徐々に緩んでいくものと思われるため、今後もコンフィデンスが改善の方向にあると考えられるからです。
株安が進めば逆資産効果が懸念されますが、米国経済のソフトランディングを前提とする限り、それほど日本株が下落することは考えにくいと思います。

    

家計調査における消費性向の戻りの鈍さが、これをもとに作成しているQEにおいて消費の回復が鈍い理由となっていますが、私は家計調査のサンプル要因に一抹の懸念をいだいています。消費者コンフィデンスと消費性向の動きがあMFEMに異なるのは不自然だからです。したがって、コモ法で推計されるGDPの確報において個人消費が大きく上方改定される可能性も無いとは言い切れないかも知れません。
商業販売統計なども消費の弱さを示唆していますが、これも新規出店した格安店などの売上げが大きく伸びている分が統計に反映されていないため、数字をそのまま鵜呑みにするわけには行かないでしょう。

住宅投資 up
 

住宅投資は、住宅投資減税にもかかわらず、低水準で推移しています(日銀月報図表11参照)。90年代を通じて低金利や住宅投資促進減税などが住宅投資を刺激してきましたし、96年には消費税率引き上げ前の駈け込み需要が盛り上がりましたから、相当需要が先喰いされてしまっていることに加え、婚姻年齢の上昇や少子化といった人口動態も少なからず住宅需要に影響しているものと思われます。加えて、終身雇用制の緩みなどで住宅ローンの潜在的な借り手がシュリンクしていることなども原因かも知れません。
今後も基本的な状況には変化が見込まれないため、当面は住宅投資の伸びは期待出来ないでしょう。来年度中には利上げがありましょうし、住宅金融公庫の金利も上がるでしょうから、その前の駈け込み需要もわずかには期待されますが、金利の上昇幅は限定的でしょうから、特記するに値しない程度の影響かもしれません。また、地価や住宅価格が明確な形で上昇に転じるとも考えにくいでしょう。塩漬けされている大量の担保不動産の潜在的な売り圧力は未だ相当大きいものと思われるからです。
しかし、昨今の水準が低いだけに、前年比での大きな落ち込みの懸念も少なく、「住宅投資の落ち込みが景気の回復に水をさす」といった事態には至らないでしょう。とりあえず景気に中立的な項目であると考えてよいのではないでしょうか。

設備投資 up
 

設備投資の環境は良好です。生産の拡大に伴い設備稼働率は上昇していますし、長期金利は歴史的な低水準にありますし、企業収益もリストラの進展や低金利を映じて高い水準にあります(日銀月報10月分図表8参照)。企業の資金繰りも、中小企業を中心に貸し渋りの影響を厳しく受けていた状況が大きく改善し、設備投資の制約要因としての資金繰り難が緩和されたことも設備投資の回復に寄与しているでしょう。バブル期に作られた設備が更新期を迎えていることも追い風でしょう。マクロ的には設備過剰であっても、陳腐化した設備を更新せずに用いていると競争に勝てないため、会計処理はともかくとして、経済的には「廃棄」されていく設備も多いものと思われます。IT革命と言われる流れを受けて、IT関連の投資が活発化しつつあることは言うまでもありません。こうした客観情勢に加え、企業経営者のマインドも大きく改善しています。日銀短観の業況判断D.I.は、顕著に回復してきており、水準的にも中小企業非製造業を除くと96年の水準に近づきつつあります。
こうしたことから、設備投資は、極めて順調な拡大基調にあります。QEにはそれほど顕著に表れていませんが、すでに先行指標である機械受注が顕著に増加しているため(日銀月報図表7参照)、半年強のタイムラグを経て今後本格的に盛り上がってくるものと考えられます。日銀短観の設備投資計画を見ても、過去との比較でみた今年度の計画が大変高水準となっています(日銀月報10月号図表10参照)。
来年度も設備投資をめぐる良好な環境に大きな変化は見込まれないため、基本的には好調のまま推移し、今年度に引き続き景気を牽引するものと思われます。

在庫投資 up
 

来年度の在庫投資は緩やかな増加となるものと予測しています。在庫投資は、GDP成長率に対する寄与度が大きくないため、需要項目として在庫投資を正しく予測すること自体はあMFEM重要ではありませんが、景気の局面をどう読むかで在庫に関する見方が大きくわかれますので、おろそかに出来ない項目であることには違いないわけです。
在庫循環のグラフは、現在が在庫の積み増し局面にあることを示しています(日銀月報図表13参照)。 今が景気の勢いのよい時期であるということでしょう。
エコノミストによっては、在庫循環のグラフを時計のように解釈して、「したがって来年度には在庫積み上がり局面にはいり、景気は減速する」と考えている人もいるようですが、妥当ではないでしょう。在庫循環は、時計のように回る速さが一定ではないからです。需要が強い間は出荷は伸び続け、在庫率を保つために在庫の積み増しも続きます。従って、時間が経てば自然に在庫の積み上がり局面に移行するということではなく、需要が金融引締めなどにより減速しはじめて、はじめて在庫循環上の積み上がり局面に移行するわけです。

     日銀月報図表13を見ると、在庫循環が93年1Q以降、しばらく止まっていたことがわかります。これは、需要が回復しなかったために出荷が減りつづけ、したがって在庫調整が延々と続いたということを意味しています。在庫の積み増し局面から積み上がり局面に移行する場合にも、当然同様のことが起き得るわけです。
公共投資 up
 

公共投資は、98年度に大型補正が組まれて以降、毎年対策が打たれています。しかし、公共投資の水準自体は90年代の平均と比べても決して高くありません(日銀月報図表2参照)。90年代には累次にわたる景気対策が採られたために平均値が高いということもありましょうが、直近では地方公共団体が税収の不振などから公共投資を絞っていて、中央政府の景気対策が打ち消されている面も大きいものと思われます。
今後も増加は期待できませんが、公共投資が大きく落ち込んで景気の足を引っ張ることは心配しなくてよさそうです。2000年度も一応の景気対策が採られたため、これがタイムラグを伴って01年度に効果を表わすであろうこと、景気回復に伴って地方の税収が増加しつつあること、などが下支え要因として期待出来るからです。水準としてみても、00年上期の公共投資の水準は橋本行革時と比べても更に低いため、これが更に減少していくということは考えにくく、前期比としては現状水準が維持されるか若干増加するかもしれない(年度ベースではマイナスでしょうが、今後の季節調整値の前期比がマイナスでないならば、今後の景気を押し下げる要因とはならないはずです)といったレベルではないでしょうか。景気が谷底から浮上してくる時には公共投資の助けが必要ですが、すでに景気が自律回復局面に入っている現在、公共投資は徐々に舞台から降りていくべき局面と言うことが出来るでしょう。あMFEM急激に舞台から飛び降りると障害もありましょうが、予想される程度の穏やかな降り方であれば、マイナスの影響は大きくないと言えましょう。
政府部門には、公共投資以外にも政府消費と政府在庫がありますが、特段景気に影響を与える動きは見込まれず、中立的な項目と考えておけばよいでしょう。

外需 up
  景気回復の過程で、外部環境は比較的フェーバーに作用しました。海外経済が基本的にインフレ無き好況を続けており、輸出が増えても貿易摩擦が生じにくく、為替市場が内外景気差に着目していたため、経常収支黒字にもかかわらず極端な円高が回避されてきたからです。米国のソフトランディングを前提とすれば、今後も基本的にはフェーバーな環境が持続すると思われますが、現状に比べれば事態は悪化すると考えておく必要がありましょう。
実質輸出(数量ベースの輸出)は、98年に落ち込んだ後、99年以降は急激に増加しています。主因はアジア諸国が「通貨危機の影響で輸入が困難になった98年の反動で大幅増となっている」ことでしょう。そもそもアジア経済自体が98年の大不況から急激にリバウンドしつつあり、ベーシックな輸入需要が急増している上に、98年の在庫減少と99年以降の積み戻しという付加的な要因が加わって著増しているものでしょう。
今後のアジア向け輸出は、二桁の伸びが続くことはなく、数%程度にまで減速するものと考えています。在庫の積み戻し要因は剥落しつつありますし、アジア諸国の成長率も「本当に背が伸びた部分と、しゃがんでいたのが立ち上がった部分の和」から「本当に背が伸びた部分」のみになっていくでしょうから、徐々には減速してくるものと思われるからです。米国のソフトランディングに伴うアジア諸国の対米輸出減が日本のアジア向け部品輸出に与える影響も意外なほど大きい可能性があり、注意が必要でしょう。
     アジア諸国が通貨危機から急速に立ち直った一因に、米国ハイテク産業の生産基地として急成長を遂げて来たことがあるわけですが、これは米国の景気減速がレバレッジの効いた形でアジア経済を減速させ、ひいては日本の輸出を更にレバレッジの効いた形で減少させるという可能性もあることには留意が必要でしょう。
 

米国の景気好調も、日本の輸出好調の大きな一因でした。米国の内需は過熱気味で、輸入が急増していたからです。したがって、米国景気がソフトランディングに向かえば、日本からの輸出の伸びも鈍化することは当然ですが、じつは対米輸出の先行きは非常に読みにくいのです。
仮に米国が「景気過熱で稼働率が高く、内需の増加をすべて輸入で賄っている」という状況であれば、「内需の鈍化が輸入の減少に直結し、国内稼働率も経済成長率もしばらくは変化しない」ということもありえますが、そうとも言い切れないからです。米国の場合は稼働率に顕著な上昇が見られないなかで、成長率を大幅に上回って輸入数量が伸びているため、内需の鈍化が輸入減少と稼働率低下のいずれに働くのかが読みにくいわけです(このことは、米国の稼働率が適正水準を割り込んで不況に陥るという「リスクシナリオ」を想起させますが、詳しくは別稿で)。

欧州向け輸出も、欧州の景気回復などが寄与して伸びています。本来であればユーロが円に対して非常に安くなっているわけですから、輸出数量が大きく落ち込んでも不思議はないのですが、不思議なことに増えているわけです。日本製品は比較的需要の価格弾力性が低くて所得弾力性が高いものが多いわけですが、その傾向はアジア市場で強いはずであり、欧州市場ではそれほど強くないと考えられていましたので、これが原因か否かは判断の難しいところでしょう。欧州側で輸入数量の価格弾力性が低く所得弾力性が大きくなっているということかもしれませんので、今後の推移が注目されるところです(ユーロ圏の貿易収支がJカーブ効果の影響をどの程度受けているのかは、中長期的なユーロの対ドル相場を考える上でも非常に重要です)。
いずれにせよ、欧州の景気は減速にむかいはじめたと言われていますし、ユーロ安の効果が長い長いタイムラグを経て効きはじめるかもしれませんから、欧州向け輸出も伸び率が大きく落ち込むものと思われます。

このように、輸出数量の伸びが相当大幅に減速すると思われますが、輸入数量の伸びも今後鈍化してくるものと思われます。為替相場が安定していれば、輸入数量の伸びは経済成長率よりも若干高い程度で推移するのが自然ですから、現在の二桁の伸びは続かないと考えられるわけです。現在輸入数量が大きく伸びている主な理由としては、(1)98年秋から99年秋までの円高がタイムラグを経て輸入増につながっていること、(2)アジア諸国が98年には輸出のための部品の輸入も滞り、輸出出来なかったものを今輸出していること、などですが、こうした要因は近々剥落してくるものと考えられるからです。ただし、(3)ユーロ安で欧州からの輸入が増えている部分は、今後も長いタイムラグを経て増加が続くでしょうし、(4)一般論として国際分業の進展は輸入数量を実質経済成長率以上に増加させるでしょう。(5)アジア諸国のなかには通貨が97年以降に対円で大幅に切り下がっている所も多く、技術水準の向上率も総じて高いため、消費財の国産品からアジア品へのシフトは今しばらく続く可能性が高いでしょう。こうしたことから、輸入数量は今後も成長率を上回り、数%は伸びるのではないでしょうか。
このように、輸出数量も輸入数量も数%の伸びにまで減速してくるとすると、差し引きの外需は(米国のソフトランディングの影響如何ではありますが)、おおむね景気に中立的(または若干の押し下げ要因)であると考えてよいのではないでしょうか。

経常収支・物価・金利など up
 

数量ベースの輸出入がおおむね同じ速度で減速し、為替相場と原油価格がおおむね一定だとすると、経常収支はおおむね今年度なみの水準が続くものと思われます。(為替相場については、市場参加者の思惑などで動く要素が大きく、理屈で考えても当たらないため、あえて予想はせず、おおむね105円程度で推移するとの前提をおきました。原油価格については、私が勉強不足で、予測を行うに足りる特段の材料を持ち合わせていないため、WTIで33ドルというおおむね現状程度の水準を前提としました)。

景気は回復してくるものの、失業率の高さなどから賃金は上昇が見込まれず、一方で、手持ちぶさたにしていた労働者が忙しく働きはじめることにより労働生産性は上昇しますから、単位労働コストには下落方向の力が働きやすい状況が続くと言えましょう。「IT革命」に伴う生産性の向上も物価安定に寄与するかもしれません。製品需給を見ても、ようやく投げ売り的な安売りは収束に向かうものの、メーカーが値上げが言い出せるような状況には程遠いでしょうから、基本的に物価の超安定状態は持続する(GDPデフレーターはマイナスが続く)可能性が高いものと考えています。

物価の安定を映じ、金利も基本的には低水準で推移するでしょうが、景気の回復に伴い日銀が超緩和から緩和へと一段の利上げを試みる可能性はありうるでしょう。将来のインフレ懸念が生じたときに一気に利上げをするよりは、なるべく早めに金融政策を中立に戻しておきたいという希望があるはずだからです。

成長率など up
 

以上を総合すると、景気は自律的な回復過程にあり、金融の引締めも見込まれないため、成長率は次第に高まっていく方向にあると言えるでしょう。成長率は潜在成長率を上回る3%程度を予想していますが、労働力需給などが相当緩んでいますから、景況感としてはむしろなかなか改善してこないという感じが残るのではないでしょうか。

    

3%という成長率は、旧基準で「潜在成長率である2%と96年度の成長率である4.4%の中間程度」といった景況感をイメージしたものです。誠にお恥ずかしいのですが、新基準で景況感を数字にどう表わすかがイメージ出来ていないため、新基準での成長率の予測は行っておりません。次回QE発表後に各シンクタンクが成長率予測を発表するでしょうから、その平均に0.5〜1.0%を上乗せした数字を私の当面の予測値とする方向で考えたいと思います。

 

 

来年度には景気が後退をはじめるという見方がありますが、「事件」がなければ来年度中は景気拡大が続くと考えるべきでしょう。景気は「時間が経つと自動的に反転する」というようなものではなく、景気が過熱して日銀が景気を冷やすまでは拡大を続けるため、「過去の景気拡大局面は平均○○ヶ月であるから、今回も」という発想は採るべきではないからです。(そもそも、過去の景気拡大局面のなかには「事件」によって予定よりも早く終了してしまったものも含むため、こうしたものを除外せずに平均を計算すること自体に問題があるでしょう)。

96年度との比較では、今回の方が成長率は低くなると考えます。当時は公共投資が景気にプラスに働いていましたが、今回は緩やかな減少基調と見ています。米国景気は前回は上り坂でしたが今回は下り坂です。前回あった消費税率引き上げ前の駈け込み需要も今回は見込まれません。前回円安基調で推移していた為替が今回は円高圧力を受けることも、景気にはマイナスでしょう

    

私は、円高の景気抑制効果を相当大きく見ています。輸出企業が数量面と価格面でダブルパンチを受けることはもちろんですが、製品輸入の値下がりと数量増により国内メーカーの生産が圧迫されたり企業収益が減少したりするからです。物価が下がることのデメリットも実質金利高や買い控えなどにより無視出来ないでしょう。特に物価が低下気味のところで輸入品が値下がりする場合の悪影響は大きいでしょう。円安は以上の逆ですから、相当大きな景気浮揚効果を持っていると考えるべきでしょう。96年に私が景気に強気であった一因は、為替が超円高を脱して円安に戻りつつあったからです。

 

構造改革が進みつつある点も、成長率という観点からはマイナスでしょう。ただし、それほどドラスティックな変化が起きるとも思われませんから、景気の腰を折るようなインパクトにはならないものと思われます。

     構造改革は、中長期的には必要なことですが、外科手術が短期的には運動能力にマイナスであるのと同様に、短期的には景気にマイナスに働くわけです。ここでは96年度との比較を論じていますから、「構造問題が残っていることが成長率を低めている」と言っているわけではないことにご注意下さい。構造問題は96年度の方が今よりも更に多く存在していましたが、漢方的に対処されていたために短期的な成長率には大きなマイナスとなっていなかったわけです。
  一方で、不況が長引いている間に設備投資の更新時期や耐久消費財の買い替え時期が到来したという点や、ITブームで関連投資の盛り上がりが期待出来る点などは、96年度にはなかった景気のプラス要因と言えましょう。
リスクシナリオ up
 

リスクシナリオとしては、(1)米国景気の大幅後退、(2)大幅な円高、(3)政府が大きなミスをする、(4)原油価格の高騰による世界景気の後退、などが挙げられましょう。

(1)米国の経済が広義のバブル(株高→景気好調→株高のスパイラル)である可能性は否定できず、これが逆流した場合には株価と景気がスパイラル的に低下していくということになりかねません。この場合には米国が深刻な不況に陥り、日本にも対米輸出を通じて直接的な影響が及ぶほか、大幅なドル安円高、アジア経済の失速、などが日本の景気の腰を折るかもしれないわけです。米国バブル説については稿を改めて詳しく書きたいと思います。

(2)大幅な円高が日本の景気の腰を折る可能性もあります。日米の経常収支不均衡は尋常な水準とは言い難く、市場の「米国景気への信頼と日本経済に対する不信」がかろうじて現在の円相場を維持させているわけですが、米国のソフトランディングに対する懸念が出てきたり、日本の景気が市場の予想を超えて回復したりすると、市場の目が経常収支不均衡に向かう可能性もあるからです。その場合、政府が徹底介入するか否か、政府の介入に対して米国が非難するか否か(米国景気が鈍化してくると、日本の円安誘導が「失業の輸出」と捉えられる可能性あり)、などが景気の行方を左右することになりましょう。

(3)政府が大きなミスをする可能性もあります。97年には「財政再建のための増税」と「存続すべきでない企業の退出」という「正しい目的」のために大型増税と山一証券等倒産を実現させたわけですが、これは「患者の体力を考えずに患部を手術する」というものであったわけです。「いつまでも温室で漢方医療を続けていないで、患部は手術して寒中水泳で鍛えないと、患者が健康にならない」というのは、ある意味で正論ですが、患者の体力をわきまえないと同じ失敗をくりかえす可能性はないわけではありません。

(4)原油高が続くこともリスクです。日本経済にとっては、そもそも原油依存度が低いことに加え、物価が下落気味なのでインフレリスクもありませんから、直接的な原油高の影響は比較的小さいでしょう。しかし、原油高が世界的な不況につながる可能性もありますから、留意が必要です。現状では世界的に物価が安定しており、70年代のようなスタグフレーションの可能性は大きくありませんが、景気が過熱気味の国では引締めにより景気を抑制する動きがでてくるかも知れません。また、原油高は産油国への購買力の移転ですから、(産油国が大幅に輸入を拡大しない限り)消費国の景気にマイナスの影響が出ることは疑い無いわけで、その程度と持続性によっては日本の輸出相手国に大きな打撃を与え、結果として日本の景気の腰を折ることも考えられるわけです。 以上のように、リスクシナリオとしては景気が悪くなるものばかりで、予想以上に景気が良くなるリスクは見当たりません。日銀も景気が悪くなる方向のリスクを多く示していますが、これをもって日銀が弱気だということは言えないと思います。リスクというのはそういうものだからです。   

     たとえば、一般的なサラリーマンに来年の暮らしぶりを予想してもらうと、「今年と同じようなものだろう。ただし、会社が倒産したり火事や地震にあったり病気で働けなくなったりするリスクはあるけどね」というような答えが返ってくるでしょう。「宝くじがあたったり大金持の娘と結婚したりする可能性」は大きくないからです。だからと言って、そのサラリーマンが自分の将来に弱気だということにはならないでしょう。
  したがって、上に示した成長率の予測値は、「成長率の期待値」ではありません。エコノミストの予測数字というものは、メインシナリオの前提をもとにしたものですから、私だけではなく、普通は期待値よりも高い数字が示されているはずです。成長率の予測値とはそういうものだとご理解下さい。   
   

このことは、「予測が当たったか外れたか」を事後的に検証すると、弱気派が当たる可能性が高いということを意味しています。見通しの前提と全く異なる外部要因によって「偶然に予測数字が当たる」可能性は強気派よりも弱気派に多いからです。特に今次局面においては、私の見るところ、リスクシナリオが実現する可能性も相当高いと思われるため、この点を強調しておきたいわけです。
しかし、エコノミストは占い師ではありませんから、前提条件から導かれる論理的帰結を読者にお示しするのが仕事であって、「予測の数字を当てるために、前提条件から論理的に導かれる成長率よりも低めの予測値を発表する」というのは正しい姿勢とは呼べないと考えています。
ちなみに、68SNAベースでのイメージを申し上げると、来年度の成長率の予測値は、メインシナリオで3.0%、リスクシナリオも含めた期待値で2.0%強と考えています。

    なお、当然のことですが、上記は私の個人的な見解であり、私の勤務先などの見解をお示ししたものではありませんし、読者に特定の投資行動をお勧めするものでもありません。念のため。
     
参考 2000/5/16に勤務先で発表したレポートを御参考までに付けておきましょう。景気の方はおおむね予想どおり動いているにもかかわらず、市場の方は予想とは全く反対に株安、円安、低金利が続いています。市場心理は誠に読みがたいということですね。 「市場の景況感と景気実態との乖離について」
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